ぷかぷかと漂って
水の中を漂っていると宇宙遊泳ってこんな感じなのだろうかと思う。いや、むしろそっちの方がゲーム内の水の中での感覚を表現するのに適切だな。
三人でダンジョンを突き進むが、魚型の敵も思ったほど強くはないしエルダー(海)から手に入った『チャージビーム』のおかげで遠距離攻撃も楽々である。これ、水の中でも挙動が変わらないから便利だわ。周回したおかげで全員覚えることが出来たし。
「遠距離攻撃、便利じゃの……」
「だよねぇ」
「そのスキル、職業的にはどれに対応なのよ」
「自力じゃ覚えないんですよねー」
「モンスタードロップ限定じゃな」
「そんなのもあったのか……」
威力はそこまで高くないが、使い勝手がいい。無属性魔法によるビーム攻撃で速度も速い。ちょっとタメがいるのが難点だが。
「出てくるモンスターを倒すだけでもポイントは稼げておるが、ボス部屋まで時間がかかりそうじゃの。これはハズレではないじゃろうか?」
「そうねぇ…………失敗したかなぁ」
「他に近くにダンジョンってあったっけ?」
「海底神殿」
「混んでいるところ以外で」
「心当たりはないのう。ここもかなり広いようじゃからな……ルートを覚えても周回は大変じゃぞ。狭いから高速移動も難しいし」
「水中の高速移動って、何を使うつもりよ。炎魔法でのジェット移動は難しいわよ?」
「そんな時こそBBSじゃよ。ほら、この『抜け道を探すスレ』シリーズが役に立つ」
「それ裏技とかバグ技を探している連中のスレでしょうが……あとで修正喰らったり、意図的に使ったらアカウント停止喰らうからやめなさい。
正直、アンタらの使ったボート移動とかもアウトじゃないかと思っているんだけど」
「アレは大丈夫だよ」
「アリス嬢ちゃんが使い続けて何も言われていないんじゃから、反動移動は平気じゃろ」
使いこなすのに技術いるし。
というか、戦闘に使えるようなプレイヤーはほとんどいないだろう。あとは移動に使っている人がいるぐらいだが。
「そもそもマップが広いのに高速移動手段が少なすぎるんじゃ!」
「そうだそうだ!」
「いや、わかるけど…………世界観が世紀末になる前に運営と開発が対応するのに期待するしかないわね。ヒャッハーだらけになってしまうわ」
「モヒカンに肩パッド裸族が増えるのかぁ……胸が熱くなるな」
「いやな世界ねぇ」
そんな感じの話を何度繰り返しただろう。
岩々していた感じの水路が、だんだんとコンクリートのような感じに変わってきていた。人工物的な感じの見た目になっていくのである。これは、もしかするとボス部屋が近いのではないだろうか?
「これきたんじゃないの?」
「そうじゃな。いよいよボス部屋って感じじゃな……ドロップ品が良くなければ周回しないじゃろうが」
「良ければするのね」
「「もちろん」」
この前もそうだったからな。
あの見た目だったから周回するつもりはなかったけど、高効率でポイント排出量が多かったから……物欲には勝てなかったのである。
しかし……もしかしてボス部屋も水でいっぱいなの?
「ここまで狭かったうえに、遠距離攻撃で蹴散らしていたからまともな水中戦闘のやり方がわからないんだが」
「同じく」
「……ああ、はいはい。アタシがメインで動くからアンタらは援護お願いね」
「「了解、姐御」」
「誰が姐御か」
そんなわけでボス部屋の前まで到着――水路が直角に曲がっており、下の方へ落ちていく形だ。ボスの姿は……見えないな。ここは見て対策をとることが出来ないようだ。
「ここまでの敵のレベルってどれぐらいだっけか?」
「ワシらより少し低いくらいじゃな」
「弱点は雷なんだけど……何かスキル使える?」
「エンチャントだけ」
「ワシは覚えておらん」
「近接が難しかったら、『チャージビーム』だけ撃っておきなさい」
「それしかないか。じゃあ、突入!」
「おっしゃぁ!」
下へ下へと落ちていく。水の流れに身を任せ、ゆっくりとボス部屋へと降り立った。
円形のフィールド――じゃない。ここは球体のフィールドだった。壁はなんというか、人工物っぽいがのっぺりとした印象を受ける。たとえるならば……
「何かの入れ物の、内側?」
「そうね。そんな感じよね……水を入れるタンクとか、そんな感じの」
「ボスは見当たらないようじゃが――いや、中央に何かおるぞ」
淡く光る球と、それを取り囲むように紫色のジェル状のナニカが漂っていた。
ブクブクと泡を出し、ジェルの形が変わっていく。光の球を取り囲んでいる部分は薄くなり、残りのジェルは下の方へと伸びていき――人型へと変わっていった。
そして、頭上にはHPバーと名前が……『エルダー(水)』
「またかよ!?」
「今度は古代兵器持っていないんじゃな」
「話には聞いていたけど、確かに不気味な外見ね」
「いや、(海)よりは全然マシ」
「人型スライムじゃからな。怖いとかはとくには……」
そして、奴は僕たちに手のひらを向けるとそこから泡が僕らの方へ――って、緊急回避!
