ふざけた神話
4章開幕&今回も色々とふざけています。
いよいよ【BFO音頭で踊ろう!】が明日から始まる。
アリスちゃんたちも前日ということで最終確認で集まったのだが、すでに飾りつけは終わっているし、出店する予定のアイテムや在庫の確認などをしていた。
他のプレイヤーたちもやってくるので、各々が露店システムを利用しての出品を行っているのだ。露店自体はイベント用に【サマーファイターズ】でポイント交換しておいた。これも村の飾りつけと同じくイベント用のアイテムで、いくつか数を確保してある。
僕も今回は色々出品するのでここ数日は色々と作っていた。
「アリスは海に潜ってとってきた真珠とかの素材を売りますけど、お兄ちゃんは何を売るんです?」
「食べ物系(能力ブーストアイテム)と、お面屋」
あと、ミニゲームで射的も出している。
もっともミニゲーム系は運営に申請して出店してもらっているようなものなのだが。
今回のイベントにおいて、僕たちのヒルズ村ではオーソドックスな縁日のイメージで村を飾り付けている。
屋台を配置してそれっぽい感じにし、村の中央の広場にはやぐらを立ててある。円形の広場なので、ここで踊るわけだが…………
「妙な歌詞だったよなぁ、BFO音頭」
「……叔父さん、なんで止めなかったです」
「もう君、隠さなくなったね」
やっぱり運営か開発にいるんだな。
まあ直接なにか便宜を図ってもらっているわけじゃないし、アリスちゃんもゲーム内で何か優遇してもらっているわけじゃないから別に大丈夫か。聞いている知識も小ネタが精々だし。
「……小ネタかぁ、アリスちゃんは他に何か知っているの?」
聞くのはやめようかなと思っていたが、気になるとどうしても聞いてしまう。
まあここ最近であまり深い所につっこんだネタは出てこないだろうし、前に聞いた開発者の一人にクラシック好きがいてBGMに使っている、などのレベルだろう。
そう思って聞いてしまったのがいけなかったんだ。
「アリスもそこまで詳しく聞いていませんです……うーん、とくには――あ、叔父さんから聞いたわけじゃないんですけど、一つ気になっていたことがあるです」
「へぇ、どんな?」
「教会に飾ってある神様の像、アリスのお父さんとお母さん、あとお父さんの幼馴染さんにそっくりなんです」
「…………へ、へぇ」
お、おおう……その話か。
それはできればスルーしたいんだが……いや、いい機会だ。一度聞いておこう。
場所をヒルズ村の教会に移して、アリスちゃんと神様の像を眺めながら話をはじめた。
「えっと、見た目も似ているの?」
「そうです」
「お父さん……大分ムキムキなんだな」
男神メルク。柔和な雰囲気でムキムキな神様。ストーリークエスト関連はほとんどやっていないから詳しいことは全然しらないが、優柔不断なんだけっか……
「お父さんも、お母さんと結婚するまで――いえ、確か付き合うようになるまででしたっけ? 色々と決めきれなくて周りがアレコレ大変だったって叔父さんが言っていましたです」
「…………叔父さん、そのあたり詳しいんだ」
そっか……開発に関わっているであろう叔父さんが詳しくて、神様の像がアリスのご両親たちにそっくりと。
「じゃあ、お母さんは?」
「この女神アマテにそっくりですね」
「ゆるふわな人なのか」
嫉妬深いらしいが。あと、一部がとてもふくよかである。
アリスちゃん、将来は有望であった。桃子さんが暴走しないか心配だ。
「それで、女神ディーネがお父さんの幼馴染にそっくりと?」
「はい。お父さん、勉強しろ勉強しろって缶詰にされて大変だったって言っていましたです」
「なるほど、管理したがり――完全にモデルにしているんじゃねぇかよ」
「そう、なんですかね……でも別にお父さん浮気とかしていないんですけど」
「昔は二股していたとか」
「あのお父さんがそんなことするわけないです! それに、そんなことしたら……お母さんがどうするか」
アリスちゃんはガクブルと震えていた。顔が、アスキーアートみたいな――ってこの子もデフォルメパック使っているのかよ。
「なぜ君もネタに走るのか」
「あー、それ楽しいですのに」
