NPC48
今回のバレンタインイベントに抜擢されたNPCたちだが、実際のところ僕は詳しいことは知らない。
「NPC48人でアイドルグループでも作ったの? 凄まじいまでの密集具合だったけど」
「いや、そういうわけじゃないんじゃがのう」
「5人だけですよ。48人もいませんって。まあ、その5人が凄まじく人気の高いNPCたちだからこそああやって群がる肉の壁が出来上がったわけですが」
「リアルな人間にやったらセクハラじゃすまないよね」
「ある意味ホラーな光景じゃったな……女性陣ドン引きじゃろ」
「いや、むしろ女性のほうが『同性ならセーフ』とか言って過激な行動にでる事例がありまして」
「このゲーム変態しかおらんのか!?」
さすがにそういう人たちと一緒くたにされたくはない。
とりあえず、このNPCたちについて詳しく知らないので説明プリーズ。
メニュー画面からイベント情報のページを表示し、各NPCの画像を確認する。
「まずこのおっとりしたお姉さん風の人は?」
「ハラパ王国城下町に住んでいる設定のキャラクターで『ミリアーナ』さんですね。特にメインストーリーにかかわりもなく、受注できるクエストもハラパ王国近隣の低レベルお使いクエストだけという、気が付かないなら一生気が付かないレベルの立ち位置です」
「……まあ、それでもこの見た目なら気が付くか」
「じゃな」
何とも気合の入った見た目のキャラクターである。なんともたわわなものをお持ちなのも理由のひとつだろう。
「続いてはこちら、エルフの森の長老『リリア』さんですね」
「あ、話には聞いたことある。それに、前にイチゴ大福さんがコピーしていたキャラだっけか」
「ストーリークエストとかやっていると、名前だけは聞くしのう」
「私も種族はエルフですので、クエストを進める際に話しかけますから今回の5人の中じゃ一番なじみ深いです」
見た目は金髪ツインテールの美少女だが、長老と言うだけあってエルフの中でも最高齢……となると、まさかとは思うが、あの属性なのか?
「もちろんのじゃロリババアです」
「やはりか!」
「なんで村長食いついたんじゃ」
「いや、なんとなく」
「コアな人気がありましてねぇ……わざわざ彼女に会いたいがためだけにエルフの森上空から侵入しようとするプレイヤーもいるほどです」
「なんでわざわざ上空から……」
「木の上に家があるので、長老の家に下から行く場合はいくつかのクエストを攻略する必要があるんですけど、上からは普通に入れるんですよ。クエストは受注できませんが」
「あ、そういう……」
「ちなみに、侵入方法は以前に村長たちがやっていたジェットボートです」
「なんか、すいません」
「悪かったと思っておる。後悔はしていない」
「まあ、私も利用している身なのであまり強くは言いませんが。ちなみに、リリアさんですが一部クエストで共闘することがあるんですけど、すごく強いですよ。専用スキルを持っていて、大魔法を連射してきますから」
ああ、なるほど。イチゴ大福さん、だいぶ大人げないキャラ選んでいたわけね。
苦笑いで次のNPCの説明へ。
いかにもな女騎士で、気の強そうな外見をしている。名前は『アンナ・シュタイン』か。
「通称くっころお姉さんです」
「お、おう」
「うわぁ……あまり聞きたくないんじゃが」
「いやいや、おふたりの想像するいや~んな感じのアレではないですから」
「だっていかにもな呼ばれ方だしねぇ」
「そうじゃな」
「結構難易度の高いクエストを出してくるガンガー帝国の騎士なんですけど、プレイヤーがクリアできると思っていない設定がありまして……で、クエストクリアしてくるとぐぬぬって顔をするんです。で、そこからつけられたあだ名がっくっころお姉さん」
「微妙に違うような気もする」
「むしろプレイヤーがくっころさせたいからと呼び出したネーミングですね」
「鬱屈しているのう……」
「次。次行こう」
次は……何このボディスーツ? レザースーツ? を着たお姉さんは。
「『怪盗サンドラ』ですね。ランダム徘徊のキャラクターで、【怪盗】への転職を可能とするNPCのひとりです」
「あ、これ怪盗の服装なんだ」
「前にらったんから聞いたことがあるのう。転職させられた直後、ピッチリスーツにされたと」
……セクハラでは?
