爆撃王子(初期勢からの最近のあだ名)
ミノタウロスを突破したのはいいが、やはり効率が悪いというか……時間がかかるよなぁと思う。こう、もっと大きなダメージを効率よく与える方法は無いものか。それも、ちゃんと仕様にのっとった上で。
「村長がろくでもニャいことを考えている時の顔をしているニャ」
「何を思いついたんじゃ、言え」
「まだ何も……しいて言うなら、さっきの魔法衝突のエフェクト利用できないかなーって」
「やっぱり考えているんじゃニャいか!」
「お兄ちゃん、今日ぐらいは落ち着いて攻略するですよ」
「アリスちゃんがそこまで言うなら仕方がない……それで、次の階層の敵は何だっけ?」
「レイス系だニャ」
「爆撃戦法でもなんでも使って秒殺しようです」
「アリスちゃん!? 手のひらくるっくるだニャ!?」
あちゃー……幽霊だったかー。アリスちゃん、幽霊とかその類は苦手だからなぁ。スケルトンだったらまだ大丈夫なんだけど、レイス系の敵は完全にアウトだし。
「……で、村長。どうするの?」
「まあ、そもそもレイス系が厄介な敵なのには変わりないし、さっさと攻略しちゃおうと思う」
「でも3階層目って極端にHPが少ない代わりに5ウェーブもあるけどー?」
「ディントンさん、マジで?」
「マジー」
あちゃー。けっこう長引きそうだな。アリスちゃんが涙目になっているし、途中リタイアする危険性も出てくるからさっさと攻略するに越したことはないか。となればやはりとるべき方法はただ一つ。
「まず爆弾を用意します」
「うん?」
「ニャにか始めたニャ」
「続いて、魔法衝突時のエフェクトと爆風がぶつかりやすい組み合わせを考えます……よし、みょーんさんがドーム型に雷撃を放つ魔法を放って、アリスちゃんとあるたんさんで適当に魔法弾撃っておいて。で、その衝突エフェクトにクラスター爆撃仕掛けるから」
「ひっどい作戦だニャ」
「そもそも魔法弾って初級魔法のことよね? あれは他の魔法とぶつかっても透過するわよ」
「え、そうなの? じゃあダメか……バーナー系は?」
「それは……たしか、衝突あるわね。でも射程が足りないわよ」
「だったら貫通弾はー?」
「どうだったかしら……」
「ワシ知っておるぞ。『チャージビーム』も同じカテゴリに入っておるんじゃが、貫通弾系同士は干渉しないが、上位の魔法に当たると干渉するそうじゃ」
「へぇ……なぜ知っている?」
「数少ない魔法スキル、野良で組んだ時にちょっとのう……」
「ああ、何かミスしたんだニャ」
「まあよくある話でしょ。じゃあ、適当に貫通弾撃つってことでいいのよね――ってナチュラルに村長の作戦で行くことに違和感を覚えないワタシたち」
「結局のところいつものことニャ」
「村長、いいのかのう?」
「…………正直、魔王城自体時間かかりそうだから早く攻略できるならそれでいいかなーって思う」
「いつもの村長じゃな」
ヒドイ言い様である。言い返せないが。
@@@
結論から言おう。めっちゃ楽だった。
「なるほど、この角度だと二股に分かれて飛ぶのか」
「爆風がロープみたいになっているですね」
「うわぁ……これ、バグじゃニャいのかニャ」
「2、3回連続でエフェクトに当てて跳ね返すプレイヤーはいたし、それでも修正されていない以上はバグ扱いではないわねぇ」
ドーム型に展開された魔法に他のみんなが魔法を撃ち込むことでいくつもの衝突エフェクトを発生させる。そして、そこに投げ込まれたクラスター爆弾が衝突エフェクトにぶつかることで爆風の挙動が変化し、ロープ状に伸びてレイス達にぶつかる。一度ぶつかった爆風は同じレイスに当たったところでダメージの判定が出ないのだが、別の衝突エフェクトに当たり再び細長く伸びた爆風は“別の爆風”として判定されるので再度ダメージが狙える。
あと、さすがに爆風の飛ぶ方向をコントロールできないので広範囲の魔法に適当に別の魔法をぶつけることで衝突判定を発生させまくってランダムに爆風を飛ばす方向で解決しました。
