ランキング発表+α
今回少し長いです。
いよいよランキング発表の時間がやってきた。
特設ステージとなっているエリア【ウンエー国首都・ソンソン】にやってきた僕らは、人の波に流されていた。
「人多すぎないかなぁ!?」
「苦しいです……」
「VRなんじゃから、苦しいのは錯覚じゃろう―気持ちはわかるが」
さながら満員電車の中である。VRだから暑いというわけではないが暑苦しいとは感じる。
やがて、自分の体がキラキラした粒子に覆われてきた。まって、どういうことだ?
何が起きているのかとパニックになっていると、一瞬で目の前の光景が変わる。どうやら、どこかへ転送させられたらしい。
「ここどこですか?」
「何というか、コンサートホールのような場所じゃの」
「っていうか、まんまそうでしょ。いつの間にか椅子に座らされているし…………二階の特等席だね」
まるでオペラかオーケストラでも鑑賞するための施設のような場所だ。なぜか僕らは二階の席に転送させられた。下を見ると、他のプレイヤーたちも続々と転送されてきている。
今ここに来ていたのは僕とアリスちゃん、ライオン丸さんの三人だったがすぐに他の村民たちもやってきてきた。
「いったい、どういう事でござるか?」
「予想以上に人が集まったから、発表会場へ自動転送されるようにしたってところね。チラッと見えたけど、街の中も飾り付けられていたんだけど…………観光は難しいかもしれないわね」
「某、結構気になっていたんでござるがなぁ。運営の本気」
前情報で、ソンソンの飾りつけはかなり気合が入ったモノになっていると聞いている。だから、楽しみにしていた人も多いんだけど……この分だと、見て回る余裕はないかもしれない。
「まあ、本題のランキング発表を楽しみましょう」
「アタイ、【ビーチファイターズ】には関わっていニャいから場違いニャんだけど」
「別に気にしなくていいじゃろう。ワシらもランキング入賞ねらっているわけじゃなかったしの」
「ヒルズ村住人で自動的にまとめられたっぽいけどね」
二階席には他にもちらほらプレイヤーが見える。目立つところだと陰陽師の着る服、狩衣って言うんだっけ? それを着ている人や、よぐそとさんみたいな陣羽織を着ている人もいる。二人とも、
和風装備だし、よぐそとさんたちの知り合いだろうか?
「ねえ、あの目立つ服の人知り合い?」
「ああ――陣羽織の人は知っているでござるよ。アクア王国の南西、ちょうど大陸との間にある島ヤシノ島で【大名】になったプレイヤーの『三角州』さんでござる」
「どこかで聞いた覚えがあるな……たしか、【村長】と同じでフィールドマスター系だっけか」
ってことは、僕たちと同じようにフィールド提供で祭りに参加しているのかな。
もう一人の方も気になるが……三角州さんは何人か他のプレイヤーと一緒だが、陰陽師っぽい人は周りに人がいない。
どういう事だろうかと考えていると、よぐそとさんが僕の肩を叩いた。
「あまり他のプレイヤーのことを気にしても仕方がないでござろう」
「それもそうか…………ただ、二階の他のボックスに見覚えのある探偵とか怪盗とかもいる気がするんだけど」
なぜか一か所に集められている。よく見ると、令嬢っぽい人や麦わら帽子、着物の人も見えた。ちょっとだけ険悪な空気になっている――あ、着物の人がハリセンで全員をどついた。
どつかれたことで、黒い影みたいのが動いたように見えたんだけど……
「あれ、ヤンバルクイナさんですね。最近はイチゴ大福さんたちとパーティーを組んでいると聞いていますし、あちらに転送されたのでしょう」
「ああ、ネクロマンサーの……ってことは、あそこは僕たち以外のイロモノメンバーズでまとめられたのか」
「ひどい言い草ですね」
「でもー、村に住みだしていなかったら、あるたんちゃんはアッチに入れられてたかもねー」
「怖いこと言わニャいで欲しいニャ」
その喋り方続けている時点で言い返せないだろうに。
あと、先ほどハリセンで全員をどついたって言ったけど間違いだった。見覚えのある女性プレイヤーがハリセンを喰らっていない。だが、なんかおかしいような……?
