乙女たちの論争
ちょっとシリアス? かなぁ
2章は各キャラの心情の方がメインです。
「流石のアリスでも怒っていいと思うんです。いきなり大砲で飛ばされて、そのあと落下したんですよ。落下ダメージ洒落になってませんよ。なので、埋め合わせを要求します」
「あー、ごめんって」
「いいえ。埋め合わせを要求します。具体的には、何でもする権利を――」
「はい、埋め合わせ」
頭に手を置き、アリスの桃色の髪をなでる。まあ元々彼女が向こう側にわたってひとまず教会をファストトラベル先に登録したり、アイテムの調達などできないか試してみるつもりだったのでまた飛んで行ってもらわないと困るのだが。
こう、買収しているみたいでいやだなぁ……
「し、仕方がないですね! ここまでされたら行かないわけにはいかないじゃないですか!」
「ねえ君、ちょろすぎない? お兄さん色々心配になってくるんだけど」
「それじゃあ、行ってまいりますマイダーリン! あ、でもやっぱり埋め合わせはしてほしいです!」
「慣れてきた自分がいて怖いんだけど」
ぴゅーっとあっという間にいってしまった。しかも大砲も自分で準備して。
このゲーム、一応カルマ値あるんだけど大丈夫なのだろうか? 衛兵の邪魔をしてそのあたりどうなっているのか…………
心配ではあるが、自分の準備を進めないといけない。
イベントまでに準備が整えばいいんだけど…………そもそも僕の場合参加できるか怪しいからなぁ……アリスみたいな無茶苦茶な方法は使えないし。あのジェット噴射が使えるようなプレイヤーなんて他にいるのだろうか。女騎士さんは前にぽろっと魔法でブーストして接近する戦法を使っていると言っていたのだが……それでも空を自在に飛ぶなんて無理だろう。
なお、アリスちゃんが空を飛んでいたことに感銘を受けて、女騎士さんも自分で使おうと試行錯誤を繰り返すことになるのはまた別の話である。
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「またこれでいっぱい褒めてもらえますです。それに、その先だって色々と……キャー!」
「この幼女、まーたアクが強いでござるなぁ」
「炭鉱夫さんはそういう人を引き付ける何かがあるのではないでござろうか? ピンポイントでこの幼女がポップしたのもそんな感じで」
「桃子殿、モンスターじゃないんだから」
「普通のプレイヤーは空を飛ばないでござるよ」
サムライとくノ一が言うように、普通のプレイヤーではできないことだ。相当VR慣れしていてなおかつ、元々の素養が高くないとできない。
さらに、リアルでも体を動かした経験がある人の動きだ……格闘技をやっているタイプの。
「まあいいじゃないの。さっきは助けてくれてありがとうね。改めて自己紹介しましょう。掲示板のことは知っているみたいだし、詳細は省くわね。【服屋農家】こと、ディントンよ。よろしくね。背丈はあなたとあまり変わらないけど、これでも立派な大人よ」
「立派な大人……「何か言った?」いえ、なんでもないでござる。えっと、拙者は桃子。見ての通り【くノ一】でござるよ」
「では最後に、某は【サムライブルー】。またの名を、よぐそと、でござる」
「三人とも、よろしくです。【嫁】の桃色アリスです」
「…………こう、直接見るとなかなかパンチの強いモノがあるわね」
「大丈夫なんでござるか、これ」
「炭鉱夫殿も苦労するでござるなぁ」
だけど私たちの発言は耳に入っていないのか、幼女ちゃん――アリスちゃんは周りをきょろきょろと見回している。そういえば、この子も炭鉱夫さんと同じで【はじまりの炭鉱】スタートだったんだからまともな街を見るのは初めてなのか。
まだ1週間程度とはいえ、ゲームを始めてから初めて見た街なのだ。そりゃこんな反応をするだろう。そうなると、彼はここにたどり着いたら腰を抜かすのではないだろうか……
「ほえー、色々あるんですね。それに、きれいな街……教会が楽しみです」
「そういえば私たちもファストトラベルの登録のためにいかないとね」
「正直、このままログアウトしたい気持ちでいっぱいなのでござるが……また衛兵がやってこないかと」
