近くて遠い相手
閲覧注意
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唐突だが、奴との因縁は本当に些細な出会いが始まりだった。
「デュフフ。アリスたんぺろぺろ」
「ひぃいいいい!? 気持ち悪いですぅうう!?」
「危険人物撲滅!」
見た目は中世の音楽家で、職業は【狂戦士】。そして、言動通りアレな人物。それがOダイバーというプレイヤーだった。
非常に質の悪いことに引き際をわきまえているようで、危ない言動をしつつも直接的な行動に出ないので、どこぞの力士よりある意味で厄介な人物である。ここ最近ことあるごとに僕に突っかかってくるわけだ。
なお、アリスちゃんがガチで怯えていたのでハリセンでぶっ叩いたけど正しい判断だったと思う。とりあえず、その時はそれで済んだ話だった。小競り合いというか、妙な因縁は出来上がったけど。初回こそアリスちゃんの目の前に現れたが、その後は僕がソロで動いている時に遭遇するし。
そんな話をしている理由だが……PVPにもぐっていればこういうこともあるよねという話だ。
「まったくもってけしからんですぞ。ロリ嫁がいるなどとうらやまけしからん!」
「いや、ガーディアン戦の時は確かに見た目はそうだけど、普段は違うだろうに」
「魂がロリならば、それはロリなのですぞ!」
「くっそウゼェ……」
「それに、水着にマフラーなどと腐女子の視線を釘付けですかな? ほら、セッシャと抱き合ってハイピース。スチルが増えてしまったなぁ」
「ああああああああ!!」
微妙な雰囲気のままガーディアン戦で再びアリスちゃんとタッグを組むことになるので、気分転換で通常戦で戦っていたのだが……運悪くコイツと当たることになるなんて。他のタイミングならいいが、今この微妙な気持ちの時に当たらなくてもいいじゃないかと思う。
いずれ決着は付ける必要があるなと思っていたが……なんでこのタイミングなんだよ本当に。いやもう、勘弁してください。余計に疲れる。
「うーん。この構図もイッツアビューティフォー。これはもう、世のイケメンたちを統べるにふさわしいご尊顔」
「無駄にイケメンだからなおのこと腹が立つ!」
「ところで、こうして勝手に撮られることもあるのだから映り込み防止設定しておいたほうがいいと思う」
「急に真面目な顔にならないでほしい! あと、僕に限らずスクショ撮るプレイヤーはだいたいその設定外しているよ! リアルの顔と違うし!」
すでに試合が開始しており、デッキブラシで突撃するが……Oダイバーは手に持ったモップでパリィを決める。こんなんでも水着イベントの頃から遊んでいるという高レベルプレイヤーだ。
顔だけは爽やかイケメンなの本当どうにかならないのか。
「ふーむ。なかなかいいバッティング。さては野球部ですな?」
「帰宅部だよ! っていうか、がっつり部活やっているような人が夕方からログインするわけないってーの!」
泡を出しながら横薙ぎにブラシを振るうも、やはり攻撃はいなされてしまう。ブーメランも投げつけてはいたのだが……奴のもうひとつの武器、空中に浮かぶシーラカンスから放たれた光弾がブーメランを弾き飛ばした。
っていうか、その魚型ビット兵器、僕以外で使っている人初めて見たんだけど……いや、それはどうでもいい。問題なのはこちらの攻撃を読まれていることだ。
「近接戦を仕掛ければいなされて、ブーメランは自動迎撃装置ではじかれる。魔法ならどうかな――」
「デュフフ。浅はか、浅はかなりでおじゃるよほーっほっほ!」
「なんでそうアレなキャラで戦っているんだよこいつは!」
本当にやりづらい。
強力な水流を叩きつけたが、やはり弾かれる。いや、正確には複数の魔法を連続発動させてコースを微妙に変えられたというべきか。そして、体をひねるように前へと転がり込むことで変わったコースにより生まれた安全地帯へと逃げ込んでいたのだ。っていうか動き気持ちわるッ!?
