仁義なき女子会HYPER
前回のアリス側の出来事。
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何やら妙なことになったと、アリスは思うです。
アリス的にはゲーム内で結婚したところで今までと何も変わらないですから、ゆろんさんとかゆろんさんとか、ゆろんさんのせいで面倒なことになる前にさっさとゴールインしておいたほうがいいと思っただけですのに、乙女的にノー! と皆さんが叫びだしてあれよあれよという間に女子会が始まっていました。
というか、みょーんさんまで駆り出されているですけど、フットワーク軽すぎないですかね? 数分でやってくるって……暇だったですか?
「女子会と聞いてきただけよ」
「答えになってないです」
というか、続々と集まりすぎではないですかね?
ヒルズ村メンバーだけでなく、ニー子さんや銀ギーさん。ど・ドリアさんやらむらむさんに、ディントンさんの友人まで来ているです。そして、なんで皆さんでアリスを取り囲んでいるですか。逃げ場がないです。
「これがサザンクロスの陣よ。こうすることで四方八方をカバーできるの。NPCが自動加入するクエストで使われるんだけど、厄介な動きしかしない味方NPCをこうして取り囲んで動けなくすることで、不利な状況に陥らないようにするわけね」
「真の敵は身内にいたです」
「本当だニャ。なんでサポートNPCがプレイヤーの動きを悪くする働きしかしニャいのか」
「そっちじゃないですよ。アリスが四面楚歌な状況のことを言っているです」
「そもそもの話ー、こんなにあっさり結婚とかいいのーって聞きたいんだけどねー」
「今までのラブハンターとしてのアリス殿はどこに行ったのでござるか!?」
「それ、去年の黒歴史ですからさっさと忘れたいんですけど!? 人のうわさは75日なんですよ!? とっくに3桁日数はいっているのにまだ忘れてないです!?」
「アタイたちとしては、アリスちゃんがそんなにあっさりゴールインして流れで大きニャイベントをスルーしていることのほうが驚きだニャ! それでいいのかニャ!?」
「そうでござる! アリス殿、盛大に結婚式を挙げることこそ乙女の本懐でござるよ!」
「ええぇ……」
みょーんさんがその後もいじられ続けているのを改めて知ったですから、アリスも後々困ることをしたくないだけなんですけど。
ちょっと緊急招集とか言い出しただけで続々とプレイヤーが集まっているこの光景を見たらアリスの判断も間違っていないと思うです。なんで見知らぬプレイヤーまで集まっているですか。暇なんですか?
この調子で結婚式やろうとか言い出したら、それこそクラーケン戦の時のように人が集まることになるです。さすがのアリスもそれは恥ずかしさで死ねるので。
「ほら、ここの教会とかどうでござる? なかなかいい雰囲気でござるよ。思い出に残るでござるよ」
「いや、桃子さんスクショを次々に繰り出さないでくださいで欲しいです。アリスにはアリスのペースがあってですね、最初の頃を蒸し返すのは本当勘弁してください」
「まあ確かに、あまり盛大にやっても困るわよね」
みょーんさんの実感のこもった一言が耳に残るです。
「姐御! それでも、女の子の思い出はどうするのでござるか!?」
「いや、これゲームだし。ある意味練習みたいなもんなんだから、そういう思い出作りは本番に残しておけばいいじゃないのよ」
「アタイ達も騒ぎたいだけニャところあるけどニャ」
「私はー、なんとかウェディングドレス作りたかったんだけどなー。あまり凝り過ぎたものはーシステム的に作れないっぽいからー、どうにか試行錯誤してーってやりたかったー。まあー、それはそれでー趣味の範囲で頑張るけどー」
……あ、結局着せ替え人形にはされそうです。ディントンさんがこっちをロックオンしているですよ。というか、やっぱり騒ぎたいだけだったですね。良かったです。なんとなくそうなんじゃないかなーと思っていたですし、思い出どころか笑い話になるところだったですよ。
「しかし、和な感じの施設もあるでござるよ。実際、そう何度もやるものではないでござるし、BFOで結婚式の予行演習、いかがでござるかな?」
「まあ、実際DWOの時に現実世界のイベントなんかの予行演習を行うなんてこともあったけど」
あ、その話知っているです。
元々ゲームというよりVR空間による大規模シミュレーターだったDWOでは、様々なロケーションの舞台が整えられていて、子供の運動会やらアイドルの握手会、町内会のお祭りなんかの小さいイベントなどなど、本当に様々な状況で人が動く場面を再現するとどんな負荷がかかるのかーとかテストしていたって話です。しかも実際に人がログインしてキャラクターを動かしてテストしていたのだから驚きですよね。
ゲームとして展開していたのは、そのシミュレーターを動かすための人手不足解消のためだったとかなんとか。
「ほら、どうでござるか!?」
「いやどうでござるかと言われても……」
桃子さん、なんでそこまでプッシュするですか。
なんだか妙だなぁとは思うですけど、あまり深く突っ込むとそれはそれで面倒な予感がするですが……ええい、女は度胸です。それに、桃子さんが妙な行動をする原因はひとつしかないですね。
「……桃子さん、よぐそとさんとなにかあったです?」
「な、なぜそう思うのでござるか?」
