飛翔(スターゲイザー)
さすがにあっさり撃破されてしまった中ボスさんには同情を禁じ得ない。
「村長がやったことじゃろうが」
「だって、みょーんさんがやれって言うから」
「実行犯が何か言っているー」
実行犯言わないでほしい。否定できないが。
あと、思った以上に毒の効果が強くてHP削り切れるかと思った。僕の場合、頭装備の【不死鳥のバンダナ・蒼天+10】にHP自動回復効果がついているので大丈夫かなーと思っていたのだが……毒は毒でも暗黒の毒とかいう見たことのないタイプの代物だった。解毒自体はできたのだが、解毒した瞬間麻痺状態になったの驚いたぞ。
「あれ、何だったのかしらね」
「解毒すると麻痺状態にニャるっていう状態異常らしいニャ。ヘルプで調べたら出てきた」
「うわぁ、エグイ効果です。お兄ちゃん、どんな素材使ったらそんなものが出来上がるですか?」
「えっと、元々は毒効果のある爆弾からの派生だったかな……要求素材は確か、エルダー系の素材と、ゾンビ系の素材。あ、それと火山の毒性金属だ」
「たしかエルダー系の設定って……」
「古代文明の生物兵器か何かだったわね」
「魔法系かウィルス系かはともかくー、ゾンビって腐っているわよねー」
「毒性のある金属って……」
「要求素材からしてヤバいものばかりじゃないのよ」
あと、古代遺跡系の素材も要求されたんだよね……こう、毒性物質を封じ込める的な感じだと思う。
「じゃが、相当効果はあったし次の階層でも使えるんじゃないかの?」
「あ、それ無理。非生物系の敵には効果がないから」
「次はデュラハンだったわねー」
「その次もゴーレム系だったニャ。で、最後に魔王」
「魔王には効果があるかもしれんぞ?」
「だとしても相当強いはずだし、毒耐性もありそうだからなぁ」
「確かに、魔王だと小細工通用しなさそうです」
毒で受けたダメージを回復する傍らの雑談。あと、時計を表示しておくが……そこそこ時間が経っている。一応は時間的に余裕のある日を選んで挑戦しているのだけど、再チャレンジはできなくはないが……アイテムの消費量を考えるとこの一回で終わらせたい。
階層クリア自体はサクサク進んでいるのだが、装備耐久値とHPの回復アイテムの消費は結構なものだ。あとMP回復アイテム。特にMP回復アイテム。いくらデフォルトで自動回復するとは言っても限界がある。攻略スピードを速めるためにMP回復アイテムは必須と言ってもいい。このゲーム、難易度が上がれば上がるほどMP回復手段が重要になってくるのだ。
できることなら僕もMP回復アイテムを使ってくれるペットのミナトを取り出しておきたいところだったのだが、魔王城はペット禁止なのである。
「MP回復アイテムの消費量どうにかならないかなぁ」
「ワタシはMPリジェネ効果の高いアクセサリーを使っているわよ」
「スキル使うにも重要だからニャ。みんニャ対策はしているニャよ」
「それもそうか……」
「ちなみにアタイは【踊り子】の奥義スキルで『MPドレイン』が使えるから実のところMP切れはあまり起こらニャいニャ」
「アリス、普段は敵を倒すと回復する効果のあるアクセサリーなんですけど……魔王城には向かないので、MP増強にしてあるです」
「そもそも筋力特化じゃからのう、自身のみのバフスキルで強化して素殴りメインじゃ」
「クリティカル狙いだからあまり気にしてなかったー」
なるほど、性格がよく出る。というかあるたんさんが対策云々の話をしたのにその流れをぶった切るディントンさん……ライオン丸さんは分かった上で、そのあたり切り捨てているが彼女の場合はそもそも違う次元にいた。
「戦い方がアサシンのソレですよね」
「実のところ転職自体はしてあるのよー。でも【アサシン】って性に合わなくてー」
「……どこがじゃ」
「狙ってクリティカルを出したいんじゃなくてー、力技でクリティカルを出したいのよー」
「この人も大概ですよね」
「確かに【仕立て屋】の奥義ならできなくもない戦法ね」
「みんなー、なんていうかー、ここまで戦った感じ自分を出しきれていないと思うのー。もっと自分に正直にー、心の奥底から湧き出る情熱を形にするべきだと思うのよー。だからー、全力で楽しみましょー」
なるほど、全力でか……確かに、僕としたことが目先の欲に囚われていたようだ。
そもそもの発端である動画を撮ろうと思った出来事を今は頭の片隅に追いやり、今は目の前のことを楽しむのに全力を尽くす。
「よし――それじゃあ、ガントレットで殴り飛ばして壁にぶつけたところで総攻撃を仕掛けよう」
「村長!?」
「アリスもメテオインパクト使っていいですか? 高さ制限のある地点まで跳んでそこから一気に蹴り抜くです」
「ジェット移動解禁かニャ」
「いえ、壁の形状を見た感じジャンプで登れるですから」
「……みょーんさん、理解できたかニャ?」
