そう言えば近場のお祭りには行っていなかった
小話程度には話したと思うが、このゲームにもBGMは存在している。フィールドの雰囲気に合わせたものが流れており、音量も邪魔にならないように小さめだ。
もっとも、洞窟内などはほとんど環境音しか聞こえないから僕がそれをしっかりと自覚したのは外に出てからなのだけど。
今その話をしているのは、イベント仕様で街中では楽団がBGMを奏でているからだ。お祭りの雰囲気ごとに合わせて曲が奏でられており、今回のイベントはそんなBGMも楽しみの一つだ。
ちなみに、ヒルズ村は三味線と太鼓で少しテンポの速い曲だ。
そして今僕たちがいるここは――
「アクア王国のお祭りに来てみたのはいいけどさ……BGM軽快過ぎない?」
「ノリのいい感じのお祭りですね」
「…………運動会でござろうか?」
「そう、そんな感じ」
運動会の徒競走の時みたいなBGMが奏でられているのである。
飾りつけは結構派手だが……あちこちが濡れている。そういえば、ここのお祭りって確か規模の大きいミニゲームだっけか。大きいのにミニゲームとはどういうことなのか。
「しかし、随分と派手でござるなぁ」
「そうだニャ、何というか思った以上に豪華だニャ……なぜか周りがびしょ濡れニャのが気にニャるけど」
ランキング発表の日から、数日が経過した。まあ、その間は特筆することはなかったけど。
毎日数時間ログインしているわけでもないし、適当に遊んですぐ落ちる日もある。
今日はたまたま同じ時間で遊んでいた僕、アリスちゃん、よぐそとさん、あるたんさんの四人でアクア王国のお祭りまでやってきた次第だ。
あるたんさんはまだ拠点が大陸側だし、よぐそとさんもいつもは桃子さんとセットなので珍しい組み合わせだ。
「桃子殿、課題を終わらせないとマズイと言っておったので、しばらくはログインできないんでござるよ」
「学生……いや、前にレポートとか言っていたからたぶん大学生だニャ。アタイも将来は気を付けよう」
「まだ先の長い話です」
「そんな先はよくわからないなぁ」
「あれ? もしかして今回の保護者は某でござるか?」
もしかしなくてもそうだよ。桃子さん(お酒飲める)より年上なのはわかっているし。っていうかあるたんさんもそのセリフ、さては未成年だな。
「まあ年齢のことはわきに置いておくニャ」
「それもそうでござるな……」
「あ! あそこに人だかりができているですよ」
アリスちゃんが指さしたのは、街の広場から少しそれたところ。先ほど運動会って言っていたけど、本当に運動会のテントみたいなのが置いてある。流石に世界観に合わせたのか、ちょっと豪華な感じだが――ゴメン、やっぱり違和感があるわ。
「いったい何なのか……ミニゲーム受け付け会場。ああ、ここで受け付けていたのか」
「噂に聞く規模の大きいヤツ……どうやら、参加登録してマッチングされるのを待つタイプ見たいだニャ」
「水風船合戦、って……何をするんです?」
受付に近づいたらウィンドウが表示されたので説明文を読む。
えっと、参加プレイヤーは二つのチームに割り振られ、お互いに水風船をぶつけ合う。当たったらアウトで、一定時間ののちに再スタート。互いにぶつけ合って、撃破数の多いチームの勝ち。
「…………つまりこれ、水風船版雪合戦なのか」
「そうでござるな。勝利チームには結構な奉納ポイントとおみくじ券がもらえるでござるよ」
「よし、参加しよう」
「言うと思ったニャ」
「です」
いや、確かにおみくじ券欲しさもあるけどさ……もっと大きな理由がある。
「最近、レベル上げ飽きたから他の事やりたい」
この数日中も音頭に参加して経験値ブースト貰った状態でレベル上げに行っているからね。それでもなかなかレベルの上がらない現状。たぶん狩場の効率が悪くなったな。
かといって古代遺跡はレベルが上すぎるからちょうどいい所がないんだけど。
「もう何カ月も遊んでいるとさ、いつも通りの遊び方って飽きるよね」
「……わかるでござる」
「ブーストがあるおかげで上げやすいけどニャ、それでも目移りするぐらい色々コンテンツがあるのも困りものニャ」
「アリスはまだ見て回っていない街多いんですけど、そんなにですか?」
「そうだニャ。本当、あちこちでおもしろい催しものやっているから……フレンドのところにも顔出さないといけないしニャ」
「オンラインゲームってフレンド増えてくると、あいさつ回りとかしないといけない気分になるんでござるよね」
「リアルのしがらみがネットの中にまで侵食してくるのか」
「所詮は人付き合いでござるからな」
夢が壊れる……いや、考えてみれば当たり前だが。
「そういうのが嫌だったらソロプレイヤーにでもニャるといいニャ」
「それはそれでレベル上げとかトップであり続けないととかそんな気分になるんで嫌です」
「黙々とやるのも楽しいでござるよ」
わからなくはないけど。
まあ、最初に掲示板に助けを求めたりしていた僕はソロプレイに向かないだろうけど。
「何を考えているかわからないでござるが、それはたぶん違うと思うでござるよ」
「だニャ。どの口が言うか、って言いたいニャ」
「なぜに」
「あ、あはは……とにかく、参加登録しようです」
みんなで一先ず登録する。次のマッチングは……50対50? え、多すぎない?
