呪われている!
すまねぇ、いろいろと忙しくてちまちま書いているうちに1カ月経っちまってすまねぇ。
書籍版2巻も本日発売。手に取っていただけると作者も喜びます。
女性陣+αの水着姿が表紙です。あと、作者のつたない絵心を形にしていただいたゲーム内大陸の地図が載っています。
妖怪系の敵にはとある特徴がある。
BFOの敵キャラには見た目からおおよそ見当のつく特性が備わっており、例えばゾンビなら光や炎に弱く、幽霊系の敵は物理攻撃に強い。弱点属性もぱっと思い浮かんだものが正解であるパターンが多く、攻撃時にはあまり選択肢に悩むことがないのだ。
では、防御面ではどうだろうか。獣系なら物理攻撃中心だ。古代遺跡にしたって出てくる敵は物理攻撃以外は大抵爆撃とかレーザー攻撃みたいな行動だから結構わかりやすい。もっとも、それらに対して防具が耐性を持っているかどうかは事前準備次第だ。
中には事前準備したのに耐性を超えた状態異常を付与してくるやつもいる。特にボスに多いタイプ――そう、目の前のがしゃどくろがいい例だろう。
そして妖怪系の特徴とは、大なり小なり呪い系のスキルを持つことだ。
「ニャー!? 呪われたニャ!?」
「えーんがちょ」
「えんがちょ」
「オイコラ乙女に向かってニャに言っていやがるニャ!」
「だってがしゃどくろがヒーラーを優先的に狙うせいで思った以上に苦戦しているんだもの」
最初のうちはよかった。攻撃方法が腕を薙ぎ払う、こぶしを叩きつける、黒い雷撃を落す。という3パターンだけだったので非常にターゲット管理もしやすく、万が一事故ってダメージを食らおうともヒーラーのイエローさんのおかげで問題なく立ち回れた。なんなら今までのボス戦で一番ストレスフリーだった気さえしている。
もっとも、それも奴のHPバーが半分になるまでであったが。
残り半分だと喜んだその瞬間だったのだ。がしゃどくろが咆哮を上げ、黒い波動があたりに広がったのは。そして、その場にいた全員に付与される耐性無効化のバッドステータス。
「素の防御力だけで勝負しろとか鬼畜すぎる」
「村長はもともと防御力の低い装備じゃろうが」
「種族的にも職業的にも防御力は低いから、あえて割り切って攻撃とスピードが上がるようにした。防御力は無視して」
「やだ、男らしい」
「しなを作らないで欲しいんだけど、そこの力士」
「いったいランナーBさんに何をされたんじゃろう」
「あのオカマに何かされたの前提ニャのやめてほしいんだけどニャ」
そうとしか思えないから仕方がない。きっと背後からナニかされたのだ。
その手の趣味はないのでちょっと吐き気を覚えつつ、問題のがしゃどくろだが……とりあえず動かない銀ギーさんと動けないニー子さんを投げ飛ばして囮に使う人間砲弾作戦でなんとかこちらに近づけさせないようにしつつ回復をすることはできている。
「問題はイエローさんの負担が大きすぎることか」
「あまりの外道戦法に拙者のテンションもダダ下がりなんでござるが……さすがにあの2人がかわいそうになってきたでござるよ」
「村長って時々びっくりするほど下種になるからのう」
「…………いや、案外こんニャ感じだった気がするニャ」
「「確かに」」
「ひどくない?」
「いやぁ、言い返せないと思うがのう」
「ところでそこの例の村の方々、そろそろ攻撃しないと蘇生するイエローが蘇生してもらう側に回りかねないんですけど」
レッドさんにそういわれ、喋りながらもインベントリから必要なものを取り出す作業を中断する。必要個数は移し終えていたが、予備も必要かなと時間をかけ過ぎた。
がしゃどくろの厄介な点は呪い状態になると毒のようにダメージを食らうだけでなく、範囲内の呪い状態プレイヤーの攻撃力が落ちる点にある。範囲内――すなわちボス戦フィールド全体なので遠距離から攻撃というわけにもいかない。
