水辺には危険がいっぱい
アプデ修正により、釣り竿など一部武器として使えなかったものも武器として利用可能に。
ガチャで手に入るアイテムの中には、釣り竿みたいなものも存在する。ちょくちょくラインナップが変わっているようで、楽器も種類が変化していた。家具やアバターなんかは頻繁に変わっているし、時々眺めに来るだけでも楽しそうだ。
今回僕が手に入れた【太公望の釣り竿】だが、現行の最上位の釣り竿らしい。釣りスキル自体はスクロールで簡単に取得できる――もっとも村長のスキル群に標準搭載されていたが――ので手に入れても使えないというプレイヤーは現れないだろう。スクロールもマーケットで100ゴールドくらいの捨て値で売られているし。
参考に、最下級ポーション一つが10ゴールドくらいだ。マーケットでの価格だから今後変動するだろうけど。
「……お、何か釣れたな――ッ!? デカ!?」
浜辺で適当に糸を垂らしていたが、妙な力で引っ張られたのですぐに釣り上げた。流石最上位、楽に釣れる。サメやチョウチンアンコウ、マグロとかも釣れたし今度は何が出てくるかなぁ……
太陽と重なって見えにくいが……大きさは人と同じくらい。背びれが大きくて、体型はマッチョ。緑色の体に力強い四肢。そして、手には三又の槍を持っていた。
『――キシャァアアア!』
「うわ!? モンスターも釣れるのかよ」
HP量は普通のモンスターと同じような表示。フィールドボスの類じゃないみたいだけど、レベルは幾つぐらいなのだろうか……もうちょっとレベル差とかわかりやすく表示してほしい。今後のアップデートに期待である。いや、要望も送った方がいいか。
「っと、名前はサハギン……まんまかよ」
『ガアア!』
「とりあえず戦闘開始、かな!」
スコップと槍――銛? がぶつかり合う。ひとまずはスキルを使わないで様子見しているけど、若干僕の方が力負けしている。【炭鉱夫】の時と同程度か少し上くらいか……レベル35くらいってところだろうか?
倒せなくはない、けど油断するとヤバい――まあちょうどいい塩梅のレベル差だった。
「スキルを当てれば普通に倒せそうだな」
「あー! お兄ちゃんが襲われています!」
「おーい、大丈夫か村長ー」
流石に戦闘音で気が付いたのか、村にいたみんながやってきていた。というか、錬金術師さんもいるんだが。いつの間にログインしたんだ?
「村の名前とか言いたいことあるんだけど、手伝いいるかー?」
「大丈夫! 一人でどうにかなりそう!」
スコップを構えてスキル『マジックドリル』を発動させる。すぐに次のスキルを発動させようとしたが、奴の攻撃が来たので盾のスキル『ポイントシールド』を発動させた。敵の攻撃にピンポイントで防御するスキルだが、防御性能が低いのが難点。発動は最も早いが。
「あ――ドリル発動したままだった」
『ガッ――――』
忘れていた。奥義スキルって組み合わせるスキル関係なく組み合わせ可能なんだから、防御スキルも対象じゃん。案の定、ドリルによるガードでサハギンは上に吹き飛んだ。
どうやら、防御スキルと組み合わせると遠心力で弾き飛ばす性能を追加するらしい。もしくは、敵の威力も利用した合気道みたいなものなのか……なんにせよ、これ結構使えるかもしれない。
そしてサハギンはそのまま落下し、ポリゴン片となって消えた。
「……落下ダメージ、だけじゃないよな。カウンター性能もあるのか」
「何をしたんじゃ、今」
「ドリル発動したまま防御スキル使った。カウンターみたいなスキルに変化するらしい」
