その拳に想いを
桃色アリス――ポジション:裏主人公
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123.黒い炭鉱夫
ヒャッハー! 装備の完成だぜぇ!
124.髭の鍛冶師
ヒャッハー! これでパワーアップ間違いなしだぜぇ!
125.黒い炭鉱夫
ヒャッハー!
126.髭の鍛冶師
ヒャッハー!
127.服屋農家
あんたらよくそのノリ続くわね……
128.魔女は奥様
農家さんも歯に衣着せなくなりましたね
129.エルフの錬金術師
いいじゃないですか。楽しそうで
というか、いつの間に鍛冶師さんは炭鉱夫さんの島にたどり着いていたんですか?
130.髭の鍛冶師
意外と簡単だったぞ
まあ、他のクエストのついでに受けていたお使いクエストがたまたま連続クエストでアクア王国方面に行ける船に乗れる、ってやつだっただけなんじゃがな
で、途中下船して無理やり乗り込んだ
131.サムライブルー
拙者たちが大変な思いしている裏でなにしてるんでござるか
132.くノ一
でもいいのでござるか? アクア王国で降りていれば教会に立ち寄ってファストトラベル登録できるのに
133.髭の鍛冶師
いや、頑張れば大砲で行けることが証明されたから、こっちに拠点作ってからの方がいいだろう
アクア王国側からは難しいかもしれんし
134.怪盗紳士
ごもっともで
135.魔女は奥様
でもいいの? 聞いた感じだけでも大分厄介な子なのに
余計なつかれるわよ
136.服屋農家
一朝一夕ではいかない性格だろうけど、本当に大丈夫なの?
137.黒い炭鉱夫
というか原因は農家さんにもあるでしょうに
僕自身、本当はまだ子供ですし、偉そうなことを言える立場じゃないです
でも、やっぱりゲームは楽しんでやるべきだと思うんですよ。だから、その手助けぐらいはしてあげたいなって
まあ限度はありますけど、僕が受け入れてあげてそれがかなうならそれもいいのかな
138.髭の鍛冶師
ステキ!
139.盗賊団
抱いて!
140.黒い炭鉱夫
男は帰れ
141.服屋農家
その絡み詳しく
142.黒い炭鉱夫
腐海に還れ
143.魔女は奥様
…………大丈夫なのかしらね、本当
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なんだかんだで、日は過ぎていった。イベント開始も目前に迫る中、農家さんがアリスに何か言ったのかログインしていても上の空な日々が続いていた。装備を作ったはいいが、鍛冶屋さんもリアル側で色々あって今回のイベントは見送り。掲示板メンバーも魔女さんや盗賊さんなどは不参加となってしまった。
そんなある日のことだ、すでに梅雨も後半に入ったある日のこと、僕は近くのコンビニでアイスを買って帰っている途中……公園に一人寂しくブランコを漕いでいる女の子を見つけたのは。
「…………」
背は僕と比べて少し低いくらいだろうか? 僕自身、平均より少し低めなので何とも言えないが、たぶん小学生くらいの女の子――その子は、まるで楽しいことなんて何もないという風にそこに座っていた。
なぜかその子が、アリスちゃんとダブって見えて気が付いたときには彼女に声をかけていた。
「どうかしたの?」
「別に、お兄さんには関係ありません」
「確かに関係ないね。でもさ、そんなつまらなそうな顔していないでさ、楽しいことを探しに行けばいいじゃないか」
「…………楽しいことなんて、あるんですか?」
「あるよー、世の中にはいっぱい楽しいことがあるんだ」
「お兄さん……あり、あー私とそんなに歳変らないですよね? 近くの中学の制服ですし」
「まあね。そんな僕でも世の中には色々楽しいことはあるって思ってる。本を読むのでもいいし、テレビを見てもいい。星を見上げてもいい。歌ってもいい。何でもいいんだ」
結局、本人が楽しければそれでいいのだ。
もちろん人に迷惑はかけない範囲でだけどね。
「例えば僕はゲームが好きなんだ。色々なジャンルに手を出しているけど、とくに自由度が高いのが好きでね」
「……」
「一人で黙々とやってもいいけど、誰かと一緒に遊ぶともっと楽しいんだ。最近、それに気が付いた。たまたま出会った子だけど、なんだかんだ一緒にいてくれて楽しかったんだ」
「そう、なんですか……でも、私が本当にいてほしい人たちは忙しくて会えないんです。大好きなのに、お父さんも、お母さんも、大好きなんです…………わかっているんです、仕方ないことだって」
「そっか……」
「私もゲームは好きです。でも、最初は寂しさから気を紛らわせるためで……やっと見つけた好きな人も、寂しさを紛らわせるためで――」
「別にいいんじゃない?」
「――――え?」
「はじまりがどうあれ、結論を決めるには早すぎるって話。だって、君はまだ子供なんでしょ? だったら、これからどうすればいいのかを考えればいいんだよ」
悩んで悩んで、最後にハッピーエンドならそれでいい。
終わり良ければ総て良し!
