楽しい楽しい夏休み
学生の自分としては、夏休みに入ったのが実に楽しい。ああ、実に素晴らしい。
というわけで今日も今日とて『ぶふぉ』日和である。
だからね、みょーんさん。見逃してくれても、いいんじゃないでしょうか?
「みのがせないのよねー、そこの学生三人組。ワタシも人のこと言えるような学生時代じゃなかったから、多くは言わないわ。でもね――宿題ぐらいはやりなさいよ」
「そんなの横暴でおじゃる!」
「そうでおじゃる!」
「おじゃる!」
「いいからログアウトして宿題終わらせてきなさい! どうせイベント後半もいりびたるんだから今のうちに終わらせておきなさいよ」
「めんどうじゃ」
「狩場に人が集まる前にポイント荒稼ぎしたいんです」
「あ、アリスは計画的にやっていますよ?」
「…………ダウトね」
みょーんさんはそう言うと、アリスちゃんの頭の上に手を置いた。
「さあ、お姉さんに正直に言ってごらんなさい……ね、アリスちゃん」
「すいませんでしたです!」
「流石年の功」
「簡単に黙らせおったぞ」
「何か言った?」
「いえ、何も」
「ワシのログには何もない」
「そう…………って、聞こえていたに決まっているでしょうが! いいからログアウトして寝て起きて宿題やんなさいよ! 今何時だと思っているのよ、朝の2時よ2時!」
「「イエスアイマム!」」
この後、眠ってから滅茶苦茶宿題やった。
@@@
というわけで、宿題をやって力尽きたので次の日。
本調子じゃないが、今日も今日とてログイン日和である。
「うぃーっす、ご機嫌いかがー?」
「本調子なわけあるかい…………小中学生より、宿題おおいんじゃぞ」
「よく終わったね」
「ハハハ……一日でおわるわけないじゃろ。姐さんとは7月中に終わらせることで話をつけたんじゃ」
「姐さん怖いからね」
「誰が姐さんよ……あれ? アリスちゃんは?」
「ああ……メールが来てるよ」
ゲーム内のメールを開くと、今日はどこまで飛べるかチャレンジするのでソロで遊んでいますという文面が書かれていた。
いや、何やっているのあの子?
「……いい感じに壊れてきたわね」
「それはいいことではないの」
「毒されちゃったかぁ」
「筆頭が何言っているのかしら」
「ヒデェ」
「まあ、気にしても仕方がないからの。とりあえず、この後どうするつもりじゃ?」
「そうだなぁ……ダンジョン、人来ているんだよね」
「うむ。ニー子が来ているようじゃぞ」
ああ、あの人なら来るよな。話に聞いたことがあるぐらいだが、かなりのログイン時間みたいだし。
「ソロアタックしておるようじゃからの。称号も【一匹狼】を取得したそうじゃし」
「アレ狙ってとるの大変だろうに……よくやるよ」
「効果は認めるけど、とりたいとは思わないのにね」
「しかし、あそこのダンジョン効率が良かったんだけどなぁ」
古代兵器を一度取得したら二回目以降はパーツだったし、修復も少しだが出来たし。【古代のアックス】の固有効果は起動中に攻撃した敵の防御力ダウン。しかもレジスト不可。
今後のボス級の敵に活躍が見込める逸品だ。
「…………もうちょっと修復できれば獅子王も倒せるんじゃないか?」
「かもしれんのう。ちょっと頑張ってみたくなった」
「そうねぇ……そうだ。あんたら、行く場所決まっていないならワタシが見つけたダンジョンに行かない?」
「いくいくー」
「やはりダンジョンか。ワシも行こう」
「アンタらのそういうノリのいいところ、ワタシ結構好きよ」
というわけで、みょーんさんセレクトのダンジョンへ行くことに。
場所はアクア王国のある島(というより、島全体でアクア王国なのだが)へ。いや、僕らの村も一応アクア王国領なんだけどね。
海底神殿ダンジョンの方にはそこそこ人が集っており、ダンジョンアタックに待機列ができている。
「このゲームってインスタンスダンジョンあったっけ?」
パーティーごとに別々で生成されるダンジョンのことをそう言う。まあ、ダンジョンじゃなくてもインスタンス化したマップなどがある方が混雑防止になったりするから、大体のオンラインゲームには存在しているんだが……
「うーん、コロッセオはインスタンスだったわよね?」
「広大なマップを使っている上に、全プレイヤーが一つのサーバーで動いている……いや、複数連結じゃったっけ? まあ、大陸ひとつを構築している関係でまだ実装できていないらしいの」
「それじゃあ混雑して当然か」
「今回のイベントも、人が密集するとどうなるかのテストの側面もあるんじゃろうな。今後のアップデートのためのデータ集めというところか」
「結局、実際に人が動かないとわからないことってあるのよね。そもそもコロッセオのあるウンエー国自体がゲーム内の追加データとかをオンラインでテストするための場所だし」
「まだコロッセオしかインスタンス化できていないってことか」
「じゃろうなぁ」
「まあとにかく、アクア王国にファストトラベルした方が早いわね。そういえば、ファストトラベルで行くのは久しぶりね」
「あ……」
「そういえば、あれがあったの」
パーティーを組んだ状態なので一緒にファストトラベルすることに。
もしかしてみょーんさんってまだアレとは遭遇していないんじゃないだろうか?
