結成! newトリオ
ひとり寂しく村を離れてカカオ集めに奔走している。
結局誰も気が付かなかった悲しみを力に変えて、ひたすらにモンスターを倒していく。時折、妙な叫び声とクナイの雨が降ってきたりするので気をつけなくてはいけないが……いや、やっぱりツッコミ入れさせてもらう。桃子さんは何をしてんの?
あ、こっちを見た。
「いーっひっひっひ!」
「あ、ごめんなさい。人違いでした」
「まあ待つでござるよ村長。一緒に、カカオを狩りつくそうでござる」
「いえ、ホント勘弁してください」
目が逝っちゃってるんだけど。
いったい何が彼女を駆り立てるのか。
「最近よぐそと殿がよそよそしくて……拙者、もどかしくてついつい他のプレイヤーにカカオが渡らないように狩りつくしちゃうの★」
(ダメだ。ダンジョンに潜ればいいだけだし、そもそもひとりで狩りつくせるはずもない、っていうか普通に敵はスポーンするんだから何の意味も無いとかそういうことを口に出したらダメだ。面倒なことになるぞ)
「さあ、一緒に暗黒の世界へ行くでござるよ」
「いやホントマジで勘弁してほしいっす」
目が淀んでいるんだけど……よぐそとさんがあれこれ悩んでいる間にヤバい方向へ進化を遂げているじゃないか。付き合う前からメンでヘラの者になってしまうぞ。
あとひとつ気になったんだけど……なんか、着物の柄がドクロをあしらったものになっているんだけど。雰囲気がアレなことになって絵面がホラーなんだけど。瞳に光がないから足がガクブルなんだけど。
「いーっひっひっひ」
「そしてその魔女っぽい笑い方は何なのか」
「今は亡きみょーん殿リスペクトでござる」
「いや、別に亡くなったわけではないからね」
「ふふふ、恋愛成就の神様、拙者に力を!」
「それゲーム婚したみょーんさんのこと?」
「あと、みょーん殿の先輩ご夫婦の力を!」
「あ、うん……」
そのまま何やらブツブツと妙な呪文を唱え始めた桃子さん。
……ダメだ。このままここにいても何もできることはない。
再びセルフステルスでゆっくりとこの場を離れる。
「フハハハハハ!」
「…………もはや魔王か何かなのかな?」
これ以上関わると非常に面倒なことに巻き込まれそうだし、桃子さんの様子からダンジョンには入ろうとしていないみたいだし、適当に近場のダンジョンに挑もう。
ゆっくりとその場を離れて、一番近くのダンジョンへと向かうわけだが……今回はソロじゃなくて野良パーティーでも組もうかな。
今回やってきたのは洞窟ダンジョン。ゴブリン系や蝙蝠型のモンスターが数多く出現するスポットで、敵のポップ率がいいので今回のイベント向けの狩場だ。まあ、数人で入らないと高効率で敵が湧かないんだけどね。
入り口には簡易的な砦が作られており、そこが野良パーティーを組む人のロビーに使われている。
「うーん……誰もいない」
失敗だったかなぁと頭を掻く。そもそも行き当たりばったりで出てきただけなので当たり前と言えば当たり前だが。
と、そんなことを考えていた時だった。がっしりと左右から肩を組まれたのは。
「え、誰!?」
「こんなところで会うとは奇遇だな村長よ。一緒に、トゥギャザーしようぜ!」
「あらん。お久しぶりねん。元気だったかしらん? アチキもようやく復帰して、テンションが高まっているのよん」
「……オゥ」
力士さんこと『ほむっと仮面』さん。そして、何やら珍事が起きて数日アカウント停止だった『ランナーB』さん。変態師弟コンビに捕まってしまったようだ。
いや、僕の周り変態多すぎない?
「村長もカカオ集めにダンジョン周回するつもりだったんだよな? いいぜ、ここから先は百人力さ」
「アチキたちがきたからにはもう安心よん。快適な狩り暮らしを実現させてあげるわん」
「どうしてこうなった」
@@@
あまり触れることはないのだが、一応僕も他の職業を少しだけ遊んだことがある。例えばランナーBさんの使っている【狩人】だが、これは罠設置や弓関連のスキルなどを習得する職業だ。
自分の視界にポインターが表示される上に弾道ラインによる狙いの補助もあるので、初心者でも落ち着いて構えればそれなりに矢は命中する。
高レベルになると動き回りながら攻撃しなくてはいけないので、難易度が上昇すればするほどプレイヤー側に技量が求められる職業でもある。なので、それを使いこなしているランナーBさんってすごいプレイヤーではあるんだけど……やっぱりアクが強い。
「ラブパワー!」
妙な単語をキーワードにしてスキルを使っているし。
そしてもうひとり。ほむっと仮面さんの【力士】であるが、こちらは結構わかりやすい。
キャラクターの防御力を高める【重戦士】と、肉弾戦専門の【武闘家】。このふたつの職業を合わせたようなスキル構成になっている。欠点は俊敏値のマイナス補正がでかいことか。
攻撃を避けることを視野に入れず、肉を切らせて骨を断つ戦闘スタイルになってしまうので、これまた初心者には厳しい職業である。
あえて避けないで立ち向かうってのもなかなかできないものなのだ。そのあたり僕も含めてヒルズ村の住人は忘れがちだが。
「ウラララララ!!」
「ってラッシュ技!?」
全体的に動きが鈍い【力士】でそのハイスピードはいったい何なの!?
