決着(結局はいつも通りだった人)
天候系がガード対象になっているのはバックストーリーを調べればわかることなのかもしれない。ただし、ガード率は高すぎる設定にしてしまっていたようで、異なる属性の攻撃を交互に繰り出すことでガードをほぼ確実に発生させることが出来る。なおかつ、ガード後の攻撃もある程度判明した。
「よし、ライオン丸さんに即死来るよ!」
「またか!?」
「とんでけー」
みょーんさんと僕で魔法を連続でぶつけて魔王を強制的にガード状態に持って行く。そこで動きの止まった魔王にアリスちゃん、ディントンさん、ライオン丸さんが攻撃を仕掛ける。
あるたんさんは後方から支援、MP回復アイテムの使用に徹してもらっている。今回の作戦においての要は実のところ彼女である。なんとしてもあるたんさんに攻撃がいかないようにしなくてはいけない。
どうやら強制ガード状態をある回数以上連続で発生させると即死攻撃に移行するらしい。最初の内は連続でガード状態にして隙だらけにしようぜ作戦で挑んでいたのだが、途中即死攻撃のモーションに変化し、その間はスーパーアーマー状態になって動きが止まってしまったので最初はあせった。
結局のところ、攻撃を読みやすくなるので対処はより楽になったが。
「のおおお!?」
「しかし、村長も無茶な作戦を思いつくわね。ガード状態にしたうえで、防御貫通スキルを使ってもらってダメージを与えるなんて」
「反撃も即死攻撃に誘導できるなら、攻撃してくるタイミングでライオン丸さんを吹き飛ばせばいいだけだしね。モーションに入ったら空振りするし」
「魔王なのに間抜けな図になっているわねー」
「ワシの心配もしろぉ!!」
なお、ライオン丸さんは他のアタッカーであるアリスちゃんかディントンさんが吹き飛ばして魔王の射線上から外す役割も兼任してもらっている。
あるたんさんも動けるのだが、みんなが連続でスキルを使用する関係上どうしてもMP回復も含めた支援に専念してもらわないと動きが瓦解するためひたすら踊りつつ、エムピポと連呼してもらっている。ちなみに、MPポーションの略称だが今回はパーティー全体回復の【スプラッシュMPポーション】が使用される設定だ。
「ある意味一番つらい役目ね」
「まあ、僕らもスキル連続使用する都合上動けませんけどね」
「誤爆には気を付けないとね……はい、次は55番ね」
「はいマーメイド魔法攻撃」
「そういえば村長は召喚獣の時はショートカットワード使わないのね」
「正確には【サモナー】の時はですけどね」
あるたんさんがMP回復に使っているように、スキルやアイテムにキーワードを設定して口に出すだけで使用するという機能だが……【サモナー】の場合は緊急回避や、牽制以外だと利点が薄い。
この職業の強みは召喚獣を自分で操作して連携攻撃を行ったり、臨機応変に対応できるところにある。なお、専用コンソールみたいな画面が前に出てくるため慣れないうちは足が止まるが。
「いつ見ても複雑な画面よね、それ。【サモナー】が不人気職な理由よ」
「ヒデェ言われようだ」
なお、一番の不人気職は【ネクロマンサー】である。【サモナー】と同系統の職業であり、なおかつビジュアルが好まれない。某ネクロマンサーぐらいしか使っているの見たことないし。他の同系統職は【テイマー】があるが、そちらはモンスターがAI制御なのである程度戦いやすいとか。
このコンソール、慣れれば使いやすいと思うんだけど。もうちょっと人口増えないものだろうか。攻略サイト見ても情報が少なくて困る。検証班とか確認している人はいるんだけど、評価が扱いづらい以上にならない。
「っていうかそれを使いこなしているプレイヤーなんて村長ぐらいしか見たことないわよ……なんで動き回りながら召喚獣に指示出せるのよ」
「? 別に普通じゃないの?」
「いや、十分おかしいから」
「雑談しニャがら片手間で大魔法バンバン撃っているほうも大概だニャ! エムピポ!」
「必殺、メテオインパクトです!」
「首おいてけー!」
「あのぉ……他のアタッカー女子がこわいんじゃが」
「諦めて」
すまない。こっちとしてもどうにかしてあげたいが、2人とも生き生きとしているのでそっとしてあげてほしい。
正直なことを言えば、テンションが上がりまくっている状態の2人に近づいたらとばっちり受けそうだからライオン丸さんには生贄になってもらいたい。なお、みょーんさんとあるたんさんも同じ気持ちらしく、目をそらした。
「お前らワシを生贄にするつもりじゃろう! っていうか攻撃先をワシに集中させている時点で生贄にしているじゃろうが!」
「あ、ライオン丸さん。次の攻撃きたですから、すいませんが天井――はないですけど、打ち上げるです」
「ちょ、話の途中じゃ――」
ライオン丸さんが上に飛んでいき、魔王のパンチは空振りした。アリスちゃんは射線上にいたのだが身をよじって華麗に回避している。いや、さすがだが……アリスちゃんがターゲットされていたら余裕で回避していたんだろうなぁ…………いくら俊敏値が高い種族とはいえ【演奏家】はあまり素早くないだろうに。
「必殺の、筋力ダッシュです!」
「あれシーフ系職業しか使えないハズじゃ……」
「あれよ。シーフ系育てて、スキルを他の職業でも使えるようにしたんでしょ」
「いつの間に……」
高レベルの職業はスキルのスクロール化が可能で、別職業にスキルを覚えさせることが出来るのだが……非常に手間がかかるんだけどなぁ。
なお、この方法でも【旅人】は他職業のスキルを覚えるのに制限が凄いかかる。それでもアレだけ強いニー子さんって何者なのか……いや、ふと気になった。
近々あるPVPイベントでまた大暴れするだろうし、その時に見てみるか。動きが参考になるかもしれない。
「ねー、なんか魔王様が毒々しいオーラを纏ったんだけどー」
「あ、それは残りHPが3割切るとそうなるって。能力値1.3倍だそうよ」
「パターンまでは変わらないっぽいなぁ」
相も変わらずガード状態継続。しかし、この方法なら他のプレイヤーも思いつきそうなものだし、なぜ知られていないのか?