「便利じゃのう、ワシも奥義スキルがほしいんじゃが……やっぱり数作るしかないか」
「ディントンさんが数だけじゃなくてレア度も関係あるかもって言っていたです」
「マジか……面倒じゃのう」
「そう簡単に手に入らないってことよ。村長だってひたすら掘っていたから手に入ったわけだし」
「それにMP消費が洒落にならないからおいそれと使えないしね」
結構なMPを持っていかれた。
今後、そのあたりの対策も考えないといけない。MP自動回復強化の称号とかないんだろうか? ……MP消費? そういえば、何かあったよな。
「…………みょーんさん、たしかMP消費数を下げる称号なかった?」
「ああ、【ランナー】があるわね。一定距離を一定速度で走り続けることで取得だけど」
「今、僕は村長だ。パーティーを組めば能力値が強化される。さらに、めっちゃ色々さんのアイテムによるバフ、みょーんさんの魔法によるバフ……うまくすれば、全員で取得できるんじゃ?」
「……やりましょう。ワタシも【ランナー】は欲しいのよ」
「アリスも【一発屋】よりかはそっちの方がいいです」
「ワシも一緒していいか? 速さ重視で職業変えてくる」
「確かにあると便利ですよね……っていうか私は称号持っていないんですからなおのこと欲しいんですが」
というわけで、準備でき次第全員で島の外周を走ることになった。そこそこ広い島だけど、浜辺の辺りはモンスターもあまり出てこないし、全員で走るのなら対処も可能だろう。
レベルもそれなりに上がってきた今、装備を俊敏に特化させれば案外いけるのではないだろうか。
「……俊敏特化、つまりアレだな」
「アレじゃな」
「アレ……ですよね」
「え、アレを着るの?」
「? アレって何ですか?」
「アレはアレだよ……ディントンさんが夏に向けて試作したアレ」
「……ああ、アレですか」
その後、僕たちは水着で島を走り回ることになった。久々に着たなぁ、水着マフラー。みんなもそれぞれ水着に加えて俊敏値の上がりそうな装備を付けているけど、色々とおかしな光景となってしまった。
僕の格好は前の水着マフラーに頭はハチマキに変わったぐらいだが、他のみんなも結構アレな格好している。アリスはどこで手に入れたんだ? その猫の手のグローブ……え、ガチャチケで手に入れた? ああ、そういえば装備も出るんだったなアレ。
ライオン丸さんは【わびさびTシャツ】というネタ防具だ。白いTシャツにわびさびと書かれているだけの代物……それもガチャだろ。
「なぜわかったし」
「他に入手法思いつかなかった。ディントンさん、クソT作らないだろうし」
「まったく、そんな変な格好で走るつもり?」
「Tシャツで走るのはおかしなことじゃろうか?」
「ファンタジーゲームでそれはおかしいと思うです」
「アリスちゃんもファンシーすぎるけどね」
「っていうか、みょーんさんも何ですかそれ……」
「似合うでしょ?」
「……う、うん」
アクセサリー【女神の羽衣】。星5のかなり強力な代物だ。バフをかけてもらう都合上、MP量増大効果のあるものをつけてもらったんだけど……どこで手に入れたんだそれ。
水着は試作だけあっておとなしい感じのものだが。まずは試作を着せて、それを見てより似合うもの(ディントンさん基準)を作るって言っていたなぁ…………不安である。
「私にはつっこまないのかい?」
「めっちゃ色々さんはもう好きに生きてくださいよ」
なんですか、そのサメの着ぐるみ。上半身を覆うタイプだから、下半身はそのままになっているのか……っていうか、俊敏値下がるんじゃ?
