BFO音頭
活動報告に簡易的なキャラ紹介を載せました。
あと、今回の話は好きなメロディでどうぞ。
マンドリルさんが消えたことで、この場に残ったのは水着マフラー、チャイナドレス、ベリーダンサー、花魁の四人になった。いや、たくさんの野次馬もいたか。
メニュー画面で時計表示を出してみるとそろそろ音頭の開始時刻になりそうであった。
周りのプレイヤーたちも時間に気が付いたようで、ぞろぞろと街の中央広場へと向かっている。
「しかし、結構プレイヤー多いな」
「それもそのはずやね。【はじまりの】って名前のエリアは数多いけど、こことハラパ王国の【はじまりの街・エリック】は首都の中にあるということもあって特に広いんよ」
「なるほど」
「設備は充実しとるし、初心者には遊びやすいし、初期位置に出やすいからプレイヤーも多いんよ」
「……出やすい?」
「え、出やすいんですか?」
「なんで二人して疑問形なんやろな?」
「アタイに言われても困るニャ。一つ言えるのは、この二人は一般的ではニャいニャ」
僕は作り直さなかったけど、アリスちゃんは最初に墓場で次に炭鉱だぞ。
どういう引きをしていたらそんな結果になるんだ?
初期位置って結構な数あるだろうに、どうしてピンポイントで引いたのか不思議である。
「そういえば【はじまりの】エリアっていくつあるんですかね」
「前にポポはんから聞いたことがありますね。たしか……30くらいやったと思います」
「そんなにあるのか――いや、プレイヤー数から考えるとそうでもない?」
っていうかそんだけあればもう何人か炭鉱に来ていてもいいものだけど。
「最近、ロポンギーはんたちは炭坑に入っていますか?」
「いや……最近はそうでもないな」
「素材集めに時々ですね」
「イベントもあったやろ……そのせいで水場にすぐにいけない炭鉱を引いた人みんな作り直してたんよ。ここ最近の新規さんの話やけどな」
「あー、そっか。最近始めた人はそうだよね。イベント参加できないようなスタート位置で始めないか」
「村長が最初のころにやっていた苦行も有名だからニャ。ソロだと一か月近く籠らニャいと外に出ることが出来ニャいせいで【はじまりの墓場】の次に不人気ニャ」
「一か月じゃないよ……本当は二週間あれば出られるんだけど」
「五十歩百歩って知っているかニャ? っていうかそれイベント期間中は出られニャいから」
「約二週間の開催なんですけど、そのあたりどうおもってるん?」
「…………正直、そのあたりの感覚麻痺していた」
「アリス、お兄ちゃんと会ってなかったらこのゲームやめていたかもしれません」
今となってはどうしてあの状況でも耐えられたのか。
……そうか、掲示板に書き込んでいたから一人って感じじゃなかったからだ。
「それじゃあ心を込めて掲示板に今までの感謝を書き込もう」
「どうしてそうニャったニャ!?」
「話が飛躍していませんかね」
「たまに、お兄ちゃんはよくわからないことを言うです」
「…………なんかとてつもなく恥ずかしいことをしたんだけど」
「あ、気が付いた」
「消去、消去しよう――まって、消せないんだけど」
「お兄ちゃん、スレッドの消去はプレイヤー側からはできないんですよ」
「公序良俗に反する書き込みとかは通報されて消されるんやけど、そうじゃないなら基本的には消えへんよ。あとは、時間経過を待つだけやね」
書き込みの無いスレッドは一週間で消える。なら、誰も書き込まないようにパスワード設定を……ダメだ、最初に設定しておかないと後からは変えられない。
すでに書き込んでいる人がいるし――おお、黒歴史が産まれた。
「僕は、無力だ」
「大丈夫です?」
「引きずっていくしかニャいニャ。もうすぐ音頭も始まるニャ」
「ほら、いきますよ」
「あとでまたからかわれるんだろうなぁ……僕、からかわれるのって苦手なんだけど」
「だったらからかわれるようなことしなければええのに」
「もうそういう習性としか言いようがニャいニャ」
「あ、あはは」
いっそ殺してくれ。
そんなブルーな気持ちで広場までやってきた。ここにもやぐらが立てられているが、街の景観に合わせたデザインだ。螺旋階段状の物見やぐらで、モニュメントにも見える。
キラキラとした粒子と共にやぐらの天辺にアフロのオッサンが出現した。法被を着ていて、景観にミスマッチなんだが……
「え、誰?」
「DJ牧島だニャ」
「誰だよ」
「みんニャはマキシマーって呼ぶニャ」
「いや、だから誰だよ」
特徴的なアフロに星型のサングラス。そして、法被。いや、ほんと誰なのだろうか?
