2階層(徐々にハードルが下がっていく)
第2階層では出現モンスターは少ない。っていうか、2体だけである。それが2ウェーブ。しかし、その分1体がとても強い。メモ機能でどんなやつか書き込んでおいたが、疲れていたのかな……『ミノタウロスが出てくる。あとで牛丼食べよう』って書いてあった。
牛丼か……いや、そっちじゃない。ミノタウロスが出てくるのはいいが、僕は他のダンジョンで戦ったこと…………あったか?
「誰かミノタウロスと戦ったことある人いる?」
「あるけど、村長は今まで戦ったことないっけ?」
「別段変わった特徴があるわけじゃないがの。サイクロプスとパターンは似ておるぞ。攻撃方法が棍棒か斧かの違いじゃの。ミノタウロスは斧じゃ」
「……サイクロプスも戦ったことあったか忘れたわ」
「オイ」
「やっぱり村長が明後日の方向に進んでいるだけニャんだニャ」
「動きは単調だけどー、遠距離攻撃でハウリングボイスを使ってくるのー」
「ハウリングボイス?」
「衝撃波じゃな。咆哮と共に前方に衝撃波を発射する技じゃ。エフェクトは見えるから、避けることは可能じゃぞ。ただし、それなりに俊敏値が必要じゃがな……まあ、種族がヴァンパイアの村長なら楽に避けられるじゃろ。というか、このメンバーで避けるのが厳しいものはいないがの」
レベル90以上ならそりゃぁね。なお、オーガとフェアリーは他種族に比べて俊敏値が低めなので鈍足職業だと避けられない模様。
魔法使い系も鈍足職業だけど……このパーティーだとバフ盛るの前提だから結局回避できるのか。
「でも、魔王城だから普通のミノタウロスより強いと思うですよ?」
「……たしかに嬢ちゃんの言う通りじゃな。しかも1ウェーブ毎に2体ずつじゃろ? え、それマズくないかの」
「確実に魔改造された個体よね。幸い、一周目の強さだから対処は可能だと思うけど」
「廃人連中でも3周目ぐらいで死闘だったそうだニャ。この前、ニー子さんと話したんだけどニャ、しばらくはやりたくニャいって死んだ目で言っていたニャよ」
「うわぁ、あの人がそこまで言うってかなり難易度きついやつだよ」
この先に進むのが怖くなってきたんだけど……もしかして、今回の企画早まったかな?
しかし、後悔先に立たたずとも言うしやるしかないわけで、耐久値回復も済んだことだしさっさと上に上がろうか。
「とりあえず、ライオン丸さん。耐久値回復ありがとうね」
「むしろそれをしないと【鍛冶師】で来ている意味ないからの。実際の操作はおぬしらがしておるし」
他人の装備強化や耐久値回復が出来るのが製作系職業の強みだよなぁ……そのため、【仕立て屋】のディントンさんも同じことができるのだがライオン丸さんのほうがそのあたりの補正が高いためこちらに頼んでいる。いや、頼んでいるとは言ってもウィンドウから装備修復を実行する際にパーティーに製作系職業を持つプレイヤーがいれば、修復スキルを適応するかどうかの確認画面が表示されるので、こちらで『はい』を押すだけでいいのだけど。
このあたりの機能もいつのまにやらアプデされていた範囲である。初期のほうだと相互に許可を出し合って使っていたんだよね……ライオン丸さんが村に来たばかりの頃は武器強化マラソンをしていたから、よく覚えている。いや、あの苦行はひたすら無言で目の前のウィンドウをいじるだけの作業だったから本当につらかったよ。
「なんじゃ、村長。目が死んでおるぞ」
「いや、昔の武器強化マラソンを思い出してね」
「ああ……そんなこともあったのう」
「二人とも目が死んだです」
「あの頃が懐かしいわね。不自由が多かった、あの頃が」
「みょーんさんまで!?」
「装備強化は底ニャし沼だからニャ」
「アプデの度に派生が増えていくからねー。果てしない旅なのよー」
「サービス終了まで、止まるんじゃないわよ」
「たまには止まりたいです」
「とりあえず、無駄話もいい加減にして次に進もうかの」
「そうね……このままだと投稿する動画が無駄話集になるわよ」
「それはそれでおもしろそうだけどー」
「いや、さすがにそれはどうニャんだニャ?」
確かに面白そうだけど、当初の趣旨から外れるので無しの方向でお願いします。
そんなわけで第2階層へ向かう僕たち。先ほども話した通り出現するのはミノタウロスが2体ずつ、2ウェーブだ。囲まれない分そこまで苦戦はしないと思うが……不安を抱きつつも、ミノタウロスの間へと入る。内装は第1階層とあまり変わらない。ただ、部屋の色合いが少し変わっているぐらいか。
