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掲示板の皆さま助けてください  作者: いそがばまわる
4.祭りだ、料理人
54/191

逆転の一手――はじまり

ぶっちゃけた話、賛否両論の否が強くなるなとは思っている。

【探し猫】チェシャーを捜索するスレ【大捜索】


550.名無しの探偵

 今までに集まった情報をまとめると、祭りの真っただ中に出現しては瞬時に消えていることだね


551.名無しの村長

 探し回っているけど、見つからないんだよなぁ


552.名無しの祈祷師

 こっちもダメ。急がないとタイムリミットが来ちゃうわよ


553.名無しの演奏家

 地下遺跡のほうにも行きましたが、見つからないです


554.名無しの鍛冶師

 まったく村長は厄介なことに巻き込まれるのう


555.名無しの村長

 面目ない


556.名無しの魔法剣士

 探していない場所はあとどれぐらい?


557.名無しの錬金術師

 アクア王国周辺は探しましたが、ダメです。影の形もありません


558.名無しの怪盗

 幽霊島もダメだった。いつものボスしかいない


559.名無しの踊り子

 こっちもダメニャ。お祭り会場を探し回っているけど、どこにも見当たらない


560.名無しの剣士

 そもそも祭り会場にチラッと見えるのは影武者なのかもしれませんね


561.名無しの釣り人

 海の中もいないな


562.名無しのサムライ

 地底湖ダンジョンもいないでござる


563.名無しの忍者

 海底神殿もダメでござったよ


564.名無しの怪盗

 残り時間はどれくらいだっけ?


565.名無しの村長

 あと、10分切った!

 残ったポイント、ウンエー国の会場に行ってくる!


566.名無しの探偵

 急ぎたまえ村長君。君が走らなければ意味がないのだ


567.名無しの演奏家

 お兄ちゃん、頑張ってくださいです!


568.名無しの祈祷師

 クソ猫ブッ飛ばしちゃって!


569.名無しの盗賊

 あとはウンエー国だけのハズ、いよいよ追い詰めた!


570.名無しの村長

 皆ありがとう、おかげで間に合いそうだ!


571.チェシャー

 無駄無駄。この期に及んで他力本願極まりない

 やっぱり、村長君。君は困ったらこうやって他人に頼って自分でどうにかできないんだよねー

 そこにボクはいないよー


570.逆転の一手

 さて、それはどうかな?


571.チェシャー

 え…………なんで、ボクの後ろに君がいるんだ!?

 今の書き込みはブラフ――いや、書き込みの位置情報は確かにウンエー国だぞ!?


572.逆転の一手

 せこい手使いやがって……でも、これでチェックメイトだ!


 @@@


 話はチェシャーとの邂逅直後にさかのぼる。

 その場は流れで対決を受け入れたが、よく考えたら相手は運営サイドの人間だ。特殊なアバターを使っているということは、管理者用の権限があるはず。


「……不平等な条件で勝負をすることになったな」

「本当、叔父さんがゴメンです……叔父さん、勝負事に負けるの凄く嫌いなので、よほどの反則以外は平気でするはずですから」

「うわぁ、大人げねぇ」

「アリス相手にはワザと負けるんですけど……今回は、どうでしょう」

「たぶん駄目だろうな。アリスちゃんの目の前に現れて、空気を壊してでも僕に接触した」


 何が彼の地雷だったのかはわからないが……いや、僕のアリスちゃんに対する態度を見て、彼は許せないと感じたのだろう。でも、それは彼のエゴだ。

 あまりリアルに踏み込むものじゃないが、アリスちゃんが寂しさを覚えていた責任が誰にあるのかといったら、周りの大人たちだ。


「……なんかムカついてきた」

「お兄ちゃん?」

「あー、でもなぁ……どうするか」


 いくつか思いついた対策法はある。相手は特殊権限を持った相手。ただ、勘ではあるが直接こっちの位置を調べる真似はしないと思う。

 流石にそれをやったらゲームにならない。


「…………アリスちゃん、よほどの反則以外はって、相手が絶対に勝てない手は使う人?」

「いえ、それは絶対にしないです。叔父さんもゲームは好きな人ですから、そういうことはしないって前に言っていました。ズルい手を使っても、相手の勝つ可能性は潰さないって」


 ならこっちの位置情報を直接調べたり、強制ログアウトみたいな手は使わないか。

 でもこれ、ノーヒントで探し出せって酷くないか?