でもこの次の開催予定時間は結構先だし、今登録するしかないか。
「…………嫌な予感がするニャ」
「それもまた人生でござる」
「お兄ちゃん、本当に参加するです?」
「ああ。もうここまで来たら引き下がれない――やるぞ!」
@@@
予定時間。街の中にいた僕たちは自動的にミニゲーム用のフィールドに飛ばされた。先ほどまでいた街中と同じだが、身を隠せと言わんばかりの即席の壁がいくつも街中に増設されている。
いよいよ水風船合戦の始まりだ。周りには歴戦の猛者風の顔をした人たち。肩パッドが厳ついモヒカンたちが腕を組んで敵陣を睨んでいる。
「なんで世紀末ルックな人たちばかり同じチームにいるんだニャ」
「ああ、最近知名度を上げてきているヒャッハーズでござるよ。みんな、同じような格好をして軍団でゲーム攻略しているんでござる」
「なんですかそれ」
「頭部は【モヒカンソウル】、上半身は【いたいけな肩パッド】、下半身は……まあ、ご自由に。そんな装備で固めたチームで、普段は普通の格好をしている方々でござるよ?」
「なんで詳しいですか……」
「それはもちろん某も、いや俺様もヒャッハーズの一員だからだぜヒャッハー!」
そう言うと、よぐそとさんはモヒカンに肩パッドの姿に変わった。
待って、そんなのインベントリに入れていたのこの人?
「アンタがパーティーメンバーにいたからこの連中と同じ組に割り振られたのかよ!?」
「も、桃子はこのこと知っているのかニャ」
「……黙っていてあげようです」
「そうだニャ。言わなくてもいい事実はあるニャ」
まって、僕らこの連中と一緒のチームなんだよね。普通の格好――とは言い難いが、浮いていない?
「村長はまだマシだニャ。水着にマフラーだから違和感ニャいよ」
「そういうあるたんさんもベリーダンス衣装だから意外とあっていますよ」
「問題はアリス……なんでサングラスかけたニャ」
「雰囲気に合うと思ったです」
「確かに、マフィアか何かのお嬢みたいな感じだニャ」
「チャイナドレスだしね…………意外とマッチしているな、僕たち」
「もうこうニャったらノリで行くしかニャい」
「ですね――始まるです!」
空中にカウントダウンが表示される。10秒後にミニゲーム開始だが、なんかBGMが変わった。
「これって……天国と地獄?」
「運動会でよく流れているヤツかニャ?」
「そうですね。先ほどまでのは運動会っぽい感じの曲でしたが、今度は完全にクラシックの天国と地獄です」
「またマキシマーがやったんだろうニャ」
マキシマー、好きだねクラシック。いや、これはちょっとジャンル違いな気もするけど。アレンジ入っているし。
「でも体が勝手に動き出すですね」
「そうだニャ。よし、頑張るニャよ!」
「おうともよ!」
「ヒャッハー!」
…………よぐそとさん以外の三人でアイコンタクトをする。この人、放っておこう。
ミニゲーム開始と同時にヒャッハー達が突っ込んでいく。やべぇ、こいつら勝つつもり全然無いんだけど。っていうかもしかしてよぐそとさん、ヒャッハーが集まっているの知っていたんじゃないか?
