古代兵器の所有者たち
なぜこうなったのか。そう思わなくもない日々である。
例の幽霊ボスの出てくる島でザコ狩りして奉納ポイントを集めておみくじ券を手に入れたのはいいが、結局手に入ったのはいいところ古代兵器のパーツぐらいだった。
先に手に入れた古代兵器をある程度修復できた(もともと持っていた素材を次の段階の修復で使えた)のだが、これがなかなか使えそうな武器なので、今後使おうと思っている次第である。
「そもそも今までの古代兵器ってプレイスタイルに合わなかったからなぁ」
前提として、古代兵器は性能に関わらずレア度は最高の星5だ。
最初に手に入れた【古代のナギナタ】だが、後々手に入った古代兵器と比較しても弱い。起動時間が短い上に特殊効果がない。ただ、強力な切断属性を持っているぐらいなのだ。切断攻撃で部位破壊できる敵がいれば使いようはあったかもしれな――クラーケンに使えば良かったじゃねぇかよッ!
「今更気が付いても遅いんだけどッ」
絶対あの触手、切断攻撃効いたぞ。
もう【わだつみのしずく】があっても挑戦できないし……【クラーケンの思い出】が手に入るようになったらやってみよう。そもそもまだ修復しきっていないから持って行っても切れたかわからないし。
まあ過ぎたことは仕方がないので、別の古代兵器についてだ。
エルダー(海)の時に手に入れた【古代のアックス】だ。これも要求素材エグイ……っていうか見たことないような感じだったからまだ修復途中だけど。
効果は起動中に攻撃を当てると敵の防御力ダウン。しかも耐性持ちだろうが関係ない。というか、古代兵器の特殊効果は耐性無視するものばかりなのだ。奥義スキルみたいに派手ではないが、強力な効果や性能を持つ武器というコンセプトなのだろう。
で、【古代のナイフ】というものもある。
まあ【サマーファイターズ】で入手したやつ……というかポイントを稼げていたプレイヤーなら大体持っているだろう。ポイント交換品だし、修復素材もここで手に入ったし。なお、専用素材であったので他の古代兵器の修復には使えない。
効果は起動中の攻撃が必ずクリティカルになる。地味だがかなり強力だ。しかも、起動していればいいので他の武器を使っても発動する。
これがあるから、みょーんさんが装備枠に入れていたんだよなぁ……
これに関しては修復済みで【古代のナイフ・真】になっている。
そして最後に今回手に入れた【古代のガントレット】だ。
見た目は右手に装着されるガントレットで、肘まで覆う結構大きいものだ。修復していくと、光るラインが現れて見た目的にも気に入っている。
効果は、巨大化した拳を放つことが出来るというものだ。先ほどの派手ではないというのは訂正しよう。十分派手だ。
特殊効果も存在していて、強制ノックバックを発生させるというものだ。古代兵器の特殊効果は耐性無視する、つまりレイドボスみたいな巨大な相手でもノックバックするのだ。
「夢が広がる」
胸がわくわくする。
いずれ来るリベンジの日に向けて、装備の方向性も見えてきた。
そんなテンションの上がる中、ふと他の街はどんな飾りつけをされているのか気になった――だれか誘うのもいいが、その時の僕の気分は一人でフラっと適当なところに行ってみようという気分だったわけである。
……やめておけば良かったのに。
@@@
選んだのは帝国領の街、マップを開くと【はじまりの街・レンガル・会場1】と表示されていた。
多くのプレイヤーでにぎわっており、街の飾りつけも――なんか赤い。というか、トマトみたいなもので飾り付けられている。
NPCと思しき方々――名前表示をオンにすると、NPCだった――もトマトばかり売っている。
「さ、流石に街中でトマトは投げ合っていないんだな」
「まあ、それはそれでアリだと思うがね」
「うおっ!?」
突然話しかけられたので驚いたら、後ろにシャーロックホームズのような格好をした男が立っていた。以前より装備が強力になっているようで、所々にあった革の質感が良いものになっている気がした。
「ポポさん、驚かさないでくださいよ」
「すまないね。吾輩も君がいるのをみて驚いていたもので……ここ最近は吾輩にも予想できないあれやこれやが多いようで実に面白いよ」