よくよく考えたら彼らも初期から遊んでいる組なので、BFOの特有の動きには慣れているのだ。現実とは異なり、スキルの連結や肉体へかかる負荷がないからこその力の出し方など、より素早く動くための技術はいくつもある。
高レベルプレイヤーになるほど連撃系のスキルよりも、クールタイムの短い単発攻撃スキルを好んで使う傾向があるぐらいだ。フィニッシュ技としてはいいが、隙のでかいスキルは高レベルモンスター相手には命取りとなることも多い。
「笑止! たかが緑色のちっさいおっさんごときがこの横綱様を止められるか!」
「いつから横綱になった!?」
「うーん、ゴブリンちゃんも可愛いんだけどねん。もっとこう、熱くたぎる感じのダンディなおじさまはいないかしらん」
「そっちもどういうセンスしてんの!?」
適当に敵を吹き飛ばしながらふたりの暴君にツッコミを入れる。
いや、マジで何を言い出しているのかこのふたりは。
「ここから先は我々の独壇場であーる!」
「いくわよん!」
「狩り効率よすぎるのが困る……抜けるに抜けられないんだけど」
状態異常を付与した矢を放ち、ゴブリンの動きを止めるランナーBさん。
高ダメージを叩き出せるほむっと仮面さん。
そして、遊撃と味方のHP回復が可能な僕。
「…………こんなんでもかみ合っているのがなぁ」
なんならヒルズ村メンバーで戦っている時より戦闘面においてはかみ合っている気がする。死角から襲ってくる敵に対しては矢が突き刺さることで反撃の余裕が生まれるし、そもそも動きがいいからこちらもHPの回復タイミングを計りやすい。クールタイム的にも余裕がある。
「言っておくけど村長も大概だからねん。なんでアチキたちの動きに合わせて支援と回復をタイミングよく使っていながら手の回らない敵にも対処できるのかしらん」
「え、召喚獣を使いながらなら手が回るじゃん」
「それ、腕が4本あるから作業効率2倍ですみたいなものだからねん」
そんなばかな。
慣れれば案外簡単だと思うけど。
「ふはははは! いや、それはない」
「いきなり笑ってから真顔で否定しないでほしい。怖い」
「アチキたちは村長の処理能力が怖いわよん」
「えー、お互い様だと思うけど」
「まあ、その話は置いておこうぜ。で、どうするんで?」
なんやかんやと敵を殲滅しながらたどり着いたのはボス部屋前の扉。なんで洞窟なのに扉があるんだとか言いたいことがないわけでもないが、たぶんツッコミを入れたところで意味のないことなのだろう。
「いっそ引き返してひたすら雑魚狩りもありじゃないかなと思うわけだ」
「そうねん。単純にカカオ集めの効率を考えるならば、ぐるぐると回るのもありなのよねん」
「うーん……一本道を行ったり来たりするのって、結局ある程度離れた場所に敵がポップするわけだから微妙に効率わるくないかなぁ」
「まあ、それはそうだけどな……ここのボスって厄介だぞ」
「厄介?」
「ゴブリンシャーマンなんだよ」
「……ここまで魔法系一切いなかったのに?」
まさかの魔法使い系のボスですか。あの類は遠距離攻撃を得意としているから近づくのも面倒なのである。しかも現在カカオをより多く集めるためにハードモードで挑戦しているからMPも多くなっているだろうし。
敵さんは詠唱なしで魔法を放つので、ハードモードだと弾幕化するのである。人数がいればひとりがタゲをとっている間に魔法封じスキルなどの対策をとることも可能ではあるが……今回のパーティーメンバー的に、それも厳しい。
「えっと、お互いのスキルを確認しましょう」
「アチキは弓を基本に各種トラップスキル。ほかにもいろいろとサポートスキルも使えるわねん。今の武器は弓と短剣よん」
「こちらは防御力強化のスキルを多く使い、耐久力を上げまくったうえでの近接戦闘だ。威圧やタゲ集中も使えるが……正直魔法職系相手は近づけない」
「弾幕を真正面から突破はきついか」
「物理防御力はあるが、魔法防御力はなぁ」
この力士、そうは言っているが装備は完全に物理一辺倒である。彼に向かって指をピンチアウト(スマホ等で指で広げるような動き)をして彼の装備情報を見てみる……うん。これは口ではどうするかなぁと悩んでいるように見せかけた、魔法防御力を捨て去った漢の選択であった。
「って何をみとるか!?」
「いや、気になって」
「一応マナー的にあれだから控えるようにねん。まあ、高難易度ダンジョンに集ったプレイヤーは無言で相手の装備を確認して、ダメそうなら静かにいなくなるけど」
「結構殺伐としてんですね……」
「そういう人たちは大きなイベントには出てこず、ひたすら最奥で籠っているけど」
「最奥?」
「魔王城の下の古代遺跡よん」
「……あそこ、現状一番難易度の高いダンジョンですよね?」
「そうよん」
ええ……装備を限界ギリギリまで強化しても攻略できるかわかんないなぁと思っている場所なのに、籠っている人がいるんだ。
「アチキも行ったことがあるんだけどねん。まあ、無言でひたすら狩り続ける修羅の世界よん」
「うん。僕あそこに近づかないでおくね」
「それがいいわよん」
「目が死んでるからな、あいつら」
というか、そういう人たちがPVPイベントに来ていればランキングは変わったのだろうか?
「一応、深夜帯とかに参加はしていたわねん」
「村長たちはログイン時間が合わないだろうからなぁ……BFOって時間帯で結構プレイヤーの雰囲気変わるぞ」
「へぇ」
「まあ、深夜帯はバラエティ豊かになるわねん」
「平日の昼間は濃ゆいのが多いな」
「で、夕方から夜あたりとかはアクの強い人たちが闊歩するの」
「うん。結局オールタイム変人だらけじゃねぇか」
と、ここに筆頭が自分のことを棚に上げてツッコミを入れる図が出来上がるわけだ。