動きがない時の彼ら
勝ち星を稼ぎつつ、交換アイテムのラインナップをチェックしながら装備強化にいそしむ日々。イベント期間中とは言ってもそこまでガチで挑むわけでもないのでゆるゆると遊んでいる。
素材集めに赴いたり、ここ――鍛冶場――でアイテム製作をしたりとみんな今日は気が抜けていた。素材加工するのにディントンさんもこの場にいるので、非常に珍しい。
イベントの様子はウィンドウを開きながらチェックはしているが……面白い試合もないなぁ。とある事情でガーディアン戦はやっていないし。
「ガーディアン戦はどうなっているです?」
「他にも引き受けた人はいるんだけど、何人か負けているね。そっちは参加倍率スゴイみたいだけど」
「……お兄ちゃんなら、イチゴ大福さんに挑むです?」
「はっはっは。ナイナイ」
「そういう事ですよ」
みんな勝てる可能性にあるほうに挑むに決まっている。
僕らもイチゴ大福さん側に分類されているけどね。
ガーディアンとして戦って以降もフリーマッチに登録しているけど、そこまで面白い試合もなかった。こちらの行動パターンは読まれているのか、防御貫通攻撃に警戒されてはいるものの……泡を広範囲に広げることで動きを阻害し、氷の女王で氷結状態にしてからゆっくりと貫通攻撃を仕掛けることで連勝している。
「あんな恐ろしい勝ち方をしておいて、まだ続けるつもりなのかのう」
「むしろ氷結か麻痺耐性は必須でしょ」
「たしかに、村長の言う通りなのよねぇ……動きを阻害する状態異常は極悪だし、次回があれば制限かかるわね。状態異常強すぎるわよ。今だって状態異常を使うプレイヤーが増え続けているし」
「村長のせいで防御貫通も増えたニャ」
「影響与え過ぎではー?」
「いや僕以外でも今回のPVPイベント、最初から使っている人いたから」
注目されているせいで、僕が使っているのを見て広まった感はあるけど。
でもたしかに、水属性魔法からの氷結コンボが強力過ぎる。特に広範囲に広げられる泡との組み合わせが強力なのだ。ただ、泡は威力が低く氷結も確率的にそこまで高い付与率ではない。
まあ、だからこそ低コストの泡と召喚獣による氷属性攻撃でMPを極限まで節約した連続攻撃を仕掛けているんだけどね。
「凍らぬなら、凍らせてみせようホトトギス作戦。まさかここまで上手くいくとは」
「絶対何かしらの対策をとって挑んでくるわよ」
「貫通攻撃に対策とられたから仕方がなかったんや」
「ダメだニャ。開き直っているニャ」
「ここまで行くと逆に清々しいわね」
「でも、最後に負けていたですよね」
「……」
「――え!? 村長負けたの!?」
まさかあんな方法で突破されるとは思っていなかったんだよ。
周囲を巻き込んで炎を噴射する無差別攻撃魔法があるのだが、まさかアレ氷結状態でも使えるとは思わなかったんだ……おかげで油断しているところをこんがりジューシーに焼かれた。
「せめてミディアムが良かった」
「しっかりウェルダンでしたからね」
「そういうアリスちゃんは対戦相手を漏れニャくウェルダンにしているけどニャ」
「違うですよ。ベリーウェルダンです」
「余計悪くニャってんじゃニャいかニャ」
あるたんさんも呆れた溜息をつく。いや、確かにアリスちゃんは鬼神のごとき戦いを見せているからね。そのせいで一部対戦相手はすぐに降参しているほどだ。というかいつのまにやら勝ち星はヒルズ村でもトップになっている。
「時間帯が合わないのでイチゴ大福さんとは戦っていないですけどね」
「そもそも勝ち星の数的にマッチングするんかのう?」
「あの人、飛びぬけているですから一定の勝ち星でマッチング圏内に入るですよ」
「村長は?」
「残念ながら圏内ではない。というか、そこまで行くと上位連中とばかりマッチングするから僕じゃ勝てなくなるよ」
「……いや、そんなことはないと思うんじゃがのう」
「買いかぶり過ぎだって」
「ええぇ……」
と、そこで鍛冶場にらったんさんがやってきた。隣にはめっちゃ色々さんもいて……ああ、勉強会してたのか。
「逃げ出した分の対応は終わりました。これで、次のテストは何とかなるかと。あとは出席日数さえ無事なら大丈夫じゃないですかね」
「んゆー? ここは誰? 私はどこ?」
「ベタな混乱しているじゃないのよ。大丈夫なの?」
「大丈夫だ、問題ない」
「それダメなパターンでは?」
とりあえず、対処法もないので彼女については放置で。めっちゃ色々さんもウィンドウを開いてイベントの様子をチェックしているが……そこで首をひねった。
「今はニー子さんがガーディアンを務めている時間では? 先ほどから運営が今後の更新予定について語っているだけですけど。裏話込みで」
今日のMCはマキシマーと松村の2人。いや、松村さん運営の人だけど明かしていいのかよと思ったが、すでに周知の事実だったか……まあ、そのあたりはどうでもいい。今話題にすべきは何故予定が変更になっているのか、ということだ。
「ニー子さん、今回は数秒でケリをつけたです」
「ファイナルモードからの蛇腹剣乱舞ですさまじいスピードだったからね」
「しかも対戦相手、全員近距離型のプレイヤーじゃったからな……距離をとる前に滅多切りじゃったぞ」
「タイマンってルールの都合上、遠距離型は不向きだから仕方がないのよ。どうしても近距離型プレイヤーの比率が増えるわ」
「遠距離型は遠距離型で接近されて終わりですけどね」
