いつだって突然
なぜか作者も名前を勘違いしていた部分を修正しました。
報告ありがとうございます。
「さて、戦闘も終了したところで放送席からは今後のアプデ情報についてのお知らせをしたいと思います」
「すでにアナウンスしていることだけどもな」
表示されるのは今後のアップデートの予定をまとめた画像だ。スクリーンショット付きで簡単なことのみが書いてあり、数カ月先までに何が行われるのかが確認できる。
そして、その中でも直近のイベントはバレンタインイベント。
「事前に行われていた、NPC人気投票で選ばれたキャラクター達とチョコレートを交換しようというイベントなんですけれどもね。交換したチョコの数に応じて素材を貰えます」
「身もふたもない言い方するなよ……」
「取り繕っても仕方がない。あと、バレンタインに合わせて結婚システムも実装されます」
「おお、ついにか……でもこの仕様でいいの?」
表示されているのは、プロフィール欄に結婚状態が表示される程度のもので恩恵はほぼほぼないということが書かれていた。
「結婚してないプレイヤーにあまり不平等になり過ぎないように、ボーナスもほとんどないんですよね。遊ぶのが便利になるわけじゃなくて、雰囲気を楽しむ感じ」
「妥当なところかもしれないけどね」
「あとは、お互いの位置がマップに表示されるなどぐらいですかね。フレンド機能と違いダンジョン内でもわかるのですが、あまり意味はない(笑) このあたり、我々もどこまで特典を付けるべきか悩みましたが、結婚必須みたいなことにならないように議論を重ねました」
「ちなみに同性婚も可能……マジかよオイ」
「昨今のニーズに合わせました」
「ネットゲーマーでガチでその方面の人っているのか?」
「ほら、大暴れしてくれたピンクのレオタードの【狩人】が」
「……はい、そういうわけで本日の放送も残りあとわずか!」
「スルーされた……」
マキシマーはチェシャーの一言をスルーした。脳内によぎるショッキング映像を鮮明にしないためにも。
最後の情報、すなわち4月のイベントについて。これを発表しないことには終われない。運営も発表タイミングについては慎重になっていたものだが、タイミング的には多くのプレイヤーが放送を見ているココだろうとGOサインをだしたのだ。
「4月のイベント……BFO1周年感謝祭について」
「皆様のおかげで、1周年を迎えることが出来ます。そこで新イベントや無料ガチャなどの数々の催し物があります」
「新レイドボスも実装されますので、続報をお楽しみに!」
@@@
レイドボスか、いつ出発する?
「少なくとも今じゃないじゃろ」
「まあ、確かに」
「っていうか村長、あっさりと何事もなかったかのように顔を出しておるが……膝が震えておるぞ」
「へへっ、こっぱずかしいぜ」
「さわやかに言っても無駄じゃからな」
アリスちゃんと共に戦っている時は、目の前の挑戦者に集中すればよかったのでそこまで気にする必要もなかったのだが、いざ村に戻ってみると足がプルプルと震えてしまっている。なお、今村にはライオン丸さんしかいない。
「ワシらもスマンかったと思っておるが、村長も何を思って暴走したんじゃ」
「何も考えつかなかったから暴走したともいう」
「それもそうか」
「というか、他のみんなは?」
「みょーんさんとめっちゃ色々さんはリアルで用事があるからと早々にログアウトしたぞ。らったんとあるたんはカジノに繰り出した」
「ほう……ちなみにどこの?」
「あ、嬢ちゃんから聞いておるが村長はギャンブルに手を出すと爆死するそうじゃな。ここで引き留めさせてもらうぞ」
「アリスちゃん、根回しはやーい。それに爆死じゃなくて、ちょびっと赤字になるだけだから」
「……赤字になっている時点で負けじゃろうが」
「ぐふっ……懸賞とかはたまに当たるのに、なぜ直接的なマネーになった途端に負けるのか」
「そういう星の下に生まれたんじゃろうな」
「認めない! というわけで、カジノに行っていいかな?」
「ダメともー」
「くっそ」
結局、この場に押しとどめられる僕である。自分のゴールドぐらい好きに使ってもいいのでは?
