炎の妖精
今回は心情描写メインでしたので、イベントはあっさり目で終ります(劇中でも、そこまで大がかりなイベントではないです)。
「ところでよー、ロポンギーの旦那ぁ」
「あらたまってどうしたんだい、ライオン丸さん。キャラがブレブレだぞ」
「今更の話だな。別にそこまでこだわってロールプレイしているわけじゃねぇから。本題に戻るが、本当に良かったのかい? あの子、今まで以上に懐くぞ」
「たしかに、これからが大変だろうね。色々と早まった気はするけどさ……たぶん、誰かが受け入れてあげないといけないんだよ」
本当にどこかで決定的に間違えてしまう前に、誰かが受け入れてあげなくてはいけなかったことだ。親だろうが、友達だろうが、誰でもいいから。あるいは、間違っていることを指摘してくれる誰かが。
「本当は自分でもわかっていたんだろうけどね。でも、自分じゃどうにもならないことってあるじゃない?」
「ま、わかるけどな。ロポンギーはちょいと大人びすぎていないか?」
「それもまた個性だよ」
「それもそうか…………ところでよぉ、いい加減目をそらすのやめたらどうじゃ? あれ、お前の嫁じゃぞ」
「ま、まだ嫁じゃないし。このゲーム結婚システムないし」
「…………夏の大型アップデートで結婚システムを実装するんじゃないかという話があるんじゃが」
「ソースは?」
「お好み焼きが好きじゃな」
「僕はたこ焼き……じゃなくて、情報源を聞いてんだよ」
「お茶目なジョークじゃよ……まあ、ゲーム雑誌のインタビューじゃな。今後こういったものを考えていますよーというインタビューでプロデューサーが言っておった」
「マジかぁ……でも、考えている段階ならまだだと思うけど」
「たしかにのう。早くても秋、いや冬ごろかの……年貢の納め時が少し伸びただけじゃ。どのみち、保護者みたいなもんなんじゃからなんとかせい」
「あそこまで圧倒的だと思わなかったんだよ。プレイヤー相手でも容赦ねぇなあの子」
僕たちが再び画面に目を向けると、コロッセオ内で暴れまわる幼女が見えた。メニュー画面からニュースのページに移動し、そこからイベント中継を見れるのでこうして鍛冶屋のライオン丸さんと一緒にアリスたちの活躍を見ていたのだが……
『ぶっ飛ぶです!』
『速すぎるんだけどあの幼女!?』
『ちょ、やめ――ああああ!?』
『アリス殿! 少しは加減するべきではないのでござろうか!?』
『遊ぶときには常に全力で楽しむ、そうですよねお兄ちゃん!』
『炭鉱夫殿おおお! 一体何を言ったでござるかぁああ!? この子アクセル全開でござるよ!?』
『アイムウィーナーです!』
『これで8連勝ね。幸先良いわ!』
『……ディントン殿、それでいいのでござるか? なんか今、某たち幼女におんぶにだっこな大人三人の図でござるが』
『別にかまわない。私は見た目幼女だから……ごく一部を除いて』
『その乳もぐぞ』
くノ一さん、荒れてるなぁ……というか農家さんもなんでくノ一さんの胸を見て勝ち誇った顔をしたんだよ。煽っているじゃないか。
人は自分にないものを求めるからか、くノ一さんが親の仇を見るかのように農家さんの胸を凝視しているし、大丈夫なのかこれ?
