弾幕を避けるだけの簡単なお仕事
「で、結局ボスはどうしよう……」
「もうさっさと突入してツッパリを決めたい」
「適当に状態異常付与したら終わるんじゃないかしらん?」
「もういいやそれで」
というわけで、ボス部屋にさっさと侵入する。
なんかもう面倒なので勝とうが負けようが気にしないでさっさと終わらせよう。
「さーて、ゴブリンシャーマンってぐらいだから装飾品過多な感じの……」
中にいたのは、筋肉だった。
シャーマンというだけあって呪術師めいた服装はしている。禍々しい装飾品を付けたローブを身にまとい、杖を持っている悪の魔法使いと言って差し支えのない見た目だ。
だが筋肉のお化けだ。
「これもうゴブリンっていうかオーガ!」
「オーガはプレイヤー種族にいるからモンスターとして使えないのよねん」
「妖精系なんかも実装難しいらしいな。公式生放送でちょっとミスったかなってプロデューサーが愚痴ってたぞ」
「今はその裏話いらない! これ物理防御も高いんじゃないの!?」
「安心してねん! あのなりで物理防御は紙だから!」
「見せ筋かよ」
と、グダグダやっている間にゴブリンシャーマンが魔法を放ってくる。初級魔法の火球であるが……その数、100ぐらいかな? もはや壁である。
「ぬおおおおお!?」
「緊急回避連打よん!」
「まって! 【力士】遅いの! 動きが遅いの! さすがにこの物量は燃え尽きる――あ」
「ほむっとさんが一瞬で灰に!?」
「やっぱり無茶だったのよ……魔法防御なんて捨てたっておいらは構わねぇ。それがおいらの生きざまよぉなんて粋がって!」
「――人のセリフを捏造するな!!」
うぉ!? 生きてた!?
「これぞ『仕切り直し』のスキルよ! 具体的には、死亡時にHP1割で復活する!」
「クールタイムは?」
「30分!」
長いような短いような……ただ、そのおかげでほむっと仮面さんがボスの懐に入り込んだ。
「どすこい乱舞!!」
「すさまじいショートカットワードだなぁ」
ツッコミを入れつつもHPが危険域のほむっと仮面さんの回復を行う。マーメイドを飛ばしたのでこちらのバフをかけられないが……いつの間にか放たれたランナーBさんの矢がゴブリンシャーマンに突き刺さった。
「……うーん、ダメね。ハードモードは初めてだから耐性変化しているとは思わなかったわん」
「耐性変化?」
「このダンジョン、ノーマルモードだと麻痺毒とか結構有効なのに今は全く効き目がないのよん」
「あー……そういうパターンか」
「普通の毒もすぐに効果が切れちゃうし」
ハードモード化するとそのあたりも変化するのか……ダンジョンも増えまくったのでそのあたりの情報は攻略サイトで調べるのも一苦労なのである。掲示板で詳しい人に尋ねたほうが早いといわれるぐらいだ。
そもそもモンスター数だけでなく装備品などの種類もすさまじく多いから攻略サイトに情報でそろっていないと思われる。
唯一スキルだけはかなり情報が出そろっている――というか、実は公式サイトにスキル情報のページがある。なお、習得方法は自分で調べないといけない。あとやっぱり数が多いからいちいち効果を調べるのが面倒。
「とりあえずスリップは効くみたいだから転倒させますねー」
「その泡魔法便利よねん」
「状態異常扱いじゃないのか?」
「正確には部位破壊? スリップ値ってのがマスクデータで存在していて、これが一定以上になると転ぶんだと」
情報元ポポさん。
「そして泡魔法はそのスリップ値の上昇率が高い! なお、一度スリップさせるごとに次のスリップまでの数値が1.5倍ずつ上昇するので転ぶたびに攻撃しないと次まで長い道のりになります」
「あらいやだ。それならさっさと蹂躙しないとねん。スタンプスタンプ」
「しこふみしこふみ」
「足踏み足踏み」
全員で踏みつけ系スキルを連発してダメージを与える。クールタイムがなく、消費MPも少ない追撃用のスキルだ。名称や効果は微妙に違うがやっていることは同じである。
その場で何度も踏みつけることでダメージを稼ぐことができるが、動かない敵にしか当てられないので活用場所の少ないスキルだが……相手を拘束できるなら結構なダメージソースになる。なお、絵面は最悪。
「傍から見るとリンチよねん」
「それは言っちゃダメなやつ」
「最後に大技! ボディプレス!」
ほむっと仮面さんが飛びあがり、腹からダイブする体勢に入った。
巻き込まれたらたまらないと、急いで後ろに下がったが――そのタイミングで、ゴブリンシャーマンも起き上がってしまう。
「あ」
「やばいわねん」
「ノー!?」
しかもゴブリンシャーマン、まさかの魔法攻撃ではなくフルスイングによる杖での殴打。なおかつほむっと仮面さんの頭部にクリティカルヒット……うわぁ、エフェクトが紫色だよ。
「毒付与されているわねん……いや、クリティカルだから即死だけど」
「蘇生アイテムですよー」
「――俺の経験値があああ!?」
いやぁ、タイミングの悪いことで。
「でも初めて見るわねん。いつもは衝撃波での吹き飛ばしが迎撃方法なのに」
「やっぱりハードモードだと行動パターン追加されているのか」
「やられた……だけど、次は油断しねぇ! こっちはいっぱいちゃんこ食べてきたからなぁ!」
「それは意味があるのか」
「そして、俺的にはもっと激しい攻めのほうが好みだ!」
「なんでBFOにはドMが多数生息しているのか」
「VRの近接戦闘なんてドMかドSかバトルジャンキーでもないとのめり込みづらいからじゃないかしらん」
まあ確かに。アニメ調でリアルさが薄れているとはいっても、忌避感がない人がいないわけでもないからね。慣れるまでが長いプレイヤーも多いと聞く。
慣れたら慣れたでリアルに支障が出るプレイヤーもいるらしいし……いや、そういう人はどんなゲームやっても影響をうけるか?