 捜索範囲は今まで僕が冒険したエリア全て。


「どないせぇと」

「あ、あはは……」

「ちょっと気晴らしにその辺歩いてくるよ」

「分かりました――アリスも、ちょっと用事があるので一度ログアウトするです。またすぐに戻ってくるですけど」

「了解」


 アリスちゃんがログアウトし、僕も適当に近くのベンチへ腰かける。

 どうしたものかなと考えるが――再び僕の背後に何者かが現れた。っていうか、ずんぐりむっくりした影が僕を覆った時点でわかったが。


「チェシャーさん、何か言い忘れましたか?」

「なに、あの子がいない上で話したいこともあったからね。様子を見ていただけさ」

「……で、何ですか?」

「君は何のためにこのゲームを遊んでいるんだい?」

「そりゃ、楽しいからですけど」

「そうか――ああ、その言葉は嬉しいよ。製作者冥利に尽きる。でもね、それとあの子との関係はまた別の話だ」

「いろいろと、過保護なんじゃないですか?」


 正直、推定ではあるけどアリスちゃんが年齢が二桁になったばかりぐらいなのはほぼ確信している。なのに、オンラインゲームで恋愛について意識しているのを諫めるのが保護者の役割なんじゃないかと思うのだが。


「かもしれない――いや、確実にそうなんだろう。でもね、あの子はボクの姉の娘だ。こと恋愛に関しては非常に面倒な姉のね。そして、肝心なところで優柔不断だった義兄の娘でもある」

「……夕日をバックに語り合った関係だと聞いているんですけど」

「ああその通り。だからこそわかることもある。誰かが言わなければ、いけないことだ。まだあの子は幼いからこそ、あの子が相手に選んだ人に忠告しなくてはならない」


 ああそうか……この人は、家族のために頑張っているだけなんだ。

 でも、それがどこかでからまわっている。過保護なのにも拘らず、アリスちゃんが寂しさから先走った行動をとっていたのがその証拠だった。


「あの子の根っこの部分はお母さんにそっくりだ。誰かに自分の強い愛情を受け止めてほしいという願望だ。君は、その気持ちに蓋をさせている。自分の都合でね」

「でも、それが一番正しいことのはずです。今は他のことにも目を向けたほうがいい……他にも楽しいことはたくさんあるし、恋だけに突っ走っていたら他のことがおろそかになる。それに、今そういうことに焦ったところで傷つくだけだと思うんですけど」

「そうだね、それが常識に近い答えってのもわかる――でも、それがどうした。一般的な意見なんて聞いていないんだよ。あの子が幸せかどうか、それを問うているんだ」


 ただ家族が大切で、心配なんだ。

 でも、それが行き過ぎている。

 ――――そんな彼の姿を見ていたら、やはりイラッとする。


「君はなんであの子と一緒にいる? 一人で遊ぶのはさみしいからか? あの子が一緒にいることでそれを紛らわせているんじゃないか? あの子を、都合のいい子扱いしていないか?」

「…………」

「それでも、あの子のために動いてくれたことは知っている。でも、だからこそ中途半端な形にしておいて欲しくないんだよ」

「…………」

「開始時刻にメールを送る。一時間、ボクが逃げ切ったらそれでボクの勝ちだ」

「…………」

「あの子に関わるなと言いたいわけでもないけど、君を見極めないことには納得ができない。ボクのほうが間違っているのは重々承知だし、やり方も間違いだらけだろうけど――それでも、こうすることでしか守れないものもあるんだよね」


 まるで、僕をワザと怒らせるようなセリフばかりを言い残し、チェシャーは消えた。

 数分後アリスちゃんが戻ってきたが、僕がちょっと眉間にしわを寄せていたのを見たのか、おずおずと尋ねてくる。


「お兄ちゃん、どうしたです? 怖い顔をして」

「うーん…………僕さ、ブチ切れるってどういう感情か今までよくわからなかったんだ。口では言っていたこともあるけど、本気で怒るってのよくわからなくて」


 人を嫌いになるってのもよくわからないし、自分の感情が抑えられなくなるってのも今の今までは理解していたのかも怪しい。

 でも、今ならわかる。


「そっか……僕は、今、怒っている」


 それに、すごくムカついている。


「お兄ちゃん……あの、叔父さんなんですが、本当は悪い人じゃないんです。ただ、お父さんとお母さんのすれ違いとか、お父さんのことを好きだった人たちの後始末とか、周りの人を巻き込んだ大騒ぎとか、大変な思いもいっぱいしたんだってお母さんが言っていました。だから、家族のことを心配する時やり過ぎちゃうんだって」