「これは、今回のイベントハイライト決まったのう」
「だな」
「あと、農家さんは20過ぎなの有名じゃから結局ごまかせてないんじゃが」
「あとでいじってやろう。せめて笑い話にしてあげよう」
「笑えないんじゃよなぁ……すでに実況スレでは空飛ぶ幼女とか最終兵器幼女とか色々言われているんじゃが」
「うわぁ……やられた人たちのコメントも凄いな。気が付いたら光の線が目の前を横切って、自分がキラキラした粒子になっていたとか、戦闘開始の合図とともに壁に激突していたとか」
「受け入れるんじゃろ? ほら、受け入れるんじゃろ?」
「なんで煽るんだ……あくまでも、一緒にゲームを遊ぶだけだし」
「…………昔、とあるVRゲームがあった」
「いきなりなんだよ」
「当時は単にヘッドマウントディスプレイとコントローラーで遊ぶ、ただそれだけの代物じゃった。今のようにNPCを最低限自立行動させるだけのAIも容量が大きくなりすぎるため使えず、大勢の人が広大なフィールドで遊ぶだけの代物じゃったそうだ……」
「ドラマチックワールドオンライン、だっけ? 両親から聞いたことあるよ」
「ほう、知っておったか。NPCもいないため、アイテムの売買は自動販売機みたいなゴーレムで行い、モンスターのAIは何とか実装できていた代物」
「運営が雇った劇団員とか、経験を積むために新人の役者さんや声優さんとかがログインして、ゲーム内のキャラクターに扮してプレイヤーたちと壮大なロールプレイを行う、ってゲーム……もう10年も前にサービスは終了したそれがどうかしたか?」
「…………ゲーム、たかがゲーム。されどゲーム。役になりきって遊ぶ場だったとはいえ、会話していたのは生身の人間じゃった。多いそうじゃよ? あそこで出会って結婚した人は」
「………………知ってるよ」
「おや? 魔女さんのことすでに知っておったか」
「え、あの人もそうだったの」
「それは知らなかったということは……他にあのゲームがきっかけで結婚した知り合いが?」
「あー、あー…………うちの、両親だよ」
「…………ぶふっ」
「笑われるから言いたくなかったんだよ!」
「それだけじゃと苦笑いなんじゃが……だって、今まさに両親と同じ道歩いているでは――ッダメじゃ、腹筋がよじれる」
「ああもう! この話に関してはホント言われたくないんだって! 結局僕もネトゲにハマっている時点で人のこと言えないのは分かっているし、アリスのこと放っておけなかった時点で自分に流れる血を感じていろいろ複雑なんだよ!」
「思春期じゃのぉ」
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イベント開始から結構時間が経った。とにかく勝利数を稼ぎたいアリスたちは速攻で決着をつけてきましたが……目立ち過ぎたのかちょっと厳しい場面が続いています。
「ディントンさん、横から魔法来ています!」
「チョッキン、アハッ」
「なんでござるかその掛け声……」
血糊の付いたハサミ(正直近寄りたくないです)でディントンさんが敵を切り裂き、よぐそとさんがサムライのスキル『居合切り』でカウンターを決めていく。桃子さんはアリスたちに隙が出来たときにフォローするため、後ろからクナイで援護してくれている。
「分かっているでござるな! PVP終了後に使用アイテムの個数が戻るとはいえ、一試合ごとには使用できる回数制限がある故長引くと不利でござるよ!」
「某とて、わかっている――刀は高威力でござるが、耐久値が低い故それもぉぉぉ!?」
カウンターの体勢に入っていたよぐそとさんの前に大男が現れました。
ショートジャンプスキル。魔法使い系のスキルの一つで、アリスも出来れば使いたいと思っていたものの一つ。叔父さんには魔法使い系で使えるとだけしか教えてもらっておらず、そのうち探そうと思っていたもの。
効果は、本当に短い距離をテレポートするスキルです。
大きな盾を持っていたので、みんな戦士系の職業だと思っていましたのですが――
「盾を持っているのに魔法使いですか!?」
「ちょっと!? 初見殺しは酷くない!?」
「うるせぇ! お前らが言えることじゃねぇだろ職業詐欺軍団!」
「失敬な! よぐそと殿と拙者は見た通りでござるよ!」
桃子さん、そういう事じゃないです。あと、よぐそとさんは居合切りでカウンターを決めようとしていたところに盾を持ったヒトが割り込んで更にカウンターを決めたせいで消えてしまいました……ああ、きれいなポリゴンが舞っているです。
「幼女ちゃん、気は引けるけど――これでトドメよ!」
「、ッ」
口から、浅い息が漏れます。集中です。集中するのです……まるで時間がゆっくり流れるように感じ、周りの音が聞こえてこなくなりました。
むこうでディントンさんが、敵パーティーの一人を閉じたハサミで殴り飛ばして盾を持ったヒトにぶつけていました。咄嗟に盾の人が防御したせいで、消えて……同士討ちさせるってエグイですね。
桃子さんは……盗賊っぽい人と相打ちになってますね。これで2対2。
「まだですッ! 『バーストフレイム』!」