PVPトップ3ほどではないが、準ずるぐらいのテクニックの持ち主……この言動じゃなかったらなぁ。
「ゆくぞー! ビルドアーップ!」
叫びと共にOダイバーが赤色のオーラを身に纏う。
自己バフ系のスキルだろうが、ショートカットワードを自分で設定したもののようで、元のスキル名がわからない。ただ、紫色の電撃のようなエフェクトも体から放出しているところを見ると、上位職限定の強力なスキルだろう。
一瞬、そのようなことを考えたせいだろうか? 目の前に迫るモップが――って、危ない。
「うおおお!?」
「うぬ? おやおや? 余計な考え事とは余裕のよっちゃんですなぁ! デュフフ。それがリア充な余裕というものですか? ンン?」
「あああ!!」
頭に血が上り、デッキブラシで突撃する――って、これじゃあさっきの焼き直しにしかならない。
足をワザとひねり、攻撃の方向を明後日のほうへ。Oダイバーは目を丸くし、反撃を空振りさせてしまう。僕も攻撃は失敗するが……一度頭を冷やそう。
職業が【狂戦士】なのはわかっている。あの職業は確か、とても高い攻撃力を誇るが防御スキルを一切使えないハズだ。先ほどのパリィや攻撃を弾いたのはプレイヤー由来の技術だろうが……そうなるとかなり厄介ではあるか。
他は、自己バフ系スキルは強力なものを習得するが、同時にデメリットもある。えっと、どんなのがあったかな……HPの最大値が一時的に減るものとか、猛毒状態になるものもあったはずだ。
「デュフフ! 再び考え事とは余裕綽々の様子。その余裕を引っぺがしますぞ!」
「――バースト!」
「ん? あぶな!?」
自分を中心に水の衝撃波を周囲にまき散らす魔法。BFOでは別属性のものもまとめてバースト系魔法と呼ばれているものの水属性版だ。
さすがに広範囲系の攻撃は喰らうとマズいのか、Oダイバーは慌ててバックステップをとる。
……普通なら少しはダメージを喰らうだろうに、普通にかわすのかよ。ただ、こういった全体攻撃はいくら防御面に難がある【狂戦士】でも即死はしない程度のダメージだったんだけど……もしかしてデメリットはHPか防御力の大幅低下か? 魔法を避けたから抵抗力かもしれないが……どのみちHPは相当低いし、防御貫通攻撃ならかなりのダメージを狙えるか。
「なら、合わせ技でいこう! 『ファイナルモード』&『ストームブリンガー』!!」
ブーメランが僕の周りをまわり、水のオーラを付与する。奥義スキルは武器に設定することで効果を発揮する仕様上、ひとつの武器に対してひとつの奥義であるため、ブーメランに『ファイナルモード』を設定した。
直接武器として使うデッキブラシには水版ドリルである『ストームブリンガー』を設定している都合もあるのだが、上手くかみ合った組み合わせになってくれたわけである。
「むむ!? 補助武器のブーメランで奥義版自己強化バフである『ファイナルモード』を使ったと……だが、【旅人】以外のソレはデメリット盛りだくさんのはずですぞ」
「承知の上!」
水で出来た海賊の帽子とコートが装着される。一定時間超強化される代わりに水属性魔法と奥義スキル以外のスキルは使用できなくなってしまう。古代兵器も使用不可。そのデメリットと引き換えに攻撃属性に常に水属性が付与され、絶大な攻撃力を扱えるようになる。
そして、奥義スキルは使えるため『ストームブリンガー』による防御貫通攻撃は使える。更にこの奥義は水と風の両属性を纏うため水属性の効果は倍増、風属性も付いているため単純に水属性防御だけでは防げない。
「むむむ。それならば逃げるが勝ちの一手ですな! MP切れまで逃げ切ればこちらの勝ちでおじゃるよほっほっほ」
「PVPで逃げ場なんてあるかっての!」
一気に距離を詰める。何度か練習で使ったが、やはり制御が難しい。
全身水属性を身にまとっている状態で更に風属性のエンチャントを行うと、滑るように移動してしまうのだ。泡による移動に近い感覚なので制御できないほどではないが、それでも気を抜くとこけてしまいそうになる。
「とりあえず一撃!」
「デュフ!?」
慌ててかわすOダイバーであるが、少しかすった。そして、防御貫通攻撃の恐ろしい所はその程度であってもHPを大幅に削るところである。
普通はスキルと組み合わせて当てていく上にPVPでは威力が下方修正されているのだが……やはりHPの低下か何かがデメリットだったらしくて、表示されているOダイバーのHPバーが危険信号を発していた。
「ヤバいですぞ!? ただのスイングでここまで削れるとは!?」
「もう一発!」
「あぶなッ!? さすがに男に貫かれる趣味はないのでござるが!」
連続突きをするもその体をクネクネと動かしてかわされる。スキル補助がないとはいえ、ここまでかわしきるとかどうなってんだよオイ。
「僕にだってそんな趣味ないよ! っていうか語弊のある言い方すんな! あといい加減にかするぐらいはしてほしい」
「おのれ、だが負けぬ! ただひとりの幼子を愛する紳士として、負けるわけにはいかないのだ――ところで幼子って言い方、何か心に響くものがありはせぬか?」
「知るか」
その発言に普段のツッコミのノリで手を動かしてしまう。そしてずぶりと串刺しになるOダイバー。
「あ」
どちらが発した声かは分からないが、思いっきりぶっ刺さったために……一気にHPが無くなってしまう。そして彼はポリゴン片となって消えてしまった。
部屋に表示されるのは僕の勝利を表す文字だけ……なんだかなぁ。妙に締まらない。
「……結局、煙に巻かれただけな気もする」
なんだかいろいろとバカらしくなり、そのまま村へと戻るのであった。
とりあえず、気まずい雰囲気も気にならなくなったのでその点だけは感謝するが……しばらく彼と遭遇しないように祈ろう。いろいろと疲れる。
本当は9章ラスボスにするつもりだったけど、諸般の事情で取りやめたOダイバーさんです。




