こちら、ロードマップになります
一発屋大量放出事件から数分後、落ち着いてきたのを見計らってかチェシャーが次の話をし始めた。
まあ、今後のアップデート予定についてである。
『さてさて、では今後のアップデート予定――ロードマップについてです』
「ロードマップ?」
「オンラインゲームなら、今後のアップデート予定についてとほとんど同じ意味よ。ただ、いつ頃実施されるかとかある程度は明言されるけどね」
「ゲームタイトルによってどこまで語られるかは、まちまちですが……ぶふぉはどうなんですかね?」
「そう言えば、大掛かりな発表は初めてよね」
流石年の功。みょーんさんとめっちゃ色々さんの解説付きなのはありがたい。
ステージではチェシャーがステッキで床を二回、トントンと叩いた。その音に合わせて僕らの目の前にウィンドウが出現する。
「一人一人、見やすいようにって配慮ね」
「ランキングはステージ上での表示だったのに?」
「インパクトとパフォーマンス重視だったんでしょう。プレイヤーネームだけしか表示しないから画面が見づらいなんてこともないし」
それもそうか。
まあ、兎にも角にもまずは目の前のウィンドウに表示された情報である。
今後のアップデート予定……どうやら、冬までの計画について開示するらしい。
『まずは一番近いところで、秋のアップデート第一弾についてでございます。メニュー画面が使いづらい、オプションの設定変更がよくわからないという話を受けまして、そのあたりの改良についてです。皆さま、お手元の画面をご覧ください』
9月に入ってすぐに行われるのか……えっと、メニュー画面のレイアウト変更とオプションの設定変更をゲーム内でもすぐに変えられるようにしたのか。たしか、今はログイン画面でないと変えられない設定も多いんだよな。光の強さとかの変更とか。
『また、一部スキルの調整が入ります。一つ目はカウンタースキル。タイミングがシビアすぎるという話を受けて、カウンタースキルの発生時間が伸びます』
「おお、某にとっては朗報でござるよ」
「そっか、【サムライ】は上方修正か」
『次に奥義スキルの条件緩和を行います。かなりの数になるので、お手元の画面には載せていませんがかなり多くの職業で条件が緩和されますね。詳しいことは後程公式サイトを更新いたしますので、そちらでご確認ください』
「奥義の緩和か……」
そういえば【村長】って複数の職業の奥義スキルを覚えられるんだよな。もしかしたら、奥義同士の組み合わせなんてことも出来るかもしれない――まあ、武器ごとに一つしかセットできないから最大二つなんだけどね。
そもそも一つの職業に複数奥義スキルが存在しているみたいだし、すでにやっている人はいるかもしれないが。
『では次に、一部職業の転職条件を緩和いたします。【探偵】、【怪盗】、【海賊】、【頭領】、【アサシン】、【魔法剣士】、【魔導士】は転職条件を達成するのが厳しいと判断いたしました。また、それに伴いこれらの職業に転職済みの方はアップデート当日に経験値ブーストアイテムを配布させていただきます』
「誰か関係ある人いる?」
「みょーんさんはどうです?」
「いやぁ、【魔導士】はスキルの方向性が合わなかったからなぁ……経験値ブースト欲しさにアプデまでに転職しておくのもアリかもだけど」
「っていうか【海賊】なんて職業あったのねー」
あ、それは僕も思った。敵にも海賊っているし、プレイヤー側にはいないものだとばかり。
それと【アサシン】も初耳だけど、盗賊の上位職だろうか?
『また、続いてはレイドボスの人数制限についてです』
「結局実装するのね、ボスごとに制限される人数は変わるみたいだけど」
「出来るならもっと早くやればいいのに」
あんな悲劇も生まれなかっただろうに。
『大人数で参加したい、という方もいらっしゃるでしょうから、人数無制限レイドボスも実装予定となっています。こちらの詳細は後日改めて発表させていただきますので、今しばらくお待ちください』
「もしかして、クラーケン戦であんなことになったから急きょ内容に盛り込んだのかしら」
「さすがにそれは無いでしょう――いや、どうだろう?」
「村長、まだまだあの悲劇の余波がくるようじゃぞ」
「そろそろ許してほしい」
「お兄ちゃん……元気出してくださいです」
気分はブルー。
『では秋のアプデ第一弾最後の目玉――レベルキャップの解放です』
「ちらほらそんな話は聞いていたけど、本当に来たわね」
「問題は、上限がいくつかということですが」
「……某たちにはあまり関係ないのでは?」
僕ら、40後半から50いっているかいないかぐらいだからなぁ。
ポポさんとかニー子さんはもう上限の60になっていたけど。
『上限は80になります。基礎レベル、職業レベル共にです! アップデート後はレベルアップ支援クエストなども予定しておりますので、ぜひご参加ください』
「今回のイベントの経験値ブーストも、レベルキャップ解放が近いからかもね」
「その線が濃厚ですよね……今のうちに上げるべきでしょうが、ブーストあっても上げるの大変なのがまた……」
そうなのだ。意気揚々と狩りに行ったが、全然上がらない……50以降は更に上がりにくくなるし、経験値効率を修正した方がいいのでは?