「うん、それは何となくわかっているよ――でもね、だからって越えちゃいけないラインはあるんだ」


 でも……それをただぶつけるわけにはいかない。

 こうして彼女に聞くのはズルいことかもしれない。だけど、僕だけの結論で行動するわけにもいかないんだ。

 それをしたら、あのムカつく人と同じになってしまう。


「ねえ、アリスちゃんは本当はどうしたい?」

「…………それは、ゲームの話ですか? それとも、他の……いえ、分かっていますよね。叔父さんはお兄ちゃんとのことで怒っているんですから……アリスは現実でもお兄ちゃんと会いたいと思っていますし、今とは違う関係になりたいです」


 でも、それは今じゃなくていいとアリスちゃんは続けた。


「アリスは自分の気持ちに蓋をしています。お兄ちゃんがそのことに気が付いているのもわかっています。でも、今はそれでいいんです。アリスも今はそのほうがいいと思っていますから」

「それは、僕が言ったから?」

「いいえ。アリスが自分で決めたことです――それに、今はおあずけして、いっぱい遊んで、いろいろなことを知って、それで最後に我慢できなくなってから会った方が、楽しいと思うです」

「……そっか」

「はい。それに、お兄ちゃんはどうしたいですか?」

「そうだなぁ……あの化け猫を一発、ぶん殴りたいかな」

「許可するです!」

「へへへ、ありがとう――僕もさ、いつもその場その場で適当に遊んでいるけど、それでいいのかなって悩むことぐらいはあるよ? でもね、やっぱり変わらないんだ。いつもどおり、みんなで楽しく遊んでいたいって」

「それでいいじゃないですか。アリスも楽しいです」

「今のままでも?」

「はい! 十二分にです! それに、こんなこと言うのも変ですけど、叔父さんのおかげでさらわれそうなお姫様みたいで結構好きなシチュエーションです」


 アリスちゃんはそう言うと、にこりと笑った。

 そこに、嫌な思いとかそう言うのはなくて……いや、叔父さんって言った時だけ少し顔をしかめたけど、それだけだ。

 彼女は既に、今のままでも大丈夫だと受け入れていた。


「君ねぇ……ふふ、そっか。ならお姫様をさらおうしている化け猫を倒さないとな」


 それに、他力本願って言われたのが一番イラッときた。

 確かに僕は結構人に頼っている部分がある。それでも、ただ自分のためだけに助けを求めているわけじゃない。

 みんなそれぞれクセがあって、ヘンテコな人たちで、それでもお互いが楽しく遊んでいる。困ったことがあったら助け合って――そっか、助け合っているのを他力本願って言われたのが嫌だったのだ。


「なんか、みんなのことをバカにされた気もして、かなりイラッときているからさ――見せてやるよ、アイツの言う他力本願がどこまでやれるのかってやつを」


 やるなら徹底的に、完膚なきまでに叩きのめす。それはもう、お釈迦様の手のひらの上の孫悟空のように、圧倒的な形で。


「でも、どうするですか?」

「うーん……チェシャーも掲示板は見ているっぽいからそのまま使うとこっちの作戦がバレるだろうし、いやでもワロスしか返ってこないからまずは、みんなに頭を下げて回るかな。結局のところ、僕が出来るのって人に頼んで力を貸してもらって、そこから自分のやり方で王手をかけることだし」

「クラーケンがここにきて邪魔になったです……」

「でもまぁ、なんとかしてみせるよ」


 相手は製作者の一人だし、一般のプレイヤーでは使えない権限もいくつかあるはずだ……正直、こっちはルールにのっとった上で裏技的なやり方をするしかないけど……何か手はあるはずだ。

 残りの数日で、準備を整えて――あの猫を一発ぶん殴る。

 僕の本気ってやつを、見せてやるよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ないは 58話まで読み飛ばす
[一言] なるほど、アドベン茶が「村長に転職した」っていってましたね
[気になる点] 今回のゲーム、掲示板で他のプレイヤーに協力を要請する事で運営の公式イベント扱いにできないかな それで参加プレイヤー全員がこのおじさん(&運営)に難易度に応じた報酬を要求するとか 運営…
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