「BFOの音楽担当の人です。前に話した、クラシック好きの人です」
「あんなファンキーな見た目しておいてクラシック好きなのかよ」
「このゲームのBGMの大半は彼の作った曲ニャ」
「BFO音頭も彼の作詞作曲やね」
「へぇ……」
と、その時目の前にオプション画面――いや、システムウィンドウが表示された。今までに見たことない形式だったので驚いたが、どうやらBFO音頭の歌詞が書かれているらしい。
ビックリして周りをきょろきょろしてしまったが、みんな歌詞の方を見て……なんかげんなりした顔をしている?
「お兄ちゃんも歌詞を見ればわかるです」
「なんか嫌な予感がするなぁ」
@@@
BFO音頭 作詞作曲「DJ牧島」
ハァー ぶふぉーな毎日を すごして 皆と遊ぶ
今日は火山で冒険だ 明日は森で戦闘だ
お空を眺めて レベルを上げる
ハァー ぶふぉーな日常を 味わって 皆と笑う
お海を眺めて レベルを上げる
いよー いよっいよっ よーいよーい
出て来い レアドロ あがれよ レベル
出て来い レアドロ あがれよ レベル
(以下、3度繰り返す)
びぃえふおー おんどぉー
@@@
「……なんて言えばいいんだろうか」
「こう、変な気持ちが湧き上がってくるです」
「DJ牧島、名曲も多いけど迷曲も多いのよ」
「これは明らかに迷っているほうニャ」
「数度繰り返すって?」
「最初からそこまでを繰り返すんやね。で、音楽が変わったらラスト歌って終わる」
「ああ、そういう」
と、そこでお囃子のような曲が流れ始めた。
上でマキシマーがマイクをトントンと叩いている。ノイズのような音があたりに響いているけど、ゲーム内だし音量設定自由に変えられるんだからマイクを使う意味ないのでは?
「ただのパフォーマンスニャ。ああやって、視線を集めているだけニャよ」
「マキシマー、サービス開始のオープニングセレモニーでもあれやっておりましたね。気に入ってるんやろか」
「え、それ僕知らない」
「ハラパ王国とガンガー帝国の首都でしか行われていニャいから知らニャいのも無理はニャいニャ」
「イベントのために使う機能の先行テストでしょうけど」
ああ、その頃は炭坑内でさまよっていたころだから知らないのも無理はないか。
いいなぁ……参加してみたかった。
『ヘーイ! オーディエンスのみんな、盛り上がっているかーい!』
「いーえい?」
「返事がまばらニャ」
みんな困惑した空気を出している。
ノリのいい人はごく一部で、大多数のプレイヤーは苦笑いだ。
『んー、ノリのいい連中は少ないみたいだなぁ! おいおい、せっかくのイベントだぜ? 盛り上がっていこうYO!』
「運営側の想定はもっと熱狂する感じなんだろうな」
「お互いの想定する空気というか、熱量って差があるニャ」
「そういうものですけどね」
「そういえば、中の人は一人なのに全体がわかるんですね」
「ああ、アレホログラムみたいなもので、管理者用の特殊アバターを使っているんよ。本体は別空間で、全ての会場をモニタリングしておるんよ」
「よく知っていますね、そんなこと」
「この前発売していたゲーム情報誌でインタビュー記事載っておったんよ」
「なるほど」
そのため全会場でDJ牧島が出現しているのだとか。こっちはモニタリングしているけど、本体に動きがリンクしているから時々明後日の方向を見ている時がある。モニターを見ているんだろうか?
『それじゃあ、さっそくいってみようかBFO音頭はじめるぞー!』
ちゃんちゃんと日本の夏祭り風の音楽が流れ出す。
って、振り付けはどうなっているんだろう?