「カルマ値大丈夫でござるよね? 教会に門前払いくらわないでござるよね?」
和風二人はビビっているが、そもそもこれはゲームだというに……一度指定されたエリアを出て脱獄扱いになった途端に衛兵は光と共に消えたのだ。
やはりプログラムはプログラムでしかない。いくらリアル(流石にリアルすぎるのはまずいからある程度トゥーン調ではあるけど)な体感を得られるVRゲームだとしても、私たちプレイヤー以外はただのコンピューターの演算で動いているだけのものなのだ。
だからこそ、我々プレイヤーの人間性が現れてくる……そう考えると我ながら外道だなと落ち込むのだけども。
「……ままならないものねー」
「何をそこまで思いつめた顔を。わかったでござるよ。ちゃんと教会に行けばいいのでござろう」
「そもそも怪盗殿も普通に利用できるんでござるから、気にする必要はなかったでござるな」
「では出発しましょう! 私とダーリンの結婚式の下見に!」
「…………ホント、ままならないものね」
オンラインゲームで現実の事情に踏み込むのはご法度。でも、ここはVRMMOだ。たとえゲームだとしてもそこで遊ぶ人々はどこまで行ってもリアルな人間である。たとえ可愛らしいキャラクターの姿をしていたとしても、メカメカしい見た目だったとしても、動物、モンスターなんかの人じゃない見た目だったとしても……その向こう側に人間がいて会話する以上人間関係はリアルと変わらない。
それに彼女はまだ子供だろう。倫理観がはっきりしていない子供。まあ、私自身倫理観がしっかりしているとは言えない……というかオンラインゲームにのめりこむ人は大なり小なりどこかズレている人が多い。まともな道を示せるとは思えないが、大人としてのつとめだ。
「アリスちゃん、ちょっといいかな?」
「?」
「お姉さんと大事な話をしましょうか」
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まずは用事を済ませましょうと、教会でファストトラベルのための登録を行い、市場でアイテムを買いそろえた。炭鉱夫君からお金を持たされていたようで、色々と買いそろえている。あと、浜辺に巨大な大砲を設置したのには驚いた。掲示板に書いてはあったが、本当にそれで飛んできたのか。
っていうかなんで設置できるの?
「これで良しです。ダーリンがたぶん自分で橋を作るか何かして移動できるようになると思うって言っていましたから、オブジェクト設置できるはずって言っていましたけど合ってましたです」
「改めてみると圧巻ねぇ……あと、浜辺で妙なBGMが鳴り響くのはなぜなの」
「それは警告、って聞いています。普通の方法じゃ海はわたるのは難しいから自然と警戒できるようにしておくって」
「へぇ…………でも、なんかその言い方、ゲームを作っている人みたいね? 炭鉱夫君とは別の人から聞いたの?」
「――あ」
彼女の表情が変わった。これは言ってはいけないことだったのだろう。まあ、聞いていたのが私一人で良かった。
和風カップル(本人たちは否定していたが、ここ最近はずっと一緒に行動しているあたりデキていやがると思っている)が別行動していてくれて助かった……まあ、私のクエストに付き合わせた手前、憎まれ役にも付き合わせるわけにはいかない。
今から私はこの子にひどいことを言うのだろう。だが、この子は色々と危うい。まだ子供だからこそ、誰かが言わなくてはいけない。
「…………」
「別に言いたくないのなら、それは聞かない。まあ大方の予想はつくんだけどね。アリスちゃん、結構若い――いや、本当に子供って言っていい年齢よね?」
「だ、ダメでしょうか……アリスみたいな子供がこんなゲームをしているの」
「推奨するべきじゃないんだろうけど、私も人のこと言えないからねー」
ネットゲーム自体は最近だが、小さいころに徹夜で携帯ゲームをしていたこともある。魔女さんあたりならもっとアレな体験談を言ってくれるのだろうが……既婚者として言ってもらった方がいいし、ここにいてほしかったが仕方がない。
