燦然と輝く何か
さて、そもそもの話BFOというかフルダイブ系のゲームにおいてログイン制限というものが存在するのは健康上への影響を考えての話だ。
死亡事件とまでは言わないが、あまりにもゲームにのめりこみ過ぎて病院へ運ばれたという話も存在している。よりリアルになればなるほど現実との区別がつかなくなり、引き際を誤る事態も予想されてしかるべきである。
だからこそのログイン制限となるわけだが……それが思わぬ副次的な効果を生み出した。
「それこそ、プレイヤー間格差の縮小ですね」
「そりゃ、毎日やりこんでいるプレイヤーでも掛ける6時間が限度なんだから当たり前だけども」
「基本的にログイン時間イコール強さなところがあるからのう」
「でもよぉ、そこの結局娶ったアホの嫁みたいに天性のバトルセンスを持つプレイヤーは何なんだよ」
「何事も例外はあるものです。そもそも、同じように時間を注ぎ込んだところで、同じ強さになるとは限らないわけですし」
「結局は才能なわけじゃな」
「というかさらっとアホ呼ばわりされている件について」
「実際アホじゃろうが」
「ひどい言い草だ」
めっちゃ色々さんの講義の中、ライオン丸さんと茶プリン(暇だからと何故か合流した)にジト目であれこれ言われているんだけど……思ったより心にダメージがある。
その恨みを目の前のイノシシにぶつけてお肉とカカオに変えた。
現在、僕たちはハラパ王国近郊の農場を防衛するクエストを受けている。いわゆるタワーディフェンス系のクエストだ。何ウェーブか繰り返される害獣の襲撃を攻略していく。
「次のウェーブが来る前に柵と罠を用意するのを忘れるんじゃないぞー」
「わかってるって……強い罠を用意したかったらポイントの高い敵を倒さないといけないけど、動きが遅いから結局こっちまで到達しないなぁ」
「自分から倒しに行けということなんじゃろうな。まあ、そいつばかり狙ったら他の敵が到達してゲームオーバーになりかねんのじゃが」
「ミニゲームに近いですが、バランスは考えられていますよね」
「おまけにこっちの装備は固定だしよぉ……クロスボウとか使ったことないんだが」
茶プリンの言う通り、このクエスト中は装備が固定化されてしまう。というか、ステータスがPVPモードと同じ特殊設定が適応されてしまうのだ。
なお、矢は無限です。あと、なぜか二丁装備。両手打ちできるから結構な殲滅速度になるし、それだけに難易度高めだけどね。
「あ、次のリトルグレイが襲撃してきたぞ」
「なんでリトルグレイなんじゃろうな」
「牧場を襲うのは宇宙人と相場が決まっているのですよ。ほら、ミステリーサークルもある」
「どこの相場じゃ」
多分、往年の名作の影響を受けたんだろう。
もっともリトルグレイとは言ったが、これでもレイス系モンスターである。見た目が宇宙人っぽいだけで、実際の設定は悪霊が周囲の害獣を凶暴化させて引き連れて襲撃しているのだが。
「ヌシが、ヌシが攻めてきたぞー!」
「あ、牧場主のおっちゃんが逃げてきた」
「確かあのおっちゃんが来たら最終ウェーブの合図だったな」
「しまった。1ウェーブ勘違いしておったな……確か、巨大なクマじゃったよな。罠の種類間違えたぞ」
「ですね……それに、クマの肩に乗ったリトルグレイが魔法を撃ってくるので気を付けないとお陀仏ですよ」
「まずはそっちから狙うべきかなぁ」
「じゃな」
そして、件のヌシが轟音とともに現れた。毒々しい色の魔法弾のおまけつきで。
登場と同時に攻撃を加えてくる手合いはまあまあいるので、得物はクロスボウではあるが、使い慣れているパリィスキルを発動して防御する――あれ? 世界がぐるぐると回っている?
