出会っちまったか
いよいよ第2回PVPイベントが始まる。今回の開催期間は……えっと、1週間ぐらいだっけか。
今回は対ガーディアン戦でなければ事前登録の必要はなく、エントリーしているプレイヤー同士でマッチングが行われ、すぐに対戦が始められる。今後常設のPVPコンテンツを実装するために、試験的に導入しているシステムらしい。
初日はトークゲストもガーディアンのお仕事もないため、普通に一般側で参加予定だ。というか、今回ヒルズ村の面々は用事がなければ各々自由に参加ということになっている。アリスちゃんも初日は観客席で様子見するとのこと。
「なるほど、彼女は我々の力量を見極めるつもりか」
「いきなり出てきて何言ってんですかポポさん」
「なに。初日は我々がガーディアンを務めるからね。前回のPVPイベントではお互いソロ部門とパーティー部門で別々の参加であったし、我々の動きを知りたいのだろう」
「……あの子、今回ガチなのか」
「吾輩、正直に言うと彼女には勝てないかもしれないのだが」
「なんですかその冷汗エフェクト……あと、前に遭った時よりも探偵っぽさが増した服装になりましたね」
「これが課金の力だ」
「ああ……課金エフェクトとアバターなんですかそれ」
「吾輩のおすすめはBFO戦隊シリーズのアバターだ。5人でそろえると楽しいぞ」
「いや、遠慮しておきます」
倉庫とか、遊ぶのに便利な項目ばかりチェックしていたからアバターやエフェクト関係の課金アイテムってあまり詳しくないんだよね。後でカタログを見るぐらいはしておこうかな?
前に買ったポイントが少し残っているし、気になるのがあったら買ってもいいかもしれない。
「ふむ……吾輩としてはもう少し彼女の動きを調べておきたかったのだが、仕方がない。こちらもそろそろ準備をしなくてはいけないし、これで失礼するよ」
「ああ、頑張ってくださいねー」
前回ソロ部門トップ3だった彼らは、初日と最終日でガーディアンとして参加することになっている。まあ、エキシビションみたいなものだし、運営も新アイテムのお披露目を兼ねた宣伝をするのでこちらも出番自体はあまり多くない。
ポポさんを見送って、とりあえず何回か戦っておこうかなと受付でエントリーする。今回もイベントのために解放されたウンエー国にてイベントが開催されており、懐かしきコロッセオでPVPが行われているのだが……今回はチャンネル制が導入されており、マッチングされると自動的に戦闘用フィールドに転送される。チャンネル1では公式のトークイベントとエキシビションマッチの類が開催されており、そちらの観戦をしたい人たちが集まっている。他チャンネルはPVPのために使われており、プレイヤーたちの戦いを観戦したい人にも開放されている。なお、チャンネルは100まである。
さて、後でアリスちゃんと合流してメインステージ観戦するし、それまで何戦できるかな。
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現在5連勝中。戦闘慣れしていないというか、明らかに初心者に毛が生えた程度のプレイヤーだったので、何というか弱い者いじめしている感じがして嫌だったんだが……どうやらレート戦みたいなシステムがあるようで、勝ち星の数に応じた対戦相手が選出されるらしい。エントリーしたばかりだから同じ勝ち星の数から選ばれているんだろうけど……それにしたってもうちょっと強い人はいないものか。
さすがにもう戻らないとメインステージ始まるかなと思い、次の一戦で終わりにしようと思う。というか、いつの間にかアリスちゃんが観客席に来ており、メッセージを飛ばしてきたので思い出したって話なんだけどね。
「さて、次の対戦相手は誰かなー」
キラキラとした粒子が集まり、目の前にプレイヤーが出現する。見た目はふわふわとした女性で、耳の形状からして……エルフだな。ヴァンパイアで肌を白くしているのかとも思ったが、耳の長さが明らかにエルフだ。
今となっては珍しいオーソドックスなエルフなプレイヤーである。というか、あれって初期に手に入る装備だな。武器もランクの低い弓だし……職業は【狩人】だろうか?
