くーやーしーいーでーすー
「くーやーしーいーでーすー!」
以上、村に戻ってきて開口一番にアリスちゃんが叫んだセリフである。
まあ気持ちはわかる。というかふたりともやっているゲーム違くない? 無双系のボス戦PVでも見ているのかなと思ってしまったぞ。
「それでも、お兄ちゃんなら仇をとってくれると信じているです」
「いや、無理だから。僕は事前にアイテムやら準備して自分の土俵に持ち込んで戦うタイプだから。ルール上制限のかかるPVPじゃ勝ち目ないから」
「そもそも反応速度で追いついておらんからの」
目で追うのがやっとだよ。
そもそも今までトップクラスのプレイヤーと戦えていたのは資材的に優位だったのと、スタートダッシュでレベル面が上回れていたからだ。今となってはどちらも意味がなく、後続のプレイヤーにも追い抜かれる日々なんだよ。
「いや、どの口が言うんじゃ。今も意味の分からないプレイヤー筆頭じゃぞ」
「ヒデェ」
「村長の強みは単純なスペック以外の部分じゃろうに……じゃからこそ、嬢ちゃんとタッグを組んだ時が恐ろしいんじゃが」
互いの弱点をカバーできるからね。今回のガーディアン先行アイテムで種族変更アイテムを使わせてもらったのも、ハンデを増やさないとマズいかなーと思ったからである。これでも自重はしているのだが、防衛成功しちゃったからなぁ。
なお、アリスちゃんはまだ落ち込んでいた。そしてボソッと呟く。
「危ない場面もあったと思うですけどね」
「まあ、確かに」
「……危ない、場面も、あったと、思うですけど、ね!」
アリスちゃんがむーとうなりながら頭をぐりぐりと押しつけてくる。いや、ゴメンって。慰めてほしいんだろうなーとは思ったけど、ちょっと楽しくなってからかってしまった。
とりあえず頭をなでておいて、機嫌をとる。
「しかし、みんなは元気にやっておるかのう……」
「懐かしむ様に言っているけど、実際のところ脱獄クエストやっているだけじゃん」
そうなのだ。先ほどログインしていない和風コンビ以外のみんなからメッセージが届いたのだけれども……なぜか全員で脱獄クエストをやっていた。発端はディントンさんらしいのだが、囚人服がどうのこうのと言っていたな……たぶんクエスト限定の防具とか見つけたから他のメンバーを巻き込んだとかそのあたりだろう。
「巻き込まれなくてよかったよかった」
「ヒデェ言いようじゃな」
「じゃあライオン丸さんも行ってくれば?」
「はっはっは。冗談はよしこちゃんじゃぞ」
「うん、だいぶ古いネタだね」
「アリスもかろうじて、昭和ごろのネタとしかわからないです」
僕も同じだから。
「ワシもそうじゃよ」
「じゃあなんで使ったし」
「なんとなく」
「あ、そうですか……」
「まあネットサーフィンしていれば、妙に古いネタとか知る機会はあるけどね」
「そして気になったネタを使い、古いネタがなぜか再ブレイクすることもある」
「人の歴史は繰り返すのですね」
「そんな壮大な話でもないけどね――って、なんで古いギャグについて語らなければならないのか」
「知らんがな」
というか、イベント真っ最中だというのに僕らはなぜこんなところで駄弁っているのか。
「そもそも欲しいアイテムは交換終わったのかの?」
「終わったよ。回収したいものは集め終わったし、あとは適当にゆるゆると」
「今回は最強への挑戦も失敗に終わったですし、次のための糧としたいと思うです」
「村長はまだいい。嬢ちゃん、思考がバトルジャンキーになっておらんか?」
「次は勝つですよー!」
「聞いておらんし」
「まあ、負けて落ち込んでいるよりはいいでしょ」
さてと……僕のほうも何か決め手を考えないとなぁ。奥義の同時使用はMPがゴリゴリ削れるし。制限のかからない場所ならペットのミナトを出してMP回復薬を使ってもらうのもアリだけど、高難易度ダンジョンとかだと使用に制限がかかるから……自動回復分じゃ追い付かないからなぁ。
そうなると、奥義のMP消費を抑える装備とかシールを探すか? いや、そういった効果のあるものは見つかっていないし、実装されている保証もないから探すだけ無駄のパターンもあるから博打にしかならない。
「……博打かぁ」
「何かよくないことを考えているな、そこの終生チャランポランの少年よ」
「なんだよその称号」
ライオン丸さんから不名誉な呼ばれ方をするが、否定はできない。
魂は遊び人の形をしているから。
「とりあえず、アリスはちょっと鍛えてきますね!」
「まあ、頑張ってほしい」
「で、どこへ行くんじゃ?」
「はい! 魔王様へ挑んできます!」
「――――は?」
ライオン丸さんとふたり、目が点になる。え、何言っているのこの子?
