面倒に思う時もある
さて、結局女性陣(桃子さんとみょーんさん不在)はヒルズ村に残ったままグダグダとディントンさんの暴走に付き合う羽目になっていてイベントが進んでいなかったわけか。
「面目ないです」
「アタイたちも頑張ったんだニャ。だけど、変態を止めるためのノウハウはニャかった……村の中だと攻撃スキルに制限がかかるし」
「普通にPVPモード起動するとかして、無理やり消せばよかったんじゃないの?」
「ここにも外道がおるぞ」
「そういうことさらっと言いますよね、村長」
「お兄ちゃん……ディントンさんが承認しないとPVPモードは起動しないですよ」
「ツッコミを入れるべきはそこじゃニャい」
前後不覚に陥ったディントンさんなら何かの間違いで承認のボタン押しちゃわないかなぁなんて思ったんだが、え? 違う? そういう話じゃない? それは失礼いたしました。
なお、みょーんさんがいないのはいつもの通りリアル的な都合である。時たま息抜きにログインすることはあれど、半ば引退のようなものなので今後は戦力的に頼りにもできない。あまり体に負担をかける遊びに誘うのも気が引けるし。
桃子さんもリアルの都合でログインしていないらしいが……レポートが、と嘆いていた。
「しかしこうしてみると、各キャラクター気合入ったデザインなんだなぁ」
とはいえ、初めて見たキャラばかりである。すぐ近くなのにアクア王国の姫であるアイリス姫も存在自体知らなかった……てっきり王様が座っているだけで特にイベントもない建物なのかと――いや、脱獄イベントはあったか。
前に他の村民がログインしていなかったときに暇つぶしに遊んだことがあるけど、それ以来すっかり忘れていたわ。他にもクエストがありそうだし、また時間がある時に潜入してみよう。隠しクエストか何かがあるかもしれない。
「そういえば村長はあまりNPCには注目しておらんかったな」
「アリスもメインストーリーはあまり触れていないですから。魔王様とはちょくちょく顔を合わせるんですけど」
「それもどうなんじゃ」
「僕は古代遺跡の番人とはよく顔を合わせるぞ」
「さんざん潜っておるようじゃが、古代兵器の強化はどこまで進んだんじゃ?」
「…………ドロップ率0.5%とかふざけてんのかと」
「レア素材が手に入らない、まあそういうものとしか」
おかげでガントレットが強化できないという悲しみ。まあ、職業を【海賊】にしている間は奥義スキルをふたつ使う戦闘スタイルなので装備はしていないんだけれども。
「おかげで装備強化がはかどって、かなり充実したラインナップだよ」
「ならよかったじゃろうが」
「でも強化したら強化したで、さらなる派生強化に探し求めていたレア素材ダースで必要になった悲しみ」
「ワロス」
「ニャーはっはっは」
「んゆー? 結局不幸なの?」
「別に強化先がなくなったわけじゃないし、用意しておいた装備セットのうちのひとつがしばらく派生強化できないってだけの話だ」
「……装備セットのうちのひとつ?」
「ああ、お兄ちゃんっていつもの水着マフラー一式たくさん持っているですよ。用途別に微妙に性能が違うんです」
「…………そういえば、たまに微妙にデザインの違うマフラー付けておる時もあったな」
「水着もカラーパターンが違う時、あったニャ」
「バンダナもなんだか普段と違うなぁと思う時がありましたけど、まさか……」
ちょっと恥ずかしくなってそっぽを向く。
「……わざわざいつもの水着マフラーと同タイプで用意しておったんか…………もしや、ディントンさんは知っておったんじゃ」
「むしろ私プロデュースよー」
「じゃと思った」
「というわけでー、全員お色直しねー」
「こやつ、いつの間に全員分の衣装を用意しておったんじゃ」
「むしろ常に用意していると思うニャ」
「ですね」
というわけで、不在のメンバー分以外のみんなの服装が変化する。アリスちゃんはブーツ(武器)がサンタ服に合わせたデザインになる。
めっちゃ色々さんは知的な学者イメージなのか、コートに試験管がついた服装になった。いや、どっちかと言うとマッドサイエンティスト? 若干スチームパンクっぽい気もする。
ライオン丸さんはバイキング風の衣装に。それ【海賊】の僕じゃダメですか?
