逆転の一手――布石
でも、表面的な部分で物事を決めるのは違うのである。
「また君は、妙なことに巻き込まれるね」
「ははは、否定できない」
チェシャー捕獲大作戦を成功させるために、まずはこちらの選択肢を増やすことが重要だった。
掲示板を使えないと言っても、みんな悪ふざけでワロスって書き込んでいるだけだし、一人一人丁寧に謝って協力を取り付けることは可能だった。ただ、僕は情報網を持っているわけではないので、そのあたり詳しい人に協力してもらうことにしたけど。
というわけで、フレンドリストからメッセージをポポさんに送って話を聞いてもらうことに。
「チェシャーか……吾輩が知っている限りだと、開発側の人間ということぐらいだね」
「それは僕も知っているんですけど、ゲームに私情を挟み過ぎじゃないかなって……そのあたり、運営に報告して止められないかなとも考えたんですけど」
「それは無理だろうね。別にデータの改ざんをしているわけでもないし、あくまでも個人的な勝負をゲーム内で行おうと持ち掛けているだけだ。それに、君が負けたときのペナルティにも言及はしていないんだろう?」
「あくまで、僕を認めないから、それを証明するって言っているだけなんですよねぇ」
「なかなかにいやらしい御仁だ。だが、君には作戦があるんじゃないか? 吾輩に相談したのも、それを実行するために何かが足りないからだと睨んでいるが」
「……情報、いえ――みんなと話をしたいんです。直接頭を下げて、お願いをしたい」
「なるほど――だが、チェシャーの言う他力本願で彼に勝っても理由をつけて認めようとしないと思うが?」
「だから、これを用意しました」
「…………フハハハハ! こんなものを、しかもとんでもない数用意したものだ! これだけの量を作るのに一体どれだけ素材を集めたのだ? いや、どうやって集めたのか吾輩とても気になるのだが」
「僕って引きが強いんですよ。良くも悪くもね……最初は引きが悪いなと思って、倉庫にしまっていたんですけど、結果的には大当たりですよ」
「なるほど、これならプレイヤー諸君も喜んで君に協力するだろう。労力もそれほどじゃない、1時間の間に街中で猫探しをして掲示板に一言二言書き込むだけだからね。それでこれを貰えるなら安い物だ!」
「それならよかった……どれだけの人が協力してくれるかわからないけど、出来る限り頼みたいんです。だから、ポポさんも協力してくれませんか?」
「いいだろう。それに、一人のプレイヤーが開発者の一人を打倒する。ああ、実に面白いじゃないか」
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その後は、ポポさんの協力のもと多くのプレイヤーに頭を下げて当日の協力を頼んだ。
この行動自体を監視されていたら元も子もないが、あの猫が勝負にすらならない方法をとらないと信じたい――いや、心のどこかで当日までは何もしないと確信していた。
あれだけ煽っておいて、更に挑戦することを封じる真似はしないだろう。それをしたら、ある意味負けを認めたようなものだ。勝てないから、勝負にすらならないようにしました。そう言っているも同然だ。
「……さて、問題は最後にどこに逃げるかだけど…………」
一か所だけ、行ったことはあるけど今は行く方法がない場所がある。
もしもそこに逃げられたら詰みだ。流石にそれはしないと信じたいが……でも可能性は潰しておきたい。
「でもなぁ……どうすればいいんだろうか――って、アレ?」
今は素材集めに古代遺跡までやってきていたのだが……入口手前で見覚えのあるレオタード男が軽快なステップでダンスをしていた。
「…………ええぇ」
「フンッフンッ」
「か、関わらないでおこう」
「待ちたまえ」
「話しかけてきた!?」
いや、本当関わらない方がいい気がするんでスルーしたいんだが。
「こちらもいろいろと事情があってね。直接君の手助けはできないが……まあ、今回は彼の個人的な感情も入ってしまっているし、一ユーザーに対してすることじゃないとも思うからね。二つ、良いことを教えてあげよう」
「な、なんでしょうか」
「最北の島はまだ調整中でね、次のアップデートまでは使用できない状態だ。よって、プレイヤーがそこに行く方法はない。もう一つは、アカウント登録に使われたリアルの個人情報の閲覧は運営側のごく一部のスタッフでの管理だから、開発者といえど閲覧はできない――それだけ、伝えに来た。それじゃあ、またどこかで会おう」
それだけ言うと、彼は去って行った……頭上には『松村』って表示されていたけど、実名なのだろうか? ここしばらくは多くのプレイヤーと会話していたから頭上表示オンにしたままだったから名前も分かったが……
「内部事情を知っているってことは、運営か開発の人かな……でも、そうか。最北の島が使えないなら、確実にあそこに誘導できる。それに、リアル側で何かあることもなさそうか……よし、素材集めに行くぞ」
残りの時間で装備を限界まで強化する。
僕の視線は自分の右手に向いていた。これが、勝利のカギだ。
考えていることが可能かどうか、検証も必要だし――やってやろうじゃないの。
でも……運営か開発の人だとして、夏イベント後半に入ったあたりからちらりと見かけることが多いような? それに、今回のことに関わってこない事情もなんなのだろうか?