「なんていうか、教会っていうか聖堂みたいな内装だから突起は多いし、出来なくはないんでしょうね……いや、普通はできないでしょうけど」
「…………そうじゃ、ワシの奥義なら爆発完全耐性つけられるからいっそのこと爆弾を持って突っ込めばいいんじゃないかの」
「アンタまで何トチ狂ったこと言い出しているのよ」
「神風アタックはご法度だニャ」
「いや、実際有用な手口じゃろう」
「手口とか言い出したわよ……」
「…………正直、この中で最弱のアタイからは言う事ニャいからみょーんさん、あと頼んだニャ」
「待って。みんなのアクセルの踏み具合が思った以上にフルスロットルなの。ワタシ一人で対処できないわよ!」
「アタイだってこのまま身を投げ出したいんだニャ! でも、アタイのスキルじゃどう頑張ってもサポートしかできニャい」
「あ、ごめんなさい……」
なるほど、あるたんさんは自分のスキルがサポート系に偏っていることが自信のなさにつながっていると。
「ならばこれを授けよう」
「――――これは?」
「この前作った、新作――ブーストアイテム【スターゲイジーパイ】だ」
「うわぁ……前衛的な見た目ね」
よく焼かれたパイ生地から魚が頭を出している姿のパイ。名前だけでも聞いたことがある人は多いのではないだろうか。
僕が【料理人】で製作した能力強化アイテムなのだが……インベントリ内に入れたまま放置していたものだ。何かに使えるかなーと思いつつ、ずっとしまい込んでいた。
「ワタシ、このパイ苦手なのよね」
「このビジュアルが得意な人は少ないと思うんじゃが」
「このパイ、どう思うーっと」
「ディントンさん、何をしているです?」
「掲示板でこのパイがアリかナシか尋ねたのー」
「過半数がナシだと思うですよ」
「いやー、結構アリ派も多いねー。スゴイレスの数だー。ただ、途中で背景が魔王城ってバレてそっちに意識が持って行かれているー」
「どんな流れですか」
「で、結局このアイテムって何なんじゃ?」
「使うと一時的に能力値を底上げし、なおかつ特殊なスキルが使えるようになる」
「へぇ……それはワタシも知らなかったわ。一時的にスキルが増えるアイテムって初めて聞いたわよ」
「僕もこれを作って初めて知った。調べてみたけど、似たようなアイテムは他にもあるみたいだけど全部アイテム製作からのレシピ解放。【料理人】と【錬金術師】と【薬師】ぐらいでしか作れないみたいだね」
「……もしかして、めっちゃ色々は知っている?」
「うん」
というか僕も詳細を聞いたのはめっちゃ色々さんからだった。職業人口少ないから情報も出回っていないんですよねって嘆いていたのが印象深い。
「ところで詳しい効果がしりたいんニャけど」
「ああ、30分間能力値の底上げに加えて指を2回鳴らすとニシン型のミサイルが発射される『ニシン砲』が使えるようになる」
「うわぁ……SAN値下がりそうな効果ね」
「っていうかー、いつもの悪ふざけアイテムー?」
「なんで2回鳴らす必要があるです?」
「にしんほうだからじゃろうな」
「ニシン砲ならぬ二進法って、ただのおやじギャグじゃないのよ。誰よ考えたのは」
「さぁ?」
だけどこれなら踊りながらでもスキルを使うことが出来るだろう。さあ、このおいしく……は見えないけど、パイを食え!
「このパイを食うんだ。そして、デュラハンにニシンの雨を降らせるのだ!」
「うぇぇ……たとえ画面タップするだけだとしても気分的にキツイものがあるんだニャ」
「がんばってくださいです」
「ちなみに威力は?」
「コストパフォーマンスが良いことだけが強み」
「低いのね」
「まあ、頑張るんじゃぞ」
「あとライオン丸さんにはこちらを進呈する」
「おおっと。飛び火しおったぞ……で、何を渡すつもりじゃ?」
「火力は出るんだけど当てるのが恐ろしく難しい、爆弾【パンジャンドラム】だ。持って特攻する分には当てられるから」
「また狂気的なものを……」
ゲーム内の仕様では、火力は高いのだがランダムに動くので自爆も多発した代物である。明後日の方向に飛んで行って全然関係ないプレイヤーを巻き込んだ事件も起きてしまったブツだ。以来、他のパーティーとかち合わないダンジョン内でのみ使おうという暗黙の了解が産まれた。
たまにオープンフィールドでパンジャン合戦(プレイヤー同士でパンジャンドラムを使い合ってどちらかが倒れるまで争う催しもの)も行われてはいるが。
「というわけで、後は頼んだ」
「恐ろしいものを持たせるんじゃから全く……大丈夫じゃよね? 完全耐性貫通したりせんよね?」
「自分の奥義スキルを信じなさい」
「こういうノリと勢いだけのアイテムを実装したときの運営は信用できんのじゃよ!」
「時間も押しているしー、さっさと行かないー?」
「というわけで、皆行くぞ!」
「おーです!」
「散々引っ掻き回してそのまま突き進んだんじゃが」
「もう当初の真面目に攻略とか頭にニャいニャ、アレ」
「いつものことじゃけどな」