「…………ライオン丸さん、あれって銀ギーさんだよね?」
「うん? 女騎士の銀ギーさんか? 確かに、探偵さんたちと同じボックスに入っておるが……違和感があるな」
「あらホント、ちょっと縮んだのかしら?」
みょーんさんの言う通り、銀ギーさんの背が縮んだような……距離があるからそう見えるだけか? 背中の辺りもキラキラ光っているような……?
気にはなっていたが、そこでブザーの音が鳴り響く。どうやら、いよいよ始まるようだ。そのため、先ほどまで疑問に思っていたことは一旦忘れることに。
全員の視線が舞台の中央へと向けられる。周囲が暗くなり、会場は静寂に包まれた。
そして、舞台がスポットライトで照らされる。
『レディースアンドジェントルマン! ようこそ、我々の国へ!』
そこにいたのは、ずんぐりとした体に、短い脚、手にはステッキを持ってシルクハットをかぶった二足歩行の猫だった。
にやにやとした笑い顔が特徴的で――あれ? 一瞬だけ目が合ったような?
「なんじゃ、あの猫は」
「ケットシーの獣人タイプともまた違うわね……骨格まで人間と大幅に違うってのは初めて見たわ」
「普通のキャラクタークリエイトでは作れませんね、アレは。運営側の用意した特殊なアバターでしょう」
『静粛に静粛に! この見た目を見て色々な感想をお持ちになる方も大勢いらっしゃるでしょう。ワガハイはチェシャー。しがない猫であります。この国の大臣のようなものをさせていただいておりますです』
「そういう設定の、運営サイドのプレイヤーってことよね」
みょーんさんが冷静にそう呟いた。
僕は、彼の名前が気になっていたが。
「チェシャーって……」
「ルイス・キャロルの作品から取っているんじゃろ。妙に縁があるの」
「アリスちゃんがいるものねー」
「あ、あはは……そうですね」
アリスちゃんは苦笑いしている。たぶん、僕と同じ考えなのだろう。
今ここで確認はしないが、あの猫はおそらく……いや、確証があるわけじゃないし、決めつけるのは早い。しかし、身内の修羅場を面白おかしくゲーム内の神話の元ネタにするような人物だ。しかも、姪っ子大好き。
おそらくはそうなのだろう。
しかし気になるのは、彼は運営ではなく開発の人間だ。
「…………このゲームって運営と開発違うんだよね」
「どうしたの? ああ、首都の名前が運営会社と同じソンソンだから? まあ、共同開発みたいなものらしいけど」
「いや、それならいいんだ」
なんで開発の人が司会しているんだとも思ったが、よく考えたらDJ牧島も開発の人間だった。あのチェシャーが僕の考えている通りの人物であっても別におかしくはないか。
視線を戻すとチェシャーが両手を横に広げると空中にいくつものスクリーンが表示された。
スクリーンは動画で、水着のプレイヤーたちがモンスターたちと戦っている場面が映し出されている。
『夏のイベント前半戦、【ビーチファイターズ】では多くのプレイヤーたちがこのような激闘を繰り広げてくださった! いやはや、我々の想定を上回る状況も多くて実に面白い宴であったよ』
やや芝居がかった口調で、巨大な猫はリズミカルにステップを踏む。
ステッキをクルクルと回転させ、映像が次々に切り替わる。いくつか見覚えのある場面もあって、エルダー(海)やクラーケンとの戦い、人魚を釣り上げた場面なんかも表示されていた。どれも数秒だけだったから、すぐに切り替わったが……これ、運営側からモニタリングされている?