『振り付けはみんな好きにやってくれ! っさあ、歌うぞー!』
「あ、そのあたり適当なんだ」
「まあ大体似たような振り付けになるんやし、適当でもええんよ」
僕も含めて大多数のプレイヤーが手拍子をして腕を斜め上に出すポーズをしている。基本的にこの繰り返しだし、リズムに合わせて体を動かしながら歌うが……この歌詞は何を思って書いたのか。
レアドロと経験値ボーナスの祈願歌でいいのか?
あと、どこからともなく聞こえてくるおばちゃんの歌声はどういう事なんだ? ちょっとノイズのようなものが混ざって聞こえるところを考えると、わざとか。カセットテープ風とでもいえばいいのかな。
繰り返しも終わり、曲調が変わって最後のフレーズになりようやく曲が終わる。
『んー、センキュー!』
「これ期間中何度もやるんだよね」
「そうですね。現実で4時間に一回のペースでしたっけ?」
「ゲーム内の一日が4時間ごとやしね。今が18時過ぎたところやから、ゲーム内は昼12時。つまりはゲーム内で昼12時に開催しているって覚えておけばいいんよ」
【ビーチファイターズ】で慣れてしまっていたが、本来は太陽と月が結構なスピードで動いているのがこの世界、というかゲーム内である。
みんなが水着を着ていた時は太陽がずっと頂点にあったからね。しばらくは違和感がありそうだ。
街が、音頭も終わったことでガヤガヤと喧騒を取り戻していく。ちなみに祭り会場は通常マップとは異なり、NPCも祭り仕様になっている。会話の内容も専用のものになっているし、クエストなども発生しない。
先ほど寄っていた喫茶店の店員も、少し宣伝文句が変わっていたらしい。
「あれ? ……何かバフついていますね」
「ホントだニャ。音頭ブースト、って書いてあるから音頭に参加するとバフがつくんだろうニャ」
「まあ、そういうものが無ければ参加者減りそうですし――待ってください」
経験値とレアドロップ率、共にプラス200パーセント。
…………え、いいの?
「単純に考えて3倍よ3倍。レアドロップ率は幸運のステータスと、ドロップテーブルなんかも絡むからハッキリしたことは言えないけど、それでも経験値3倍は分かりやすくて強力よ」
「興奮であるたんさんが普通の言葉に戻ったです」
「気持ちはわかるけど――でもこれ、制限時間30分だけだね」
「ウチ、行くところが出来たからこれで失礼しますね」
「アタイもちょっと寄るところができたニャ」
「……わかりやすいですね」
「そうだな」
「で、どうします?」
「経験値効率のいいところに行こう。そろそろレベルの上がり方がきつくなってきたことだし、このイベント中に50は越えたい」
本当はレベルキャップの60まで持っていきたいが、流石に厳しい。要求経験値多そうだし。
あと、いくつかの職業を育てているので一本に絞っている人よりはレベル上がるのは遅くなっているのも理由の一つだ。
「というわけで狩りに行くぞ――エルダー(海)!」
「あ、やっぱりそこなんですか」
「行ける場所で一番効率いいのあそこだし。なんならこの前の幽霊の島に連れて行ってもいいんだけど」
イチゴ大福さんに連行された井戸のある島。あそこ、幽霊とかその類のモンスターが大量に出てくるのだ。イベント期間中でずっと昼間だったからモンスターの出現率低かったけど、今なら普通に出てくるし。
「遠慮しておくです。幽霊より、触手のほうが断然マシです」
「アリスちゃんならそう言うと思った――よし、狩りに行くぞ!」
「でも人で混雑しませんか?」
「夏祭り後半の開始に伴うアップデートで、一部ダンジョンがインスタンスマップに変わったから大丈夫」
「え、いつの間に……」
もちろん海底神殿も対象の一つだ。
というわけで、この後30分間ひたすらモンスターを狩りまくったのである。
音頭ブーストのおかげで古代兵器のパーツなどが落ちるので【古代のガントレット】も修復段階が進んだし、もしかしたら完全修復もいけるんじゃないかとワクワクしてきた。