いや、その数値いじるよりブーストイベント実装した方が労力が少ないのか……更新に時間がかかるってのもユーザー側的にも嫌だし。それに、いじってデータがおかしくなるという可能性もあるのが怖い。
だからこそ現在レベルカンストしている人たちがヤバいわけだが。特に【旅人】でカンストさせた人。最初のうちは上がりやすいけど、基礎レベル10超えたら効果ほとんどないらしいし、よくもまぁやりきったものだ。
『ではでは、秋のアップデート第二弾――こちらは10月ごろの予定ですが――古代兵器のアップデートを行います』
「え、マジで――しかもこれ上方修正じゃないか」
「お兄ちゃん、目が輝いています」
「そういえば最近ナックルをやめて古代兵器に変えたんじゃったな」
まだ完全修復とはいかないが……修復・強化が今までよりも楽になるのか。古代兵器の入手のためのイベントや、素材集めクエストなども実装と。
あと、それまでに古代兵器を入手して強化した人には素材が配布される…………オイオイ。
「うわぁ」
「なんでそんな残念そうな顔しておるんじゃ? 喜ぶような内容じゃろう」
「違うんや。古代兵器は修復と強化が別なんや」
初期状態の壊から修復していくことで真にする。その後、ようやく強化が可能になるのだ。しかも強化に関してもちょっと特殊なシステムで、強化失敗はしないけど素材が大量に必要になる上に手に入れるの相当大変らしい。
ちなみに、今回の素材配布はイベント配布の【古代のナイフ】は対象外である。
あと【古代のガントレット】だが、これ入手はともかく素材は普通に古代遺跡から調達しないといけない、イベント入手だけど通常入手と同じ扱いというややこしい代物だった。
『また、両手武器は今まで装備スロットを二つ使っていましたが、装備スロット一つに変更されます』
「あ、そこも変わるんだ……」
「ハンマーの一部はこれで救われる……ただ、今まで以上に重量制限が厳しくなるようじゃがの」
「これ、早めに実施してほしいわね」
要望出してみたほうがいいだろうか?
威力は高いんだけど、装備スロット二つ使う武器は不遇扱いだからなぁ。
それこそライオン丸さんが高火力のハンマーを持っているぐらいで、他に使っている人は周りにいないし。
「でもそうしたら、古代兵器なんて重すぎて大変じゃないのかしらね」
「え? 古代兵器って重量0の扱いなんで大丈夫ですよ」
「どういう代物なのよ古代兵器」
さぁ……ストーリークエスト全然やれていないからそのあたり知らないんだよね。
ちなみに、壊の時は重量がある。
『その他、ハロウィンイベントの実施も予定しております。では、最後になりますが冬の大型アップデートについてです』
「画面が切り替わって……いろいろと多いでござるな」
「ですね。ストーリーの追加と、上級職の追加。新コンテンツの実装も書いてあるです」
「新コンテンツなんだよ……頭に角の生えた人のシルエットが載っているけど、何だコレ」
『皆さま、お手元の資料はご覧になったでしょうか? まだ全部は明かせませんが常設の大型コンテンツを実装予定です。そちらも、今後詳細は公式サイトで随時開示していきます』
「そのあたりはまだ教えないのか」
「それはそうよね……あとは、細かく何か書いていないか気になるのよね」
「そうじゃの――あ」
「何か見つけた?」
「冬の大型アップデートでまたレベルキャップを解放予定らしいぞ」
「…………早めに上限を解放するってことは、新年に何か大きなことをやるのかもね」
「先の話だから別に気にする必要もないと思うけど。あんまり気にし過ぎても楽しみが半減するし」
「村長の言う通りー、今を楽しみましょうよー」
「じゃったらなんで隅々まで情報確認しているんじゃ」
「「それはそれ、これはこれ」」
「ああ、そうかい」
「あはは……でも、いろいろと決まっているのにアプデに時間かかるんですね」
「それはそうよ。あくまでも予定だし、プレイヤーの動向で計画変更もありうるからね。いっぺんに実装しても開発の負担が大きいし、プレイヤー側も急な変化にはついていけないわ。あと、下世話な話になるけどアレコレ一気に変えると支出ばかりで儲けが出ないし」
「結局のところ、運営も開発もお金を稼ぐ必要がありますからね」
「せ、世知辛いです」
「むしろこのクオリティで基本無料なのスゴイんだぞ」
「それはそうですけど……あれ? アリスはパソコンにディスク入れて遊んでいますけど、タダでしたっけこのゲーム」
「基本的にはね。まあ、パッケージ版も売っているんだけど」
そういえば、公式サイトで商品解説があったような……お小遣い貯めて、買うのもいいかもしれない。特典アイテムも付いているみたいだし。
「…………買うかな、パッケージ版」
「村長、いきなりどうしたんじゃ」
「いや、PCの負荷軽減に買おうかなって。このゲーム、確かパッケージ版の方がPCにかかる負荷が低いんだよね」
「普通は逆だと思うんだけどね……なぜなのかしら」
「そのあたり解説すると長くなりますが、いかがいたします?」
「遠慮します」
一人のユーザーとして、そういう理屈は知らなくていいです。ただ、遊びたいだけなので。
「それが賢明ですね……そのあたり追及しだすとキリがないですから。でも、ほどほどの環境で楽しむのが一番ですよ――あ」
「そのほどほどに届かなくなるかもしれないんだよなぁ」
いまだにおみくじ券で敗北し続けている男です。
おかげでPC環境が追い付かなくなるかもしれない。
「みんな、スペックが追い付かなくなったらさよならだね」
「縁起でもないんじゃが」
「お兄ちゃん……叔父さんにパソコンを融通できないか聞きましょうか?」
「いや、いいよ……さすがにリアル側で他人に頼れないからさ。あと、近くに住んでいるわけでもないし」
「あ、あー……そ、そうですよね」
アリスちゃんは余計なことを言ってしまったなぁという顔をしていたが……そうか、この子も少しずつ成長している。リアルで踏み込み過ぎた自分に反省しているんだな。
「そうだけどそうじゃないのです……確かに言うべきじゃありませんでしたけど、誤解を解くのはそれはそれでやらない方がいいですし、本当に気が付いていないのもアリス的にショックです」
なぜかショックを受けて落ち込んでいるが……どうしたのだろうか?