「あなたが次の対戦相手ね。よろしく、私の名前は家族を愛する主婦。得意料理はチーズフォンデュ!」
なんだろう、既視感がある。
っていうか名前表示をオンにしているんだけど、本当に『家族を愛する主婦』って表示されているんだけど。え、なんでそんな名前にした!?
「ちなみに向こうではパパも応援してくれているわ」
モノクルをかけ、髭をカールさせた紳士が朗らかに笑いながら観戦しているが……あの人か。というかアリスちゃんの隣にいるんだけど、なぜ?
アリスちゃんもほら、いたたまれない顔をしているし。
「うふふ。後輩ちゃんも見ているし、がんばっちゃうわよー」
「うん?」
彼女の視線の先には……あ、みょーんさんだ。じゃあ、この人たちがみょーんさんの言っていたDWOでの先輩たちか。最近付きっきりでレベル上げに付き合っていたみたいだけど……となると、VRには慣れていそうだし、警戒したほうがいいか。
そして、今の情報が出た瞬間アリスちゃんが絶望した表情になったんだが……え、何事!? 隣の紳士は相変わらず朗らかに笑っているし。みょーんさんは普通に応援しているが……マジでアリスちゃん、どうしたんだ?
「さあ、カウントも始まったし――最初からクライマックスよ!」
「うおっ!?」
カウントが0になり、対戦が開始される。それと同時に目の前にすらりとした足が――っていきなり蹴り技!?
「うおお!?」
「あら、良い反応」
「職業【狩人】なんだよね!? 弓使わないの!?」
「狩人が弓を使うわけないじゃない」
「それはおかしい」
「さあ、どんどん行くわよ!」
さすがに弓を使わないは冗談らしく、普通に矢を射ってきたが……カーブしながら迫ってきている? いや、たしか曲射だっけか。高難易度テクニックで、矢をカーブさせて放つプレイヤースキル依存の技だが……基本的に遠距離攻撃でしか役に立たない技法だ。この人はなぜか至近距離で成功させているが。
「楽しいわね!」
「このッ!」
ブーメランを投擲し、矢を弾く。その隙に突っ込んでデッキブラシから泡を放出しながらたたきつけるが、バックステップで簡単にかわされてしまった。いや、今までで一番のスピードが出ていたと思うんだけど普通にかわすの!?
この人、かなり強い……というかかなり慣れている。
「体が軽いわねー。現実じゃこうはいかないわよ。それに、DWOの終わりの頃に実装されたモーションキャプチャーコントローラーよりもスムーズに動くわね……アレは部屋を広くしていないと、体をぶつけていたかったわ…………息子も一度痛い目に遭わせちゃったし」
最後、ぼそぼそ言っていて聞こえなかったが、なぜか後頭部に痛みが走った。え、なんで? 何か思い出したくないことを思い出しそうな……いや、今は気にしないで目の前の対戦相手に集中するべきだろう。
メインウェポンは弓だが……サブでバトルブーツを使っているらしい。昔、アリスちゃんが使っていたものと同型のロングブーツ型の装備に見覚えがある。
「うーん……噂の裸マフラーさん、強いわねー」
「案外その直球な呼ばれ方、あまりされていないから新鮮」
「あらそう? ところで、あなた好きな料理は?」
「唐突になんですか?」
「いやー、なんとなく気になってね」
好きな料理か……たこ焼き、と言いたいところなんだけど…………エルダー周回したばかりだと食べる気なくなるんだよなぁ。うーん…………今の気分的にはアレかな。
「照り焼きチキンバーガー」
「あらー?」
何やら首をひねっているが、どうかしたのだろうか?
