たまには違うゲームでも
なにやらくノ一っぽい人が西へ東へ飛び回っているとの噂も聞く今日この頃だが、そのあたりはスルーしようと思う。決して面倒だとか、関わると気疲れするだけして変なオチが付くとか思っていない。思っていないったら思っていない。
だから、このタイミングで別ゲームをやるのも面倒ごとから逃げるためではなく、コラボアイテムが欲しいだけなんだからね! 勘違いしないでよね!
「誰に向かってツンデレしているですかお兄ちゃん」
「いや、別に」
「あれじゃな。村長はなんというかネタを挟まずにはいられない病気じゃからな」
「いつものことだけどねー」
示し合わせたわけでもないのだが、僕、アリスちゃん、ライオン丸さん、ディントンさんの4人でBFOとコラボしている同社のVRゴルフゲーム『ファンタスティック・ゴルフVR』を遊んでいる。
ミッションのクリア数に応じてコラボアイテムが手に入るので、正式サービス開始して即ダウンロードをしたわけだが……バレンタインイベントも併せて考えると、時間が足りるか微妙なところだ。
「おのれ、ログイン制限め……いっそ別機器でログインすれば」
「そもそも、ログイン時には共通コード使ってるから無理じゃろうが。脳波データも照合しておるし」
「海外でー、長時間ログインしていたせいでー、倒れた人続出したからねー。そのあたりは結構厳しくなっちゃったー」
フルダイブ系のゲームには共通コードというものが必須となっている。
あくまでも国内で使われているものなのだが、プレイヤーはまずこの共通コードを取得して、個人個人のIDとパスワードを発行しなければいけない。それを用いて、本人認証しないとログインできないのだ。そして、この共通コードでログイン時間を管理しているため、1日6時間制限を突破することができない。
「ニー子さん荒れていたなぁ……」
「ああ、あの時は八つ当たり気味にモンスターを狩っておったな」
フルダイブ系の技術は現在、医療でも使われているので下手に健康被害とか出したくはないのだろうが……いや、それはそれで正式に共通コードの利用が始まったのはここ最近の話だから、ようやく重い腰上げたなオイって言いたいけど。
「しかし……思ったより人が多いのう」
「BFOだってここまで人口密度高くないのにです」
「いや、イベントの時とか凄まじいけど」
バレンタインの男たちの挽歌とか。あのチョコ待機列は怖い。
現在僕らがいるのはいわゆるロビーに相当する場所だ。ただ、大きな施設前の広場でみんなそれぞれのびのびとしている。
「ロビーなのに外とはこれいかに」
「まあ、野良で遊ぶにしても交流しづらい場所だと組みづらいじゃろ」
「そもそも話しかけることが苦手な人もいるけどね」
「その場合はー、ランダムで組み合わせを決定することもできるよー」
「ランダムと自分でゲームを組む列だとどっちが多いですかね」
「ランダム」
結局のところそういう話になる。フルダイブとなり、よりリアリティが増したことの弊害か。割とこのあたりプレイヤー層にもかかわる話なのだけれども、リアルに寄りすぎるとネットゲーマーにありがちというか……増えるのだ。コミュニケーションを取りづらくて、他のプレイヤーと一緒に遊ぶというのが苦手な人たちが。
BFOにも多いのだけれども、会話が苦手で無言で野良パーティーでクエストやダンジョン攻略を回す人たちもいる。時たま僕もそういった人たちに混ざって遊ぶ時があるが、あれはあれで異様な空気があるのだ。
「……ねえ、ふと思ったんだけどさ…………なんか妙にみんな殺気立ってない?」
周りを見回してみると、エルフ耳とか角の生えたプレイヤーが集まっているあたりから妙に険悪というか、ひりひりするような感じがする。肌の色が普通なプレイヤーたちが多く集まっているあたりはそれほどでもないのに。
「あれじゃな。BFO組じゃな」
「ゲームのスコアに応じてー、もらえるコラボアイテムが豪華になるらしいからねー。対戦部屋に潜ってー、その成績でも入るポイントが変わるしー」
「こっちも修羅の国なのかよ」
装備品は反映されない――連動特典で以前にあったトライアスロンイベントの時に使われたBFO仕様のスポーツウェアの衣装は使える――ので、装備品がトレードマークになっている人たちは誰だか一瞬わからないし、ファンタジー感ほとんどないからBFO組かもぱっと見じゃわからないから気が付かなかった。
そうか、殺気を出しているのはBFO組か。そうしてよく見てみると、ど・ドリアさんとかマンドリルさんとか、桃子さんも殺気組にいるのが見える。なるほど、我々エンジョイ組は近づかないでおこう。
「――って桃子さんいるですよ⁉」
「あ、マジじゃ」
「僕も無意識にスルーしていたわ……なんであっち側にいるんだあの人」
「たぶんー、報酬のBFOで使えるアバターアイテム狙いじゃないかなー。桃子ちゃんのことだしー、これでよぐそと殿も悩殺でござるよ! とか言っていそうー」
「あの人色ボケですから、あり得るですね」
――え、アリスちゃんがそれを言うの? ギャグではなく、本気で?