まあ、ニー子さんはファイナルモードが時間切れになれば弱体化するから。あのモードさえしのげば好転はするんだし、そのうち倒す人も現れるでしょ。
問題は決着が早すぎて次の銀ギーさん登場まで時間が空いてしまったことである。
「仕方がないからこうして運営はトークイベントで場を持たせている」
「まあ、あと10分もすれば予定通り銀ギーさんのガーディアン回が始まるそうじゃから、それまで待てばいいじゃろ」
「その通りですが……今日は皆さん、会場にはいかないんですね」
「気分じゃなかった」
「PVP用に装備を見直してみようかと思っての」
「求められる性能が違うのよねぇ」
「右に同じです」
「私は積極的に参加する気もないからー、溜まっている製作に手を出しているだけー」
「……ところで、よぐそと君がリアルの都合でログインしていないのは知っていますけど、桃子さんは?」
「あー……ガーディアン戦で負けた後『よぐそと殿もいないし、なんか燃え尽きたからしばらく心をいやしにいくでござる』って言ったきりログインしていない」
「悪いことしたですかね」
「……まあ、来月はバレンタインイベントもありますからその時までには帰ってきますよ」
たしかに。それがあったか。ちょうど今日の放送でもそのあたりに言及はしている。
「細かい仕様はギリギリまで煮詰めるそうですが、ボーナスがつくというわけじゃなくなりそうですね」
「バフとかあったら必須になりそうだしなぁ……倉庫も拡張されるわけじゃないし」
「プロフィールにプラスαだけ、という感じになりそうです」
「意味あるのかニャ」
「あくまで自己満足程度でいいってことなんでしょうね。擬似的な結婚が出来ますよ、っていう楽しみを提供するって話なんでしょ」
「つまり結婚(仮)ってことじゃな」
「うん、そうだけどそうじゃない」
「課金したら複数人と結婚できそうな響きですよね」
「村長、後ろから刺されないようにね」
「なぜに!? さすがに複数人と結婚するつもりありませんよ!?」
というわけで和風コンビ以外のヒルズ村住人がこの場に集って地味に作業開始。イベント期間中なのもあって、村の外を歩いているプレイヤーもいない。
別にイベントに参加していないプレイヤーもいるにはいるのだが、ほとんどがストーリークエストを進めに行っている。
「まさか新大陸の情報をここで出すとは思わニャかったのニャ」
「条件がなぁ……」
公式放送でぽろっと明かされた、今後の大型アップデートの情報。新大陸の実装についてだ。どういう形での実装になるかは未定な部分もあるが、決まっているのはストーリークエストを進めることで新大陸へ行くことが出来るようになる、ということ。
「そういえば村長たちはあまりストーリー進めておらんかったよな? 大丈夫なのか?」
「お兄ちゃんとアリスはスキップ勢なので別段困ることはないですよ」
「気になったら後で内容調べるから。まとめで十分かなって」
「それ、結局調べないオチじゃないのよ」
「意外と新情報出ている感じですか?」
「あとは、何かあったかしら?」
「今日は言わないけど、イベント期間中にまだ発表はあるって話じゃな。あとは……バレンタインイベントの導入だけ言っておったな」
「ほう、どんな?」
「人気の高い女性NPCからチョコを貰えるというイベントじゃな。クエストを進めることで、チョコを手に入れようという感じらしいぞ」
「ああ、よくあるヤツですね」
「元も子もないですね……」
「まあ、否定はできないし」
いわゆるイベント限定おつかいクエスト。チョコを貰うというか、勝ち取りに行く感じのアレ。
ネトゲやソシャゲなどでバレンタインって言ったらやっぱりこういうのだよなぁ。
「ひたすらカカオ豆を集めて、チョコを手に入れる。それがバレンタイン」
「いや、違うですからね!?」
「先のイベントの話はもういいじゃろ。リアルで貰える裏切り者もおるしの」
「はっはっは……うちの彼女がそんなものを作れるとでも? 私と友人の写真を並べてヨーグルトを垂らして『これが本当のホワイトデー』とか言い出す人ですよ」
「…………なんで付き合っているのかわからないんだけど」
「それでも愛しているからですよ!」
「愛の一言で片づけていい範疇を越えておると思うんじゃ」
「というわけで私のところは私がチョコを渡して、彼女がホワイトデーのお返しに辱めを受けることになります」
「……ギルティ?」
「ノットギルティ」
ヒルズ村男子会(マイナス1名)による判決の結果、無罪。
「っていうか、なんでお兄ちゃんたちは殺気立っているですか」
「リアルじゃ女の子からチョコを貰えないからじゃないの?」
「へぇ……」
アリスちゃんが微妙な顔をしているが、その直後頭を抱えた。え、何事?
(公園でスタンバイしてそれとなく、相談に乗ってもらったお礼として渡す……いえ、リアルでこちらから接触するのは無しって決めたです。いや、でも…………うー、どうするですかね……今回はやめたほうがいいでしょうか?)
あーでもない、こーでもないとつぶやきながら悩んでいたアリスちゃんはいきなりがばっと顔を上げ、決意を瞳に宿して口を開いた。
「先のことは後で考えるです!」
「ただの問題の先送りだニャ」
「つまりいつもの行き当たりばったりね。うちの住人として正しい選択よ」
「人としては微妙だニャ」
「ずぶずぶのネトゲ住民なんて基本、そんなものでしょ」
「ヒドイ言い草ニャ。否定できニャい部分があるのは確かだけどニャ」