唖然とする僕らを横に、アリスちゃんは決意を口にする。
「最強の座を目指すには……今のぬるい修行じゃダメなんです。もっと過酷な環境に身を置いてこそ、強さが身につくんです!」
「いやいやいやいやいやいや!? だからって魔王城!?」
「何を考えておるんじゃ……」
「魔王城をソロ攻略してこそ、アリスはより高みへたどり着けるのです!」
「確かに強くはなるだろうけども!? でも時間的に無茶が過ぎるよ!?」
「何を考えておるんじゃ」
「アイテムの持ち込みもできるですし、出てくる敵のパターンも知っているです。後はどこまで効率的にヤれるかだけなのです!」
「うん、そういう話じゃないからね」
「何を考えておるんじゃ!?」
「では、行ってくるですよー!」
ドップラー効果(このゲーム変なところ力入れすぎでは?)を残しながらアリスちゃんは走り去っていった。いや、教会通り過ぎているし……いや、さすがにどこかでファストトラベルはするのか。走っていった先はアクア王国。何かアイテムをそろえるのだろう。
というか……いくらアリスちゃんでも無理なのでは?
「わからんぞ。嬢ちゃんならやりかねない」
「…………いや、確かにそうなんだけどさぁ」
「まあさすがに今日明日で攻略できる話でもないし、いつかやってくれることを信じて」
「そうなったらもうアリスちゃんを止められる人いなくない?」
「……村長、後は任せた」
「あ、やっぱり僕がその役目なのね」
こ、これは何としても僕自身の強化案も考えなくてはいけない……いつかアリスちゃんと直接対決することも考えなくては。
何が起こるかわからないのが人生。どこかでアリスちゃんと僕で最終決戦みたいなことをするかもしれないし。
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コロッセオは歓声に包まれていた。
多くの戦いが行われ、今まさに最後の決戦がここで繰り広げられていた。勝ち星数の多い上位陣による決戦。一部プレイヤーは不参加であったが、それでもハイレベルな戦いに観客の興奮は高まったことだろう。
トリを飾るのは今回のPVPイベント勝ち星数1位と2位によるプレイヤー同士の決戦。その応酬を皆が食い入るように見つめている。
「凄まじい激戦っすね」
「リアルでやることがなければもう少しログイン時間が確保できたのだが……」
観客席でそんな会話をしているのはマンドリルとポポだ。ふたりの近くにはど・ドリアとニー子もいる。特にニー子はどこか面白くなさそうな顔で目の前の光景を眺めていた。
「チクショウ、ログイン制限さえなければ銀ギーになんか負けなかったのに」
「ニー子はん、普通に真正面から負けとったやないか」
「拍子抜けって感じで銀ギーさんに敗北していたっすよね」
「そもそもログイン制限は自業自得だろうに」
「うがー!!」
ニー子が唸るが、そうなのだ。そもそも銀ギーも万能型のプレイヤーであるので、搦め手やプレイ時間の多さでキャラクターのスペックの低さを補っているニー子相手には非常に相性が良い。そのため、ふたりが戦った場合、銀ギーがあっさり勝ってしまうのである。
「おのれ、ガーディアンだって元々は銀ギーの暴走さえなければそんな話は……」
「実際のところどうなんすか?」
「元々そういう企画はあった。銀ギー君暴走事件で話が前倒し、というか決定的になっただけであの事件がなかったとしてもいずれは開催されていたよ」
「ならあんまり関係ないなぁ」
「結局逆恨みじゃないっすか」
「うがー!!」
「そもそも、そのストレスはゆろん君のリアルの姿を見てしまったからだろうね。吾輩も久々に会ったが驚いたよ」
「それを言っちゃぁおしまいだよ! なんであのショタコンとロリコンとドMを併発した女にスタイルで負けるのか!」
「ヒドイ言い草やなぁ」
「っていうかそんな3重苦なんすね……あれ? ゆろんさんって前に16とか言ってなかったすか?」
「ああ、それは嘘というか何というか……いわゆる永遠の16歳であって、実際は23歳なんだ。そして結構な酒豪だ」
「……は?」
「村長に言い寄っているの、犯罪やないかなぁ。お嬢ちゃんはまだ可愛げがあったんやね」