「村長ォ!?」
「きりもみ回転しながら吹き飛びましたね」
「防御失敗か?」
「いや、確かに成功していましたが……あれですね。防御貫通攻撃だったのでしょう」
「あー……ドンマイ!」
「これ、若干気持ち悪くなるんだけど……」
「視界を揺さぶられたのだから、まあ当然でしょうけどね」
現実の体でリバースしていないだろうなと若干不安になりつつも、戦闘開始である。
「これ見よがしに使用可能スキル欄にパリィがあったのは罠だったか……」
「回避スキルもあったじゃろうが」
「だってスキルレベル高かったし」
このクエストで使用可能なスキル一覧をクエスト開始前に確認できるのだが、燦然と輝くスキルアイコンに目を奪われたのだ。
BFOにおいて、同種スキルでのランクの違いはアイコンの色で一目で判別できるようになっている。5段階表示で、枠の色がない、緑、青、白、金の順に上がる。なお奥義スキルは赤色となっており通常スキルと見分けがつくように設定されています。
「金色だったのにぃ……」
「まあパリィスキルのランク違いはクールタイムの短さが違うだけですし」
「防御状態が短いのには変わりないからのう……」
「緊急回避スキルは無色だったから気持ちは分かるが……よく見たらアサシンで習得するスキルだからなこれ」
ぐふっ……そうだった。いくら無色のスキルだからって上位職のスキルのほうが強力なの忘れていた……普段はスキルスクロールで習得しているから色で判別する癖がついていたのか。
「おのれ運営!」
「自分の不注意じゃろうが……で、グダグダやっている間にヌシが1匹目の牛さんを食べるところじゃけど?」
「――やべぇ!? 全軍突撃!」
「あ、そうでしたこれあまり休めないタイプのクエストでした」
「雑談には向かないよなぁ」
「そもそも雑談しに来ているんじゃなくてゲームしに来ているんじゃけどな」
それはそうなのだが、いつの間にか雑談メインになることってあると思う。というか僕らの日常だと思う。
とにかく背中のリトルグレイをボウガンで狙い撃ちし、先に倒す。魔法弾が思った以上に弾幕状態で降り注ぐので回避しつつ攻撃を加えるが……なるほど、的確に緊急回避を使ってよけろという趣旨なのか。
「緊急回避のクールタイムがいい感じにギリギリなんだけど!?」
「あれじゃろ。弾幕を避けて、角度的に魔法弾を撃ってこない近距離でダメージを与えろって趣旨なんじゃろ。そして、クマの攻撃はパリィしろと」
「今までのシューティング系タワーディフェンスから一気にガンカタゲームにされたんだが!?」
「ああ、道理で。なぜ二丁クロスボウなのに近接戦闘用のスキルが充実していると思ったら……」
「誰だこのクエストデザインしたやつ!?」
落差で対応が遅れる。
クマのスピードが思った以上に速く、眼前に爪が迫っていた。
「うおおお!?」
「お、緊急回避」
「ギリギリでクールタイムが終わったようですね」
「相変わらず悪運強いなぁ」
「目の前に巨大な爪が迫ってくるの、ちょっと怖い」
「ちょっとで済むあたり大概ですよね」
「人のこと言えんけどな。ワシらも大概慣れてしまったし」
口ではあれこれ言いながらみんな攻撃の手を緩めない。
狙いをつけてリトルグレイに集中砲火している。
「だんだんとヘッドショットが決まるようになってきたのう……HP多くね?」
「多いですよね……クリティカルも出ているようですけど、やはり特殊な設定になっていますね。一撃じゃ倒せないです」
「結構面倒だなこのクエスト……そもそも誰だよこれやろうなんて言い出したやつ」
「村長じゃな」
「村長ですね」
「なんでやりたいなんて言い出した!?」
「いや、茶プリンも乗っかってきたじゃん……単純に報酬欲しさ。ひとりだとクリアできないぐらい物量があるから4人以上推奨って言われて人集めただけだよ」
暇だったのがこのメンツだっただけである。
クリアすると遠距離武器の攻撃力を上げるアクセサリーが手に入るとランナーBさんに聞いたので、挑んでいる次第だ。
「それに、このクロスボウの製作素材も手に入るってよ」
「それはちょっと欲しいのう」
「サブ武器にいいかもしれませんが……」
「ワシもメインはハンマーじゃし、何かひとつ遠距離武器欲しいと思っておったところじゃし案外いいかもしれん」
「俺はあまり使わないけど……」
「あと、別クエストのフラグにもなっているって」
「どんな?」