「わかるが」
「うー……あ、でも叔父さんの話だと、昔はもっと大変なことになっていたそうですので、幼馴染の人だけが祭られているのはおかしいんですけど」
「そっかぁ、他にもいるのかぁ…………もうこの際だから、詳しいこと聞きに行こう」
「誰にですか?」
「ほら、適任者がいるじゃん」
@@@
「よくぞ参られた、若者よ。どのようなご用件で?」
「あなたは大司祭!?」
「まあ、神話について尋ねるならここかなぁって」
ファストトラベルで飛んできたのは大聖堂。というかそもそもファストトラベルできるのはここだけなんだけどね。
NPCについてあまりかかわっていないが、クエストを受けるほかに会話することで様々な情報を聞ける。まあ、NPC一人が所有する情報はそんなに多くないんだが。
「神話について教えてくださいな」
「ほう、いまどき珍しい、敬虔な若者ですな」
「え、アリスたち信者扱いなんです?」
「プレイヤーみんな信者扱いだよ。このゲームこれしか宗教ないし」
今後、他の大陸が追加されれば変わるかもしれないが、今のところこの宗教だけ――そういえば宗教の名前知らないや。
「では語りましょう、我らがシュランバ教の神話を!」
「え、そんな名前なの!?」
修羅場だよね、それ。
「では語らせていただきます――これは神々の話の一節、『愛のカタチ』です」
@@@
神々も我々のように、幼い日々を過ごし、様々なことを学び、成長していきました。
これはそんな日々の一節です。
メルク様とディーナ様は共に育ちました。
若く猛々しいメルク様と、それをディーナ様が支え彼の力をより効率よく振るうための手助けをしていました。
しかし、それを窮屈に感じたメルク様はディーナ様が目を離したすきに彼女の元から離れ、地上へ降り立ちました。そこで、人々をまとめ上げていた女神アマテ様と出会うのです。
最初は衝突を繰り返し、周りの者を巻き込んでおりました。しかし、やがてメルク様とアマテ様の間には愛にも似た奇妙な思いを抱く様になっていたのです。
そんなある時、メルク様をディーナ様が見つけたのです。彼は私が面倒を見ているのです。貴女の出る幕ではないとアマテ様から引き離します。
それにより、アマテ様は自分の知られざる内面を知ったのです。
豊穣の女神として人々をまとめ上げ、引っ張っていく彼女のもう一つの姿。嫉妬深い女神の姿です。
ディーナ様はメルク様を鎖でつなぎ、彼を自分の世界に閉じ込めようとしたのです。そんな時、アマテ様がやってきてメルク様をさらっていきました。
その様子に激昂したディーナ様。彼を追いかける道中、知り合いの神々にも声をかけました。
メルク様の親しき友「モーホ」、ディーナ様の妹「ロディテ」、神々に教えを授けたと伝えられる女神「ティーチ」、メルク様と共に学んだ女神「リノセキ」、アマテ様の弟である「オジ」を加えてメルク様たちを追いかけます。
追いかけるさなか、人々を巻き込み、ぶつかり合いの中文明を授けます。それにより、神の力を得た人々が神々の争いの代理人としてぶつかり合い、その中で各々が国を作り上げていきました。
混沌とする中、なぜ我々のせいで人々が争うのだとメルク様が嘆きました。その様子を見たモーホ様が近づいてこういいます。「俺と、共に来てくれ」
目が血走り、メルク様を越える力を持っていたモーホ様は彼を暴れないように取り押さえます。内に秘めた思いを隠せなくなったモーホ様。その状況に一手を打ったのはロディテ様です。
鬼の形相で一言「メルク様は渡しません」。そうして、幾重にも複雑に絡んだ状況、そこに待ったをかけたのはティーチ様でした。「おいしく育ったのだから、私がいただきます」その一言にリノセキ様がティーチ様を取り押さえ、「逃げてぇ!」と叫び、メルク様はどうしてこうなったのだと嘆きます。
逃げた先にいたのはオジ様でした。
「おお、答えてくれオジよ! 僕はどうすればよかったのだ? 神々は僕をめぐって争い、人々はそのせいで混沌の真っただ中にいる。僕のせいでこうなったというのに、僕には解決できないのだ」
「そんなことはない。これは貴方にしか解決できないことなのだ!」