「んー……ほらー、村長って可愛い系の顔立ちだからー」
「もうハッキリと似合わないって言ってほしかったなぁ」
「水着マフラーも大概だけどニャ」
「というか、アバターの顔立ちとリアルの顔立ちはあまり関係ないんじゃ……(まあ、お兄ちゃんはリアルも可愛い系の顔立ちですけど。ですけど!)」
「なにやら、嬢ちゃんから邪気を感じるんじゃが」
ジト目でライオン丸さんがアリスちゃんを見ている……うーむ。ガタイが良いからジト目でも妙な貫禄がある。
そしてこっちにツッコミを入れてくれたあるたんさんはというと……ベリーダンサー風の衣装。
「前と系統同じじゃん。デザイン違うけど」
「ニャぜ!?」
「ごめんー。しっくりきすぎていてー、変えようがなかったー」
「なら仕方がないな」
「ですね」
「そっちのふたりだって服装変わっていニャいニャ!」
僕はもう今更メインの服装はこれでいいかなと開き直っているが、アリスちゃんもなぜブラックサンタのままなのか。
「いえ、性能が良くて……強化失敗の破壊防止チケットもあったので強化に強化を重ねていたら、今更別の装備にするのもなぁって」
「わかる」
「わかるニャ」
「最終的に見た目よりも性能ですよね」
「私の存在意義ー!?」
ディントンさんが嘆くが、ごめん。結局のところ性能で装備選んでいるんです……たまにはファッションショーにも付き合うので。
「んゆー? ところであーしの装備はどうよ」
「らったんさんは…………ブレザーが追加、されている」
「あまり変わっていないですね」
「んゆー? さげぽよ」
「ゴメンねー。装飾を足す方向でいじれるんだけど、ベースがこれだからー」
確かに。方向性をいじれないからあまり手を加えられないのか。
らったんさんは不服そうだが、数秒後にまあいいかと切り替えていた。
「あとはディントンさん……も普段と見た目ほとんど変わっていないよね」
「そうじゃな。肝心の本人は、デザイン基本的に変わっておらんの。しいて言うなら露出度が若干上がった程度か」
「んー……ほらー、みんなを着せ替えるのは楽しいけどー、自分は対象外っていうかー、どうしても後回しになるっていうかー……ね」
「ね、って言われても」
「自分の欲望に素直になり過ぎじゃろ」
「自分でするのと、見るのは別腹! そう叫んでいた人もいましてね」
「それってお腐りになられている彼女さんの話?」
「……いえ、先日結婚しました」
「へぇ……え!?」
「いつの間に!?」
「それこそ式に呼んでほしかったニャ!? 同じ市内在住だろうがニャ!」
それも初耳なんだけど。とりあえず、こっちの知らない新情報で畳みかけないで欲しい。
「いえ、取り立てて言うほどのことでもないかなぁと」
「さらっと言われるのもそれはそれでどうかと思うニャ」
「1年近く遊んでいる間柄なんじゃから言ってくれても良かったじゃろうに……水くせぇ」
「です」
とりあえず、結婚に関しては長年付き合っている彼女さんなので言うほど驚いているわけでもないのだが――話は聞きたいなぁと口を開こうとしたら、沈黙していたよぐそとさんが顔を上げた。
なお、よぐそとさんの衣装は前の浪人風から陣羽織風のものへと変わっている。なるほど、出世したのか。
「結婚、恋人、恋愛――ぬおおおお!?」
「よぐそとさん、どうしたよ頭を抱えてのたうち回って」
「発作です?」
「ああ、思い出してしまったんですか……」
「どうしたんだニャ?」
「今更桃子さんの気持ちに気が付いたようでして」
「え、今更!?」
まあ、今更の話である。
「今更、今更と畳みかけないで欲しいでござる!」
「いや、実際今更の話じゃろうが」
「そもそも年末年始にラキスケ起こして、桃子さん嫌がらなかったんですよ。で、アレ? もしかしてって気が付いた流れなのがアレですよね」
「違うでござる! そこから更に風邪ひいて寝込んで記憶を思い出しながら、アレ? ってなったのが正解でござるよ!」
「んゆー? 結局ダメな人ってこと?」
「ぐはっ!?」
「むしろよりダメだニャ」
「たらばっ!?」
「ないわー。です」
「でして!?」
3連コンボを喰らい、倒れるよぐそとさん。女性陣が容赦ないな……ディントンさんもチョークでよぐそとさんの体に沿ってラインを引かないの。
「一定時間で消えるから大丈夫ー」
「そういう問題じゃないでしょ。よぐそとさんも右手を上げて、指をまっすぐ先へ伸ばしたそのポーズはなんなの? 止まる気はないと?」
「こ、これは偶然こうなっただけでござる……」
この人もこの人で根の部分でネタにまみれているな。
ちょっと間を置き、改めて話をする。
「そもそも気が付くの遅すぎるんだニャ」
「ぐふっ……仕方が無いでござろう! 某、ゲーム内に恋愛を持ち込むつもりもなかったんでござるよ! それに、それで桃子殿との関係性がぎくしゃくするのも嫌だったでござる」
「すでにしているでしょー」
「ぐはっ!?」
「これ以上はオーバーキルです!?」
「でもここ最近挙動不審だったような?」
「ああ、この男。自分でも何で悩んでおるのかいまいち理解しておらんかったんじゃよ……相談に乗った身として面倒じゃった」
「あがっ!?」
そうか……ライオン丸さん、お疲れさまです。
というか、そんなに悩んでいたって、何か他にもきっかけがあったのだろうか?