「……今の、どう思います?」
「大量ポイントやボスのログから映像を引っ張りだしたんだと思うわよ。映し出されていたの、そういう場面ばかりだったし」
「そっか、それもそうだよね」
村の年長者二人がそんな会話をしている。
よくよく考えたら一プレイヤーを監視するわけもないか。
先ほどの視線が気になったから変な考えが浮かんでいたらしい。
「もっとも、村長はいろいろやらかすから動向のチェックぐらいはしているでしょうけど」
「前科がありますからね。ベヒーモスとかクラーケンとか」
「否定、出来ない」
「バグを見つけまくった前科もありますからー」
「死体に鞭うたないでください」
「この前も見つけておらんかったか?」
「……マジでやめてくれ」
わざとじゃないんだ。ただちょっと、かまどの中に火炎瓶入れたらどうなるかなぁって思って試しただけなんだ。だから、テクスチャが剥がれるバグを見つけたのは偶然なんだ。
「……お兄ちゃん、そろそろ怒られるですよ」
「はい、すいません」
アリスちゃんにトドメを刺され、僕は椅子の上に自主的に正座するのであった。
僕らがそんなコントをしている間に、舞台では話が次に進もうとしていた。
『このように色々な名場面を見せていただいてワガハイたちも大変うれしく思う。そこでだ、返礼としてより優秀な成績を残した者たちには褒美を授けようと思う。では、お待ちかねのランキング発表だ!』
チェシャーがそう言うと共に、あたりにファンファーレが鳴り響いた。同時に、チェシャーの頭上にでっかく10という数字が出現する。
「ランキングは10位までってことかしらね」
「じゃろうな。上位10人がランキング報酬の対象なんじゃろう」
「ところで、この中でランキングに入っている自信のある人っているのかニャ?」
「…………正直、最後の方ふらふらと遊んでいたからなぁ」
「素材がたくさん手に入ったのでー、服作ってましたー」
「ワシもちょっと、新しい武器を作っておったの」
「終盤は仕事が忙しくて」
「あ、ワタシも」
「アリスは家族旅行に行っていたので」
「某はそもそもランキングに興味は無いでござるから」
「拙者はレポート課題があったでござるから」
「誰一人自信ニャいのかニャ」
『まずは第10位! コイツだ!』
ポンとプレイヤー名が出てくるが…………こういうのって、プライバシーとかどうなのとも思わなくもないが、実はそのあたりの設定も出来る。
オプションからイベント時に匿名にするという機能があるんだけど、ヒルズ村の住人は特に使っていない。
なお、表示されたプレイヤー名は『ユーリクリー』だった。
「…………知っている人?」
「いや、知らないです――?」
「どこかで見た覚えもあるでござるが……」
「拙者も」
「私も聞き覚えがあるような、無いような?」
反応したのはアリスちゃん、よぐそとさん、桃子さん、ディントンさんの4人。他のメンバーは聞き覚えがない。いや、あるたんさんだけはあー、と納得していた。
「アレだニャ。盾使っているのに、職業が【盾使い】や【騎士】じゃなくて【魔法使い】のプレイヤーだニャ。最近は上位職の【結界術師】になったっていう」
「ああ、あの人ですか!」
「あー、あー……?」
「ディントン殿は完全に忘れているようでござるな」
前にやったPVPイベントでアリスちゃんたちと最後に対戦したグループの人か。そういえばいたなそんな人。
たしか、よぐそとさんがカウンター返し喰らってやられたんだっけか?