「ならどうするか? 答えはこれだ――いつものやつ!」
「まーた爆弾投げておるぞこの村長」
「今回はアタイたちもだけどニャ」
「んゆー? 結構なダメージが出ているねー」
めっちゃ色々さんと一緒に変なテンションで作りまくった爆弾が火を噴くぜ。いや、めちゃくちゃ固い相手とかと唐突に戦った時のためにインベントリに突っ込んでおいたこれが役に立つ日が来るとは。
こういうもしもの時のため、というアイテムや武器に限って使わないものだけど本当に使うとは思わなかった。
「ならなんでインベントリの圧迫になる爆弾を入れておったんじゃ」
「お守り的な」
「気持ちはわかるけどニャ」
「あー、最初に自分でクラフトしたアイテムとか持ち歩きたくなりますよね」
「意味はないけど、自分だけのキャラクターって感じがするんでござるよね」
と言いつつ爆弾を投げる手は緩めない面々。思いのほか効果てきめんで爆破によるノックバックが発生しているおかげでがしゃどくろがこちらに近づいてくるペースが遅くなっている。攻撃もキャンセルが発生しているらしく、雷撃の頻度が落ちた。
「案外楽勝なのでは?」
「まあ、大抵こういうパターンに入ったところで第3形態とかでるんじゃけどな」
「HAHAHA、この髭は何を言っているのかな? そんなことあるわけないじゃないか。なぁジェニファー」
「誰がジェニファーだニャ」
しかしフラグ発言というものは案外馬鹿にできないもので、ギャグで流そうとしても無駄だったらしい。
爆音とともにがしゃどくろが漆黒に染まる。同時に紅蓮の炎を身に纏い、衝撃波があたりに広がった。
「最大HPが半減したんじゃが!?」
「コンセプトは耐久潰しかな」
「嫌ニャコンセプトだニャ」
「あのー、近くにいたせいでうちのレッド他数名が消し飛んだんですが」
「無茶しやがって」
「ブルーノ、下がっておれ。ここから先はワシらの戦場じゃ」
「誰がブルーノですか。ブルーです」
「んゆー? でもさっきからなんか余裕そうじゃない?」
「確かに面倒だけど、ようはあたらなければいいだけの話でしょ」
つまりやることは変わらない。
爆破あるのみ。
「あ、待ってください!」
「どうしたんだニャ」
「第3形態は爆破耐性あります!」
なん、だと。
焦ったところで動き出した体と過ぎ去る時間は止めれない。ついでに桃子さんの暴走も。
爆弾が当たっても全然減らないがしゃどくろのHP。しかも動きも止まりはせず意にも介さない。お陰で近くにいた桃子さんは掴まれてパクリといただかれてしまった。
「うわぁエグい死に方」
「去年村長たちもベヒーモスに喰われておらんかったか?」
「そういえばそうか」
懐かしき最初のイベント。ディントンさんとともに美味しくいただかれたあの日が懐かしい。
あれからいろいろあったなぁ。
「懐かしんでいるところ悪いんじゃが、目の前にがしゃどくろが迫っておるぞ」
「そう、思えばあの時に今の海パンやろうになってしまうフラグを建ててしまったからこそ今日までわたくしロポンギーはこのような海パンマフラーをトレードマークとしてーー」
「何懐かしんでスピーチ始めているんだニャ」
「あれっすよ。現実逃避でボケに走ってるんでしょう」
「ブルータスくん、なるほどニャ」
「いえ、だからブルーっす」
それでも僅かな判定の隙間にかける。
どんな攻撃かはわからないが、これまでに見た限りでは大振りの攻撃ばかりであった。落ち着いて対処すれば回避可能なはず。
「両腕広げておるんじゃが、なんじゃろうなあの動き」
「掴みかかり?」
「んゆー? 火の玉吐くとか?」
アイツらいつのまにか距離を取りおって。
しかし、そこで見ているがいい。僕が華麗に攻撃を躱す様をな!