「馬レース。クリアすると乗り物アイテム扱いの馬が手に入るやつ」
「あーそういう感じか……正直移動手段は欲しいな」
基本的に【遊び人】以外の職業を使わないため、移動手段に乏しいとよく嘆いているからね。BFOにおいて馬は結構上等な移動手段のひとつで、自転車系の乗り物では進めない悪路なんかも突破可能だ。
スピードもそれなりにあり、なかなか便利な代物である。
「……というか生き物タイプの乗り物はアイテム扱いではなかったと思うのじゃが」
「ペットと同じように餌などは必要ですが、インベントリに入れることが可能になりましたよ」
「まあ、そのほうが便利じゃけどな」
「リアルに寄せるか、便利なほうをとるか」
「BFOって最初、アニメ調ながらもリアルな戦闘体験を目指していなかったっけか」
「フルダイブ系だと6時間のログイン制限がありますからね。あまり移動時間がかかったりすると移動だけで1日のプレイが終わるなんてことにもなりかねませんし、それに非現実感があったほうがログアウト後にゲームとリアルを混同しなくていいと思ったのでは?」
「それはそうかもしれないけどね」
「村長、リアルよりと便利なのだとどちらをとる?」
「便利なの」
「即答じゃな」
「気持ちは分かります――あ、リトルグレイが倒れましたね」
「ようやくか」
「っていうかアンタらよく駄弁りながら戦えるな」
茶プリンにそう言われるが、君も同じように喋りながら戦えているからね。もっとも、命中精度は僕らよりは低かったみたいだが。
「慣れだよ慣れ」
「我らエンジョイ勢。無駄話しながらクエストを進めるなんて日常茶飯事ですよ」
「むしろ無言で淡々とクエスト進めるのはキツイとすら思ってしまう」
「あ、そうっすか……で、あとはクマだけどどうする?」
咆哮を上げ、赤いエフェクトがヌシのクマに付与された。どうやらリトルグレイを倒すとパワーアップする設定らしい。
とは言うものの、あとできることと言ったら……後方へ誘導して罠にはめまくって倒すとか?
「仕掛けたはいいけど、結局使わなかった罠がほらあんなに」
「敵のポップ場所がわからないまま適当に設置したせいで、見事に外した品々じゃな」
「有効活用しないともったいないですよね」
「まあ、初回プレイはそうなるよな」
「……で、どうやって誘導する?」
「うーん……あれなんてどうです?」
めっちゃ色々さんが指示したのは、クマが狙っていた牛。
「なるほど。牛をわざと罠の向こう側に押し込むのか」
「そもそも動かせるのじゃろうか?」
「やってやれないことはないでしょ」
「ただひとつ問題があるけどな」
「ほう、何かな?」
「いや、クマこっちに迫ってきているぞ」
「――村長、囮任せた!」
「骨は拾ってあげますね!」
「ああ!? 速い!?」
パリィでクマの攻撃をはじき、横ステップで何をターゲットに行動しているか確認する。
いや、熱い視線を僕に送っているからわかりやすいんだけどね。
「そもそも牛を狙うかわかんないな――」
横目でみんなが牛を押し込んでいる場所とは別のところにある罠の位置を確認する。
ゆっくりとそちらへと近づき、罠にはめられないか確認するが――罠の後ろに隠れた時点でターゲットが牛へと移った。
「まだ早いぞ!?」
「意外と動かせますが、まだポジションが悪いです!」
「ゴメン、もうちょっと粘るね!」
なるほど。狙う優先度があるな。プレイヤーが近ければそちらを狙うが、罠が近くなるとターゲットが切り替わる。
で、罠の後ろでプレイヤーが待機していると牛を狙うということか。もしくはより多くプレイヤーが集まっていた場所を狙ったか。どちらにせよ、牛を押し込んで一緒に固まれば罠にはまりそうだな。
罠があっても牛は狙いそうだし。
「よし準備完了じゃ!」
「村長、こっちです!」
「はいよー」
「で、うまくいくかどうかだが……」
クマさんまっしぐら。そして、落とし穴に落ちる。
「……気持ちいいぐらいにはまったな」
「リトルグレイはいない。すでに遠距離攻撃手段はなくなった!」
「ずっとワシのターン!」
「……快、感」
「弾幕薄いよ何やってんの!」
「反撃してこないと思ったとたんにネタを挟むね……」
「いや、言えるときに言っておかんと次に言うチャンスないかもしれんじゃろ」
「たまにはハジケたいときもあります」
「気持ちはわかる」
というわけで、その後も残りの罠にはめながらクマさんのHPを削りきって勝利しました。