「こっちは大変なことばかりだけどね」
「ところで――いつまで水着でいるつもりなんだい?」
「……」
そう、今の今まで触れられていなかったが、僕の格好は水着にマフラーのままである。足もビーチサンダルだし、頭防具もバンダナと見た目的には軽装を越えた防御力捨てたのかと言われかねない装備だった。
「あれなんすよ……エルダー(海)を狩りまくっていたせいか、素材が大量にあって…………イベント中だし、水着とか組み合わせに良さそうな装備を強化していたらいつの間にやらこれが一番強くなっていて」
アリスちゃん、ライオン丸さん、めっちゃ色々さんも同様の理由で水着のままだった。
それぞれプレイヤーたちの目を引いていることだろう。アリスちゃんはまあ、普通の水着だし、カワイイので目を引くわけだが――ライオン丸さんもネタ枠だが、一昔前の水着ってだけだしそのうち気にされなくなるだろう。
問題はサメの着ぐるみを着た男である。ついに水辺での能力アップが無くても普通に強くなってしまったのでもう引き返せないかもしれない。
「まあ、ネトゲなどそういうものか。イベント期間のせいで妙な見た目の装備が強くなってしまうなどよくあることだよ」
「それもそうなんですけどねぇ」
「気に入らなかったらアバターでも使えばいいさ」
「持っていなくはないけど、いいものがないので」
今まで手に入れたガチャチケで手に入れたのがいくつかあるが、どれもパッとしないので倉庫につっこんである。おみくじ券で手に入れたガチャチケもあるが、そちらは今のラインナップ的に回す気がない。
「ならしばらくはそのままか――しかし、その右腕のはおみくじ券のランナップにあった古代兵器かい?」
「はい。効果は巨大化した腕の一撃と、強制ノックバックです」
「ほう。だが、そんなにあっさり教えていいのかな?」
「どうせ出回る情報ですので」
現実で貰える商品はともかく、ゲーム内のアイテムなら個数制限ないし。そのうち他の誰かが手に入れるから効果も知れ渡る――っていうか、PVPがあまり盛んでないこのゲームで知られたところでって感じだが。
システム上PVPはできるし、フレンドリーファイアを利用したPKもできる。できるが……PVPシステムを使わずにPKした場合、経験値下がるしドロップもないので旨味など全くない。
大会後もPVPはコンテンツとしてあまり定着しなかったので、その方面はにぎわっていないのが現状だった。人を攻撃するってのも後味悪いし。
「ふと気になったんですけど、このゲームにPKっているんですか」
「プレイヤーキラー……意図的にそういった行為をするプレイヤーは、それほど多くはない。
経験値減少のペナルティは知っていると思うが、そもそもフレンドリーファイア自体あまり発生しないからね。延焼ダメージや爆発ダメージは有名だが」
「…………(売り物に危険物大量に置いちゃったけど、どうしよう)」
「モンスターを利用したPK行為も難しい。そもそもプレイヤーを執拗に追いかけるモンスターは少ないし、モンスターを引き連れるトレイン行為も発生し難く調整されている。
追いかけてきたとしても逃げ切れるのは一部のプレイヤーだけだろう。それほどのスキルがあるプレイヤーなら自分で戦った方が早いだろうからね。
PKを趣味にしたプレイヤーでもない限りはこのゲームでそういったことはしていないさ」
逆に言えば、そういう趣味の人はやっているということか。一応気を付けておこう。こう、危険物を流出させた責任者の一人として。
「――あれ?」
そこで、ポポさんの腰に懐中時計のようなものがくっ付いているのに気が付いた。どこかで見たような、石のような質感に光るラインが入った独特なデザインをしたものだが……自分の右手に目が行く。
ちょうど、このガントレットが同じような質感だ。
「って、その懐中時計古代兵器なんですか?」
「おお、気が付いてくれたか。古代兵器を実際に使っているプレイヤーは少なくてね。中々気にも留められないんだよ」
「まあ、多くのプレイヤーはナイフだけしか持っていないでしょうし」
「そもそも出回っている数が少ないからね。入手法がハッキリしているモノも数えるほどだ」
