桃色の悪魔
ちょっと思うところあって「ドドリア」の名前を「ど・ドリア」に変更しました。
内容自体は変わっていないです。
妙な空気になったが、そろそろBFO音頭が始まる時間である。村に戻るのもアレなので今日はこのままレンガルで踊りに参加する所存。
まあ各々楽しんでいることだろう。
少し気になったので、誰か近くにいるかなとフレンドリストを見てみると、ひとり近くにいることが分かった。っていうかアリスちゃんだった。
「ずっと、ここにいましたですよ」
「うわあああ!?」
「なんて、冗談です。あの二人の戦っている時に来たですけど、みんな夢中になってみていたので誰も気が付かなかったです」
「あ、そうなんだ……」
ビックリした……ポポさんとニー子さんの戦いの途中からなら、数分前からってところか。
なんでここにって聞くのは野暮だろう。居場所を突き止めたのもフレンドリストを見ればだれがどの位置にいるかおおよその見当はつくし、イベント期間中ということもあり祭りでフレンドと合流しやすくするため、祭り会場の部屋番号もわかる仕様になっている。
実際、僕も同じ方法で彼女がいるのを知ったわけだし。
そういえば、もう水着から着替えたのか。青色のチャイナドレスになっている――違う。これ、【水のドレス】だ。いつの間に入手したんだろう……ということは、下半身は水着だな。生足出ている。チャイナドレス風に改造したのはディントンさんだろうな。
足はゴツイブーツつけているのがまたアンバランスである。この子、最近のメインウェポンはバトルブーツだからなぁ。
「お兄ちゃんの視線がうれしい自分がいるです。ところで――誰が桃色の悪魔ですか? ねえ、そこの釣り人さん」
「くっ……聞かれていたっすか」
「ええ、バッチリと」
アリスちゃんの頭に怒りマークが見える。そっか、それ言われているの気にしていたのか。
村民たちが言っていても割と気にしないけど、それ以外の人の場合はそうでもないのだろうか?
「なんでか知らないですけど、この人に言われると無性に腹が立つのです」
「なんだ、マンドリルさん限定か。ならいいか」
「なんで俺っちの扱いおざなりなんすか?」
「そういうさだめやし」
「ドリアさんもひどいっすよ」
涙目のマンドリルさん。
言い過ぎたかなぁとは思うが、こう……いじりやすい何かがある。
あと、いきなり釣り勝負仕掛けてくる人だし別にいいかなぁって。
「それで、リベンジでしたっけ? いいです。受けて立つです」
「やべぇ……ですがデスに聞こえるんだ」
「ロポンギーはんはどちらが勝つと思いますー?」
「そうですね、まだアリスちゃんは【演奏家】のレベル上げの途中なのでワンチャン行けるのではないかと思うんですよ」
「それが今の彼は【漁師】なんよね。能力的には【釣り人】の上位互換なんで転職のためのクエストに行っていたんやけど、それがつい三日前の話」
「あちゃぁ……レベル差もあるじゃないですか。これは終わったな」
「や、やってみなくちゃわからんから!」
「さあ、くるがいいです」
お互いに握手をし、PVPモードを開始する。
PVPについて詳しい機能を解説していなかったので今更かもしれないが解説しよう。
まあ説明の必要があるかはわからないが、単純な話プレイヤー同士で戦うためのモードだ。普段はフレンドリーファイアが発生しない攻撃でも当たるようになるし、プレイヤー全体にかかるバフもパーティーメンバーにしかかからなくなる。
そう、パーティー戦もできる。なお、今回は一対一なのでそのあたりは割愛する。
「ウチはマンドリルはんのスキルについて解説するんで、ロポンギーはんは彼女のスキルについてお願いしますね」
「はいよー」
「か、彼女だなんてそんな」
「あ、別にそういう意味違うんよ」
「なんだ……そうですか」
アリスちゃんのテンションが急降下した。それに伴い、冷ややかな目でマンドリルさんを狙っている。