「ぐふっ……古傷が」
「ゲームにそんなものないでしょ」
どうやらよぐそとさん的にはトラウマだったらしい。なら忘れないでよ……
『ではお次はこのお人! 9位は『ヤンバルクイナ』さん! 小さなお子様も見ていますので、映像はありませんのでご容赦ください』
「よかったです……おばけ、出てこなくて」
「っていうか、そもそも個別に映像出していないじゃん」
「物は言いようですね。まあ、ジョークの類でしょう」
映像を出していても、ホラーな画面になるから使ったか怪しいが。いや、そもそもおどろおどろしいモンスターを実装するなと言いたい。
『8位はおっとスマナイ、匿名希望だ!』
「あの機能使う人いたんだ……」
「ですね。まあ、楽しみ方は人それぞれですし」
特に気にすることもなく、発表は次へ。
『ではでは、次はラッキーセブン第7位!』
「んー……『すばる☆』だって。知っている?」
「知らないです」
「まったくわからないわね」
会場を見回してみるが、特にそれっぽい人もいない。2階にいるのもほとんど名前知っているプレイヤーだからなぁ……やっぱりそれっぽい人はいなかった。
まあ、別に気にしても仕方がないか。
『続いて第6位! 『ポポ』! おめでとうおめでとう!』
「あれ? ポポさん6位なの?」
「少し意外でしたね……もっと上位だとばかり」
「そうだニャ、何かあったのかニャ?」
「アリス、なんとなく理由がわかるです」
「え、分かるの?」
「はい――だってあの人、ずっと服そのままでした」
「…………あ」
そう言えばそうだった。クラーケン戦の時も探偵ルックだったよあの人。
つまり水着によるボーナスポイントが入らない状態で6位なのか……
「とんでもないなあの人」
「そうですね」
「やっぱりプレイ時間の差でござるか」
「水着だったら1位だったであろうに、もったいない」
あの人も職業を変える気はないのかもしれない。それほどまでの意地を見た気がする。
続いて第5位。
『よくぞ、その職業で戦い抜いてくれた……怪盗しん、じゃなかった。『イチゴ大福』さんだ!』
「あの呼び方、もしかしてチェシャーって村長のスレ見ているんじゃないの?」
「えぇ……なんか嫌だなぁ」
アリスちゃんの身内(推定)に監視されている気分なんだけど。好意からの視線はともかく、そうじゃないのはどうしたらいいのか分かんない。
アリスちゃんもげんなりした顔しているし。
『いやはや、二人目の称号【ジャイアントキリング】取得者がこうも早く出るとは思わなかった。おかげでポイントたくさん持っていかれたぜ』
「え、あの人もしかしてクラーケンソロで倒したの?」
「どうやったんじゃろうか……」
「結局諦めきれなくてリベンジしたんですねー」
やっぱ半端ないわあの人。
「っていうか時期的に一人目って……」
「隣にいるですよ」
「まあアリスちゃんに出来るなら、あの人にも出来るよな」
ベヒーモスとクラーケンで難易度は全然違うんだろうけど。
それでも、レベルもプレイヤースキルもイチゴ大福さんの方が格上だ。
「いつか、勝ってみせるです」
「おお、燃えておる」
「飛び火しないで欲しいでござるが」
「絶対に周りを巻き込むニャ」
あるたんさんの一言は、実感が込められていた。
『さてさて、4位の発表です――そう、君だ『ランナーB』!』
「いやーん! アチキが4位なのぉ!!」
下の方から、野太い声が聞こえた。
ちょっと身を乗り出して覗いてみると、筋骨隆々のマッチョマンの頭にネコミミが生えていて、その人がポージングを決めながら野太い猫なで声で喜びをあらわにしていた。
「……おえっ」
「な、なんなのです!? あのおばけより怖いナニかは!?」
「あー、そういえばアイツがいたニャ」
「あるたん、知っているの?」
「姐御……世の中には知らニャいほうがいいこともあるんだニャ」
