大型アップデートとはいうけど、大抵どの辺が大型なのかわからない
ついに、ロポンギー君がアレと出会います
さて、方針も決まったことだしイベントまでどうするかという話なのだが……まあ、下見は必要だよねという話になり、とりあえずは水中ダンジョン探しに赴こうということになったわけである。
このあたりの海を調査するか、それとも鉱山にもぐるか……
「あれ? 鉱山に水場ってあったっけ?」
「あるにはある。ただ、潜れるほどの深さがあるかは正直微妙だけど。あと、古代遺跡の方にはチラッと見えたかな」
あそこ謎光源で少し明るいし、下の階層が見える場所があるんだよ。で、覗き込める時があったから見たことがあるんだけど、地底湖みたいなものも見えたのだ。
まあ、流石にあそこは死ぬからいけないけど。
「その前に村長はアクア王国で色々と進めておいた方がいいんじゃないか?」
「あぁ……そういえばそうか。すっかり忘れていた」
「普通忘れないでござるよ」
「もうここまで来たらいっそのことNPCに会わないでどこまでやれるか試してみたくなるんだけど」
「いいからいってくるでござるよ。村長のことだからどこまででもやれてしまうでござる」
みんなして、桃子さんのその言葉に頷いていやがる。
そこまで言うことはないと思うんだけど。
しかし、みんながそう言うなら仕方がない。アクア王国に行ってやるとするか……橋もとっくに完成しているし。いや、ここは海の中から潜っていくべきでは?
そう思って海に飛び込もうと駆け出した僕だったが……いや、やっぱりやめておこう。
「村長のことだから泳いでいこうとか言い出すと思ったんだけど、いきなり止まったわね」
「何かトラブルじゃろうか? ラグが起きたとか?」
「たしかに、あの人の使っている機器は要求スペックギリギリみたいですけど」
「……あ、橋の方へ行ったです――アリスもついていきますね」
「しかし、何故途中で止まったのか……海辺に何かあったのでしょうか――ああ、わかりましたよみなさん」
「めっちゃ色々さん、どういう事で?」
「例のBGMは残っていました」
「…………人を丸呑みしそうなサメはいるのか」
@@@
アクア王国にやってきたということはつまり――NPCにまともに遭遇したということだ。今まであとでいいかって考えて来ていなかったからなぁ。
大砲による移動と衝撃を緩和する方法も確立したし、実のところはもっと早く来れたんだけどね。
「何度来ても大きいですね」
「このゲーム内の国家じゃ、ここが一番小さいんだけどね」
大陸側の国と呼べる地域は全部で四つ。大陸東のハラパ王国。ここは今までも何度か名前が出ている。草原地帯が多く、出てくる敵のレベルも低い傾向にある。もちろん例外が多いが、多くのプレイヤーがハラパ王国領内のスタート地点からのスタートだった。
そして西側にあるのがガンガー帝国。怪盗さんがここスタートだったらしい。後は【はじまりの墓地】がここにあることぐらいか……めっちゃ色々さんもここスタートなんだよな。詳しくは聞いていない。
次に、北にはドワーフ工業都市がある。ライオン丸さんが前に拠点を置いていたのもここだ。
南にはエルフの森があるのだが……正直ここについては全く知らない。みょーんさんに世界樹があるってのだけは聞いたんだけど…………メタな話まだイベント未実装だからただデカいだけの樹なんだと。
「そして、僕たちが今いるのが大陸の北東にあるアクア王国。僕らの村も一応、アクア王国領なんだよね」
「掲示板だと大体王国っていうとハラパの方ですよね」
「そもそも今の今までプレイヤーが到達していなかったからね」
移動方法自体広まっていないし。太公望さんみたいにやってくる人がいないわけでもないが、めぼしいダンジョンがあるわけでもないからあんまり人気ないんだよね。
鉱山の方も何人か挑戦に来てはいるみたいなんだけど、大抵レベル上げ前の初心者がレアアイテム欲しさに無茶しに来たか、高レベルの人が古代遺跡に挑戦しに来たか。まあ、どちらも死に戻っているんだが。
「今後まだまだ増えるだろうけど……たぶん、そのうち旨味はなくなるよ」
「どうしてですか?」
「オンラインゲームって、インフレしていくものなんだよ。鉱石や宝石系は1年ぐらいでトッププレイヤーからは需要なくなるだろうし、古代兵器も一人一回取れば終わり。
古代遺跡はどうなるかわからないけど、そもそも現状のレベルじゃ挑戦するだけ無駄だから今考えても仕方がない」
まあ、今後のアップデート次第としか言えないな。
とりあえず教会での登録をするため、アリスに道案内してもらいながら進む。道中、NPCのショップを見て回ったり、初めてNPCとの会話でクエストが発生するのに驚いてみたり。まあまあ楽しい時間だった。アリスもなんだか楽しそうだし。
「ふふふ、お兄ちゃんとデートです」
「君、そういうのあんまり隠さないよね」
「下手に隠してもイライラするですから。このぐらいは素直に言った方がいいんです」
「そういうものか」
「お兄ちゃんは、ここまで言っても普段のまんまですよね……はぁ」
スマンが、そうは言われてもなぁ……どう反応していいかわかんないんだ。
と、そんなやり取りをしていたら教会にたどり着いた。
「いつ見ても綺麗なところです……村のアレ、教会というより礼拝堂じゃないんですか?」
「このゲームが教会、って言っていたら教会なんだよ……正確には教会ってシステム名だけど」
