僕らのつながり
今回ちょっと短いです。
初の音頭は妙な空気になりながらも、経験値とレアドロ排出率が上がったおかげでダンジョン周回がはかどるようになった今日この頃。体調を崩さないように気を付けながらダンジョンを巡ったり、お祭りに参加したりしている。
今回のイベントのおかげで色々な街に遊びに行けるので、風景を楽しんだりミニゲームに興じてみたり、いつもと違った遊び方ができる。まあ、おみくじ券欲しさに奉納ポイント集めにも出かけているが。
奉納ポイント、モンスターを狩るだけじゃなくてアイテムを神様の像に捧げることでも手に入る仕様だったのに遅れて気が付いたんだけど……【黒鉄のオーバーオール】を間違えて奉納してしまった。
使っていなかったとはいえ、手に入りにくい装備を失くしてしまったのは痛い。
「どうしたものかなぁ……」
悩んでいても仕方がないのは分かるのだが、ほとほと困り果てている。
ソロでベヒーモス討伐に行ってみるのもいいかもしれないが……ダメだ。『サモン・マーメイド』と【古代のガントレット】をもう少し強化してからにしよう。
今、僕は村のギルドでアイテム整理をしているところだ。
出店に出品しているアイテムや、倉庫のチェックなど。定期的に見に来ないと無くなっていることがある。売り切れは嬉しい限りだが、やることが多くてかなわない。
しばらくウィンドウとにらめっこして、在庫チェックをしているとゾロゾロと人が入ってきた。まあ、いつもの村民たちだったわけだが。今日は全員集合である。
「おや、皆さんお揃いで」
「村長も早いですねー。待ちきれませんでしたかー?」
「うん? 何の話?」
「あ、これ知らないでいたパターンじゃな」
「お兄ちゃん、【ビーチファイターズ】のランキング発表は今日です」
「…………ああ、そういえばそうか」
「忘れておったんじゃな」
「そもそも私たちはランキング入賞を目指していませんでしたけどね」
「疲れるだけだしね。でも、気にはなるでしょ?」
みょーんさんの言う通り、気にはなる。
そうか、だからみんなして集まってギルドにやってきたのか。
でも発表って確かウンエー国の首都で行われるんじゃなかったっけ?
「ええ、その通りですよ。ですが、特殊なマップへの移動ですのでギルドから転送という形になっているんです」
「正確にはクエストを受注することで行けるんじゃがな」
「なるほど、クエスト受注で自動的にワープするわけか」
「というわけで、行きましょうです」
「某も正装で向かう次第でござるよ」
「ああ、だからよぐそとさん陣羽織なんて着ていたんだな」
というかどこで手に入れたんだそんなもの――いや、一人しかいないな。
「ディントンさん、いつの間にあんなもの作ったんですか?」
「自信作よー!」
「そうじゃなくて……もういいや」
何を言っても無駄だろう。最近、この人暴走しがちだから余計なこと言わない方がダメージは少ない。
というわけでいつものように適当な人数でパーティーを組む。
今回は僕、アリスちゃん、よぐそとさん、桃子さんだ。もう一組はライオン丸さん、ディントンさん、みょーんさん、めっちゃ色々さん、あるたんさん――って、なんか一人多い。
「あれ? いたの?」
「いたニャ。何故気が付かニャいのか」
「いや……一言も喋っていなかったし」
喋っていたら気が付いていたよ君みたいなキャラの濃い人。
「まあいいニャ。今日はたまたま顔出しに来ただけだったんだけどニャ、せっかくだからアタイも付いていくニャ」
「新入りと親交を深めるというわけで、こっちの班に入れることにしたわけ。まあ、いつも村長に負担をかけるのもどうかと思うしね」
「みょーんさん…………でも、本当の理由は違うんでしょ?」
「ディントンがこの子気に入っているから、セットにしておきたいのよ。あと、和風コンビがいると空気がピンク色になるからこっちに入れないでほしいの」
旦那が出張で、甘ったるい空気が辛いのよと涙目のみょーんさん。そうか、カップル枠で固定されたのか。いや、別に僕は誰かと付き合っているわけじゃないんだけど――アリスちゃん、ジト目で見ないでほしい。