「それで装備強化用に貯めた資金が無くなってもよいのか?」
「……それを言われると辛い」
「レベル100で打ち止めみたいじゃし、今後はより装備強化に費やす資金が増えるんじゃぞ」
今まではある程度レベルを上げれば何とかなる、という場面もあった。だが、今後はレベルのごり押しが出来なくなっていくので、装備強化の頻度が跳ね上がることはすぐに予想できる話だ。
ヒルズ村ではそれぞれ今後の装備強化用の資金やアイテムを少しずつ確保しようという話をしており、ちょっとずつ積立貯金をしている。
「それで、僕の財布のひもを握っているアリスちゃんは?」
「言い方……いや、その通りなんじゃが。まあ、嬢ちゃんだったら…………元気にやっておるよ」
「いや、その言い方気になるんだけど」
「スキルを増やしたいからと【忍者】でレベル上げの真っ最中じゃ」
「あー、スクロールで別職業にスキルを増やしたいのか」
おそらくは体術系か身のこなしの強化といったところか。それなりに習得はしているハズなのだが、まだ増やしたいとは……最近、バトルジャンキーな面が見えている気がする。
「対イチゴ大福戦を見越しているんじゃろう」
「……うーん」
「どうしたんじゃ?」
「いや、確かにアリスちゃんは強いよ。でもさぁ……相手がなぁ」
「村長は嬢ちゃんが負けると?」
「単純な話、マネーパワーには勝てないよねって話。基礎スペック差があるから今までは何とかなっていたけど、相手は基礎スペックでもアリスちゃんを上回るイチゴ大福さんなわけで……社会人って、どうやってレベル上げしていると思う?」
「経験値増加バフアイテムを買ってレベル上げ」
「その通り」
普段は【怪盗】しか使っていないが、さすがに彼も職業固定状態からはとっくに脱している。前回のPVPイベントの時はまだ【怪盗】しか使えなかったから結構接戦だった時もあったみたいだが……今回のイチゴ大福さんは他の職業のスキルも習得済みなのだ。
対するアリスちゃんも様々な職業のスキルは習得しており、メインで使っている【演奏家】もかなりのレベルに達しているため強いことは強いが……
「最大の弱点がなぁ」
「?」
「体術メインの戦闘スタイルのはずなのに、肝心の攻撃スキルはモーションが単純なものじゃないと逆に体が動かしづらくて弱体化する」
「あー、そういえばそれがあったの……いや、ワシら基本的に単調なものを組み合わせて使うから意識しておらんかったが」
「プレイスタイルの違いだけどね。溜めとクールタイムが短いから一長一短ではあるんだけど……問題は、イチゴ大福さんは普通に両方使う」
「……そういえば、かなり高い練度の万能型プレイヤーじゃったな」
「アリスちゃん、何か秘策があればいいんだけど」
「…………いや、さすがに対策ぐらいはしておるじゃろ」
「まあ、それもそうか」
@@@
「ちょ、調整のために出てきたんですけど……まさかいきなりのヒットです!?」
「なんか、ごめんね?」
なお、当の本人はちょっと対人戦で新スキルを試してみようとPVPに挑んだところ、イチゴ大福とマッチングしてしまった模様。
冷汗だらだらだが、戦わなくてはいけない。
「い、行くですよー!」
「加速。連撃。重撃」
イチゴ大福の体に3種類のオーラが重なる。アリスは攻撃の態勢に入っていたが、そのまま突撃したら死ぬという予感――警笛のようなそれを聞き取り、身をひねってスライディングの態勢に入った。
「カウンター! って、躱された?」
「危なっ!? そのまま突撃していたらやられていたですよ!?」
アリスの脳裏には先ほどイチゴ大福が使った3種類のスキルの習得条件がよぎっていた。スピードアップ系のスキルはシーフ系職業など多くの職業で覚えるのでまだいい。
問題は残りだ。『連撃』は記憶が確かなら【武闘家】でのみ覚えることが出来る。しかもレベル90での習得で、他職業で使うにしても難易度の高いクエストを攻略する必要があった。アリスでは【武闘家】を使いこなせないため、習得を断念した記憶がある。
『重撃』は【重戦士】などで習得可能だが、他職業で使う際にスクロール入手クエストが非常に難易度が高かったはずだ。アリスは体術系スキルを習得してから挑むつもりであったので記憶に残っていた。
(あれ? もしかして、アリスってスキルの数でイチゴ大福さんに負けているのでは?)
正解。
アリスの中では彼は【怪盗】のままであったので、スキル面で上回ればなんとかなると思っていたのだ。聡い部分はあれど、彼女もまだ子供である。そのため、自分の中で出た結論をあまり疑わずにいた。その結果が現在の状況である。
(もしかしてアリス、大ピンチです?)
大正解。