リスポーン位置に設定できて、テレポート場所に使えて、ファストトラベルできて、呪いの解除なんかもできる……そういうものをひっくるめて教会って呼んでいるのだ。
そう言う部分深くツッコミ入れるのは野暮だからみんなあえてスルーしているんだけどね。
「一度気になりだすと色々言いたいのはわかるけど、頭を空っぽにした方が楽しいから」
「夢とかそんな感じのもの詰め込めますよね」
というわけで教会の中に入ってサクッと登録。
「ここはアクア王国大聖堂教会だよ。御用は何かね?」
「なんかいきなり大司教みたいな人に話しかけられたんだけど……というかなんだその名前」
「色々とごちゃごちゃしています」
ま、まあ機能的には問題ないしサクッと登録しておく。
「しかし困ったことになった……ああ、どこかに勇敢な若者はいないものか!」
「あ、お兄ちゃん。王国内のギルドもいっておきましょう。使わないとは思いますけど、他の職業になれるようにしておいた方が便利です」
「アリスちゃん、目の前で困っている大司教様がいるのにスルー?」
「しかし困ったことになった……ああ、どこかに勇敢な若者はいないものか!」
「でもこういうクエスト受けたら、長引きますよ?」
「それはそうかもしれないけど、後味が悪いんだよ」
「しかし困ったことになった……ああ、どこかに勇敢な若者はいないものか!」
「ほらぁ、アリスたちが出ていくかクエストを受けます! って言うまで続きますよコレ」
「おお! 勇敢な若者よ! わが頼みを受けてくれるのか! ありがとう、ありがとう!」
――システムメッセージ:クエスト【海底神殿の魔物】を受注しました――
「ちょ、まだ受けるって言っていないんですけど!?」
「さっきのアリスちゃんのクエストを受けます、ってやつを拾ったんだな」
「融通! 融通を利かせてほしいです!」
「実はの、このアクア王国の近海にはかつて大きな神殿があったのだ」
「ああ!? 勝手に進んでいます……」
「扉から出られないかな――見えない壁、だと」
「大陸からも多くの参拝者が訪れたものだが、かつて地殻変動があって海の底に沈んでしまったんだ。やがて海も荒れるようになってしまい、今では教団上層部しか知らないことなんだがね」
「前来たときはこんなクエストなかったのに、何故――」
「いやぁ、これは理由ハッキリしているよ。アプデで潜れるようになったからだね」
ちょうど水アプデが入ったから実装したクエストなんだろう。
大司教様も話に熱が入ってきた……え、長くなるのかこれ?
「しかし最近、どういうわけか海が以前より落ち着きを取り戻してね、誰かに調査を依頼したいということになったのだ――だが、アクア王国は大陸側との交流が廃れてしまっていてね。調査のための人材を依頼するのも難しいし、そもそもわが国にはそこまでの財力がない。アクア王国大聖堂教会と言っても左遷となんらかわりないしね」
「おっと、なんか闇が深くなってきましたよ」
「ちょっと話が気になってきたです」
「特に帝国では暴利をむさぼり、教団上層部もそんな奴らとともに甘い汁をすすることに精を出すばかり――まったく、嘆かわしい!
我々の信仰する神様――優柔不断な『メルク』様、嫉妬深い『アマテ』様、管理したがりの『ディーネ』様、お三方のお言葉をお忘れなのか!?」
「…………この世界の神様ってろくでもないの?」
「みょーんさんが、『なんで全力でふざけた神話書いた、スタッフ』って言っていました」
「そっか、ふざけているのか……」
「『なんでハーレムラブコメものを神話にしたんだ』とも言っていました」
「言わなくていいから、出来れば聞きたくない」
「でもお父さんとお母さんの昔話みたいで気になるんですけど」
「よーし、それ以上言うのはやめよう。お兄さんアリスちゃんのご家庭の事情とか聞かなかったことにするから、それ以上はやめよう」
「えー、なんでか懐かしく感じるから気になるのですが」
「ホント勘弁してください」
そのあたりできる限りスルーしよう。
ゲーム内も、アリスちゃんの家庭の事情も。
どっちもいつか直面しないといけない気はするが……出来る限り聞かないようにしたい。
「そこで君には海底神殿の調査をお願いしたい! 出来ればご神体など、なにか持ち帰れれば持ち帰ってきてほしいのだ」
「あれ? 僕も受注状態だよね、コレ」
「『複数人で受けてパターン変えると容量ヤバいでござるからなぁ』って桃子さんが」
「そりゃそうだ」
「海底神殿はアクア王国の更に東だ、健闘を祈るぞ」
「あれ……マップ外だったような」
「そうですよね。マップから出ちゃうです」
「…………あ、もしかしてダンジョン扱いなのか?」
まあ、行ってみればわかるか。
ようやく見えない壁も消えて、先へ進めるようになったが……
「あ、クエストは受注状態だけど別にいつでもすすめられるのか」
「普通はそうなんですけどね」
「…………べ、別に村長クエストも強制じゃなかったし」
「知ってますです」
なぜか言い訳が口から出てくるが……あの時は色々と冷静じゃなかったんだ。こう、掲示板の魔力に取り付かれていただけなんだ。
「掲示板の魔力って……」
「とにかくまずは当初の予定通り適当にギルドをまわるか」
「ですね」
ダンジョン? については後で考えればいいか。
ようやくNPCと会話? したロポンギー君。
長かった――実に長かった。
というわけでイベント前哨戦に入ります。