「おい!? この子八つ当たりでとんでもない攻撃繰り出すんすよ!? なんてことをしてくれるんすか!?」
「あらこれは失礼。で、本当のところはどうなん?」
「……すまない。付き合っているわけではないんだすまない」
「事実とは言え悲しいので全力でブッ飛ばします。本気モードで」
「せめて練習モードにしていただきたいッ」
なお、アリスちゃんが本気で戦うかどうかではなく、PVPの機能のことである。
本気モードならHP全部削るまで続けて、やられたらリスポーン地点に戻される。
練習モードならHPがなくなってもその場に残る。まあ、大抵のプレイヤーは練習モードでやっているみたいだけどね。本気モードは緊張感を味わいたい人向けだ。
「もっとも、たとえ練習モードだとしても本気で消し飛ばすつもりだったんだろうけど」
「システムを越えた挙動、ワクワクします」
「ドキドキしかしないんすけど、悪い意味で」
「ではいきます――この、ウクレレの音色を聞くといいです!」
アリスちゃんがウクレレを弾き始める。
えっと、この曲は……っていうか音色ギターじゃないかなコレ? しかもエレキ。
なんといえばいいのかわからないが、動画サイトなら処刑用BGMとかタグがつきそうな音楽を奏でていた。しかもセルフコーラス付きで。
「流石にヤバそうなので止めるっす――って速い!?」
「ロポンギーさん、解説」
「音楽はさっき言った通り、【演奏家】のスキルですね。楽器を用いて演奏をするとバフをかけることが出来るんです。曲ごとに様々な効果があって、スキルの種類だけならトップじゃないですかね」
スキル名は『演奏』なんだけど、その中ですさまじいほどに細分化されている。
組み合わせ次第で色々な効果を生むから奥が深いんだけど、覚えきれないから僕は使うつもりない。
「奥義は隙がでかいから使わないのかな。
あと、高速移動はバトルブーツで炎魔法の『ヒートブラスター』ですね。これは結構広まっているから知っていると思いますけど」
「低レベルでも覚えられるのに、高火力なんよねアレ。ただ、自分が後ろに飛んでいきそうになるんが厄介で」
「その飛んでいくのを利用して、ジェット移動しているんですよね。まあ、あそこまで細かい制御ができるのはアリスちゃんとどこかの怪盗ぐらいでしょうけど」
前はナックルとバトルブーツで完全に体術主体だったアリスちゃんだが、エルダー(海)戦からは足技主体に変わった。
魔法スキルは元々使っていたのだが、やはり近接攻撃用の武器で魔法を使うと自由度が下がるらしい。そこで、楽器を魔法スキルの発動に役立つ性能で作った。
「そういえば【クラフター】にも転職していたからなぁ」
「あの楽器自作なんやね」
「ブーツは僕と我が村の鍛冶師で作った物なんですけどね」
これでもかと色々素材をつぎ込んだやつ。
おかげでアホみたいな性能になっている。防御力とクリティカル率が下がる代わりに攻撃性能がすさまじく高い。あと、炎魔法の消費MP削減。
これも一つ解説しておくが、消費MP削減のような特殊効果は装備していれば発動するが、物理も魔法も、攻撃力は発動した武器のみを参照する。
例えばアリスちゃんが楽器を使って魔法攻撃を行った場合、ブーツの効果で炎魔法に使うMPは少なくなる。しかし、攻撃力は楽器の方を参照する。
もちろんブーツで発動すれば、ブーツの攻撃力を参照する。このあたり、事前にスキルを登録しておく必要があるのでややこしい作業なんだけどね。登録の際は好きな単語や動作をキーに設定できるから十人十色である。
「アリスちゃんは小声でキーを言っているから足の動きがジェット移動の発動のための動作になっているんだよね。
すごいのは急激なスピードの変化についていける反射能力かな」
「あかんなぁ、マンドリルはんやと役不足――は誤用やから力不足やな」
もう必死に攻撃をかわしているだけのマンドリルさん。
僕、【漁師】のスキル知らないんだけどどういったものなのだろうか?