「アレじゃない? 下層で魔法が効きづらいから、物理攻撃推奨なのよ」
「あー、連続で動きを止められるほど魔法職をパーティーに入れる余裕がないのか」
「今だって、ワタシが連続攻撃系と範囲系を使い分けて長時間拘束しているし、村長が属性を交互に挟んでくれるおかげで上手い事インターバル挟めているから可能になっているだけでしょ。スキルのクールタイムがほぼない【サモナー】がいないなら、魔法職3人は必要よ」
「なるほど。【サモナー】大勝利じゃないですかやったー」
「でもまあ、MP回復役がいて初めて機能するわけだけどね」
「それもそうか。それで1人は専念してもらわないといけないし、【サモナー】がいないなら攻撃役は2人」
「即死攻撃もあるから、一度でも死ねば瓦解するわね」
「世の中上手くいかないもので」
「まあ、動画撮影しているし、公開したら誰かしらブラッシュアップして効率のいい攻略方法見つけるでしょ」
「その前に連続ガードは修正入りそうだけど」
「緩和はしてもなくなりはしないんじゃない? 天候系に関係のある属性をガードするなら裏設定か何かがあるんだし、まるっきり効果が無くなるなんてことにはならないわよ」
「そのあたりもそのうち情報を見つけ出すか」
「っていうか2人とも余裕ですね!?」
「これでもスキルのクールタイムを気にしながら魔法使うの気を使うのよ」
「召喚獣に細かい指示を出すなら、ある程度自分の動きは止めていないと無理だから動き回るのはキツイんだけど」
「雑談しながら作業ゲーみたいに攻略するのはいつものことだけどねー」
「そろそろワシ、味方に吹き飛ばされて死ぬかもしれんのじゃが……即死以外だとフレンドリーファイアダメージのほうが多いってどういうことなのか。もうちょっとどうにかならんのか、そこのアタッカー女子」
「コラテラルダメージです」
「悲しいけどこれ、ボス戦なのよねー」
「ヒドイいわれようなんじゃが……村長、保護者としてどうにかしてくれ」
「保護者はみょーんさんだから」
「勝手なことを言わないで欲しい……自分の子供は絶対に真面目ないい子に育てて見せるわ」
「親の背中を見て育つともいうし、どうかなぁ」
(あー)
なぜかアリスちゃんが僕を見て、微妙な表情をしているんだが……僕の発言に何かおかしなところでもあっただろうか? 一般論というか、よくある言葉を言っただけなんだけど。
あと、魔王様また即死攻撃モーションに入ったよ。
「またか!?」
「残りHPバーも少ないし、総攻撃して一気に減らす?」
「そうね。あるたん、決めちゃうからもう回復はいいわよ」
「つかれたニャ……決めるニャらさっさと決めてほしいニャー」
「じゃあせっかくだから――エンシェント!」
「ワタシだと決め手に欠けるし、とりあえず村長からもらった爆弾投げておくわね」
「ええい、死なばもろとも! これがワシの全力全開じゃー!」
「跳びあがって、一気に蹴り抜くです!」
「首おいてけー!」
ディントンさん、一体何があってそこまで首に固執するようになったのか。いや、ただのネタで言っている可能性のほうが高いか。
なお、即死攻撃はチャージしてから放つため無防備でもあった……その結果、そのまま魔王は断末魔を上げてまばゆい閃光と共に魔王の姿が消えていった。光が晴れると、屋上の景色が青空に変化しており、空中にcongratulationsの文字が現れていた。
「ふぅ、終わったか」
「……最後は普通に終われてよかったのじゃ」
「ライオン丸さんだけ死にまくったからねー」
「マジで周回は勘弁じゃな」
「アイテムも色々と手に入るわね……バイクも入手したけど、コレ速さはどれぐらいだっけか」
「地上移動ならかなり便利だってー」
「とにかく、お疲れさまでした――あ、動画……」
「村長? どうかしたの?」
「いや、これって真面目な動画にならないよね?」
「当たり前じゃないのよ。編集だろうが生放送だろうが、結局ツッコミ所満載の動画にしかならないわよ」
「…………新しいプレイヤーも増えているし、心機一転newロポンギーさんのイメージ育成計画がいきなりとん挫した」
こう、今までのこと知らないプレイヤーなら新しいイメージを作れるかなーと思ったのだが、このままではいつも通りの評価である。
「お兄ちゃん、そんなこと考えていたですか……」
「無駄なことするねー。ヒルズ村の時点でアウトだよー」
「それで年始に平穏な日常とか言っていたんじゃな」
「いや、さすがに自分の行動を思い出してもうちょっと落ち着くべきかなって思ったのも本当だけど」
「無理じゃろ」
「無理だねー」
「無理でしょ」
「あ、あはは……」
「アリスちゃん、反論してほしいんだけど」
「……ごめんなさいです。ウソは吐けなかったんです」
「ぐふぅっ」
そのまま地面に倒れ伏す僕。同時に運営からメッセージが届いたのだけれども、ちょっとした精神的ダメージでその時が気が付かなかったそれは、PVPイベントについてのお知らせと、スケジュール内容のメッセージだった。
いよいよ、第2回PVPイベントが間近に迫っている。