「とりあえず、奥義で一気にケリをつけて……うん?」
距離をとるために水魔法の反動で後ろに下がろうとしたら……なんか、それがとどめの一撃になって決着がついた。
「ええ……」
「まあ、よくあることよねん。かっこよく決めたかったのに微妙な攻撃でとどめを刺してしまうことなんて」
「村長、魅せプレイも悪くはないが……マルチでそれは難しいぜ」
「わかっている……でも、自分の微妙な攻撃でとどめを刺したからこそ微妙な気分なんだ!」
「この子も結構ダメな子ねん」
「むしろあの村でダメじゃない子なんていないと思う」
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案外短時間でボスを倒したことで調子に乗ってしまったのだろう。
ひたすらダッシュで敵を殲滅しつつ、ボス部屋まで乗り込むシャトルランが開催されることとなった。
「ぬおおおお!!」
「MPが切れた!?」
「弾幕来るわよん!」
「ちょ、面はダメ! 面は避けられないから!」
道中はひたすら爆弾やら広範囲殲滅系スキルの連発などで蹴散らせたが、ボス部屋ではダブルバイセップスのポーズで控えていたゴブリンシャーマンが回避できないんじゃないかというレベルの弾幕で攻撃してくる。
しかも、入るたびに属性が切り替わるおまけつき。
「ダメ、電気はダメなのおおおお!?」
「村長がやられたぞ!?」
「あー、水属性特化だから電気には弱いのね」
厄介なのは行動パターンが完全ランダム化しているため、弾幕から弾幕につながってしまう時もある。
「緊急回避スキル、バブルスリップ!」
「って自分で転ぶのかよ」
「強制的にスリップ状態で隙ができるが、スリップの瞬間は無敵!」
「すげぇ!?」
それぞれが覚えたスキルを十全に使うことでチャレンジのたびに攻略スピードを上げていく。
次第に言葉を交わさずともお互いの動きを理解し、適切なタイミングでスキルを放てるようになった。
「……」
「次スリップ」
「りょ」
「追撃いくわねん」
最低限のスキル管理だけ合図を行い、静かに周回が進む。
「…………」
「…………今、カカオ何個だ?」
「………………1890」
「集まったわねん」
「だなぁ」
「1周あたり80個ぐらいか」
「10分前後だっけか……1周分のスピード」
「最初のうちはもう少し時間がかかっていたけれどもねん」
「もう結構時間が経っているぞ」
「ほんとだ……あ、そろそろログイン制限に引っかかる」
「それじゃあ、お開きにしましょうか。すでに日付またいでいるし」
「だなぁ……仕事行きたくねぇ」
「こっちは学校なんだけど――あ、今日体育なの忘れてた…………うぼあぁ」
「何のうめき声なのかしらん……まあ、気持ちはわかるけどねん」
「じゃあ、お疲れさまでしたぁ……」
「おつー」
「また今度ねー」
その場でログアウトをし、見慣れた自室へと戻る――って、部屋の電気消していたんだった。真っ暗で何も見えない。
時間は既に深夜。水だけ飲んでさっさと寝ようと……? リビングに明かりがついている?
なにやら母さんが電話で盛り上がっているようだが、誰と話しているのだろうか。
「お互い、大変ね……うん。無茶はしないようにしているわ。息子? 相変わらずのゲーム三昧。まあ、あのことには気が付かないあたり肝心なところで抜けてるけどね」
誰がだ。
「それじゃあね」
なんとなく、話を聞かれていたことがバレると面倒なことになるかなと思い、さっさとその場を後にする。
しかし……あのことっていったいなんなのだろうか? 直接聞いたところで教えてくれないだろうし、それに……眠気のほうが上回っている。今はさっさと眠りたい。
結局、起きるころには周回疲れが祟って寝過ごしてしまって遅刻確定となったわけである。おかげで、僕は母さんの言っていたあのことについてきれいさっぱり忘れてしまうのであった。
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