「ならば! どうすればいいというのか」
「簡単なことである。自分の心に向き合うのです。己が共にいたいと願う者が誰なのか、告げればいいのです」
「しかし、僕はそれを告げたことで更なる混沌が始まるのが怖いのだ」
「今の状況よりはマシであろう」
「それもそうなのだが、僕が怖いのだ!」
「この優柔不断が!」
こうして、二人の殴り合いの末にメルク様はアマテ様と結ばれました。いえ、本当はもう既に結ばれてはいたのです。ディーナ様の起こした行動が彼を引くに引けないところまで歩ませたのです。
結ばれしのちも、ディーナ様は幼馴染として彼に近づいています。アマテ様とは何度も衝突し、やがて友情のような奇妙な思いが芽生えました。
しかし、そんな中で他の神々はメルク様とアマテ様が結ばれたことに納得できず、戦争を起こすこととなります。
アホらしいとオジ様だけは蚊帳の外から眺め、後の世に神話を残したと伝わっています。
何故結ばれた夫婦だけではなく、ディーナ様も一緒に像を祭っているのか、我々の聖書には彼の言葉でこう残されています。
愛のカタチは一つではない、と。
@@@
「一説によると、ディーナ様は二人の仲を認め、幼馴染として彼らが仲睦まじくしているかを見守っていると伝わっています」
「色々と舐めてんのか」
「お、お兄ちゃん! 落ち着いてください!」
「色々ふざけすぎだろこの神話!」
大司祭を殴ろうとする僕をアリスちゃんが必死に抑え込んでいる。
っていうか神話なの? え、なに? 酔っぱらった勢いで書いた作文とかじゃなくて?
「いや、ほんとやめてください! 所々お父さんとお母さんの昔話にそっくりなんでアリスも辛いんです」
「……やっぱりモデルにしているんじゃねぇか! オジってアリスの叔父さんなんだろそうなんだろ!」
「――た、たしかにお母さんと付き合う決心を決めたのは、叔父さんと夕日の沈む河原でなぐり合ったからって聞いていますけど」
なに? その昔の漫画みたいなの。
それで友情が芽生えて――とかそんな展開だったに違いない。
「神様の名前だって結構適当につけているだろ! あらためて言うけどオジとか叔父さんなんだろ? 叔父さんアリスちゃんのこと大好きなの? ねえ」
「たしかに、パソコンもVR機器も叔父さんに貰ったものですけど」
「数十万分ポンと出している時点で大好きだね!」
そして相当ふざけた人物であることがうかがえる。
アリスちゃんの両親のなれそめ話が面白いからって色々脚色して使ったんだろう。
「神話とアリスちゃんの知っている話、どのあたりが似ているかわかる?」
「えっと、人々をまとめ上げているってところ。お母さんは生徒会長をやっていたって言っていました」
出会ったのは高校だから、その時の話が元だと思いますとのこと。
あと、幼馴染の手から逃れてって部分はアリスちゃんのお父さんがその幼馴染さんより少しランクの低い高校へ行ったことではないか、と。
「他にもたぶんあの事かなぁって話がちらほらと。ただ、あとアリスが知っているのは幼馴染さんの妹さんと、リノセキの元になった人です」
「…………ヤバそうな二人は知らないのか」
神話の関係性がそのまま同じなら、親友(男)と教師……どっちも色々な意味でヤバいんだが。
「です……たぶん、リノセキってお父さんの同級生ですね。お母さんも色々あったって言っていましたし、今も時々遊びにくるですよ――あ、BFOの主題歌歌っている人です!」
「え、マジで」
あの海外活動もしている、人気歌手?
どういう経緯でそうなったのか、今も親交があるとはいえ過去に何があったのか気になるんだが……この流れ、アリスちゃんのお父さんを中心とした関係性だよな。
「BFOの主題歌って……あの美人歌手だよね? 本当に?」
「はい! この前もCD貰いました」
「…………アリスちゃんのお父さん、どんなラブコメ主人公だったんだろうか」
ちなみに、どういったエピソードが元になっているのかとかもあります。
あ、流石にアリスの両親周りの人々は犯罪行動を起こしていませんよ。
流石にこの話を投げっぱなしで終わらせられないので、次回は他のプレイヤーから見た神話についてかなぁ