「……某も思うところがあったんでござるよ。前に出会った夫婦に影響を受けて」
「夫婦?」
「昔、DWOというゲームで知り合って結婚したというご夫婦でござってな。みょーん殿の先輩らしいのでござるが……」
「――あっ(察し)」
アリスちゃんが「やだっ……わたしのマネー、少なすぎ?」みたいな顔をしている。周りのみんなを見ると、あーあの時のと納得していた。
確かPVPイベントの時に会ったというふたりだっけか……そういえばタイミングは合わなくて僕はまともに会話していないんだよね。
「確かに、凄まじくキャラは濃かったが仲のいい夫婦じゃったしな」
「ゲーム婚でアレだけ仲良くしているんだったら、自分の考えに影響も受けるニャ」
「ですね。キャラは濃かったですが」
「そんなに濃かったの?」
「そうじゃの。まるで村長を見ているかのようじゃったぞ」
「……なぜ僕が比較対象にされるのか」
ただ、もうちょっと情報が欲しい。なぜか体はそれ以上聞くなと止めてくるが。足がプルプル震えそうになっている。
「結局、その夫婦ってどういう人だったの? 僕、PVPイベントで戦ったけど、それ以外はあまりかかわらなかったからなぁ……」
なぜか悪寒もしたし。まるで体が思い出すことを拒否しているかのようだ。
「ちょっと……どころではないですけど、破天荒な人たちでしたね」
「じゃな。ちょうど村長が実況解説に呼ばれていた時に村に来ておったから、会わなかったのはしょうがないが……疲れていたじゃろうな」
「そこまでキャラ濃いのか」
「ええ。村長がこのまま成長したらこんな感じかなーって人たちでした」
「あ、会いたくねぇ……っていうか僕に対して失礼では?」
「順当じゃろうが」
「ヒドイ」
「で、話を戻しますけどなんであの夫婦に出会って考えを変えたので?」
「変えたというより……某は、ゲーム内で知り合った夫婦など長続きしないと思っていたでござるよ。でも、仲睦まじい実例を知った以上は考えを改めるべきでござろう。それに、いろいろと向き合うべきとも思っておったでござるから」
「なるほどのう……」
「まあ、僕の両親だってゲーム内恋愛だったし。みょーんさんだってそうなんでしょ?」
「ええ。先輩方と再会して、思うところはあったみたいですが……」
「思うところ?」
「その先輩たち、新しくお子さんが出来たそうで、羨ましがっていましたよ」
「引き留めたとはいえ、そのうちみょーんさんも引退するだろうし」
「ええ。身重の人がフルダイブ型ゲームで寝た状態が増えるというのも良くないでしょう。すぐにやめる場合もストレスになりそうでしたし、ゆっくりと考える時間は必要ですが」
まあ、他にもユーリクリさん(盾使いの人)とその奥さんは妊娠で実際引退状態だし。あのふたりもしばらく見ていないなぁ。フレンドリストを見ると、時たまログイン自体はしているようなのだが、会わないあたりちょっと顔を出しているだけなのだろう。
「まあみょーんさんの引退はしばらく先になるだろうけど……でも、その夫婦もお子さんが増えるのか」
「も、とはどういうことじゃ?」
「いや、この前言われたんだけど、うちの母親も妊娠してね」
「…………」
「アリスさんが妙な顔をしていたのはこれですかね。いや、薄々わかってはいた事なんですけど」
「おそらくのう。たぶんそうなんじゃろうなぁと思っておったが……なんで村長は気が付いていないんじゃろうな? いろいろと符合するじゃろうが」
「みょーんの姐御も気が付いているみたいだけどニャ。バレたほうが面倒なのか黙っているみたいだけどニャ。ただ、それでも村長はいつもは察しが良いのに、ニャんでこれには気が付かニャい」
「アレじゃないですか? 無意識にシャットアウトしているとか」
「ああ。気が付いたら楽しく遊べないからかの。まあ、符合しているからこその憶測じゃし確証はないが……嬢ちゃん、知っておったな」
「――あ、アリスは何もしらないです」
「目を逸らして言う事じゃニャいニャ」
「マジかぁ……マジなんじゃな」
なぜだろう? みんなの会話を聞くことを脳が拒否している。
「? 何の話でござるか?」
「あ、コイツも気が付いておらんの」
「むしろこれに気が付いていたら桃子っちとはここまでこじれていニャい」
「それもそうじゃな」
「ヒドイいわれようでござる」
いつの間にか、僕もよぐそとさんと同じ側に立たされている、だと。
「んゆー? 何の話ー?」
「あ、もうひとりいたんじゃが」
「らったんさんですし、仕方がないですよ」
「そうじゃな」
「さげぽよ」
らったんさんは憤慨したが、やがて面倒になったのかすぐにまあいいかと怒りを収めた。
たぶん、そういうところが仕方がないと思われている理由なのだろうが……言わないでおこう。