「不満をぶちまけてもいい。その好きな人に自分の考えを言ってもいいし、もうちょっとリラックスしてぶちまけた方が気は楽になるかもよ?」
「そんな、無責任な……」
「そうだよ、お兄さんは無責任なの。基本、自分が楽しければいい人だからね――だから、これからお兄さんはゲームをしに行きます」
「この流れでですか!? 普通、慰めたりとかは!?」
「それは君の好きな人に頼めばいいんじゃないかな? 普通、好きな人がいたらそうするよ」
「…………そう、ですよね」
「うん。だから僕はこれでアディオス!」
「なんだかあの人――――ううん、気のせいですよね」
これは、まだお互いに気が付かなかったときの一幕。
梅雨の時期、とある晴れた日の出来事だ。
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ログインすると見慣れた天井が見えた。村の家屋の一つ。一番大きいのを修復して使っている。ここはハウジングシステムにより登録された僕の家の天井だった。
まあ、部屋が多いからアリスちゃんも間借りしているのだが……本格的に侵食されている。
家から出ると、アリスちゃんがまた上の空になっていたが僕の姿を見てこちらへ近寄ってきた。
「――――ダー、あー……」
「? どうかしたの」
「なんでも、ないです」
「いよいよ明日イベントだけど大丈夫? 結局農家さんたちと4人で組んで参加するみたいだけど」
「大丈夫ですよ。問題ないです」
「そう……それじゃあ、はいこれ」
僕は彼女の手を握ってプレイヤー間のやり取りのためのメニューを開いた。すぐにトレード機能を開き、鍛冶屋さんと一緒に製作した武器を彼女に渡す。
本当はもっと早く渡せばよかったんだが、アリスちゃんの様子が妙だったから渡すに渡せずギリギリになってしまった。今日は大分マシだけど。
「え、これって……」
「前に埋め合わせしてほしいって言っていたでしょ。あと、まあ……ちょっと困ったところもあるけど、一緒に遊んでくれたお礼かな。なんだかんだ、一人より二人の方が楽しかったからさ」
「――――」
その瞳が揺れて、色々な感情が現れる。今、この子が何を考えているのかわからないが、一つ声をかけるならいい言葉が思い浮かんだ。
「やっぱり、ゲームは楽しんでやるものなんだよ。君と会ってから半月くらいだけど、僕は楽しかったんだよ。僕は基本、楽しければいい人だからね……アリスは、どうだった?」
「――楽し、かったです…………ダーリン――ううん、お兄ちゃんと出会えて、一緒にゲームして楽しかったです。なんてことない、ただアイテムを集めたり、村のお家を直したり、畑の様子を見たり……ほんと、地味な作業ばかりで言葉にするようなことじゃなかったですけど……だれかと一緒に遊ぶのは楽しかったです」
「そっか…………だからさ、これからも一緒に遊ぼう」
「……はいっ」
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アリスのお父さんとお母さんは忙しい人です。とても忙しくて、家を空けることが多いです。
それでも少ない休みにアリスとお話ししてくれますし、アリスも二人が大好きです。でも、やっぱり寂しいものは寂しいです。
その寂しさのせいか、学校でも悪い態度で通っていました。誰かに話しかけられても不機嫌で、がやがやと騒ぐみんなが嫌で、家族と出掛けた話をしているのを聞きたくなくて――別に誰かにひどいことをしているわけではないです。でも、どこかズレているアリスは友達もできずに一人でした。
お母さんの弟――叔父さんがゲームを作る仕事をしていて、色々なゲームの話をしてくれました。そこから色んなゲームを遊ぶようになって、ゲームはアリスの友達になっていました。
そんなアリスを見て、お母さんの紹介で近くの中国拳法を教えてくれる人のところに連れて行かれてアリスは色々と習うことになりました。家の中にこもっているのはダメよと、色々怒られました……でも、学校と違うところならもしかしたら寂しくなくなるかもしれません。アリスは、いっぱいいっぱい頑張りました。
ですが、結局お母さんは悲しい顔になりました。アリスには、拳法の先生が言うには才能があるとのことで、強くなってしまったのです――それがいけなかったのです。最初は仲良くしてくれた道場の子たちも、アリスから離れていきました。
まるで、おばけでも見るかのように。
そんな時、アリスは叔父さんの作っているゲームの話を聞きました。
ゲームの世界に入って大冒険、これがアリスの求めているものだと思ったのです。そこでなら、おかしなアリスも受け入れてくれる。そう思えたのです。
ゲームは叔父さんがくれましたが、アイテムを買うのに本当のお金を使うことができないようにされました。まあ、理由はわかるのです。いくらおかしなアリスでもそのぐらいは。
でもゲームをはじめてすぐ、後悔しました。だって、おばけが!? ゾンビが!?