「炎系の無差別攻撃魔法!?」
両手足から炎が噴き出て、周りを巻き込みます。もしもどうにもならなくなったら使う最後の手段。あの盾の人が魔法を使って来たので動揺してしまったのが痛かったです。
それが無ければ、これも使わなかったのですが……
「仕立て屋奥義スキル『裁断・極』――からの、チョッキン!」
ディントンさんがチョッキンというワードで登録したスキルは仕立て屋の基本スキル『裁断』。ただ、ハサミでモノを切るスキル。そこに加えたのが奥義スキルの一つで、ハサミにあらゆるものを切れるという性質をつけるモノです。魔法も切り裂けるという、とんでもない代物です。まあ、普通はあんな大きなハサミを使っている人はいないですが。
これでアリスを倒そうとしていた人は逆に倒してやりました。あとは、盾で防御したお兄さん一人です。
「アサミンがやられた!? ……ってことは、残りは俺一人?」
「です」
「はーい、おとなしくやられてねー。時間がもったいないし」
「…………や、やってやらぁ!」
まあ、ネタがわかっていれば怖くはないのです。
ショートジャンプでアリスの死角に入った盾の人をジェット移動で更に後ろをとって、頭を掴みます。
「な――!? あの魔法はかなりMPを使うんだぞ!?」
「はい。でもアリスのこのグローブは炎の魔法のMP消費を抑えてくれます。ですので、あと一発くらいはいけるです」
そのまま、彼の顔面を地面にたたきつけてアリスたちの勝利です。
「ふぅ……残り時間、どれくらいですか?」
「もう終わりかなぁ」
「イベント3時間で25勝ですか、もうちょっと稼ぎたかったですね」
「いやいや、十分な成果だから。特に最初の方はアリスちゃんがジェット噴射で一気に4タテして瞬殺だったじゃないの」
「それでもです」
欲しいアイテムと、お兄ちゃんへのプレゼントと、あと……今回手伝ってくれたみなさんへのお礼も。まだ、そのことを素直に言うのは難しいですが。それにディントンさんにお礼を渡すのはなんか微妙な気持ちになるのです……でもまあ、感謝はしているです。
この人にだけは絶対に言いませんが。
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【進撃の幼女】イベント座談会19【俺らは死ぬ】
126.名無しの盗賊
イベント開始前は炭鉱夫さんが参加していないと聞いて、爆殺されずに済むと思っていました
始まってみれば、空を飛ぶ幼女に瞬殺されていました
127.名無しの騎士
あの幼女強すぎねぇか!?
チートじゃないだろうな?
128.名無しの魔法使い
チートじゃないんだよなぁ……現に、一回だけ倒せている組がいたし
129.名無しの武闘家
格闘系スキルを使っている人はわかるけど、スキルのおかげで無茶な動きにも対応できている。この幼女、目線はハッキリと目標を認識したうえで攻撃しているんだぞ……俺らが、目線を合わせるのも精一杯なのに
しかもなんで魔法系スキルだけで戦えているのか
130.名無しの演奏家
いや、ナックル系も使っていたぞ。職業炭鉱夫だけど
131.名無しの戦士
結局炭鉱夫一門なんだよなぁ……サムライにくノ一に農家さんで
132.名無しの盗賊
倒せている組の動きを参考にした人たち、対策とられていて草w
133.名無しの剣士
後半の方どんどん動きが洗練されていっているんだよなぁ……こう、戦いの中で成長している
動きもリアルで経験ある動きっぽいし、たぶんリアルでも相当強い
134.名無しの演奏家
才能かー、うらやましい
135.名無しの盗賊
リアルでもジェット噴射するのか!?
136.名無しの炭鉱夫
んなわけあるかいw
137.名無しの釣り人
なんでだw
138.名無しの演奏家
職業炭鉱夫が来ると、炭鉱夫さんかと思って身構えてしまう
139.名無しの炭鉱夫
気持ちはわかるけど流石にサービス開始から2か月も経っているんだから、あの人以外の炭鉱夫も大分増えたよ。普段は別の職業だけど、今はたまたま鉱山にもぐっている
140.名無しの陰陽師
炭鉱夫さんが初期に色々やらかしたせいで、変な職業増えたよなぁ……
141.名無しの盗賊
つっこまないからな
142.名無しの錬金術師
もう今更である。結局なぜ炭鉱夫さんの周りには変な人とか尖った人が集まるのか
143.名無しのネクロマンサー
類は友を呼ぶと言いますから~
144.名無しの踊り子
類友でしょうね
145.名無しの演奏家
有名人スレで情報更新されてましたね、【最終兵器幼女】の名と共に
146.名無しの盗賊
結局それで決定なのか……
147.名無しの盗賊
あれ? でもその子種族変更するつもりだったから、たぶん今より大きくなるわよ
148.名無しの演奏家
なん……だと
ドラマチックワールドオンライン(DWO)
NPCの類はおらず、運営側の用意した人たちが劇中の登場人物を演じるプレイヤー参加型の大規模な演劇みたいなゲーム。
メタい話をすると、この作品のプロトタイプ。
あと1、2話で2章が終わります。
3章はギャグ増量予定。