(ゆっくんならたこ焼きって答えると思ったんだけど……違ったのかしら。私の勘も鈍ったわねー)
「とりあえず、隙あり!」
「ないわよー」
槍スキルによる突撃を行うが、あえなく防がれる。だが、もう一つ手は打ってあった。
「アイタッ!? 後ろから衝撃が!?」
「投げておいてよかったブーメラン! あと、呪い効果があるから気を付けなよー」
「ちょ、能力値は調整されるけど武器の特殊効果は据え置きなの!?」
状態異常はある程度ハメ技にならないように調整されているが、まあ基本据え置きである。運営もどこまで調整いれるか最後まで悩んでいたらしい。まあ、今回のデータを基にして今後のPVPコンテンツに活かすことだろう。
と、油断したのが悪かった。後頭部に矢が刺さって――うお!?
「頭貫通した!? あぶなッ。クリティカル入ったら大ダメージ喰らっていたぞ!?」
PVPでは頭にクリティカルが入っても即死にならず、大ダメージになるという仕様変更がなされた。なので一撃で死ぬわけではないけど、それでも喰らっていたらヤバかった……なんて殺意の高い攻撃をしやがるんだ。こちらの攻撃に合わせて後頭部に曲射を放つなんて。というか曲芸染みた戦法をなぜできるのか。
(今、お兄ちゃんがブーメランな発言をした気がします。ブーメランなだけに)
「なぜだろう。いま、寒い洒落を言われた気がした」
「よそ見していいのかしら!」
「うおっ、連続キックか」
「ほらほら、矢も飛んでくるわよ!」
この人の言う通り、四方八方から矢が僕めがけて襲ってくる。なんとか回避するものの回避した先に回り込んで蹴りつけてくるから油断できない。
っていうかなんていうかこの人の戦法やり辛いんだけど。意識外から襲ってくるというか、セオリーとは全然違う戦い方をするというか。
(血を感じるです……)
「くっ……戦闘中のアイテム使用が禁止されていなければ、爆破戦法をとれるのに」
「噂通りの危険人物ね。人を爆破することにためらいはないの?」
「ない!」
「奇遇ね! 私もそれで勝てるなら同じ手を使うわ!」
なお、どこからか噂を聞きつけたのか観客が増えていたのだが……ドン引きされた顔をしていた。アリスちゃんだけは何かを納得したのか、ですよねーって顔をしているが……いやホント、彼女には何が見えているのだろうか?
あ、隣の紳士は笑っているわ。っていうか深く頷いているし。
「うーん、このまま戦っていても消耗戦になるだけよねー。さてと……どうしたモノかしらね」
「あまり使いたくはなかったけど、一気に決めさせてもらうか」
「――え?」
「しょっぱなからお披露目しちゃうと、今後の対戦相手に手の内がバレるからあまり使いたくはなかったんだけど、貴女僕の苦手なタイプだからさ……本気でやらせてもらうよ」
「あれ? 今まで本気じゃなかったの?」
「それなりに全力だったよ。でも、奥義は使うつもりなかったんだ――さすがに無理そうだから解禁するよ。発動『ストームブリンガー』!」
デッキブラシに激しい水流がまとわりつき、螺旋状の槍みたいになる。というか、細長いドリルにも見えるが……これ風と水属性が武器に付与され、更に防御貫通性質も付くという…………これ、属性付与が追加された【海賊】版の『マジックドリル』だから。結局ドリルかよ。
「泡魔法放出!」
「泡の壁が迫ってくる!?」
回転中に魔法を使うと拡散してしまい、味方を巻き込むのだが今回は1体。それ故に拘束効果のある魔法を使うことにためらいはない。あと、観客席は見えない壁で守られているので安心です。
対戦相手の女性を拘束し、槍スキルで突撃する。
「おりゃあああ!!」
「あちゃー、油断したー。まあ、さすがにこのゲーム始めて2週間程度じゃこんなものよね」
むしろそんな短い期間の人に負けたらこっちが立つ瀬がないんだけど……そうか、だから装備が序盤のものなのか。いや、みょーんさんが面倒見ていた時点で分かっていたことだが、レベル上げて装備やスキルが充実していたら勝てたかわからないなぁ。
なんとか勝ったものの、冷汗を感じる一戦だった。
お母さんはかもなーと思って確認をとりましたが、予想とは違った答えだったので結局スルー。
現状全てを察しているのは一人だけです。