失礼、取り乱しました。
すぐにキャラクターを作り直してログインしても周りは真っ暗でまたおばけが!? と思っていましたが、明かりが見えたので先に進むと……他のゲームで見た、酒場? みたいな部屋があったのです。
そこで、彼と出会ったのです。最初はただ寂しいから一緒にいました。
笑った顔が可愛いと思ったのも本当です。優しくなでられるのも好きです。心が彼を求めていました――でもやっぱり、アリスにとっては寂しさを紛らわせるだけの、一人が嫌なアリスの……おかしなアリスのわがままだったのかもしれません。
「――――今、アリスは絶好調です」
「ふーん、良い顔になったわねー」
「お姉さん、やっぱりお姉さんは少し苦手です。服のことはありがとうございます。でもやっぱり、アリスは嫌な子だって言われるのは苦しかったです」
「そこまで言っていないんだけどなー」
「同じこと、です」
今アリスが身に着けているグローブはお兄ちゃんがくれたもの。お兄ちゃんが友達と一緒に、アリスのために作ってくれたものだ。
アリスの炎の魔法のMP消費を抑える赤いルビーと、魔法攻撃力が上がるようにとても手に入りにくいミスリル銀で作ってくれた【星空の鉄拳+10】、出来る限り性能強化されたそれはお兄ちゃんたちがアリスのために使ってくれた時間の結晶です。
あと、本当に苦手ですが、ディントンさんが作ってくれた【白鳥のドレス】、甘ロリ? って言うんでしたっけ……そんな感じの、正直アリスは苦手ですが性能が良いだけに文句が言えないです。
「…………お姉さん、これ最初に着た時に変な息していましたけど、いわゆる変態じゃないんですか?」
「んー? 今頃気が付いたの?」
「うわぁ……」
「ディントン殿、幼女相手になに言い出すんでござるか」
「そうでござるよ。というか、拙者も守備範囲なんでござるね……なんでござるかこのカラフルなくノ一衣装は。花魁じゃないんでござるよ」
「可愛いわよ桃子ちゃん」
「よだれ垂らしながら言わないでほしいでござる。背筋が冷える」
正直、一人で戦った方がいい気もしましたが……仕方がないです。
たぶん、一人じゃ限界があるのです。ゲームの腕には自信がありますが、一人で遊ぶような人たちと戦っても体力が持ちません。この手のイベントに一人で出てくるようなプレイヤーは、ここぞとばかりにスゴイ集中力を発揮するから、アリスには不利です。
「今回のイベントはいかに多く勝利できるかがポイントよ」
「まさか炭鉱夫殿が不参加とは……結局、古代兵器のパーツはいいのでござるか?」
「絶対に手に入れるです。まだちゃんと、お礼も言えてません。お返しも出来ていません……パーツだけなら受け渡しはできるのですよね?」
「ええ、交換不可じゃないのは確認済み」
「ならいいのです――アリスも欲しいものはありますし、この武器のお礼もしたいです……だから、根こそぎ持っていく勢いで、暴れますよ!」
PVPイベント、パーティー部門。アリス、ディントンさん、よぐそとさん、桃子さんの4人で組んだ即席パーティー。
チームプレイなんてよくわからないです。でも、今アリスは一人じゃありません――どこかおかしいアリスでも、お兄ちゃんはそのままで受け止めてくれました。
ちょっと癪ですし、何か乙女的な危機感が危険って言っているディントンさんも、ぶつかってくれました。やっぱり苦手ですけど。
よぐそとさんと桃子さんも、お髭のドワーフさん――ライオン丸さんも、当たり前のように一緒に遊んでくれます。
「今のアリスは、負ける気がしません!」
「んー、そのセリフはちょっと不安だぞー」
次回からギャグに戻ります。たぶん。
たとえるなら、ロポンギー君は兎と戦車で、アリスはドラゴン。