「これね、【シャークなアイツ】っていう防具なんだけど水辺なら全能力値を上げる代物なんだ」
「なるほど、それなら確かに有用だけど……絵面が」
水着マフラーの僕に更に猫っぽくなったアリス、ムキムキのクソTに女神モドキにサメの着ぐるみ……コントやってんじゃねぇよ。僕らは。
「さっさと終わらせよう。走るぞー」
「わっしょい」
「わっしょい」
「わっしょい」
「わっしょい」
「なにその掛け声」
@@@
特に問題もなく称号を取得できた翌日。素材集めて、適当にレベル上げして時々釣りをしてとのんびりと時間を過ごしていた。
時々サハギンが釣れるのはいいが、あんまりいいアイテム落とさないんだよなあいつら。一番良かったのでも【魚人の腕輪】っていうアクセサリーだった。効果は水属性攻撃威力1.08倍。僕、水属性魔法あんまりつかわないんだけどね。ほとんど土属性だぞ。
「暇だなぁ」
「ですねぇ」
アリスと二人、釣り糸を垂らしながら静かに海を眺めている。橋づくりとかもあるんだけど、クエストの都合上今日はこれ以上進められなかったのだ。
たぶんクエスト達成してすぐに橋が出来ましたーってするわけにもいかないんだろう。建物と違ってプレイヤーの通れる橋が出来上がるわけだし、今までで一番大きな建造物だ。出来上がるのは翌日である。いま、橋が出来上がる場所にはブルーシート的な何かでおおわれた巨大な何かがあるのみだった。
「…………あそこまでやるんだったらおとなしくすぐにやってくれよ。なんでブルーシート的なのでかぶせるんだよ」
「なんでですかね」
剥がそうとしても絶対剥がれないし、そういうものだと思うしかないな。
「ん?」
と、そこでアクア王国側の大砲が火を吹いてこちらへ何かを飛ばしてきた。
僕がアクア王国側に行くって手もあるのか…………そういえばまだアクア王国には行っていないんだよな。いまだにNPCには出会っていない僕である。ゲーム始めてから3カ月近く経っているっていうのに何してんだろう。もう7月だぞ7月。
そして何かがようやく着弾した。なんか、いつもよりゆっくりだったな……バグか?
「やはりっすね――水魔法の盾を何枚も張れば衝撃を緩和して落下ダメージを減らせると思ったんすよ」
「えっと、どちら様で?」
「オーバーオールって聞いていたっすけど、その水着にマフラーは炭鉱夫さんっすね?」
「今は村長だけどねー」
周りもそう呼ぶ。
「お兄ちゃんに何か用ですか?」
「俺っちは太公望『マンドリル』っす! 昨日の屈辱、晴らしに来たっすよ!」
「……?」
「お兄ちゃん、何をしたんです?」
「いや、特に心当たりはないんだが」
「あのレスポンスを忘れたとは言わせねぇっすよ!」
「…………ああ、釣った魚を自慢するスレか」
って、あれってそういう趣旨のスレでは?
「俺っちが手に入れることのできなかった【太公望の釣り竿】……そいつを賭けろとまでは言わねぇ。ただ、負けたままじゃ気が収まらねぇ。釣り勝負だ!」
「えぇ……面倒な」
「どうするです?」
「暇だから別にいいけど、どうやって勝敗をつけるのさ」
「簡単なことっすよ――相手より大物を釣ればいい」
「まあいいか……とりあえずこいつを引き上げて――」
今引っ張っていた獲物を引き上げる。引きの強さが結構なものだしこれも大物っぽいけど――と、また太陽を背にしている感じで飛び上がった。またサハギンかなと思ったが、シルエットが違うな。
手があるのが見えたからサハギンかと思ったんだけど、背びれはない。青く輝く髪に、透き通った目。とても可愛らしい顔立ちに貝殻で出来た水着。そして、下半身は光をキラキラと反射する鱗に覆われていた……どう見ても人魚です。
『フフフ』
「あ、どうも」
「――――お兄ちゃん? なに照れているんですか」
「べ、別に照れてなんかいないけど」
「顔真っ赤じゃないですか! こういうのがタイプなんですねそうですね!?」
「いやいや、そういうわけじゃ――ってアレ?」
人魚が更に光り輝いたかと思ったら、光の粒子になって僕の周りをグルグルと回ったかと思った次の瞬間、僕の中に入った。
と、同時にシステムメッセージで召喚獣スキル【サモン・マーメイド】を入手したと出てきた……えっと、これはどういう事でしょう?
