知らない方がいいこともある
感想、誤字報告ありがとうございます。
地底湖に飛び込むと、体がふわふわと浮くような感覚と共に前へと進んでいく。ダンジョンの入り口まで、自動的に運ばれるようだ。
「体の自由が、利かない!?」
「ワシの体が勝手に動くぅ」
「海底神殿に入る時も似たようなものだったんでしょうに……はい、到着」
「よし、動くぞ。僕の体は僕の物だ」
「データ的には運営の物よ」
「そういう夢も希望もないこと言うー」
「そんなんじゃ結婚できないぞ、姐御」
「もう結婚しているわよ」
みょーんさんはそう言うと、指パッチンを行った。そして、指先から閃光が走り、轟音と共にライオン丸さんが吹き飛ばされた……あまりにも自然な動作で行われたので、一切反応できなかったのだが。
「なんじゃぁ!?」
「最近、転職してね。今のワタシは【祈祷師】よ。ポーション作成と、天候系の魔法に秀でたジョブね」
「へ、へぇ……」
「あと、【魔法使い】の上位職だから引き続き覚えたスキルは使えるわ」
天候系。つまり雷を使ったと…………さらに今までの魔法も使えるのか。
ヒルズ村でまっとうな意味で強いのはこの人なのだ。RPGにおけるまっとう……レベルが高くて、ゲーム内の情報を多く知っている。そういう人は純粋に強い。
正直な話、ヒルズ村の住人は裏技的なやり方をする奴らばかりだからなぁ…………和風コンビも最近ヤバい技開発したらしいし。
「というわけで、女性に失礼なこと言うものじゃないわよ、ヒゲ」
「ふ、深く反省いたします…………この雷、味方にも当たるんじゃな」
一部スキルのみ、フレンドリーファイアが存在するのが、このゲームです。爆発とか、延焼とか。
「あら? 驚かすつもりだっただけなんだけど……味方にも当たるのかこれ」
「っていうか水中なのに狙ったところにピンポイントであたるだけなのか」
まあ、水中でも普通に会話できるし呼吸も問題ないんですけどね。
「でも慣れないと水の中を移動するって大変だな」
「海底神殿への道のりは楽じゃったからなぁ……敵も出んかったからな」
「そういえば、なんで水中で並んでいなかったのかと思っていたのよ――いや、並ばないわね。これ。落ち着かないし」
同じ場所に漂うだけでも結構面倒なのだ。水中は常に漂っているような状態で、じっとしていると勝手に体が流されそうになる。
ダンジョンの待機列を海中に作らなかったのも納得だ。
「そういえば、なんであの海底神殿には空気があったんだろうな。入り口も膜かなにかで水が中に入らないようになっていたし」
「答え、ファンタジーだから」
「……それでいいんかの」
「いいのよ。こういうゲームでそういうところツッコミ入れる方が無粋なんだから。
もちろんそういう設定をちゃんと考えていて、設定資料を出したりするゲームもあるわ。でもね、それって当たり前のことじゃないのよ。一から百まで語る必要なんてない。自分で触れて、想像して、楽しむ。それがRPGってものでしょうが」
「なるほどのう……」
「理由がなければ納得できない、ってのもわかるんだけどねー。でもやっぱり、自分で考えるって大切なことなのよ」
「設定資料とか好きな人も多いんじゃがな」
「それは分かっているわよ。なんならワタシも好きよ――でも色々と知った状態で遊ぶってそれ、ネタバレ喰らった状態で遊んでも面白いのかって話だから。
だから、運営には2年後ぐらいに設定資料出してほしいの」
「結局欲しいんじゃないですか」
「気持ちはわかる。裏設定とか気になってくる頃合いじゃな」
そういうものかなぁ…………まあそもそも、ストーリークエストの類は一切やっていないから設定もなにもあったものじゃないんだけどね。いまだになんでプレイヤーがこの世界で冒険しているのか知らないし。
大陸に行けそうな方法も見つかったことだし、ストーリークエストを進めてみるのもいいかもな……イベント後に。あ、でも大陸側に周回に良さそうな場所があるかもしれないか……アリスちゃんもまだ行っていないし、教会のファストトラベル解放だけでもやっておくべきか? ジェット移動はあの子の方が使い慣れているし。