「みょ、みょ、みょーん殿!? べ、別に拙者たちは桃色の空気など!?」
「そうでござるよみょーん殿。桃子殿も迷惑でござろう。あくまで、ゲーム内での友人でござるよ」
「…………そうでござるね」
「ちょ、桃子殿? 顔が怖いのでござるが」
…………よぐそとさん、気が付いていなかったんだな。
アリスちゃんもうわぁって顔をしていらっしゃる。
「アリス殿ぉ……どうしたらいいでござるか?」
「やっぱり、直接言うしかないと思うです」
「そんな、みんながアリス殿みたいにできるわけじゃないのでござるよ!?」
「大人の意地、見せるって言ったのは誰です?」
「拙者でござるがぁ……それでも気にもされていないの辛いんでござる」
「まだ時間はあります。幸い、ライバルは現れていないです。確実に意識してもらえるようがんばるしかないです」
「ハイ! ラブハンター師匠!」
「その名は捨てたです!」
「ハイ! すいませんでござる!」
「…………どういうこと?」
「村長は知らなかったのね。あの二人、コイバナ仲間よ。既婚者ってことでワタシもよく相談されるのよ」
「マジでか。というか、僕に言っていいの?」
当事者にそういうの話していいのだろうか?
「アンタは気が付いたうえで、線引きして向き合っているからいいのよ。あの子の気持ちに気が付いていないわけじゃないし、今は線引きしておくのもワタシ自身賛成だしね」
「そういうものかなぁ」
「気にしてあげているだけずっといいわ。問題なのは、あっちで髭もじゃと装備談義始めているエセ侍よ」
「ヒデェ言い草である」
確かに桃子さんの気持ちには一切気が付いていないけど。
「色々気にはしているけど、ワタシ自身ネトゲで旦那と知り合って結婚したのよ。結婚式にだって、当時のクランメンバーとかクラン設立者とか呼んだからね。まあ、クラン設立者もネトゲ婚だったぐらい、そういう事に縁があるのよ。だから、別にネトゲ婚そのものを否定はしないの」
「まあ、そこ否定したら自分自身否定しますもんね」
「でも、よぐそと君って……そこのところ否定している、とまでは言わないけどキッチリ分けすぎているのよね。まあ、ロールプレイしているからこそだろうけど」
リアルの自分とゲームの自分は別物と考えている、ということか。
本当に恋愛ごとに疎いだけかもしれないけど、意識的にか無意識的にか気にしないようにしている節もある。
「だからこそ、見ていてあげてね」
「…………あんた結局押し付けただけじゃねぇか」
「だってぇ、桃色の空気も実際辛いし」
「ハァ……わかりましたよ」
なんでか知らないけど、この人には妙に逆らえないというか言うことを聞かないといけない気分になる……なんでだろう? 暴走したとき迷惑かけたから?
みょーんさんも僕の顔をじっと見ていて、首をかしげている。
「んー? いや、気のせいよね」
「どうかしましたか?」
「ううん。こっちの話。そろそろ時間になるし、用事があったら早めに済ませてきたら?」
「そういえば、在庫整理の途中だった――済ませてきますねー」
そう言って、僕は倉庫の方へ戻った。
なので、この後みょーんさんたちが話していたことは聞こえなかったのである。聞こえていたら、僕が妙に逆らえなかった理由が分かっていたかもしれない。
「みょーんさん、何を話しておったんじゃ?」
「ねえ、ライオン丸。前に旦那と出会ったゲームをやっていた時のクラン設立者の結婚式に参加した話ってしたことあったっけ?」
「前にやっていたゲームで聞いたことがあるが、それがどうかしたかの」
「いや、あの話って続きがあって……その夫婦、子供が生まれたわけなんだけどワタシもだっこさせてもらったことがあるのよ。あやしたこともあるし。今は引っ越したから会ったのはそれっきりなんだけど、たしか13年前……いや、14だったかな?」
「ほう。じゃが、それがどうしたのじゃ?」
「いや…………なんか、初めて会った気がしなかったのよねーって」