「そもそもどうしてしっかりチームがヒャッハーと普通の人で分けられているのか」
「あ、向こうチームにモヒカンがいたです! でもすぐに普通の格好に戻したですけど」
「赤チームと青チームに分かれているからニャ…………アタイ達、赤チームがモヒカンだらけのところを見ると、赤に割り振られた人がヒャッハー役をするって決めたんだろうニャ」
「他のプレイヤーの迷惑になっていない? これ」
「後で抗議してやるニャ」
「よぐそとさんアカウント停止にならないといいですけど」
たしかに、その不安がある。
何度もやっていたらアウトだけど、今回だけならまだ大丈夫かもしれないが……あとでそれとなく言っておこう。僕にできるのは既にアウトになっていないことを祈るのみ。
「とにかく今は目の前の敵に集中! 幸い、ヒャッハーだらけのおかげで敵味方すぐに判別つくし!」
「キャラクターの周りに青い光と赤い光がついているから別に大丈夫だけどニャ!」
「ですけど、大量の水風船が迫ってくるですよ!?」
「やべぇ、思った以上に激戦だわ」
「ニャー!?」
「あるたんさんがやられた!?」
「とにかく、ジェット移動で突っ込むです!」
「待ってアリスちゃん! ミニゲーム中はスキル使えない!」
「…………そう言えば、武器が装備されていないです」
正確には、装備されているけど表示されないのである。ついでに言うと、防具も見た目以外の性能が発揮されない。
能力値もミニゲーム用に固定されているので、いつもと少し体の感覚が違う。
「ですー!?」
「アリスちゃんまでやられたか……でも、僕はそう簡単にはやられはしな――」
直後、まるで散弾のように水風船が大量に僕の目の前に出現した。
ちらりと見えた光景には、壁の後ろからプレイヤーたちが何人も飛び出して、同時に投げつけたようだ。
「そっか、無理!」
体に何発も水風船が当たり、数秒後に初期位置に戻される僕だった。
やべぇ、向こう側の方が統率取れていない? どっちもヒャッハーズなんだよね?
「ヒャッハー! このロールプレイ疲れるから投げるのに集中できねぇぜヒャッハー!」
「だったらやめろよその恰好!」
「うう、びしょ濡れです」
「別に濡れた感覚無いけどニャ」
「それじゃあ戦場に戻ろうぜ嬢ちゃんたちよぉ」
「よく見たらこの人よぐそとさんじゃないです」
「じゃあ、誰だよ今の人」
その後10分間、BGMに合わせて大量の水風船が街の中を飛び交った。後半は撃破数なんか知ったことかととにかく投げて、当てられて、戻って、投げて、当てられてと繰り返し続けて頭の中が空っぽになっていた。
最終的に死屍累々の中、気力を使い果たしたプレイヤーたちが次々に倒れた時点でこのミニゲームが終わったのである。
「…………結局、どっちが勝ったんだこれ」
「わ、わからないです?」
次にやる時は、もっと少人数の時にしよう。人が多すぎると大混戦になってわけがわからないや。
でもまあ、リザルト画面が表示されるからそれでわかるだろう――と、その時体がびくっと震えた。
「――ッ!?」
「ど、どうしたですか?」
「いや……今、妙な視線を感じたような?」
視線を感じたほうへ咄嗟に視線を向けたが、誰もいなかった――いや、一瞬だけ猫の尻尾のようなものが見えた気もする。
ケットシーのプレイヤーが見ていた? でも、知り合いのケットシーは全員ここにいるからなぁ。
「やっぱり気のせいか?」
4章は既にラストまで書き終わっています。
感想で、【料理人】についてなど聞かれていますが、4章最後までに主人公があることをするのにかかわってくる、という感じでしょうか。
すでに転職はしていてたまに使っているという程度に覚えておけば大丈夫ですが。該当描写もさらっとやった程度ですし。
5章プロット進行中。




