わだつみの――
アリスがなんでレイドボスを一人で倒しに行ったのか?
今回の前フリ。
誤字報告等ありがとうございます。
前回、二回りのところ修正前に読んだ方、一回り以上でした。
皆さま、イベントは楽しんでいますか?
運営スタッフもアイテムの交換状況や、モンスター討伐数などのデータは逐一確認しております。
今回得られたデータは、今後のアップデートに役立てますので、引き続きボトムフラッシュオンラインをよろしくお願いいたします。
さて、【BFOサマーフェスティバル!】前半イベント【ビーチファイターズ】もいよいよ残り10日間となりました。
そこで皆様にお知らせです。交換アイテムの一つ、【わだつみのしずく】の使用を解禁いたします。
こちら、特殊テレポートアイテムとなっておりまして、使われますとゲーム内最北の島、『浮島・ヒョウ』へと移動できます。
島の石碑に触れることでレイドバトルが開始され、レイドボス『クラーケン』との戦闘となります。
今回リスポーンは不可となっております。また、戦闘開始時に『浮島・ヒョウ』内にいるプレイヤー全員がインスタンスフィールドへ移動しての戦闘となります。
フレンドたちとご相談の上、人数を集めるもよし。ふらっと参加してみて、同じ時間に集った人で挑んでみるもよし。渾身の巨大モンスターとの戦闘をお楽しみください。
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メニュー画面から見ていた公式のブログを閉じ、みんなの方へ向き直る。
「で、どうする?」
今日も今日とて村に集まって相談中。【BFO音頭で踊ろう!】のための飾りつけとかは集め終わったから各々好きなようにやっているんだけど、クラーケンの情報が公式から発表されたことで自然と全員が集まったのだ。
参加するのに必要な【わだつみのしずく】だが、決して少なくないポイント数だ。べらぼうに高いわけでもないし、別に払っても構わないが――ベヒーモス戦のことを考えると尻込みしてしまう。
「挑んだとして、勝てるかわからないとねぇ……今回もどうせ強いんでしょ」
「かなりデカいようじゃからな。触手確定じゃし」
「もうそこはどうでもいいんだけどね」
「そうねぇ……私も戦ってみたいけど、わざわざポイント無駄にするよりかは別のアイテム手に入れた方がいいかなー」
ディントンさんの言葉に、消極的な空気が広がる。
実際、僕も流石にスルーしておこうかなという気持ちだった。倒せればポイント大量獲得のチャンスだし、もしかしたらランキング報酬も狙えるかもしれない。
ランキング上位に入るような人は倒しに行っているだろうから、倒せたところでランキングには入らないかもしれないが。
「今回は見送り、ということでいいですかね?」
「そうね、それが良いと思うわ」
「――待ってください」
そこで、アリスちゃんが声をかけた。
何か、大きな経験をしたのかいつもより大きく見える。
「別に失敗してもいいじゃないですか。ポイントは欲しいですけど、こんなイベントをスルーしちゃうほうがもったいないです」
それに、と続けてメニュー画面を開くと何かアイテムを取り出して、僕たちに見せてきた。
「これ、なんだかわかりますか?」
「――ベヒーモスの素材?」
「たしかに……でも、それをどこで?」
「この間、倒してきたです。その証拠に、アリスの称号もこうなりました
表示をオンにしてみてください」
実は、キャラクター設定で頭上に名前や称号などを表示できる機能があるのだが……アリスちゃんに言われ、僕らはその機能を使った。
書いてあったのは【ジャイアントキリング】の文字。前までは、僕らと同じ【ランナー】だったのだが、いつの間にか新しいものに変えていたのか。
「それ、取得条件はなんじゃ?」
「ソロでのレイドボス討伐です」
「なんじゃと!?」
「え、倒したの――アレを一人で」
「はい。やってやれないことはないです」
「そんな馬鹿な……」
いや、いつか一人で倒してみたいとは言っていたけど……まさか本当に?
「何度かトライしましたけど――それでも、出来ないことはないのです!
これはお祭りなんですよ。楽しんだ方がいいのです!」
「…………そうだよな。楽しんだ方がいいよな」
ここ最近ポイント数を意識し過ぎていたようだ。
根本的に、楽しむということを忘れていた。
「祭りは楽しんでなんぼじゃしな。別にレイドボスの一つや二つ、ダメもとで構わんじゃろ。スルーして戦わない方が確かにもったいないの」
「ですね。やってみますか」
「で、ござるな…………しかし、参加するにしてもこの場の面子だけでござるか?」
「そうでござるよ。流石に少なすぎるでござる」
「いえ、大丈夫じゃないでしょうか」
「確かにアリスちゃん、ベヒーモスをソロで討伐できたのは凄いことだし、この場のプレイヤーたちは一癖も二癖もあるけどサービス開始から遊んでいる連中だから、レベルは高いのよ。この面子だけでもレイドボスを倒せると思えるくらいに。
それでも、レイドボスはなめてかかるべきではないわ」
「いえ、そうではなくてです……」
「そうだな、人を集める必要がある……野良で参加してどれだけ集まるかなわかんないし、どうやってあつめるか」
「そうじゃなぁ…………フレンドをあたってみるか?」
「まあ、一番堅実な手ね」
「あの……そうじゃなくて、レイドボスの強さって――」
「ベヒーモスよりは強いかもな。獅子王ぐらいを想定しておくか?」
「リスポーン禁止だし、出来るだけ数が欲しいわね」
「そうじゃなくてですね…………アリスが言いたいのは」
「拙者たちは和風仲間をあたってみるでござる」
「ロールプレイ仲間は結束強いのでござるよ」
「ワシも工業都市の知り合いに声をかけてみるかの」
「知り合いのネクロマンサーも喜んできてくれますよ。あ、アリスさんはおばけ苦手でしたね」
「――おばけッ!?」
「うーん、僕は知り合いここの面子ぐらいだからなぁ…………よし、いつもの方法でいくか。
決行はいつにする?」
「都合がいい時間帯は――18時ぐらいですかね」
「そうだな。そのあたりか……じゃあ、3日後でどう?」
運のいいことに、3日後の18時なら全員参加可能らしい。
ならば、そこに決まりだな。アリスちゃんはおばけの言葉にまだ震えているが。まあ、大丈夫だろう。
「それでは、参加する人は3日後の18時からってことで」
「では知り合いに声をかけてくるぞー」
ライオン丸さんの言葉を皮切りに、各々が参加者を集めに行きだした。
僕も、参加者を集めないとな。自室で集中して書き込もう。
――この時、アリスちゃんが何を言いたかったのか聞いていれば、何か変わったのだろうか?
