はーい、チェックですよー
「そもそも武器を二つ装備できるというシステムを採用したのは、プレイスタイルの自由度を高めるほかに支援職や趣味職の戦闘面カバーという狙いもあるのです」
「うん、ゲーム雑誌でそのあたりのインタビューは確認したけど」
「じゃが、この使い方は想定の内かの?」
「ピー!」
アリスちゃんが吹き矢のように魔法を放ち、敵を射抜いていく。僕らもぼーっと立っているだけじゃなくて襲い掛かってくるサハギンやマーライオン、タコっぽい生き物を撃破していくんだが……
「やっぱり数多い! ――ごめん、この前より増えてるよコレ!」
「人数で難易度変わりましたね」
「やっぱりポップ数とプレイヤーの人数は比例するんじゃな」
「ピー! ピー!」
「しゃべっていいんだからね!?」
いや、攻撃してくれるのはありがたいけども。
そんなやり取りをしている間にも敵は攻めてくる。攻め立ててくる。
「せめてもう少し広ければ爆殺できるのにッ」
「村長が怖いこと言っておるぞぉ」
「もう少し広ければ毒霧瓶使えるのにッ」
「やだ、こっちも怖い」
「ピー! ピピー! ピーッ!!」
「誰か人語を解する方はいらっしゃいませんかぁ!?」
ライオン丸さん、発狂。
「おぬしらのせいじゃからの! っていうか、色々さんもなんで一緒になってふざけとんですかサメ男め!」
「こういうのはノったもの勝ちなんですよ――だから、ここからは全力でふざけ倒します。その方が精神的負担は少ないので」
「ワシに負担が来てんですよ! だから――ワシもふざけちゃうもんねー」
そう言うと、ライオン丸さんは頭防具を変えた。
……ウサミミに。
「これぞ秘蔵のウサミミ! バニースーツと一緒に作ったワシお手製じゃぁ!」
「ぶふっ――ムキムキドワーフにミスマッチすぎる」
「絵面ッ……っていうか君【鍛冶師】ですよね!?」
「時々、【仕立て屋】で遊んでいる」
「ピッピッピッピ」
「ほらぁ、アリスちゃんも絵面に反応して過呼吸みたいになってるじゃないか」
「まったくそこまで来たら私も秘蔵の武器、【黄金のさすまた】を使いましょう。耐久値は低いですが、かなりの魔法攻撃力を持った一品ですよ。具体的には、物理攻撃に使うとあっという間に耐久値がなくなる!」
「さすまたなのに!?」
「ピー……お兄ちゃんの【きらりんピッケル】も大概ですよ」
うわーお。辛辣。
というかだんだん収拾付かなくなってきた。
「やめやめ! もうちょっと真面目に攻略しよう」
「ふざけ出したのは誰じゃったっけ……あれ? 誰じゃっけ」
「流れ、ですかねぇ」
「なんか疲れたです。もうすぐ、前やられたポイントですし気を付けた方がいいです」
「アリスちゃんの言う通り結構きついんだここ、一気に敵がなだれ込んでくるから」
二人だったから今より敵は少なかったけどね。
それに前回は職業が合わなすぎた。いや、【サモナー】はまだ実用するには早いってだけなんだけど。他の職業も遊ぶ気にならなかったしなぁ……
「そろそろ来るよ」
「団体さんのご到着じゃな」
ぞろぞろと敵さんがやってくる。僕らの基本レベルは大体30~40レベル。
「色々さん、敵の情報どれぐらいかわかる?」
「そうですね……錬金術師の『鑑定』判定なのでモンスター詳細まではハッキリしませんが、レベルは34ぐらいで、弱点は炎系ですね」
「やっぱり僕らのレベルに合わせてポップしているよなぁ……」
なんとなく、敵の硬さからしてそのぐらいかなぁって。楽勝とまでは言わないけど、硬すぎない。そんな感じ。
弱点もわかるならもっと早くに鑑定しておくんだったな。忘れてたわ……
「あのー、水棲系なのに炎弱点なんです?」
アリスちゃんの疑問ももっともである。
そのあたり気になったけど、敵の数が多いし倒してから考えよう。
「もう面倒だから色々さんの火炎瓶と僕の爆発瓶で延焼ダメージ狙おう」
「ですね」
「じゃあアリスが音波攻撃で炎を向こう側に飛ばしますね」
「ワシは『振動波』使って敵の動きを止めるかの」
最初にライオン丸さんがハンマーを振り下ろして、地面を揺らす。それにより周囲の敵がわずかにだが動きを止めた。
「合わせていくぞ!」
「了解!」
「です!」