「うぉおお! 絶対魔法攻撃だよねこれ!」
「エルダーってことは弱点属性はないんじゃろ。よし、ガンガン攻撃するぞ!」
「炎は使い勝手悪くなるからそれ以外でねー」
「待って! タモのせいで魔法に弱いの! 紙耐久の上魔法も喰らうとアウトなの!」
「がんばれ!」
「骨は拾ってあげるわよ」
「骨も残らないだろゲームなんだから!」
結構速い泡の魔法をかわし、チャージビームで狙撃する。軟体だから物理攻撃の効果は低そうだからとにかく魔法でダメージを与えていく。スコップとタモの二刀流で交互にチャージして放てるからそこそこ効率が良い。
魔法攻撃力の低いライオン丸さんは時折物理攻撃も交えているが、苦い顔だ。
「見た目通り効果が低いのう」
「撃って撃って撃ちまくるのよ」
「MP持つのかなこれ――――そうだ、ドリルから魔法撃つとどうなるのか試したことなかったな」
「フレンドリーファイアの恐れがあるんだからまた今度にしなさい」
「はーい」
「恐ろしいことを考えやがる」
チャンスがあれば防御貫通の近接攻撃にしておくか。
それか、またカウンター……あれもタイミングがシビアだし、もっと練習してからにしよう。
とりあえずはパターンが変わるまでひたすら攻撃するしかないなぁ。
「…………流れ作業だなこれ」
「言うな。(海)よりは戦いやすいが、飽きそうじゃなこれ」
「どのくらいでパターン変わるの?」
「最初のHPバーがなくなったらじゃな」
「一本目がそろそろ削りきれるから――よし、変わるぞ!」
まるでハッスルのような動きで腕を動かし、顔を前に突きだしてエルダーが咆哮する。いや、音は聞こえないんだけど、まるでそんな感じの動きだ。
光の球が淡く変色し、エルダーの両腕が黒くなった。
そして、手を前に出すと――棘のような形になり、伸びて突き刺そうとしてくる。
「あぶなっ!?」
「ダメージ喰らったんじゃが……む、それほどでもない」
「今度は物理攻撃ね…………タンク、よろしく!」
「はいはい。わかっておりますじゃよ」
「動きはさっきよりも速いな」
壁を蹴り、攻撃をかわす。引き続き魔法攻撃で削っていくが……防御能力自体はそのままか。
一番ダメージ量を稼いでいるのはみょーんさんだな。っていうか火力エグイ。物理防御が低いからライオン丸さんがそこをカバーしている。
「そろそろパターン変化、っていうか形態変化するぞー」
「このエルダー、結構弱いんじゃな」
「楽でいいけどね」
残りHPバーが一本。エルダーの姿が球体へ変化した。やはり、人型から球体に変わるのか。よりスライムっぽくなったな……球体に光が集まり――って、またそのビームかよ。
「『チャージビーム』ならそこまで怖くはないわね」
「みょーんさん、撃ってきたら全力でかわしてね」
「球体エルダーのビームは即死じゃぞ」
「早く言いなさいよ!」
慌ててみょーんさんがかわす。そう、ビームはヘイト値が一番高い人に撃つのだ。つまり、一番ダメージを多く与えていた彼女を狙う。
とりあえず僕はドリルを展開し、構える。
「防御貫通、行きまーす!」
「スタン入れるぞー」
「当たるかと思ったんだけど――あ、念のため魔法準備しておくわね」
ドリルを構え、壁を蹴って奴へぶつかっていく。スキルは槍スキルの『突撃』で。
ライオン丸さんの攻撃で少しだけエルダーの動きが止まり、僕の攻撃がヒットした。だが、それでもまだ倒れない。
「削りきれなかったか」
「大丈夫――雷魔法奥義『ファイナルサンダー』!」
「奥義スキルで決めるとかカッコいいんだけど」
「魅せプレイとか狙っておったな」
「偶然なんだけどー!」
そして、エルダーのHPが消し飛びポリゴン片となって奴の姿が消えた。
リザルト画面とドロップ品が表示されるが…………
「ドロップはどう?」
「セラミックがあるんじゃが」
「…………なんで?」
「壁の材質、じゃないかの」
だとしても詳しい材料はなんだよ。セラミックだとしても色々あるだろうに。
「セラミックはセラミックじゃよ。それ以外の何物でもない」
「ええぇ……僕の方はアクセサリーだな。魔法攻撃力+1の」
「ゴミじゃな」
ハズレひいちゃったよな、コレ。せめて素材の方が使い道あった。特に出なかったけど。
「みょーんさんはどうでした?」
「あーうん……ドロップ品はそれほどでもない。ラストアタックの方も……水着?」
メニュー画面を僕たちに見えるように表示させると、そこに書かれていたのは……【水のドレス】か。種別は上半身防具で、下半身は水着限定。
なおかつ、女性限定か……実際に着てもらわないと見た目がよくわかんないな。
「みょーんさん、着てみれば?」
「いやぁ……これは勇気いるわね」
「水の魔女、って感じでいいんじゃないかの?」
「じゃあとりあえず……あら? 思ったより露出すくないのね」
「ホントだ」
「子供も多いからの。あまり過激にならないようにしておるんじゃろ」
青色のドレスだが……表面が水面のようになっている。なんだろう、ファンタジーな服初めて見たかもしれない。
「効果もいいし、アリね」
「それは良かったの――周回、するか?」
「やめておこう。男性用は互換性能の物が出るだろうけど、手に入れても使うか微妙」
「そうじゃな……ポイントもあまり手に入らんかったし」
「ああ……ホントね。それじゃあ解散で」
ダンジョンを攻略したので、ポータルが出現している。その中に入ると、あっという間に入り口の地底湖前まで戻った。
さてと…………攻略も終わったし、帰るか。
「ボートよし!」
「箒よし!」
「あ、ワタシは素材集めとかもあるからテレポートで失礼するわねー」
そう言うとみょーんさんはキラキラしたエフェクトと共に消えていった……課金アイテムのテレポートストーンか何かだな、アレ。好きな場所からファストトラベル地点に飛べるやつ。
「逃げたか」
「そうじゃな……仕方がない。二人でやるぞ」
「おうよ!」
再びボートで飛翔する僕たち。
こうして、空飛ぶボートの噂はより強固なものとなったのである。