「……召喚獣スキルですね。聞いたことがあるです。クエストとか、ランダム発生する召喚獣と出会うと手に入れることが出来る、特殊なスキルらしいです」
「へ、へぇ……あとアリスさんはなぜそんなに不機嫌な感じなのでしょうか?」
「自分の胸に手を当てて考えてください」
「……」
とりあえず、謝った方がいいのだろうか? いや、それは逆効果な気も……
「え、なんだこの空気……というか勝負はどうなった勝負は」
「もうそういう空気じゃないのでお引き取りをお願いするです」
「オイオイ。そりゃないぜ嬢ちゃん。男が一度引き受けた勝負を反故にするもんじゃねぇっすよ」
「せっかく、二人っきりでのんびり過ごしていたのに先に邪魔したのは貴方ですよね?」
「――――スンマセン」
「ただアリスの気もおさまりませんし、あなたも勝負をしたいでしょうから条件を付けます。PVPモードでアリスに勝ったらそのままお兄ちゃんと戦わせてあげます」
「ば、バカ言っちゃいけねぇよ嬢ちゃん。俺っちはこれでもかなりやりこんでいるプレイヤーなんだぜ? レベルだってもう45だ。お嬢ちゃんじゃ勝負にならねぇよ」
「へぇ……試してみますか?」
アリスはそういうと、装備をカンフー服と本来の武器に戻した。PVPイベントで使った、あの武器に。それを見てマンドリルさんはようやくアリスが何者なのか気が付いたらしい。まあ、あの武器使っているのアリスしかいないからな。見ればわかるか、相当目立っていたし。
「お、お前……最終兵器幼女っすか!? え、なんでそだっているの!?」
「イベントで手に入れた【転生の実】を使ったです」
「な、なら勝機は俺っちにもあるな。アレはレベルダウンするんだ……どれだけやりこんだかは知らないが、レベル差は相当なものっすよ」
「良いからPVPを受けるです」
「上等!」
…………あーあ。終わったな。
「バトルスタートっすよ!」
「加速――」
確かにレベルそのものは下がった。だが、アリスは下がったレベルを取り戻すために鉱山ダンジョンやアクア王国側の狩場でそれはもう暴れまくったそうだ。僕は村の作業があったし、素材集めも兼ねていたから鉱山ダンジョンで十分だったのでアクア王国へいかなかったけど。
それにアリスのプレイヤースキルはこのゲーム内の上位10位以内に入るぐらいすさまじい。遊んでいないプレイヤーも含めているが、50万人以上のプレイヤーがいるこのゲームでだ。
レベル差だけを頼りにしても彼女には勝てない。
「さらに【スクラップ砲】です」
「え、なにそれ――」
哀れにもビーム砲に飲み込まれたマンドリルさんは一瞬で蒸発したのであった…………え、一撃?
「お兄ちゃん」
「は、はい! なんでしょうか」
「別に怒ってないのです。ただのやきもちです……」
そう言うと、アリスは再び釣り糸を垂らし――とそこでアリスがあちゃーという顔をする。
「砲弾に釣り竿使ったんでした」
「それを使ったのかよ……」
たしかにあの釣り竿はアリスが自分で作った物だからスキルで撃ちだせるけど。
「……もしかして、釣り人だから釣り竿で砲撃するとダメージが大きかったです?」
「そんな馬鹿な……いや、あるのか?」
【スクラップ砲】ってクールタイム長いし、アイテムごとに効果とか変わったり、特攻があったりするのかもしれないな。
「そんなことよりです。人魚の件についてです」
「忘れてなかったかぁ……」
「当たり前です! 流石に目の前でそういう風な反応見るのは嫌です!」
別に付き合っているわけでもない。PVPイベント以降アリス自身からも何か言ってくるわけでもない。だが、それでも納得できないこともあるだろう。
そんな感じで、今日もまた一日が過ぎていった。
ロポンギー君はNPCに会う気があるのだろうか