「まあ簡単に言えば【釣り人】の上位互換やね。筋力値がより高くて、耐久力も高くなるんよ。まあ、上位職なんやろうけど……転職のためのクエストが面倒なんよね」
「へぇ、ちなみにどんな感じで?」
「漁船に乗せられて遠洋漁業に連れ出されてしばらく帰ってこれない感じやね」
「うわぁ……」
強制拘束とかキツイなぁ。
「装備はそのまま釣り竿を使っておったはずやけど――鞭スキルが使えるのになんでつかわんのか」
「使ってるんだよ当たらないんだよ! なんでこんなに動きがすばやいんすかね!?」
「遅い、遅すぎるです。これは奥義を使うまでもないですね」
「あまり年上をなめてかかるんじゃないっすよッ」
マンドリルさんがそう言うと、腰に折りたたまれていた何か――最初はヌンチャクかなとも思ったが、先端に突き刺す部分がある。
アレは、折り畳み式の銛か?
「ロポンギーはん、正解。マンドリルはんの基本スタイルでな、ああやって折り畳み式の武器を持ち替える戦い方をするんよ」
「インベントリいちいち開いていられないからか。確かに、戦闘中でも武器の持ち替えが楽だな」
使っているのは釣り竿と銛だけど。
やっぱり、スキル的には槍の分類なのだろうか?
「まあ、見た通り槍スキルやね。あと、魔法」
「……でも、【ビーチファイターズ】で散々サハギン狩りまくっていたから銛なんてむしろ見慣れているんだけど」
「しまった!?」
マンドリルさんは絶望の表情を浮かべた。これはヤバいと距離をとろうとするが、それは悪手である。
「残念ながら、アリスからは逃げられないのです」
「うわあああああ!?」
「ていやー!」
絶望的な一言を告げて、アリスちゃんがマンドリルさんの背後に出現した。いや、高速で移動したのだが、あまりにも速すぎたのだ。
ウクレレをかき鳴らしながらアリスちゃんが高速回転する。足から炎を噴射し、コマのようにグルグルと回りながらマンドリルさんのHPを削っていく。
「きょ、今日こそは決着をつけるつもりだったのにッ」
「アリスはケチャラーじゃないです!」
「決着だ決着!」
「アリスは【踊り子】じゃないです!」
「ケチャじゃねぇよ決着だよ!」
「そうニャ! 【踊り子】はこのアタイニャ!」
「誰だよアンタ」
いつの間にかあるたんさんが僕の背後にいた。
というかみんな背後とるの好きだね……先ほどのポポさんもやっていたし。
「途中からみていたのニャ。あと、もう決着はついているのに何であんニャこと言っているニャ?」
「自分が勝つまでは認めないんよ、彼」
「うわぁ……アリスちゃん、一思いに消し飛ばしてあげて」
「了解です」
「ノオオオオオ!?」
最後、ウクレレを振りかぶってフルスイングでマンドリルさんを消し飛ばしたアリスちゃんであった。
見たことある挙動だし、たぶんハンマーのスキルだなアレ。ライオン丸さんが使っていたのと同じヤツ。
「ふぅ。スッキリしたです」
「お疲れ様」
「討伐、おめでとうやね」
「扱いヒドイニャ」
「どうせまた挑むんで、その時はお願いします」
「うへぇ……アリス、あの人苦手です」
「へこたれないのは良いことなのか、悪いことなのか」
「この場合、悩みどころニャ」
「いっそのことワザと負けたほうがいいです?」
「そんなことしたらウザくなりますんよ、彼」
「目をつけられた時点でこうなるさだめだったか」
「……中二病?」
「ち、ちがわい!」
ただのリアル中二である。
だからその生暖かい目をやめてほしい。