「ただの無差別攻撃だニャ! ああ!? こっちにも爆風が!?」
「うーん、二次被害がひどいなぁ……もうちょっとコントロール方法を考えないとダメか」
「幽霊は消毒です!」
「この2人、同時に暴走するとロクなことにならないわね」
「いつものことじゃ……っていうか、なんでレイス系に爆風が効いているんじゃろうな?」
「村長ー、理由はー?」
「合成素材に聖水を使ったクラスター爆弾(聖)だからだけど?」
「なんじゃそれ」
「ちなみにフレーバーテキストは『教会の最終兵器。エクソシストのリーサルウェポン』だった」
「うわぁ……」
そして、これを作った後に教会に行ったら悪魔祓いアイテムの製作がトリガーになったのか、【エクソシスト】に転職することとなった。戦士系職業で、自前で回復魔法も覚えられるので結構使い勝手は良さそう、というかソロプレイヤーにはかなり有用なスキルを数多く自力習得できるのだが……転職した当時は別のことに気をとられていたので放置していた職業だ。魔王城攻略するぞって時に思い出したけど、さすがに職業レベル一桁は使えないよなと、再び放置することとなった。まあ、このゲームにおいてはよくある話だ。職業、いくつあるのかわかっていないし……運営ブログでも未発見のものがまだあるとか言っていたからね。ネタ職とも言っていたが…………何なのか気にはなる。
「っと、気持ちが逸れていた。残り何ウェーブだっけか?」
「次が最後よ」
考えが明後日の方向へ旅立っている間にレイス達を殲滅していた。そして、いよいよ始まるこの階層の最終ウェーブ。とは言うものの、物量と攻撃速度が上がっているだけで内容は同じくレイス系の大群が現れるだけだ。魔法系や呪いに特化したもの、スピードの速い個体など種類は多かったようだが……やはり爆撃による広範囲殲滅で幕を閉じる。
「はい、3階層目終了」
「これは酷い」
「エンドコンテンツを片手間で攻略しやがったのニャ」
「村長ー、これ絶対に修正入るヤツー」
「……魔王倒しても周回はしないでおこうか」
「それがいいニャ……なんだか、良心がとがめるニャ」
「でも、次の階層も同じ攻略方法が使えるとは限らないわよ。今のは弱点属性をこれでもかと連続ヒットさせた上に、HPが少なかったから成立したようなものだし」
「それもそうだけどニャ……ところで、次は中ボスニャけど、みょーんさん大丈夫かニャ?」
「どういうこと? 中ボスってデュラハン系よね?」
「いや、それは実装当初の中ボスじゃな。バランス調整で出現モンスターが変わっての。デュラハンは5階層目に数体出現するようになったんじゃ。で、問題の4階層目何じゃが……」
「暗黒の魔導士っていう、黒いローブの魔人的なモンスターなのよー。で、魔法耐性が高くてねー」
「たぶんみょーんさんの魔法ほとんど効かないから、後方でサポートに回ってもらうことに……」
「村長」
「なんですか?」
「そんな害悪殲滅しなさい」
「いきなり何を言い出すんじゃ」
「ミノタウロスだって効きが悪かったのに、魔法使いに対して厳しくない!?」
「スケルトン系には効いたし、ミノタウロスだって動きを封じることはできていたニャ」
「だとしてもフラストレーション溜まる仕様なのどうにかしてほしいんだけど!」
「デュラハンには効くって話じゃし、そこまで我慢すればいいじゃろ……」
「アンチ魔法使いモンスターとかワタシ嫌なのよ! 村長、ワタシが許可するわ。次も爆撃殲滅よろしく」
「ええ……手のひらくるっくる…………いえ、何でもないっす」
「殺意にあふれた目をしているです」
「魔法の効果が薄い敵、2回目は嫌だったんじゃろうな……ミノタウロスは魔法というより属性耐性の気もするが」
魔法職は高レベルになるほど火力が高くなるからね。【サモナー】もスキルが充実してくると結構なDPSをたたき出す。しかも遠距離から広範囲殲滅なんかもできるようになるし。その分、防御面に難があるわけだが。そのあたり装備で対策も可能だし、対魔法職みたいなモンスターが実装されていてもおかしい話ではないのだけど……みょーんさんにとってはフラストレーションの溜まることだったらしい。