掲示板の名前固定方法を知っていたり、ただVR慣れしているだけでは説明のつかない驚異的な動きだったり、他のプレイヤーとは違う事情があるのは間違いないだろう。まあ、うっかり言っちゃったりするところを見ると直接開発運営に関わっているわけではないだろうが。
「まだまだちょっとしかアリスちゃんとは話していないし、正直掲示板で見た限りの印象しかないんだけど……なんでそこまで炭鉱夫君にご執心なのかなー?」
「…………別に、人を好きになるのに理由がいるとは思えません。ただ、アリスの運命の人はこの人だと思っただけです」
一人称がアリスなの、キャラづくり……いや、これもたぶん素なのか。ネットリテラシーと叫びたい。まあ、それは追々教えていってあげよう…………私は嫌われそうだから他の人に頼んで。
「………………寂しかった、からじゃないの?」
「――――ッ」
私は、決定的なことを告げた。
ちょっと考えればわかる話だ。いくら好きになったからといって、異常なスピードで距離を詰めようとしている。絶対に逃がさないように、絶対に逃げられないように。
でも彼女自身リアルの事情に踏み込もうとはしていなかった。それをやっていたら、真っ先に炭鉱夫君は掲示板で相談していただろう。あくまで、ゲーム内でダーリンと呼んで距離を詰めていただけだ。それこそ彼がゲームをやめたら消えてしまうような薄い繋がり。
にもかかわらず彼女は彼に迫った。たとえ、ゲームの中だけだとしても。
「私も覚えがあるから、わかるのかなー。
直接行ったわけじゃないからわからないけど、暗い場所で一人ぼっちだと思っていたら彼に出会った反動かななんて考えてもいたんだよ。でも、私たちに会っても彼にご執心のまま。
違うんだよね? 貴女は、彼が好きなんじゃなくて一人になるのが怖いだけ――」
「――それ以上は、言わないでくださいです」
少し、肝が冷えた。
彼女の瞳は燃えていた――そう感じるだけの、熱量があった。電気信号のやり取りでしかないVR機器でここまでの感情を読みこめるのか? いや、これは彼女の想いの強さだ。
何を馬鹿馬鹿しい。そう断ずることもできるが……彼女は、彼女なりに真剣だ。
「たしかにアリスは寂しいから、一人は嫌だからあの人と一緒にいます――でも、あの人のことを好きになったこと、それに嘘はついていません。それを否定されるのだけは絶対に許しません」
「…………そっか、それならいいんじゃない?」
「って、それだけですか!?」
「まあカマかけただけだし。お姉さん的には、すぐに解決する問題じゃないとは思っているしー」
時間はかかるだろう。
確かにその熱量は本物だ。彼に好意を持っているのも本当だろう。だが、それはまだハッキリとしたものじゃない。まさしく恋に恋する少女。ただただ一方通行だ。炭鉱夫君がそれでも受け止めてくれる度量があるから成立しているだけのもの。どこかで必ず破たんする。
別にそれが悪いわけじゃない。どこかで間違いに気づいて、悩んで、大人になっていく。だけどここは人間関係はリアルであってもゲームだ。
「…………やっぱり、ゲームは楽しくないとね」
ここはみんなの遊び場だ。あまり、重苦しいものは持ち込まない方がいい。二人が自分たちの関係性に納得しているのならいいが、今のままではいけないのは傍目にもわかる。
まあ、炭鉱夫君に元気をもらったお礼ぐらいはしないとね?
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【炭鉱夫と】3分クッキング!【鍛冶屋】
1.黒い炭鉱夫
ヘーイジョニー!
今日はこの新鮮な特大ルビーと超レアなミスリル銀を用いた武器制作だ!
2.髭の鍛冶師
なんだってマイケール! そいつはまたナイスな提案じゃないかぁー!
3.黒い炭鉱夫
それでいったい、どんな武器を作ってくれるのか楽しみだぜヒャッハー
4.髭の鍛冶師
ヒャッハー! 良い感じに仕上げてやるぜぇ!
5.服屋農家
……こっちが真剣に悩んでいる裏でなにやっているんですかアンタら
アリスについての問題やらなにやらってのは2章の間にはある程度何とかします。