ちょっとビビった今日この頃。ライオン丸さんもええ……って顔をしている。
「嬢ちゃん、鏡を見てみようか」
「どういう意味ですか⁉ いや、自分でも人のこと言えるのかなーって思ったですけど」
「よかった……そのあたり自覚なかったら怖かったよ」
「お兄ちゃんまでひどくないですか⁉」
「日頃の行いかなー」
「むしろ最近はツッコミに回されることの方が多いですけどね!」
そのあたりは本当ありがとう。収拾つかなくなってくると、たいていアリスちゃんが元の軌道に戻してくれるのありがたいのです。あと、一番の年下にその役目任せているあたり、僕らも顧みないとなぁとは思っているのだが……どうしてもタガが外れてしまうのである。
「外れているのは頭のねじのほうだと思うです」
「ぐふぅっ」
「なんてパンチのある一言なんじゃ……あと、ブーメランじゃぞ」
ふっふっふ……ライオン丸さんや、アリスちゃんも胸を押さえているのが見てわからんか? あれは捨て身の一撃さ……まったく、たくましくなって。
「村長もどうしたんじゃ、そのキャラは」
「最近迷走していないかなー?」
「まあそういうコントじみたことは置いておいて、とにかく遊んでみるか」
というわけで、受付から適当に設定を行いコースへ。
細かい設定を決めて遊べるらしいが……正直ゴルフのルールよくわからない。打数が少なければいいというのは分かるのだが。
「ゲームのゴルフならその程度で十分なのじゃが……無駄に本格的じゃのう」
「そもそもこの中でリアルゴルフの経験者っている?」
「インドアなメンバーじゃぞ。期待するだけ無駄じゃ」
「めっちゃ色々さんならやったことありそうですけど……ここにはいないです」
「まあ、大人なら付き合いでコンペとかあるかもしれないけどね。とりあえず適当に、お任せの設定で大丈夫か」
「まあ、長引くとあれだしー。まずは練習で行ってみてもいいんじゃないのかなー」
というわけで練習がてら1ホールだけプレイすることに。
本来ならもっと回る必要もあるんだろうけど、あくまでお試しである。それに、オンラインゲームということで結構いろいろと簡略化されている部分もあるようだ。
「使う道具は自動的に設定されます、と」
「交換も見慣れたメニュー画面からできるですね」
アリスちゃんの言う通り、宙に浮いたウィンドウからほかのドライバーとかアイアン? とか交換可能になっている。あと、メニュー画面のレイアウトBFOで見たことあるぞー。
とりあえず推奨通りのプレイをしてみようということで、打ち始めるが……さあ、ここからどうすればいい?
「目標地点はー、あそこねー」
「ほら、光の柱が見えるじゃろ。あそこにホールカップがあるからあそこにめがけて打てばいいんじゃよ。極端な話をすればより少ない打数で入れるだけでよい」
「とりあえず、先に素振りするって出ているですね。パワーゲージの調整とか項目が出ているです」
スイングの速度とか、個々人の体型に合わせてシステムの調整を行うのか。
というわけで4人そろって素振りを行う。数十秒後、調整が完了してようやくプレイできるが……まず初めはゴルフゲーム経験者のライオン丸さん。あくまでもゲームだけなのでリアルなルールまでは詳しくないとのこと。
「とりあえず、ほいっとな」
「掛け声はチャーシュー麺じゃないですか」
「アリスちゃんー、古いこと知ってるわねー」
「?」
「ほらー、村長はピンと来ていないわよー」
「そんな⁉ ちょっと古いアニメが好きなお兄ちゃんがピンとこないとかどういうことですか⁉」
いや、そうは言われても……知らないものは知らないし。むしろなんでアリスちゃんは知っているのか。
「…………日曜朝、ゴルフ中継」
「ああ。特撮見られない日か」
「見ていて何かの拍子に覚えちゃったのねー」
「番組表を見ていなかったせいで、放送ないとは知らずに映っていたあのゴルフ中継――いよいよ最終形態! というタイミングであれは悲しかったです」
「あー」
「こっちは変身アイテム片手にスタンバイオーケーだったのに……」
「少年みたいな楽しみ方しているわねー」
「…………BFOって同性婚オーケーでしたよね、そういえば」
「いや、アリスはちゃんと女の子ですよ⁉」
趣味が少年のそれなんだよなぁ。服装の傾向はちゃんと女性――いや、ほぼほぼディントンさんデザインだった。参考にならないか。
「リアルの服装はー?」
「普通にワンピースとかですよ」
「ディントンさん、判定は?」
「あるじゃないー。ネットだと変な方向にはっちゃけることー」
「ああ、わかるわかる」
「おーい、次ディントンさんの番じゃぞー!」
と、そこでライオン丸さんが声をかけてきた。いや、ゴメン忘れていたわ。というかすぐに戻ってこなかったけどどうしたの?