アリスがリコーダーを構え、思いっきり息を吹く体勢に入る。
僕と色々さんでそれぞれの瓶を投げ、敵に着弾した。同時に、アリスが音波攻撃を行い僕らの側へ炎が来ないようにしてくれる。こうでもしないと、自分にもダメージが入るからなぁ……
ちなみに、音波攻撃の代わりに風魔法でも代用が利くけど、MP効率はこっちの方がいい。
「ほとんど一本道なのが幸いじゃったな。ポイントもウハウハじゃぞ」
「今のでかなり稼げたのではないでしょうか?」
「いっそワザとクエスト失敗して周回するか?」
「ダンジョン自体は何度でも挑戦できると思いますし、ボスも気になりますから先へ進みましょう」
まあ、それもそうか。
というわけで大量の敵を難なく撃破……いや、爆発ノックバックで下がった敵とか追撃しているからまだまだ生きてはいるんだけどね。
それでもほとんどハメ殺しである。動きを止めて燃やして飛ばして、止め刺して。
「一方的な、虐殺になっちゃったなぁ」
「…………悪いことしている気分です」
「効率いいのは分かるんじゃが、なんかこう…………罪悪感が」
「気持ちはわかりますが、これゲームですからね」
おそらく最年長のめっちゃ色々さんが先導し、先へと進む。道中の敵もワンパターン化してきているし、通路が狭いから飛んでくる敵もいない。
もうここ周回するだけで夏イベントのポイント荒稼ぎできるんじゃないだろうか――そう思っていた時だった、少し先が見えてきたのは。
開けた空間。円形の部屋のようだ……というか、見覚えがある配置だった。
「…………鉱山のボス部屋みたいな感じだなぁ」
「というかボス部屋じゃな。円形のボス部屋は多いんじゃぞ」
「中央にボスも見えますね――――は?」
部屋に入る直前、めっちゃ色々さんの足が止まった。つられて、僕たちの足元も止まる。
部屋の中央にいたのは、3メートルぐらいの人型だった。フジツボが付いた黒いコートを羽織り、体はたくさんの触手が編みこまれて出来ている。顔も触手が集まってできたような形で、中央部分だけが黒い穴となっている。その中に、淡く輝く光の球が浮かんでいる。
手のような部分には、武器を持っているけど……古代兵器みたいなデザインである。石のような質感に、所々光るラインが入っている。そして、刃は光の塊で出来ていた。近い武器は何だろう……ナタ?
「みゃああああ!?」
「うわぁ……気持ち悪いんじゃが」
「なにを思ってこんなの採用したのか」
「見るからにヤバいデザインですよね……スタッフ、何を考えてこんなのぶち込んだんですか」
いや、あれと戦うなら帰りたいんだけど…………めっちゃ帰りたいんだけど、手には古代兵器っぽいの。少なくともパーツはドロップしそうである。
「……古代遺跡を攻略するのが難しい今、パーツの入手タイミングを逃したくないのですが」
「こんな正気度が下がりそうな奴どうしろと? 紫色のオーラを纏っておるし、強そうなんじゃが」
「実際強いですね。レベル50です」
「死にますです」
「まあ、道中の敵レベルが我々に合わせていたことを考えると、ボスもパーティーに合わせて強くなる仕様でしょうね…………」
「それ、フィールドボス以外のボスモンスターがその仕様ですよ」
目の前の触手魔人(仮)は極端だけど。
「…………パシャっと」
「なんでスクショとったんじゃ今」
「いや、掲示板のみんなにもこの恐怖を味わってもらおうと」
「投稿したのか? 投稿したんじゃな?」
「色々さん、名前は何だった?」
「『エルダー(海)』ですね。弱点は特に無いようです」
「(海)ってことは他にもいるですか」
「そうじゃろうなぁ……嬢ちゃん、きついなら帰るか?」
「いえ、ここまで来たのに勿体ないので頑張ります。それに、だんだん慣れてきました」
まあ、アニメ調だし。
キモイのは変わらないが、本当に発狂するほどじゃない。初見じゃビビるが。
「正直戦いたい見た目じゃないけど、ここから爆殺できないだろうか」
「ボスは戦闘状態に入らないとダメージ入らないですよ」
「仕方がないか――音声入力開始、行くぞみんな!」
@@@
【心が】ヤバい敵と戦っています【持っていかれそう】
58.村長
行くぞ、みんな!
