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掲示板の皆さま助けてください  作者: いそがばまわる
9.新たな日常の、祈祷師
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旅立ちの始まり

 村に戻ってくるころには、お兄ちゃんの出ていた公式放送は終わってしまっていました……ああ、お兄ちゃんの雄姿が。最後にチラッと見えたUMAの顔はいったい何だったのでしょう。ロクなことじゃないとアリスの中のナニカが訴えていますが、恋は盲目なので気にしないでおきます。

 しかもMCマキシマーもなんでボイスパーカッションでパフォーマンスしていたですか。お兄ちゃん、と思しきUMAさんもノリノリで踊っていたですし。っていうか、マキシマーさんボイスパーカッションだと声高いんですね。


「……世の中は不思議なことでいっぱいです」

「嬢ちゃん、少なくともその一言で片づけていい話ではないと思うんじゃ。何を見たのかは知らんが」

「結局村長が出ていた放送、あまり見なかったわね」

「あらー、ごめんなさいね。後でその村長君にも謝っておいて」

「すまんな。我々はこれから妻の健診があるのだよ。時間に余裕をもって向かわねばな」

「健診前にゲームやっていいんですかとか言いたいところですけど、先輩たちですもんね」

「なかなかアレなこと言ってくれるわね。でもまあ、みょーんちゃんもお母さんになればわかるわよ。子供を育てて、趣味も両立させてってなかなか難しいことよ。生活もあるし、何でもかんでもというわけにはいかなくなるわ――それでも、家族が一緒にいるって素晴らしいことだと思う」

「……先輩」

「みょーんちゃん、踏ん切りつかなかったみたいだけど……楽しいお友達に囲まれているみたいだし、安心したわ。あなた結構ため込みやすいタイプだし。でも、その心配もいらなそうね」

「…………わかりにくいんですよ、先輩たちの気遣いって」

「うふふ。やっぱり、人生楽しいのが一番よ」

「苦労もあるだろうし、悲しいことも起こる。辛いことだってたくさんあるが、それでも一歩は踏み出すべきだ。踏み出さなければ何も変わりはしないのだからね」

「はい」

「みんなも、みょーんちゃんのことよろしくお願いしますね」


 ……あれ? 真面目な話をしているところですか? いきなり雰囲気が変わったのでアリスたちはあっけにとられて、茫然としてしまっていたのです。

 目を丸くしていると、ご夫婦はこうなったかとつぶやいて手を振ってログアウトしていきました。


「……えっと、何だったんです?」

「うーん……ワタシがいろいろと悩んでいたのを見透かされていたってことよ。でも、そうね――ワタシが深く考え過ぎていただけだったみたい」

「…………年の功、というやつですかね」

「あの人たちも人の親って話よ。ねえ、みんな……まだ先のことになるけど、ワタシこのゲーム引退することになると思う」

「いきなりの話じゃのう……いや、そうでもないか」

「ですね。いつかはそうなります。オンラインゲームはコンシューマーのゲームと違ってサービス終了という最後が必ず待っているのですから。ソフトがあって、ゲーム機に入れて遊べるというわけでない。自分からやめるか、やめるしかない状況になるかは別ですが」

「んゆー? つまり、どういうことー?」

「……そろそろ我が家にもうひとり家族が増えてもいいわよね、ってこと。最近、ちょっと悩んでいたんだけど…………踏ん切りがついたわ」

「そうですか。それは何よりです」

「めっちゃ色々、人のこと言えないでしょ……いつまでも同棲で事実婚の状態もマズイんじゃない?」

「あはは。この年になると逆にしがらみというか、人間関係が複雑化していざ式を挙げますとなると先立つものが……」

「世知辛いわね」

「彼女のほうも『まだ、さきの夏と冬のお祭りが、求められる限りは』って命削っていますので」

「うん、それはどうにかしなさい」


 結婚とか、子供を授かるとか結局のところアリスにはまだ理解できないです。誰かを好きになる、ということは分かってもその先はふわっとした想像しかできない。

 その時に隣にいてほしい人はいる――でも、今のアリスにはまだ目先の楽しいことのほうが大事だとみょーんさんの姿をみて気づかされました。アリスはまだ子供です。


「……みょーんさんがやめてしまうのは、寂しいです」

「アリスちゃん……」


 みんなで遊ぶのは楽しかったのです。だから、そこからひとりでもいなくなるのはとても寂しいと、アリスは思ってしまう。

 アリスがうつむいていると、あるたんさんが同意するように声を上げました。


「そうだニャ。いきなりしんみりした話をされても、ちょっと困るニャ」

「それにー、女子会メンバーのまとめ役がいなくなるのは困るかなーってー」

「んゆー? 桃子っちとか『誰に相談すればいいのでござるか!?』ってなりそうだよ」

「いきなり不安になるような話題をぶち込まないでよ……ふふっ、でもまだ先の話だから大丈夫よ。それこそ人をひとり育てるのってお金のかかることだし、うちの旦那と相談することになるわね」