そういえば、今何をしているのか……あれ? アリスちゃんからメールが来ている。
「どうしたのじゃ?」
「なんか、アリスちゃんからメールが…………侵入者を捕獲しましたって件名だな」
「何よ侵入者って」
「スクショが撮ってある――ぶふっ」
「なんじゃいきなり。なにか面白い写真でも――ぶふっ」
「なによ。なんなの――ぶふっ」
そこに写っていたのは、南国の孤島に住んでいる部族がかぶっているような感じの仮面をかぶったアリスちゃんと、ディントンさんと、よぐそとさんと、桃子さんの四人が何かを囲って踊っている姿だった。
その何か……豚の丸焼きみたいな格好になった、露出度の高い女性プレイヤー(おそらく踊り子の類)が涙目で何か叫んでいるようにも見える。スクショだから何が何やら。
「っていうか、誰が撮ったんだこれ」
「この場にいない色々さんじゃろうな」
「フレンドリストも村人全員ログイン状態だし、間違いないわね」
「っていうかどういう経緯でこんなことに」
@@@
【あの人は今】有名人を語るスレ28【衝撃の事実】
200.カーニバル
アタイは今、例の村に潜入している
もしかしたら明日にはアタイはいなくなっているかもしれない。だが、アタイは諦めない
さあ、暴いてやるぜ(集中線)
201.名無しの剣士
なにしてんですか
202.名無しの錬金術師
たまにこのスレ見に来るけど、よくわからないことになっているなぁ
203.名無しの重戦士
有名人について語り合うスレが、有名人の今日の行動を語るスレになっているからな
あと、松村の目撃情報について
204.名無しの釣り人
松村のことは言うな
それはそれとして、溶岩の中にも魚はいないのかなと釣りにいってみたら、火山の火口で踊っていたのを見かけた
205.名無しの盗賊
どっちも理解できないんだが行動が
206.カーニバル
そんなダンシングマンのことは忘れてダンシングガールであるアタイの話を聞いてほしい
偶然にもアクア王国へ進出したアタイだったが、そこでとんでもないものを見つけちまったんだ
そう、炭鉱夫さんのいる島へ続く橋さ
207.名無しの狩人
とっくに知られているんだよなぁ……イベントポイント稼げるモンスターあまりいないから誰もいかないだけなんだけど
208.名無しの剣士
開始一か月目から遊んでいる連中のほとんどはアクア王国へ行く方法見つけているよ
遠目にあの人たちも確認しているよ……当たり前のように空を飛んでいる女の子を見て近寄らない方がいいと思ったが
209.名無しのサムライ
当たり前のように大砲で移動したりするからね。試してみたけど股がヒュンってなる
210.名無しのネクロマンサー
村側には特に珍しい敵もいないし、鉱山内にも無機物系ばかりだから楽しくない
211.名無しの剣士
そりゃあんたはそうだろうけど
212.カーニバル
そんなことより今、潜入中のアタイの話だ
ピンク色の影が海の方へ飛んでいったのを見計らい、村に潜入する。なにやら水着にマフラーを着た男と、縞々の水着を着たドワーフと、装飾の多い水着を着た女性が話し合っているのが見える
213.名無しの踊り子
ピンク色が桃色の悪魔
水着マフラーが村長(炭鉱夫さん)
ドワーフが鍛冶師
女性はたぶん、魔女さんって呼ばれている人
214.名無しの鍛冶師
例のスレ、もう相談事がないのだろうか
215.名無しの盗賊
村長が変な実況スレやっていたけど
216.名無しの鍛冶師
あの話はするな
217.名無しの重戦士
気持ち悪かったからな、アレ
おかげで周回しに行ける連中はアクア王国に乗り込んだし
218.カーニバル
あんな触手が他にもいるとか……
そんなことより、後をつける――のはさすがにやり過ぎなので彼らが村からいなくなったのを見計らって中に潜入した
どうやら、ファストトラベルでどこかに行ったらしい
219.名無しの祈祷師
村長って、アクア王国以外に目撃情報あったっけ?
220.名無しの探偵
無い
221.名無しの釣り人
探偵がいうなら間違いないな
222.名無しの剣士
じゃあアクア王国に行ったのか……クエストか? それともダンジョン周回?