あちらの彼女が持っている銃なんか、クエスト発生条件が不明なため他に持っている人はいないと、ポポさんは喫茶店のような場所を指さした。
そこにいたのは相変わらず見た目だけは深窓の令嬢――いわゆる童貞を殺す服を着ている――のニー子さん。それに、前に釣り対決をしたマンドリルさん。あと、もう一人は……よく知らない。着物を着ているが、夏祭りに合わせたものじゃなくて、花魁とか舞妓さんとかそんな感じだ。
「ニー子君とマンドリル君には会ったことがあるんだよね、もう一人はど・ドリア君。吾輩のフレンドの一人だ。この間のクラーケン戦にもいたから見たことはあると思うが」
「あー、ハリセンで叩いていた人か」
あの時は水着だったから印象が違ったのか。
まあかかわり自体はほとんどないけど。
「って、それで思い出したんですけど……なんでクラーケン戦でもその恰好だったんですか」
「簡単なことだよ――水着より、この格好の方がDPSが高くなるから、最終的なポイント効率がいい」
「そんなみもふたもない」
「効率こそ真実だ」
「嫌な真実だなぁ……で、誰が古代兵器の銃を持っているんですかね」
「それはニー子君だね。我々のような防具やアクセサリー型と違って武器型の古代兵器は腰に収納形態で装着されるからわかりにくいが」
「そういえばそうか……普段ほとんど使わないから忘れていたわ」
確かにニー子さんの腰に手のひらに収まるくらいの小さな箱がくっ付いていた。修復したナギナタを装備したときにも、あんな感じで装着されたのを思い出す。
しかし、なんか豪華な感じの装飾がついているような?
「アレは完全修復済みだからね。しかも現在判明している古代兵器の中じゃ最も手に入りにくいモノだろう。故に、明らかに格上な感じになっている」
「なるほど……というか完全修復どうやった」
「大陸の方にある古代遺跡ダンジョンを攻略したんだろうね――鉱山内のアレは彼女でも流石に無理だったようだが」
「いつの間に挑戦していたのか」
「吾輩も銀色のライオンにフルボッコにされたよ」
「ああ、ポポさんもアレに遭遇したんですか」
アレ強すぎますよね。なお、ポポさんもニー子さんもレベルがカンストしている。それでも倒せないのかよアレ。獅子王さん強すぎるって。
そんな感じの雑談をしながら、喫茶店にいる三人に近づく。
談笑しているのかと思ったけど、どうやら言い争いをしているらしい。
「テメェ、【釣り人】の何がネタ職だ! 旅人も十分ネタ職だろうがよ」
「わからないのかい? 【旅人】は全てのプレイヤーが通る道だ。だが、【釣り人】は完全に趣味の世界なんだぞ」
「それでレベルカンストまで持っていったお前は十分ネタ職だ!」
「どっちもどっちですわぁ」
「予想以上にくだらない話している」
「まったく……五十歩百歩という言葉をしらないのかね」
本当にくだらない話だった。冗談で言い合うぐらいならいいが、なんでそんなことを大真面目に言い争っているんだこの人たちは。
「そもそも旅人でレベルカンストってどんなプレイ時間なんだよ」
「それは吾輩も思っていた。ニー子君、たまには休まないと体に毒だよ?」
「探偵のポポさんや、アンタに言われたくないんだよなぁ。オレと同じくらいのログイン時間だろうが」
「ホントどっちもどっちなんよなぁ」
「うわぁ……」
「そもそもレベルカンストしている連中って現段階だとよほどの廃人なんよ」
「40越えたあたりから要求経験値多くなっているのに」
というか、今僕の周りにはネタ職ばかりなんだが。
「しれっと自分を除外していないかい?」
「今はレベル上げで【サモナー】にしているんで」
「……くっ、装備がスコップのままだからてっきり【村長】か【炭鉱夫】なのだと思ったが、吾輩もまだまだだな」
まあ【サモナー】は特にこれといった武器があるわけじゃないので。しいて言うなら、杖の方が色々とスキルを活かせるかもしれないといったところか。
スコップで代用可能だったから別に必要ないけど。
「そっちはそっちで何をしておるんかね」
「ただの与太話さ」
「まあ、中身はないかなー」
「あらそうなん……で、この二人止めてくれへん?」
「「無理」」
その後、10分ぐらいマンドリルさんとニー子さんはくだらないことを言い争っていたのだった。