「知りたくはないけど気にはなるでしょ。下で、彼……彼? が投げキッスをしているせいで阿鼻叫喚よ。ほら、男性陣近寄らないようにしているし」
「アイツはバイセクシャルだからアタイも近寄りたくはニャいニャ」
「余計駄目じゃない」
「…………『ワイルドハンター』、この名前に聞き覚えはあるかニャ?」
「うーん……どっかで聞いたような?」
「なんか覚えがあるの」
「拙者も、どこかで見たような?」
「アリスはわからないですけど」
「そうだニャ。アリスは知らニャくても無理はニャいニャ。だって、村長の掲示板に書き込んでいる面子の一人だからニャ」
「最近はあまり書き込んでいないけどね――ってまって、それって大体いつも書き込んでいたメンバーの一人ってこと?」
「そうだニャ」
ええ…………どういう繋がりだよ。
っていうかあんだけ濃いのに2階じゃないんだな。
チェシャーも視界の暴力を喰らったせいか、ちょっとげんなりしていた。あ、げんなりしている時の雰囲気がアリスちゃんに似ている。
『で、では次の発表です……いよいよ、トップ3! まずは第3位! 『アドベン茶』!』
「誰?」
「えっと、誰でしょうか?」
「うーん……知らないわね」
「そうじゃの、特に覚えはないんじゃが」
「……? お兄ちゃん、前に一度お兄ちゃんのフレンドリスト見せてもらったことありますよね?」
「そういえば、そんなこともあったけど」
たしかベヒーモス戦の思い出話をアリスちゃんに聞かせた時だったと思う。
エルダー(海)を周回している時に飽きが来ないように今までのことを話したんだっけか。
「その時にその名前見たですよ」
「え、マジで!? ちょ、ベヒーモス戦に参加した人チェックして! 僕のフレンドってその時に参加したメンバーがほとんどだからあの時にいた人なら入っているかも!」
「あ、ワタシもフレンドリストに入っているわね」
「私もですねー……え、誰だっけ?」
「ワシも入っておるな」
「私も入っていますね…………」
「拙者もでござるな」
「…………某は覚えているでござるよ、アドベン茶殿」
「え、知っているの?」
「いたでござろう! ベヒーモスの背中のコブを発見した功労者でござるよ!?」
「…………」
…………
「あ」
「そういえばそうじゃったな」
「いたわねそんな人」
「みょーん殿、その時パーティーメンバーだったでござろうが」
「あ、あはは……」
「あの時、パーティーの意味はほとんどなかったでござるけどな」
「掲示板にも『盗賊団』の名前で書きこんでいたでござるのに、不憫な」
ご、ゴメン……でも、直接会ったのその時だけだし、ここ最近は相談スレやっていなかったから。
『会場がざわざわしているところで、第2位の発表です――さあ、艱難辛苦を乗り越えてこの座を勝ち取ったのは君だ『†世界破壊者†』!』
「え、誰?」
「今度は本当に知りませんね」
「アタイもさっぱりだニャ」
今度は全員知らなかった。
フレンドリストを確認したけど、やっぱり名前は無い。
「じゃあ本当に面識ないんだな……えっと、どの人だろう?」
「会場には来ていないんじゃないの?」
「いや、後方で拍手が聞こえるからいるにはいるみたいじゃぞ」
ライオン丸さんが言った通り、会場の後ろの方で拍手が聞こえる。
目を凝らしてみると、チェックのシャツを着ていて、丸眼鏡のプレイヤーがいた。頭にはバンダナを撒いており、背中には何か白くて長いものが飛び出したリュックを背負っている。
その彼が、顎に手を当てて決め顔のようなポーズをしていた。
「……なにあれ」
「見たところエルフのようじゃが……スゴイ見た目じゃの」
「…………同じエルフだと認めたくないですー」
「ひ、人それぞれですから」
「むしろワザとあんな格好出来る胆力に驚きだニャ」
たしかに、狙っていないとできないよな、あんなクラシックなオタクの見た目。
『ではでは、いよいよ第一位の発表だが…………お前ら、聞く覚悟はできているか?』