「あくまでもクエストのイベント上でそうなるだけで、すぐに元に戻されたそうじゃよ。他のプレイヤーには見えない状態じゃったみたいじゃし」
「一応は配慮しているわけね」
「いきなり樽に詰め込まれたりしますからね、このゲーム」
「時々、凄まじいイベント挟んでくるんじゃよなぁ」
「その話は置いておいて、このキャラはどんな感じの人なの?」
「世間を騒がせる怪盗とは、アタシのことさ――って感じで始まるクエスト群を担当しておりまして、彼女と共にダンジョンや重要施設を進んでいくんです。その相棒感のあるキャラクターから男女問わず人気が高いんですよ」
「へぇ」
「あと、イチゴ大福さんから同じ怪盗ならコピーしないんですかと聞いたこともあるんですが、特殊スキルがないので【怪盗】をコピーしたところで意味がないと言っていました」
「たしかに。【怪盗】の奥義で【怪盗】をコピーしたところでステータス一切変わらないなら意味ないな」
「まあ、そんなもんじゃろう。むしろ長老がぶっ壊れだっただけじゃ」
そのせいで【怪盗】でコピーした場合のダメージ補正に下方修正が入ったらしい。
イチゴ大福さんはより強いNPCを求めてさすらいの旅に出たとかなんとか。いや、知らんがな。
「で、最後のひとりはどんな人なの?」
「おま、村長マジか」
「さすがに知っているかと思っていましたが」
「?」
「アクア王国の姫じゃぞ」
「『アイリス姫』はアクリルチャームなどのグッズ化もされているキャラクターですよ」
「マジで!? え、そもそもグッズ化知らなかったんだけど!?」
いつの間にそんなことになっていたんだ。
「コッペンとフォフォのグッズもあるぞ」
「あ、うん。そっちはそのうち出るかなーって思っていたんだけど、アリスちゃんがそのあたりの話を聞くと不機嫌になるからあまり見ないようにしていた……って、原因それだよね」
「じゃな。嬢ちゃんと一緒にいるから無意識下でもグッズ方面の情報を見ないようにしていたんじゃろうな」
「とにかく、アイリス姫は特定のクエストを進めることで出会えるキャラクターで、水色の髪の美少女という外見もあるのですが、やはり人気の理由はクエストクリア後の行動ですね」
「行動?」
「ええ。声が小さいのでプレイヤーにお礼を言う際に耳元まで近寄ってくるんですよ。その耳元でお礼を言うという行動にやられたプレイヤーが続出して、一時期掲示板でお祭り騒ぎになっていました」
あー……そういえば前にあったな。【この思い】常世の春を見つけた【ビッグバン!】とかそんな感じのスレが乱立していた時期が。
見たら後戻りできなそうな感じがしたんでやめたんだっけ……あと、隣にアリスちゃんがいたから開いていたら恐ろしい目に遭うんじゃないかという予感がしていた。ふっ、僕の予感もなかなかいい仕事をしてくれる。
「村長、なんで足が震えておるんじゃ?」
「いや、意外と紙一重だったよなぁって。で、あんだけ人が群がっていたのってもしかして……」
「バレンタイン仕様で各NPCが特別コスチュームになっている上に、各々のイメージに合わせたチョコの渡し方をしてきます」
「アイリス姫、もしかしてじゃが……」
「言うそうですよ。耳元であいらぶゆーって」
「マジかぁ…………女性陣と別行動で良かったね。現場を見られていたら変にこじれていたかも」
「っていうか姫直球じゃな」
「あくまでもイベント限定のアレなので。本編とは関係ありませんなので」
「便利な設定じゃなオイ」
「まあ、ネトゲとかソシャゲの期間限定キャラってそういうものですし。なんなら、外部のまとめスレなんかではミリアーナさんや怪盗サンドラの通常キャラとバレンタイン仕様が同時に写っているスクショが紹介されていたりするぐらいですよ」
「ドッペルゲンガーは出会うと互いに消滅するという」
「ゲームじゃから関係ないけどな」