59.名無しの剣士
行くぞ! じゃないよ! なんてもの見せやがるんだ!!
60.名無しの武闘家
触手系マジ無理……そんなのいたのかこのゲーム
61.名無しの狩人
水棲系モンスターに妙にアレなのいるなぁって話はあったけど、決定的にヤバいのが出てくるとは…………いや、ゾンビ系も相当きもかったから今更か
62.名無しのネクロマンサー
どこで出現するんだろう、コイツ
63.名無しのサムライ
今のところ【村長】なんて一人しかいないし、アクア王国の周辺だろうな。他の地域には出てきていないから
64.名無しの剣士
アクア王国に行くのムズイんだよな……
北ルートが一番簡単っぽいけど、ドワーフじゃないとクエスト発生が面倒で
65.村長
ちょ、顔からビーム撃ってきた!?
66.演奏家
やっぱり帰れば良かったですぅううう!?
67.鍛冶師
ワシ、この戦いが終わったら結婚するんじゃ
68.錬金術師
死亡フラグ立ててないでさっさとポーション飲んでください
69.名無しの狩人
一人も戦闘職いねぇw
別にこのゲーム、スキル結構自由に覚えられるから区分に意味があるか微妙だけどw
70.名無しの村人
楽しそうなことしてるー
71.名無しの魔法使い
楽しそうか? これ
72.鍛冶師
まだじゃ! まだ、終わらんよ!
73.名無しの剣士
動画で見たいんだが
74.名無しの魔法使い
運営、アップデート期待しています
75.錬金術師
ああ!? ライオン丸さんが!?
76.演奏家
すぐに蘇生させます!
77.村長
おのれ、ライオン丸さんの仇――あ
78.演奏家
お兄ちゃーん!? あ
79.錬金術師
伸びた触手による薙ぎ払い攻撃だと!?
しかし、そんな攻撃私には通用しませんよッ、そう……この即時蘇生アイテムがあればね
80.名無しの武闘家
死んでんじゃねーかw
っていうかプレイヤーネーム出すのならコテハンに使ってもいいのでは?
81.名無しの釣り人
ヤバいモンスターのスクショが貼ってあるスレだと思ったら……どんな状況だコレ
読んでもわからんのだが
82.名無しの剣士
現村長、元炭鉱夫によるボス戦攻略実況スレッド
愉快な仲間たちもいるよ
83.名無しの忍者
今回のイベントも絶好調な人たちである
84.名無しの戦士
相変わらず、妙な引きをしている……運がいいかは微妙だが
85.演奏家
奥義スキルの使える【クラフター】で来るべきだったでしょうか
86.村長
あれ一発撃ったら次に撃てるの大分先だしなぁ
87.錬金術師
むしろ二種類のバフでようやく戦えているようなものですからね……
たぶん、バランスのいいパーティーで挑むの前提なんじゃないでしょうか
88.鍛冶師
じゃったらクエストも複数人対象音声入れればいいのに
89.村長
ダンジョンとクエストは別々の人が作ったんじゃないの?
90.錬金術師
いや、むしろモンスター担当とフィールド担当が違うと考えた方がわかりやすいのでは
91.演奏家
ちょ、アリス一人で持ちこたえるのキツイですから早くヘルプ!
92.村長
あ、ごめん!
93.鍛冶師
こういう考察始めると、止まらなくなるんじゃよねぇ
94.錬金術師
そういう習性なもので
95.演奏家
なんでもいいですから早くヘルプです!
96.名無しの武闘家
ボス戦中に内輪で会話しだしたw
っていうか、会話垂れ流しているだけなのかこれw
97.名無しの魔法使い
グッダグダじゃねーかw