「…………姐御だとその手の話題されても別に強制ログアウトせんのう」

「『ファイナルサンダー』!!」

「いきなり奥義を使ってきおった――アアア!?」


 ライオン丸さん、不用意な発言をしたのでみょーんさんの雷撃で消し飛ばされました……っていうかなんですかその発動速度。


「……チーズに直接ぶつけたらどうなるかなーって発動待機状態にしておいただけよ」

「十分うちの村の住人よねー」

「まったくだニャ」

「ライオン丸、セクハラな言動はアウトだけど興味がないです発言もそれはそれでアウトだと知りなさい」

「ワシは、どうすれば良かったんじゃ」

「何も言わないのが正解ですよ」


 めっちゃ色々さんの言う通り、直接言っちゃうからそうなるです。

 でもどこか和やかな雰囲気に包まれたヒルズ村でした――と、そこでキラキラと光る粒子が村の中央に出現します。そこから現れたのはいつも通り黒い肌に、水着とマフラーを装備したお兄ちゃんの姿で……あ。


「とうちゃーく! いやー、なかなか緊張したよ。公式の放送って独特の緊張感があってさー、この前の魔王城の撮影がなかったらカメラに撮られているって意識持てなかったかもね。いや、アレはラフにし過ぎたけども……で、どうだった今回の放送?」

「…………えっと、ほら! ゴルフゲームもなかなか楽しそうですよね。可愛い服とかもありそうですし! ねえ、ディントンさん!」

「――え、私!? え、ええとー、そのー。ほら、スポーツウェアとかも気になるかなーって……あるたんお願い!」

「ニャ!? ニャニャ……ニャニャ、ニャーゴ! 髭!」

「せめて名前で呼んでほしいんじゃが!? ……あーっと、マキシマーアフロ凄かったの」

「な、なんだか微妙に誤魔化そうとしていない?」

「そ、そんなことないですよ!?」

「そうじゃぞ。別にそんなことはないぞ。UMAも決まっておったしの」

「? アレ、マキシマーさんと衣装交換してみたから着ていたのマキシマーさんだよ。僕がアフロとあの服装させてもらったんだけど……」


 え、あのボイスパーカッションお兄ちゃんだったんですか!?


「本当は放送見ていなかったんじゃ……」

「そ、そんなことないですよ!? ただ、みょーんさんの先輩が遊びに来ていたですからちょーっとお話が弾んじゃっただけというかなんというか」

「そうだニャ。別に村長が気にするほどのことじゃニャいニャ。ちょっとタイミングが悪かっただけニャ」

「んゆー? チーズ転がし祭りも盛り上がっていたよ?」

『らったんさん!?』


 アリスたちの声が重なります。そして、みるみるとショボン顔へと――いえ、泣き顔へと変わっていくお兄ちゃん。っていうか笑顔で目から滝のように涙が出ているですけど!?


「そっか……そうだよね。僕のトークやパフォーマンスよりもミニゲームのほうが楽しいよね――――ッ」

「お兄ちゃん!?」

「あ、走り去って行ったぞ!?」

「もしかしてメンタルにダメージ喰らったんですか!?」

「村長ー、変なところで弱いなー」

「言っている場合じゃないでしょ! 追いかけるわよ!」

「あははー、うけるんですけどー」

「らったんも笑っていニャいで追いかけるニャ! 口を滑らせてー!」

「…………結局、綺麗に終われないところもワシららしいのう」

「だから言っている場合じゃないでしょうが! ああもう、本当にアンタらといると今から子育て不安になるわね!」


 口ではそう言っていたみょーんさんでしたが、口元が笑っていました。

 たぶん、もう大丈夫なんでしょう。この先の悩むことはあるはずですけど、どうにかなりそう。そう思えました――今は、お兄ちゃんを追うことを考えたほうがいいですね。


「待ってくださいですお兄ちゃん!」

「うなあああああ!!」

「あ、ダブルエンチャントバトルブーツで空を走っておるぞ!?」

「どこで思いついたんだニャアイツ!?」

「あ、あはは……」


 結局この後、お兄ちゃんが足を滑らせて落下するまで鬼ごっこを続けることになるのでした。


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― 新着の感想 ―
[一言] これは親子ですわ
[一言] 親子ですね……
[一言] ダブルエンチャント 血筋だ……
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