「らったんさんは面白がってミリアーナさんに姿を変えて『んゆー? 本物はだれかなー?』とかやっていました」
「さらに増えるのか」
「イチゴ大福さんも加われば4人になれるの」
「いっそみんなで【怪盗】に転職して全員同じ顔にすればいいんだ」
「……ある意味ホラーですね」
というからったんさんはいつの間に奥義習得していたんだ……いや、あの人はあの人でミラクル起こすタイプだからなんやかんやあった末に習得したのだろう。
「それ、いつもの村長じゃからな」
「やはりナチュラルボーンコメディアンか」
「失敬な。僕のどこがナチュラルボーンコメディアンなのか」
「鏡見てから言え。UMA面が映っておるから」
「ライオン丸君も人のこと言えませんけどね。正直そのメイド服視界に入れると笑いそうになるんですけが」
「めっちゃ色々さんもね。サメの着ぐるみ幅とり過ぎだし」
「「「HAHAHA」」」
閑話休題。
「で、バレンタインのクエストを受注したわけだけれども、具体的にはよくあるパターンなわけね」
「ええ。モンスターを狩って狩りまくってカカオを集めて彼女たちに納品し、チョコを貰うというものです。また、様々なアイテムとも交換可能ですよ」
「カカオ収獲祭か……」
「しかし、カカオ豆じゃなくてカカオなんじゃな」
「どうせインベントリに直接入るわけですし、取り出して現物を眺めるわけでもないのでどちらでもいいですけどね」
「そんな身も蓋もない」
「…………今思ったんじゃが、自分でモンスターが落としたカカオを集めて、それをチョコにしてもらって食べるわけか……業者へ発注しているかのようじゃな」
「嫌な言い方を……」
「モンスターの落としたカカオ、どこが出所なんでしょうね」
「そこ気にしちゃいけないところだってばよ」
「ツッコミを入れるだけ無駄な部分じゃな。考えるな、感じろ!」
「とにかく、さっさと適当な狩場に行ってカカオ集めようか。交換アイテム回収するぞー」
「幸いなのはボックスガチャじゃないことですよね」
「それやったらBFOが修羅の国になっておったぞ」
豪華アイテムとチョコは景品に含まれていますが、ランダムです。
そんな仕様だったら暴動が起きていたかもしれないな……最後は運だよりとか。
「いや、むしろ空になるまで回しておかわりを要求するかと」
「普通ならそうだけど、フルダイブ系ってログイン時間制限あるし」
「どうしても限界はでるじゃろ。ソシャゲと違ってながらプレイもできんし」
「それもそうですね。まあ、現状でも修羅の国ですが」
「それな」
放心状態のよぐそとさん(クエストの受注はできた)を引き連れてフィールドに出てみたのは良いんだが……あちこちでモンスターを虐殺するプレイヤーの姿が見られる。なお、凄まじい速度でモンスターが再生成されているせいか、微妙に強化されたモンスターが増えてない?
「同じ場所でモンスターを狩り過ぎると、徐々にですがモンスターが強化される仕様が新年から加わりましてね」
「また新要素かよ」
「狩場独占防止策かの?」
「ですね。クリティカル率も上昇するので即死する可能性が増します」
「だから周囲のモンスターがプレイヤーの頭を執拗に狙っているのか」
結構な光景だよ。小動物が殺意にあふれた動きでプレイヤーの後頭部めがけて飛び蹴りかましているの。
プレイヤーたちもそれを予測してあるものは大剣を、あるものは杖や弓などでパリィを決めている。
「さ、殺伐としているなぁ……」
「今回は別にどこで狩ろうがカカオは手に入るんじゃけどなぁ。ただただ過労になるだけじゃぞ」
「なんで今ワザと韻を踏んだ」
「なんとなく」
なんとなくなら仕方がない。
で、どこに行く?
「適当なダンジョンでいいじゃろ、もう」
「じゃあ慣れ親しんだところでいいでしょ」
「ですね」
「……」
というわけで、散々周回しまくった海底神殿へと向かうのであった。
あとよぐそとさん……大丈夫なのか? 無言が続いているんだけど。