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素材も集め終わり、ディントンさんとライオン丸さんに協力を頼んで装備を強化している。素材はたくさん集めたし、壊れたときのために予備も十二分に用意した。
「しかし村長もよくやるの。プレイヤーもかなりの数集まったんじゃろ」
「基本的にこのゲームをプレイしている人たちって、お祭り騒ぎ好きですからねー」
「そうじゃなかったら、クラーケン戦の時にあんなに大勢集まらないって」
「それもそうじゃな。わざわざ直接頼みに行ったのも良かったのじゃろうが」
「作戦上、うかつなこと掲示板に書き込めないからね……パスワードをつけることも考えたけど、念には念を入れて口頭で作戦を説明していくしかなかったんだよ」
「でもー、それはそれで怪しくないかなー?」
「分かっている。だから、匿名性を重視したんだ。頼みこんだ人以外からも情報提供できるような形にしてね。チェシャーを捕まえるイベントが行われているから情報提供求む、って言っておけば何かのついでに書き込む人ぐらいはいるでしょ」
「本当、盛大に巻き込むの」
「でも、村長君らしいですよねー」
ディントンさんがウィンドウをタップし、そこで強化が完了した。
装備の見た目はあまり変わらない――いつもの真っ赤なマフラーは、端が青い炎のような模様が追加された。下半身の水着は、ポケットがついてハーフカーゴパンツのようなものに変化しており、ビーチサンダルはベルトのたくさんついた、スポーツサンダルのようなものになっていた。
「武器も結構変わったわねー」
「渾身の作品じゃ。何本かダメにしちまったが、よく完成できたの」
「流石に+10は大変だったけど、やってやれないことはないからね」
それに【古代のガントレット】も、強化出来た。古代遺跡やらマーケットで出店の売り上げを使って強化素材集めたり、おみくじ券のガチャで手に入れた素材のおかげで、完全修復の真ではなく、その上の段階である改にすることが出来たのは本当に運が良かった。
そして最後に、頭防具としてバンダナをつける。
「いっちょやってやりますか」
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基礎レベル51 職業レベル【村長】レベル42
種族:ヴァンパイア
・頭【不死鳥のバンダナ+10】防御力45 HPを5秒ごとに5回復 星5
・上半身【深紅のマフラー・蒼炎+10】防御力40 俊敏値+60 星5
・下半身【魔人のサマーハーフパンツ+10】防御力120 俊敏値+40 星5
・足【魔人のスポーツサンダル+10】防御力30 俊敏値+45 星5
・アクセサリー
【水底の指輪】MP+70 水の召喚獣を強化する 星5
【八咫烏の耳飾り】俊敏値に応じて抵抗力を上げる 星5
【金剛の腕輪】筋力値+40 星4
【光のブローチ】MP+40 光属性強化・小 星4
・武器
【金剛王のスコップ+10】種別:スコップ 星5
ダイヤモンドに秘められた魔力が引き出されたスコップ。
物理攻撃力400 魔法攻撃力400
セット奥義【マジックドリル】
使用可能スキル剣・槍・斧・盾・杖・魔法・採掘
【古代のガントレット・改】種別:古代兵器 星5
巨人の拳を再現した古代兵器。強化改造されている。
起動時 攻撃力5100
特殊効果:ノックバック・超
・セット称号【一匹狼】
ソロ時に全ステータス上昇効果発揮
・HP 370
・MP 500(+150)
・筋力値 339(+40)
・防御力 301(+205)
・魔力 424
・抵抗力 269(+90)
・俊敏値 580(+145)
・器用度 284
・幸運 153
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「それじゃあみんな、当日はお願いするね」
「お兄ちゃん、アリスのせいでごめんなさいです……」
「別にアリスちゃんが気にすることじゃないよ――後始末は任せちゃうけど、大丈夫?」
「はい、仕込みはバッチリです!」
「まったく、イベント中になんで変なイベント起こしているのかしらね」
「村長君らしいですけどー」
「まあ、イベントと言っても普段通りに遊んでいたようなものですが」
「炭鉱脱出編にはあまりかかわれニャかったから、正直楽しみではあるニャ」
「別に普段と変わらんじゃろ。何か起これば、その場のノリで周りを巻き込んで明後日の方向に事態が動く。いつも通り適当に、楽しんでくればいい。ワシらも外側から観戦させていただくからの」
「……そうだね、ありがとう」
ヒルズ村にて、みんなに頭を下げて僕は目的地へ向かう。
アイテムもしっかり用意したし、保険も掛けてある。
「さてと……細工は流々。エサは撒いた。あとは、かかるのを待つだけ」
運営側の動きが気になるが、それもポポさんに相談したところ『ふむ……いや、吾輩の考え過ぎか? しかしなぁ……だとすると、前提が違うのだろうか』とつぶやいたっきり沈黙した。
いや、どういうことなのかと聞いてみてもいまいち要領を得ないし、こちらもいくつか質問されたのだが……
「なんで今までに遭遇したバグの数なんて聞いてきたんだろう……ほんの3、40個程度なのに」
見つけたバグの半数ぐらいの枚数ガチャチケを貰っているから、確かそのぐらいだったはず。
この時、自分の感覚がマヒしていたことに気が付けばもっと穏便に解決できたんじゃないかなって、未来の僕は思ったりするわけなんだけど……それはまた別の話だ。
【村長】はステータス補正が低いので、同レベルの【炭鉱夫】よりはステータスが下がります。
種族ヴァンパイアの特徴で、防御系ステータスが低くなります。
防御力と、抵抗力(魔法防御力と状態異常抵抗力に対応)。
魔力(魔法攻撃力に関係)と俊敏値(素早さ、攻撃速度)が上がります。
数値そのものは目安で公開しているので、そこまで深く考えなくても大丈夫です。
ベヒーモス戦と比較して、ここまで強くなっているよという感じで。
なんで運営が止めないのかは、一応理由がある。
ヒントは出しておいた。たぶん、これでわかるかなと。