223.名無しの演奏家
人が集まりだしてから来ていないな。そもそもここ数日はログインしていたのかも怪しいレベル
224.カーニバル
とりあえず村の教会で登録をしておく
見た感じ普通の村。畑にはたくさんの……綿花ばかりなんだが
225.名無しの戦士
シザーウーマンの畑だな
製作プレイヤーの間じゃそこそこ有名
226.名無しの狩人
前にお世話になったことがある
あの人の作る防具、デザイン凝っているし
227.名無しの剣士
デザイン重視って、性能はどうなっているんだ……
228.名無しの狩人
使う素材とかで変動。デザインは自分で色々といじれるけど、性能自体はシステム側で決定される。狙っていけるけどね。水棲系モンスターの素材で水耐性とか
時間かかるし、面倒だからそのあたりいじる人少数だけど
229.カーニバル
なんか、アクア王国の方でボートが飛んでいるんだが……え、なにあれ
230.名無しの武闘家
ちょうど海底神殿に挑もうと待機していたら見えたw
なんだあれw
231.名無しの剣士
怪奇、空を飛ぶボート
232.カーニバル
なんか怖いのでスルーします
村の中を見た感じ……他には変わったところはない
スレ見ていた感じ、変わり者だらけだったから村も変な飾りつけされているのかと思ったら特にそんなことなかった
流石に家の中に入るわけにもいかないので今日はもう帰る
233.名無しの探偵
そもそも人のプライベートを明かすのはよくないからね、そうした方がいいだろう
234.名無しの怪盗
どの口が言ってんだよ
235.名無しの釣り人
あんたが言えたことじゃないだろうが探偵
236.名無しの舞妓
ちょっと、おだまり
237.名無しの探偵
(´・ω・`)
238.カーニバル
緊急事態。ネコミミに見つかった。いや、アタイもネコミミなんだけど
逃げ出そうとした瞬間、ロリ巨乳とサムライとくノ一と、あとメガネかけたエルフが現れた
239.名無しの剣士
勢ぞろい
240.名無しの怪盗
約三名別のところに行っているけどな
241.カーニバル
クールだ。クールになるのだ
アタイはやればできる子。この状況をスマートに切り抜ける方法を見つけ出せるはず
242.名無しの盗賊
やっていることは村を見て回っているだけだったから、別にちょっと気になってとでも言っておけばいいのでは?
243.名無しの剣士
覗いていたようなものだけど、まあそれが正解か
244.カーニバル
アタイはあんたたちの大事なものを盗みました――そう、村長の心です
245.名無しの盗賊
あんた何言っているんだ!?
246.名無しの狩人
音声入力だったのかw
っていうか、それ禁句じゃないかな…………
247.カーニバル
ごめんなさい! 冗談だったんです! 冗談だったので許していただきたいんですが!
248.カーニバル
ただちょっと、どんな村なのかなぁって見に来ただけなんですぅ!
あ、そうだ! PVPで勝ったら見逃してください! アタイが負けたら煮るなり焼くなり好きにしてください!
249.名無しの探偵
――自ら墓穴を掘りに行った、だと
250.名無しの釣り人
なんでそんなこと言い出したんだ
251.名無しの舞妓
ええ……どうしてそんな行動をとったん?
252.名無しの怪盗
タイマンで勝てる光景が浮かばない人がいるんだが
253.カーニバル
負けましたー…………一瞬で投げ飛ばされて関節決めるとかどうすればいいの
254.名無しの釣り人
なんだと!? 消し飛ばすのがアイツのやり方ではないというのか!?
255.名無しの探偵
思いのほか冷静だったようだ
256.名無しの剣士
そこまで怖くないのか?
255.カーニバル
まって? 煮るなり焼くなり好きにしていいとは言ったけど豚の丸焼きみたいな恰好はやめて! まって、後ろの皆さんもなんで笑いながら手伝っているんですか? え、綿花泥棒? まって盗んでいないから! そもそもシステム的に入れないでしょ! まって、悪ノリしないでまってぇ!
256.カーニバル
その仮面はなに? 何かの儀式? ちょ、なんで踊り出すの!?
257.名無しの盗賊
これ、反応が面白いから遊んでいるだけだ……
257.カーニバル
なんでアイテムいっぱい持たせて来るの? え、お土産? え、何? 何なの!?
ちょ、こんなにもらえない。流石に悪ノリし過ぎたって――まって、流石にこの量はこっちが困る――ああああああ手が勝手に受け取っちゃうぅううう!?
258.名無しの探偵
何が起こったのかわからないんだが
259.名無しの怪盗
探偵が、さじを投げた!?
後半、悪ふざけが過ぎました。