「…………ハッ!? しまったです。言い出せなかったです……ボスは、戦っている人の数で強さが変わります。アリスがソロで戦ったら当然HPは低かったです――逆に言えば、人が多いほどHPは増えますし、もしかしたら攻撃力も…………みんな、イキイキしているのに、今更言えないのです。
水を差せないのです……アリスは、どうしたらいいです!?」
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【集え】クラーケン討伐部隊募集【勇者たちよ】
1.黒い村長
やぁ、炭鉱夫から農家に、農家から村長になった僕だよ
今日はみんなにお知らせを持ってきたんだ3日後の18時から、クラーケンと戦う予定なんだ
そこで、我こそはと思うプレイヤー諸君、是非とも参加してほしい
2.名無しの錬金術師
何このスレ
っていうかまーた変なことを始めたのか
3.名無しの釣り人
流石にやめとこうかなぁと思っていたところに
4.名無しの剣士
海の中での戦いになるだろうし、厳しいかなって
5.名無しの魔法使い
もうちょっとレベル上げてからにしたい
6.名無しの重戦士
沈むからヤダ
7.名無しの盗賊
戦ってみたいけど、ポイント無駄に使いたくない
8.黒い村長
たしかに、僕たちも最初はやめようかと思っていたんだ
でもね、ある子に言われたんだ――それじゃあ勿体ないって
9.名無しの剣士
ポイントが?
10.名無しの狩人
たしかにポイントがもったいないが
11.黒い村長
ポイントもそうだけどヽ(`Д´)ノプンプン
そうじゃなくて、せっかくの祭りをスルーしていいのかって話
12.名無しの探偵
たしかに……やるまえから諦めるのもおかしな話だ
13.名無しの盗賊
たしかになぁ……やらない方が後悔するだろうし
14.名無しの重戦士
沈むけど、大丈夫?
15.黒い村長
どんな職業だっていい。レベルが低くても構わない。どんなネタ装備でもいい。
ただ、みんなの力をオラに分けてくれ!
16.名無しの剣士
ったく仕方がないな――いっちょやりますか
17.名無しの狩人
まったく、心に火がついちまったじゃないかよ
18.名無しの盗賊
何このノリ
19.名無しの武闘家
まったく。しょうがないな、俺の力を貸すぜ
20.名無しの探偵
基本的に、お祭り好きの集まりだということだよワトソン君
21.名無しの盗賊
誰だよワトソン
22.名無しの大名
まったくもって、面白そうな話にワイが食いつかないわけないやろ
23.黒い炭鉱夫
思ったより賛同者が多くてうれしい
あらためて言う。けっこうは3日後、18時からだ
そのあたりの時間で【わだつみのしずく】を使用してくれ
なんなら、もっと人を集めてもいい。とにかく、プレイヤーたちの力を結集するのだ!
24.名無しの剣士
よし、知り合いにも声かけてくる
25.名無しのサムライ
流石にクラーケンはやめようかと思ったけど、この流れに乗るぜ
26.名無しの盗賊
ま、知り合いに声をかけてみるけど
27.名無しの忍者
ソロプレイヤーゆえ、諦めておったが……いける、この戦い。我々の勝利だ!
28.名無しの重戦士
素晴らしい! 最強の部隊の誕生だ!
29.名無しの狩人
エルダーで触手が怖くなったけど、これならいける。アチキ、もう何も怖くない!
30.名無しの武闘家
ハッハッハ! クラーケンなど握りつぶしてやる!
31.名無しの怪盗
言っておくが俺は、PVPで優勝しているんだぜ?
32.名無しの旅人
こっちには拳銃があるんだ、負けるはずがない!
33.名無しの演奏家
おしまいです……やっとスレを見つけたと思ったら、こんなことに
もうおしまいですぅううう
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ランダムで徘徊しているフィールドボスを除いたすべてのボスモンスターは戦闘に参加しているプレイヤーの数で強さが変わる。
もちろん、レイドボスもだ……僕たちは忘れていたのだ、人が多ければ多いほどボスが強くなっていくことに。
相応に強いが、ソロで挑んだ場合結構弱体化する。だからこそアリスちゃんがソロクリアできたわけだが――つまり、ほどほどの人数で挑んでおけばいい感じの強さになっていたはずだったものを、僕たちは何を間違ったのか大人数で挑もうとしていた。
その結果、どうなるかは言うまでもないだろう…………今回の物語は僕たちが華麗に勝利する話でも、苦しい中でも勝利をつかみ取る話でもない。
ただただ、蹂躙される話だ。
そう何度もうまくいくわけが無いのである。
というわけで、3章もラストが目前であります。
蹂躙される側となった彼らの阿鼻叫喚をお楽しみください。