「よし到着。それじゃあ、さっそく――「しかし困ったことになった……ああ、どこかに勇敢な若者はいないものか!」――目の前に大司祭が!?」
「やっぱり出てくるよね。こいつ」
「まったくもう、ホントどうにかならんものか。姐御、こっちですぜ」
「下手に会話しようとするとクエスト受けることになるからさっさと行こう。クエスト報酬しょっぱいし」
「マジでダンジョンのついでに受けるぐらいの価値しかないからのう……少しのゴールドとマナポーションってケチな教会じゃのう」
「ああ、そういう」
連続クエストですらない、単純にダンジョンの場所がわかりますよーってのがメインのクエストである。報酬はおまけでしかない。
さっさと大聖堂から出て、外へ。城下町を素通りして外の平原へ。
「というわけで、みょーんさん。案内よろしく」
「わかったわ。とりあえず島の中央あたりが目的地だから、そこまではダッシュで進むわよ」
「他にプレイヤーがいたらトレインになると思うんじゃが」
平原にも牛型のモンスターやら、スライムやらいるし。
「大丈夫よ。どうせみんな海底神殿か、海岸のモンスター倒しに行っているでしょ。陸地のモンスターなんて狙っていないって」
「それもそうか」
「じゃなぁ。初心者がこのあたりにいるわけもないし、他のプレイヤーもおらんか」
アクア王国内もざっと歩いて回り、ヒルズ村民たちと情報共有した結果アクア王国には【はじまりの~】系のマップはないことが分かった。初期位置にはなっていないらしい。
アクア王国領内での初期位置は、炭鉱だけのようだ。今も稀に初心者の人が現れることがあるが、大陸の方へ行くのに時間がかかるのを嫌がって作り直ししているからなぁ……今後もしばらく住民は増えそうにない。
産業や特産物が増えれば使えるスキルが増えてありがたいんだけど。【炭鉱夫】と【農家】と【釣り人】のスキルは使えるようになったから、あとは他の…………そう言えば、『騎乗』スキルがあったな。おそらく【農家】のスキルだが。意外と覚えることのできるスキルが豊富なんだよね。スクロールもマーケットにあるにはあるんだけど、便利故かなり高い。自力で覚えない職業に使いたいからため込んでいる人も多いのか出回る数も少ないし。
「…………あの牛に乗れば時間短縮できるかな?」
「なるほど――ってワシらはできないからなそれ」
「え? 『騎乗』は高速移動手段の少ないこのゲームなら必須じゃない。アタシはできるわよ」
「スクロール高いんじゃよアレ……後でもいいかと思っていたら、いつの間にか手遅れに」
「そりゃ鍛冶素材ばかり収拾していたらそうなるわよね。でも他に高速移動手段なんて……アンタ、なにやっているの?」
「アプデで追加されたボートを出しただけじゃ」
水アップデートにより、ボートなども製作可能になった。本当は海とか湖での移動手段なのだが、なぜかライオン丸さんは平原の上にそれをポンとおいた。
「あとは、わかるな?」
「わかんないわよ」
「なるほど、そういうことか」
「え、わかるの?」
「うん。ほら、みょーんさんも乗って……これってスキルなにか必要?」
「いや、ボートは大丈夫じゃ。『騎乗』は馬とか牛とか生き物限定っぽいぞ」
「そうか。なら大丈夫か……杖はある?」
「とっておきがな。MPの多い姐御が使うのが一番じゃが、目的地を知っているのは姐御だけじゃし、ナビゲートを頼もうかの。操縦はワシがやるから、村長はエンジンを頼む」
「オーケー」
「まって。エンジン? エンジンを頼むってなに?」
「なにって…………ほら、ウチのネコミミがよくやっているやつだよ」
「ルビーをふんだんにあしらった、箒型の杖【炎のおそうじロッド】じゃ」
「ああ――またその方法で移動するのね」
というわけで、ボートに乗り込み先頭にみょーんさん、真ん中にライオン丸さん。そして彼と背中合わせに僕が乗る。後方へ箒(アイテム交換して僕が装備した)を突き出した形で、魔法の発射準備をする。
「出発!」
「発動!」
「ちょ、速すぎないコレ!?」
あっという間に平原を駆け抜けて……飛んでいく。ちょっと浮いちゃってない、コレ。ライオン丸さんがオールで方向を調整しているおかげで何とかなっているが、コントロールを失うとぶつかるかもな。