「失敗してあらぬ方向に飛んで行ってしまっての……池に落ちた」
「最初のホールなのに池があるのー?」
「全然違う方向ですけど、あるですね」
「……むしろなんで明後日の方向に飛ばせたんだよ」
「言わんでおくれ……ワシにもわからん」
とりあえず、池ポチャったライオン丸さん(ほぼ最下位確定)は置いておいて、ディントンさんの番だ。だが、ここでひとつ問題が発生する。
「……」
「ディントンさん?」
「胸がー、邪魔で打ちづらいー」
「…………ええ」
「リアルだと、お胸の大きな方も普通にいるですよ?」
「胸と腕の部分が干渉しちゃってー、なんかはじかれる感じがー」
「バグじゃろうか?」
「多分……どこかでプログラム打ち間違えたとかかもね」
「それならそれで成立しない気がするから、こうなるとは思わずに入れた仕様のせいかもしれんのう」
「そのあたりの考察はいいですから、とりあえず運営に報告でも入れておくですよ。で、ディントンさんは続けられるですか?」
「ちょっと体勢かえて打つねー」
そう言うと、ディントンさんは両手ではなく片手でゴルフクラブを握る。
「ルール的にどうなの?」
「魔法の呪文。ゲームだから、じゃ」
「なるほどです」
「一本打法ー!」
「普通に飛んでいったな」
「ですね……面白味もなく」
「なんじゃつまらん」
「そこのひげもじゃみたいなのは期待しないでねー」
次はアリスちゃんだが……すでに一点おかしい部分がある。
「アリスちゃん、そのヌンチャクは?」
「……ゴルフクラブに設定できるスキンです」
「なんで設定してあるの?」
「ぱ、パッケージ版特典です」
「なんで持っているんじゃ……」
「…………その、叔父さんが」
「もういい分かったわ」
「身内に開発チームおるとそういうのも貰えるんか」
「チートってわけでもないけどねー」
「性能強化されるとか?」
「いえ、見た目だけです。アリスの目からは半透明なゴルフクラブが見えていて、それでボールを当てれば飛んでいく仕様になっているです」
「で、周りからはヌンチャクにしか見えないわけか」
「スキンはそういう仕様なのねー」
アリスちゃんの言う通り、性能に差はない。だが、本人のスペックに大きな差はあるわけで……初めてとは思えぬクリティカルを決めて、なんかすさまじい音とともにボールが光の柱のもとへと飛んでいく。距離が離れたボールは宙に自動展開された画面にどうなっているか表示されるので、追跡も楽々だけれども……あ、旗にあたってカップインした。
「ホールイン、ワン、じゃと」
「しかも旗つつみでー……マジで? っていうか飛び過ぎじゃない?」
「あ、あれ?」
「……とりあえず、ヘルプからそれっぽいの見つけた。インパクトのタイミングとかいろいろと条件はあるみたいだけど、うまく決まれば通常よりもより飛ぶらしいよ。あと、角度とかも合わせればホールインワンも夢じゃないみたいな書かれ方している」
「初めてで成功させるとかこのリアルチートめ」
「人聞きの悪いこと言わないでほしいですけど……あのー、次お兄ちゃんの番ですよ」
「よし。じゃあ早速打つかー」
「待て待て待て待て」
いよいよかと思ったら、ライオン丸さんに止められた。え、何事?
「いやいや。その手に持っているものはなんじゃ」
「何って……スコップだけど」
「なんでスコップ持っているんじゃ⁉」
「どうしたのそれー」
「メールボックスに、この前のPVPイベントのお礼ってことで入っていた。今ちょうどヘルプ見て気が付いたんだけどね」
「……あ、ホントです」
「ガーディアン役のみんなに配ったのかしらねー」
「すさまじいスピードで設定したんじゃな……で、どういう意図でスコップなのか」
「プレイスタイルに合わせたクラブスキンを配ったらしいです……いや、アリスのイメージってこれなんです?」
アリスちゃんにはでかいリコーダーが渡されたようだ。
ほかのメンツだと、イチゴ大福さんは怪盗のステッキだろうし、ランナーBさんなら弓だろうか? 後でフレンドメッセージで聞いてみようかな?
「とりあえず、そのあたりのことは置いておいて――いざ!」
適当にフルスイング! 高く高く飛び上がって……あ、失敗したかも。
「飛んでいったわねー」
「……限界高度に達したりしてー」
「いや、さすがに大丈夫じゃろう」
「あ、落ちてきたですよ」
しかしその落下地点には……木が生えていて、大きな音を立ててボールがぶつかり――すさまじい速度で射出される。
「んん⁉」
「うえ⁉」
「あ、また旗に当たったー」
「ホールインワン……パートツー…………って今のはおかしいじゃろ⁉」
「今度のは間違いなくバグですね」
「……なんでそうなるの」
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