「なんで溜めるんですかね」
「正直、誰なのかわかったんだけど」
「です」
「まあ、この今まで出てきた面子から考えればあの人以外にいないじゃろうけど、マジかぁ」
「よく1位になれたわよね」
「ですねー」
僕たちが思い浮かべたのは同じ人だろう。会場のあちこちでも、ああーという声や、結局かーという一言が漏れている。テンションも心なしか下がっていた。
普通、最弱職で1位とったら盛り上がると思うんだけどなぁ……
『1位、『ニー子』、まあおめでとう』
「なんでそんな盛り下がっているんだ!?」
「自分の言動を思い出したまえよ。というか、ボックスから身を乗り出すな」
静寂の中、ニー子さんの叫びとポポさんのツッコミが響き渡った。
正直な話【旅人】のままで凄いなと思うけど、喧嘩腰という話が本当だったんだなということを理解してしまった。
あと、落ちるので身を乗り出さない方がいいと思います。ポポさんも彼女を引っ張ろうとしているせいで上半身出ちゃっているし。
「あの人、行動範囲凄く広いから多くのプレイヤーが知っているのよね……凄さも悪名も」
「決して悪いことをしているわけじゃないんじゃが、何というか……疲れるんじゃよ」
「話していると、人の暗黒面を自覚してしまうんですよね」
「待って、そこまで言われる人なの?」
想像以上に何かあるようだ。
『とにかく! 発表は以上です! 11位から50位までのプレイヤーにも入賞として記念品を贈らせていただくので、楽しみにしているといい!』
ほう……50位までに入っているといいんだけど、流石に無理だろうか?
『ではでは、続いて――我々を楽しませてくれたプレイヤーに送る称号の発表です』
「…………なんか嫌な予感がする」
「村長、どうかしたかの?」
「ちょっとログアウトしたくなったんだけど……」
「ランキング発表だけじゃなくて、今後のアプデ予定とかもやるからいた方がいいわよ」
「いや、僕の中の何かがここにいるとマズイって叫んでいるんだ!」
「いやいや、残るべきですよ――ねえ皆さん」
色々さんとライオン丸さんが僕の腕をつかむ。何をするんだ、放せ!
『まずはこちらの映像をご覧ください』
そこに映し出されていたのは、大勢のプレイヤーが蹂躙される光景だった。巨大な触手に薙ぎ払われ、電撃で消し飛ばされ、キラキラと光る粒子に変わる光景だった。
言うまでもない。この前のクラーケン戦、それも大群で挑んでやられたほうの。
『笑わせていただきました。まさか、こんな人数で挑むとは……元々、同時接続人数が多くなっても大丈夫なように新型サーバーを試験的に導入していたので、人数の上限はありませんでしたが…………いやはや、なぜこうなったのか』
また一瞬だけこっちをチラッと見たチェシャー。ば、バレている……っていうかもしかして僕、運営にマークされている? いや、アリスちゃんの叔父さんなら個人的にマークしているだけかもしれないし。それはそれでキツイものがあるけど。
『まあ、そんなわけでこの戦闘に参加していた方全員に、【一発屋】の称号を贈呈させていただきます』
「嫌ァアアア!?」
「なんでそこまで嫌がるんですかみょーんさん」
「ハハハ、数千人の【一発屋】が誕生しましたね」
「効果はショボいんじゃけどなこれ」
「でも、アリスたちもう持っていますよね」
「そういえばそうねー」
『なお既にお持ちの方は、【再ブレイク】を贈呈いたしました』
「過去形!? って、本当に称号一覧にあるでござるよ!?」
「効果は……蘇生時に一時的に全能力上昇でござるか…………結構強いのがまた何ともいえないでござるな」
…………また、掲示板に書き込んだらワロスって返ってくる日々が帰ってきたよオイ。
今回こそ、掲示板に助けてくださいって書き込みたいんだけど――ダメか。
なんで掲示板を使えないデバフを喰らっているんだろう……