「案内頼むぞー! 方向を教えてくれ」
「まってまってまってまって!? 森よ、森の中なのよ!?」
「なん、じゃと――アイキャンフライ!」
「なるほど、上空から襲撃するわけだな」
「こいつら誘わなければ良かった――」
ちなみに、海底神殿ダンジョンに挑戦しようと待機している人たちからもこの光景は見えていたらしく、謎の空飛ぶボートの噂が掲示板をにぎわせることになったのだが……たぶん例の村の連中の一言で話は片付いた。
@@@
「もうちょっと頑丈なボートと、エンジン役を複数人揃えれば海を渡って大陸まであっという間に行けるかもしれんの」
「だね」
「アンタら……少しは反省しなさいよ。死ぬかと思ったわよ」
森の上をジェット噴射で突き進むことで、目的地へはあっという間に到着した。【ランナー】の称号効果もあったからMP消費が少なくなっていたこともあり、なんとかなったわけである。箒に炎魔法のMP消費率低下も付いていたからね。
「でも、ボートがこわれちゃったなぁ」
「むしろこいつが無かったらワシらが直接地面にビターンじゃったからの。まあ、ボートはまだいくつかあるから帰りは大丈夫じゃが」
「帰りは遠慮するわ……」
みょーんさんがげんなりとした顔でそう言い、森の中央。木々の無い場所……洞窟の入り口へと案内する。こんな場所よく見つけたものだ。
「森も結構進んだ場所じゃし、目印もないのによく見つけたの」
「クエストの素材集めをしていたらたまたまね。マップも島のちょうど真ん中だから覚えやすかったし」
「ダンジョンの中ってどうなっているの?」
「地底湖につながっているわ……厳密には、地底湖の中がダンジョンになっているの」
それも水中ダンジョン。三次元的に入り組んだ、非常に迷いやすい構造らしい。
「マップもわかりにくいから、はぐれないようにね」
「まともなダンジョン攻略、はじめてかも」
「そうじゃの…………海底神殿はダンジョンというくせに一本道じゃったし、鉱山も迷うほどじゃなかったしな。敵も作業のように蹂躙しておったし」
「あんたらね……どういうプレイスタイルなのよ」
「RPGという名の村づくり?」
「なんちゃってロールプレイ」
「もういいわ。あんたらに聞いたワタシがバカだった」
心外である。望んでこんなプレイスタイルになったわけじゃないのに。
成り行きでこうなっただけなのに。
「楽しんでいたら同じことよ!」
「あ、やっぱり?」
「そうじゃよなぁ」
無駄話もそこそこに、ダンジョン……まで続く洞窟へ入っていく。狭いが普通に歩けるぐらいの大きさだ。先へ進んでいくごとに広がっていき、青く輝く地底湖が見えてきた。
「あれが目的のダンジョンの入り口、【輝きの地底湖】よ」
「うーん、ファンタジー」
「じゃのぉ…………いままで世紀末な戦いしておったからな」
「爆殺の何が悪いのか――あれ? 水の中って爆弾使えたっけ?」
「使えないこともないけど、威力が大分落ちたような」
「――――なんてことをしてくれやがるんだ運営」
「ヒャハーが出来ないんじゃな」
「たまにワタシもやるけど、別にいいじゃないのよ。たまには他の攻撃方法を試してみなさいな」
「それもそうか――じゃあ、装備変えるね」
というわけで、武器チェンジ。スコップは使うが、ナックルは装備しない。なお、箒は既に返却済み。
さあ、これがこの前作った僕の新装備――【魔人のタモ+5】だ!
「…………え? カテゴリ、何それ」
「タモ」
「タモはたもじゃよ。【釣り人】のメインウェポン」
スコップと同様、複数のカテゴリに対応しており、スキルが色々使える。エルダー(海)の素材を使って作ったのがこの武器で、水棲系モンスターにダメージボーナスが入る。ただ、抵抗力が落ちるんだが……魔法攻撃は喰らわないようにしないと。
使用可能スキルは杖と槍、あと、ハンマー。物理攻撃力は弱いので、用途は杖と同じだが。
「時々、このゲームの方向性がわからなくなるわね」
それ、今更の話だよ。
変な装備やスキルがあるのはワザとでしょ、ここまで来ると。
ではダンジョンへ突入しよう。