「いや、だって……ぐいぐい押してくるですから。別にアリス的には現状でも十分いいかなーって感じですし、そもそもお兄ちゃんもアリスの気持ちは知った上で、ゆっくりでもちゃんと答えてくれるから――もしかして、よぐそとさんと何かあったから、現状打破でアリスをたきつけて利用しているんじゃないかなーって」
「いや、さすがの桃子さんもそこまで外道ニャことはしニャいハズニャ」
「……(滅茶苦茶汗が流れ出ている)」
「外道だったニャ!?」
「やっぱりですか」
「うわぁー、引くわー」
「ディンっちー、メチャいい笑顔」
「あ、ごめんー。面白さが隠し切れなくてー」
「……ハァ。で、なにがあったんだニャ」
「――――結婚システムが導入されて、よぐそと殿に『どうでござるかな?』って突撃したでござる」
「なんです!? え、いつもは最後の一押しが出来なかった桃子さんが突貫したですか!?」
「今年一番の衝撃ー」
「マジかニャ」
「まだ今年始まったばかりでござるよ!」
「そこ、じゃないよ、論点」
「んゆー? なんでアリスちゃん巻き込むのかなー? もしかしてフラれたとか? マジ受ける。ようこそ、独り身の世界へ」
「WELCOME」
うわぁ……らったんさんとらむらむさんの瞳からハイライトが消えたです。っていうか、もっとたどたどしい喋り方ですよねらむらむさん。なんでウェルカムの発音そんなにすごくいいんですか。
「違うでござるよ! ちょっと挙動不審で目をそらされただけでござる! 年末年始に一緒にダンジョン攻略していたら、よぐそと殿が足を滑らせて、拙者の胸元にダイブしてからぎくしゃくしているんでござるよ……ハァ。村長たちのおかげで気分転換自体はできていたでござるが、恋愛をにおわせる話題を出したせいでまた元の木阿弥に」
(むな、もと?)
「そこー。拙者に胸元とかないって思っているでござろう……」
「っていうか、よぐそとさんの最近の様子からしてすでに冗談か何かと思われていると思うです」
「ぐはっ!?」
「アリスちゃん! いくら事実でもオブラートに包まなきゃいけないことぐらいあるニャ!」
「……おぶ、なんです?」
「最近の若い子はオブラートって言われてもわからないわよねー」
「そうですよね。っていうか、我々の世代でもわからない人多いですよ。オブラート」
あの、みょーんさんと銀ギーさん。ふたりで納得していないでそのオブラートが何なのか教えてほしいですけど。
「簡単に言えばー、でんぷんで作った薄い膜のことー。粉薬を飲む時とかにー、くるんで使うのー。でー。その例えでー、言いづらいことかを穏便な形で言ったりすることって意味合いがあるのー」
「あ、そうなんですか」
「最近見なくなったわね、オブラート」
「そうだニャ……あ、でもボンタンの飴はオブラートで包んでいるニャ」
「ああ、そういえばそうね」
「あー、あれがオブラート何ですか。何だか変わった包みだなーとは思っていたですけど」
「なんでアリスちゃんはボンタンの飴は知っているんだニャ」
「いや、普通にスーパーとかコンビニで見かけることあるですよ」
「売っているっけー?」
「場所によるけど、無くはないんじゃない?」
「えっとー、コンビニやスーパーで見たことある人ー!」
銀ギーさんがいつの間にか集まったオーディエンスたちに質問しているです。で、ちらほらと手を上げている人がいますね。聞こえてくる会話から「ほら、あのレトロな箱の!」とかいうセリフが聞こえてくるあたりそもそも話題の品が何なんなのかわかっていない人が多数いるみたいですが。
「駄菓子、そもそも名前を知っている人が少ないのかしらね」
「やっぱり女性ニャらもっとシャレオツニャものを頼みたがるんじゃニャいのかニャ」
「どういう目線かなー。そもそもの話、そういう人はネトゲに入り浸らないと思うのー」
「それも偏見だと思うですけど、おしゃれなカフェでケーキとドリンクを買うのと、ゲーム内課金ならどっちを選ぶです?」
「「「課金」」」
「……聞いたアリスがバカだったです」
ちなみに、アリスたちがこうして話している横で桃子さん、らったんさん、らむらむさんがPVPモードで争っているです。そもそもなんでみんなが集まったのかすら忘れているんじゃないですかね? これ。
「よし、ここまで来たらボンタンの飴って知ってるか掲示板でアンケートとりましょう!」
ほらぁ。結局ボンタンの飴の話になっているじゃないかです。
と、そこで運営からの緊急のお知らせが……って緊急メンテですか。何か重大な不具合でもあったですかね?
「あちゃぁ。時間切れか。さすがにアンケートやっている時間はないわね」
「また後日だニャ」
「そうよねー。じゃあ、今回はまたお開きねー」
「シーユーアゲイン!」
「ぐぬぬ。こうなったら『テキサスグラップラーV』で決着つけるでござるよ!」
「んゆー? 望むところ」
「負ける、気が、しねぇ」
あー、たしかVRの格ゲーでしたね。アリスはあまり趣味じゃないので持っていないですが。
「――グラップラーが何を言っているのよ」
「別に好きでグラップラーやっているわけじゃないですからね!? 一番戦いやすいスタイルがたまたまそれだっただけですよ!」
とりあえず、そんなわけであまりサーバーに負荷をかけるのもいけないので皆さん続々とログアウトすることになりました。
……あと、翌朝SNSでボンタンの飴がトレンド入りしていたのにはさすがに驚いたです。
というわけで、10章の導入でした。
前回更新し忘れていた10章のタイトルもしれっとつけています。