攻撃に身構えていると、がしゃどくろは高速回転を始め……赤黒い竜巻となって近くのものを巻き上げた。
「うわぁ!?」
「あ、村長が消えていくニャ」
「近距離範囲攻撃じゃったか」
「多分ガード不可ですね。しかも出だしが思ったより早い。予備動作覚えて対処するタイプですかね」
「みたいじゃな」
「どうする? 蘇生させるかニャ」
「たまにはそのまま放置でいいんじゃないかのう」
……秘技、セルフ蘇生。
「アイツ蘇生アイテム持っていやがったニャ!」
「アレ有料アイテムじゃなかったかの」
「無料版もあるけど……確か結構素材使う上にバッドステータスは回復しないし、最大HPの半分で蘇生じゃなかったか?」
その通りである。
なのでコンディション最悪状態で生き返ったが、まだだ。まだ終わらぬよ。
「本当の戦いは、ここからだ! 追い詰められてからの僕は怖いぞ!」
「ひとつ言いにくいんじゃけど、バッドステータス増えておるぞ」
「……え」
そういえば、ログに何か出ていたような……呪い(回復不可)? アレ? おかしいな……ポーションが飲めないや。いくら使用するをタップしてもね、視界の隅に『呪われている! このアイテムを使用することができない!』って表示されるんだ。おかしいね。
と、そこでポンポンと肩を叩かれた。ニチャァとした笑顔と共にあるたんさんが一言、僕に告げる。
「えんがちょだニャ」
「なんでだぁぁぁぁ!?」
「うわぁ、回復不可とかキツイ呪いですね」
「こちらイエロー。回復魔法も効かないからお手上げ。時間経過まで頑張って粘ってくれ」
「んゆー? 1回死んで蘇生してもらえばー?」
「無駄じゃな。蘇生した段階で呪いが発生していたということは死んでも呪いがはがれないタイプのもじゃろう。まるで頑固な油汚れのように!」
「ねえどんニャ気持ち? 今度は自分がえんがちょでどんニャ気持ち?」
「うごごごごごご……月のない夜道には気をつけろよ」
「なんじゃその唸り声。そもそもなんで身内で争っているんじゃろうな」
「んゆー? そーいうお年頃?」
「まあ、この2人はそれでいいとしてもあっちで成人女性2人も争っているんじゃけど」
「ほらー、中身は子供だからー」
「ぐふっ」
「まっすぐな瞳からのクリティカルダメージが痛いでござる」
「いや、何をいまさら。大なり小なりネットゲームにのめりこんでいる人なんてどこかしら子供な部分があってしかるべきだと思う」
「ごはっ」
「あべしっ」
「なぜそこで追い打ちをかけたんじゃ、えんが長」
「だれがえんが長だ」
失敬なあだ名をつけないでいただきたい。
まあ、そのことは一旦脇に置いておく。
まずは目の前のボスを倒さなくてはいけない。
「妙案がある人挙手」
「んゆー? 土下座でもするー?」
「モンスター相手にそんなことしたってスルーされるだけだと思う」
「いっそ全員で爆弾抱えて特攻でもしかければいいんだニャ」」
「自棄になってない? そもそも幽霊妖怪の類は物理ダメージな爆破じゃ大きな効果は見込めないし決定打にはならないから今は使えない。それは削り切れると思ったときの最後の手段だ」
「使うつもりはあるんじゃな……嬢ちゃんたちに援軍を頼む」
「侵入不可だってば。そもそもアリスちゃんはホラー系苦手だから来ないんだ……ヒルズ村最高戦力は、この戦いでは使用不可ユニットなんだ」
「安心するがいい! ここにはこのニー子様という、BFO最強プレイヤーの一角がいるのだから」
「……ほかに案のある人ー」
「スルー!?」
いや、だって……見る影もないし。不思議なポケットでも持っているなら話は別だけど、特にそんなこともなさそうだし。プレイヤースキルが死んでいる今、彼女はステータスの劣る【旅人】という名の初期職業でしかない。レベル差があるのならは話は別かもしれないが、現段階でこの場にいるプレイヤーのレベル差はそれほど大きくはない。ステータスの蹂躙もできない彼女は文字通り肉盾になってもらうほかないのだ。
「なんか残酷なことを言われている!?」
「いや、鏡見てから言うでござるよ。それよりも拙者の考案した『ドキッ、くノ一誘惑の術』を使ったほうが建設的でござる」
「ハッ! 何を言うかと思えば、その絶壁で誘惑とか笑える」
「言うてはならぬことを……言うてはならぬことをっ!!」
「なんかもう面倒だから2人で囮でも肉盾でも何でもいいからやってきて。その間に後ろから魔法乱射するから」
「もうそれでいいじゃろう。面倒になってきた」
「んゆー? 骨は拾ってあげるねー」
「なんだと!? いや、ゲームだから骨は残らな――誰だ背中蹴ったやつ!? ああ、体形のせいでバランスが取れない!?」
「ちょ、冗談でござるよね? 足をもってジャイアントフルスイングで投げ飛ばすとか――そんなの嘘でござぁあああ!? ほんとに投げる馬鹿がどこにいるでござるかぁ!?」
なお、時間稼ぎにもならずにえんがちょが2名追加されたことをここに記す。