「爆弾もタダじゃないんだけどなぁ……」
「というか、爆弾は置いてこなかったんじゃな」
「常にインベントリに入れてある。というか、置いてくるって発想がなかったわ」
我が体の一部となっている。そのぐらい自然とあるのが当たり前になっていた。
「そんなんじゃから初期勢から爆撃王子とか呼ばれるんじゃよ」
「なにそのあだ名……初めて聞いたんだけど。というか王子とか言われても困るって」
「爆撃はいいんかの?」
「そこは自覚はしている」
そのあたり議論していても仕方がないのでインベントリから適当に効果のありそうな爆弾を見繕う。魔法系の相手なら物理ダメージを喰らいそうだし、そのあたりで効果のありそうな方向から攻めてみるか。
聖属性でも効果はありそうだけど、それよりももっとダイレクトにダメージが与えられそうなブツがあったような……あ、これ良さそう。
「よいしょっと」
「――なんじゃ、そのバカでかいタル爆弾」
僕が取り出したのは、自分の体の2倍ほどの大きさの爆弾。ライオン丸さんの言った通り、見た目はタルだ。大きくドクロマークの書かれた見ただけでヤバい威力が出そうなブツである。
「結構希少な素材を投入することで作れる爆弾だ。これを作るくらいなら武器強化に素材を使うべきとめっちゃ色々さんにも言われた、その名も【爆弾No.14】だ!」
「なんですか、その名前?」
「いや、僕も詳しくは知らない」
何か元ネタがあるのだろうが、爆弾にも14の数字が刻まれている。
「……あー、うん。まあ相当古いネタなのは間違いないわね」
「ワシは知っておるが、結構有名じゃったと思うんじゃが」
「その手のネタを知っていニャいとわからニャいネタだニャ」
「私は分からないんだけどー、結構有名なのー?」
「簡単に言うと、選択肢を間違えて死ぬ的意味よ。つまり、使ったら即死って意味じゃないかしら」
「村長、それワシらが全滅しそうなんじゃが」
「えー……じゃあこれはやめておこうか」
「それが無難じゃな」
「じゃあこっちの【ピースメーカー】にしておく」
「それはそれで危険な香りがするんじゃが!?」
次に取り出したのは、卵型の爆弾。半透明のスモークのかかったガラスっぽい質感で、中央に光るコアが浮いている。
「使うと周囲のプレイヤーにも毒状態が付与される」
「アカンアカンアカン」
あるたんさんが普段の口調を忘れてこれはマズいだろうと止めてくる。いや、確かに絵面ヤバいよなぁとは思う。あと、効果も。まあマーメイドですぐに解毒できるからこの選択肢もアリかなと思った次第だが……
「そういえば、次の階層の暗黒の魔導士じゃが、テレポートで高速移動するから範囲攻撃や状態異常は有効なんじゃそうじゃ」
「よし、村長。その爆弾採用で」
「みょーんさんがゴーサイン出しちゃったですよ」
「これはもう止められないわねー」
「うわぁ……どうするんだニャ?」
「いくしかないか……」
なぜかみょーんさんが語気を強めると逆らえないんだよね。前にも感じたことがあるが、心の奥底のナニカが震えるというか……そして、その原因を知りたくないと思う自分がいる。
「じゃが、レイスは大軍じゃったからランダムに爆風が飛び回っておっても当たったが、今回は一体だけじゃぞ? 爆風を飛ばしたところで意味はあるのかのう……」
「拘束まがいのことが出来ればそれでいいんだよ。強力なスキルを準備する時間が出来るんだし、それで波状攻撃仕掛ければオーケー。一体だけならむしろ攻撃の手を緩めないで一気に決められるでしょ。クールタイムも1ウェーブだけなら関係ないし」
「……それもそうじゃな」
中ボス、ということもあって本来は強かったのだろう。だがしかし、全力で出だしをつぶしたことで何というか今までで一番あっさりと次の階層を攻略できてしまったのだった。