「実際、アリス君のほうが村長との年齢差は少ないな」
「少ない、っていうか同じ土俵で裁いていいんすか?」
「裁くとかマンドリルもヒドイいい方するんやね」
「いや、だって……ええぇ」
「…………ふぅ、落ち着いた」
ゆろんの秘密が暴露されたからか、ニー子は落ち着きを取り戻した。
なお、リアルの話題を出している時点でいろいろとアウトな光景ではある。
「っていうかええんかなぁ。リアルの話題を出しても」
案の定ど・ドリアからツッコミが入ったが、ポポとニー子は微妙な顔をしてお互いの顔を見合わせる。
「……逆に聞くが、結婚システムというものを聞かされた彼女が次にどういう行動をとるかわかるかね?」
「あー……それは見張っていないといけないっすよね」
「オークションでウェディングドレスをすさまじい表情で競り落としたって話もあるくらいやしな」
「オレとしては長年の恨みが晴らせればいいかなって感じなんだけど」
なお、ニー子のそれは逆恨みであることをここに記す。
ほぼほぼ自堕落な彼女の面倒を見てくれたエピソードである。もっとも、その時にゆろんが見てしまったとある薄い本が原因で彼女の趣味嗜好が決定されたのであるが……
(実のところ、ゆろん君のアレの原因なんだから何とかしてほしいのだが――いや、素質を開花させたというほうが正しいか)
(さすがのオレも罪悪感あるから……スマナイ、村長。ほんとスマナイ)
(そもそもニー子君はなぜあんな本を持っていたのか)
(フィクションとリアルの趣味は別物だからな)
「いや、ふたりだけで視線で会話されても困るんやけど」
「あ、今黙っていたのそれが理由なんすね……っていうかドリアさんなんでわかるっすか」
「女の勘やね。いつかマンドリルもできるようになるから、気張りやー」
「いや、俺っち男っすからね!?」
「うふふ、冗談や」
「心臓に悪いからやめてほしいんすけど」
「ところでコロッセオでは決着がついたようだが……」
「オレらくらいだよな。試合の様子見ていないの」
「俺っちは気になっていたんすけどね……あ、やっぱりイチゴ大福さんが勝ったっすか」
「まあ順当な結果やね」
「そもそもイチゴ大福君は銀ギー君の上位互換みたいなものだからね。もっとも、同系統の戦い方であるからイチゴ大福君も攻めあぐねていたみたいだが……決め手は何だったかな?」
「あー、ばらまいたトランプを蹴って3次元的な挙動で空中を跳び回って、攻撃の予測を立てられなくして蹴り抜いていた」
「うわぁ、なんすかその意味の分からないの」
「なるほど。奇策の類か」
「奇策すぎるやろ」
「しかし奥義スキルは使わなかったのか……ふふふ、アリス君は案外やってくれるかもしれないね」
PVP勝ち星数、1位はイチゴ大福。2位は銀ギー。3位はニー子。そして4位にポポであったが……9位、桃色アリス。
「末恐ろしい幼女っすよ」
「他メンツは前回と変わり映えしないけど」
「まあ、PVPは特にプレイヤーのリアルスペックが色濃く出るコンテンツだからね。さすがにプレイ時間だけでどうこうなるわけではなかったか……これがモンスター討伐数を競うイベントだったらまたランキングの面々が変わるのだが」
「土俵が違うから仕方ないんやけどな」
「さて、今回のイベントもまあ盛況に終わったようだし、よかったよかった」
「いよいよバレンタインも近いし、血の雨が降るんやろなぁ」
「なんでそんなにワクワクした顔をしているんすか」
「だってぇ、アイテムを集めて素材と交換する類のイベントやろ? それはもう熾烈な狩場争いが起きるやないか。しかも人気NPCとの会話付き。これはもう期待大や」
「…………うわぁ、いい顔している」
「ちなみに、そいつゆろんのご主人様判定喰らっているから」
「うわぁ」
「それだけは不本意なんやけど」
「いや、無理もないっすからね?」
たぶん、9章は次回で終わり。
10章は改めてプロットとキャラ設定の整理などを済ませてからになりますので、少し時間がかかるかも。
それと、10月30日の書籍版もどうぞよろしくお願いいたします。
あと、店舗別特典で短編がひとつついていますのでー。