武器を構えると目の前に赤い落雷が発生してミノタウロスが2体出現する。見た目はミノタウロスと聞いて思い浮かべるオーソドックスな外見。筋骨隆々の体に牛の頭、巨大な斧を持っている。身に着けている防具は最低限のものだけだが……3メートル近い巨体なので迫力がある。
「ブモオオ!!」
「開幕ハウリングボイス!? ちょ、準備していた魔法がキャンセルされるんだけど!?」
「仕方がない、ワシがガードする!」
「よし、散開! みょーんさんは魔法を放って! 僕はとりあえず爆弾を投げつけるから」
「アリスも魔法攻撃をしてみるです!」
ハウリングボイスだが、確かに見た目にはわかりやすい。リング状のエフェクトが複数ミノタウロスの口から発射されて徐々に広がりながら迫ってくる。円の中が効果範囲ということでいいのだろう。
みょーんさんはスキル発動のために硬直するためライオン丸さんが防御するが、物理ダメージとして判定なのか。でないとまともにガードできないだろうし。
ライオン丸さんの防御により、魔法がキャンセルされずに済んだのでみょーんさんが雷撃を放つが……どうにも効果が薄い。
「アレじゃないかなー。ミノタウロスの元ネタのほうだけどー、本名がアステリオスって言ってー、雷光とかそういう意味があるからー、その連想で電撃は効きづらいとかー」
「ああ、なるほど」
理由がディントンの言った通りかは判断できないが、実際に効果が薄いのは見ての通りだろう。通常個体は効いても、こいつらだけは効きづらいとかあるかもしれないし。あるいは魔法は効果が薄いとか。
みょーんさんの放った魔法は持続性で一定時間その場に効果が残り続ける。そのため、ダメージは薄いが一応の拘束が出来ていた――そこへ、アリスちゃんの放った火炎魔法が着弾した。
「あ、ヤバい」
「みょーんさん?」
「魔法同士がぶつかると、反発エフェクトが発生しちゃうのよ。エフェクトにダメージ判定とノックバック属性がついてはいるんだけど魔法自体は不発扱いというか、ダメージ効率が大幅に下がるのね」
「もう遅いですよ」
「しかも村長の投げた爆弾も着弾するニャ」
魔法同士がぶつかり合い、一瞬光ったと思ったら衝撃波みたいなエフェクトが発生した。すべての魔法で発生するわけではないのだが、今回の組み合わせはダメなほうだったらしい。そして、ミノタウロスたちにダメージがはいり……なんか、爆風が糸みたいにのびていっているんだけど……バグ?
「ちなみに投擲アイテムや爆風自体も反発エフェクトに触れると弾かれるわ」
「それで爆風が気持ち悪い挙動で動くのか」
「弾かれるごとにヒット判定が発生するから、一つの爆弾で連続でダメージを与えることも可能だけど……さすがに弾かれる方向をコントロールできないってんで誰も試さなくなったのよね」
「けっこう初期のほうで判明した仕様じゃったな。ダメージ倍率の調整自体は入っておるが、弾かれることについては特に変更がないままじゃ」
「…………お兄ちゃん?」
「――まあ、まずは普通に戦ってみるか」
「なにか不穏なこと言っているー」
「この男、ニャにかするつもりニャよ」
身内から警戒されるが、ひとまず無視して召喚獣を出しておく。今回はヤタガラスとシーモンキー、マーメイドで攻撃は物理メインの編成にしておいた。魔法が効かないと仮定しての布陣だが、まあ用心するに越したことはないだろう。
ヒット&アウェイ戦法で攻撃してくれている召喚獣たちだが、ミノタウロスはのけぞりもしない。
「素でスーパーアーマー持ちだニャ、こいつら」
「そりゃまた厄介な……ブーメランも呪い属性のほうに持ち替えて攻撃しているんだけど、あまり効果ない感じかな」
「魔王城のモンスターって呪いきかニャそうだけど?」
「確かに。やっぱり聖属性にしておくか」
思ったより鈍足なのでミノタウロスを攻撃しつつ装備を変更できるが、そこでやつらの動きが変わった。片方のミノタウロスが腰を落とし、斧を構える……だが、すぐに動かない。斧に光が集まっており、明らかに何かの攻撃のためのチャージ状態に入った。
もう片方は、そのチャージ状態のミノタウロスを守るため斧を盾のように構えて防御している。
「あ、ヤバそう」
「通常のミノタウロスでは見たことのない行動じゃな」
「普通は突進攻撃をしてくるから警戒していたのに、もっとヤバそうな攻撃をしそうね。こっちも攻撃しまくってキャンセル狙うしかないわよ」
「でも、前に出てきたミノタウロスが邪魔です!」
「そうこう言っているうちにチャージ完了したみたいだけどー」
「え、結構早い……」
防御に回っていたミノタウロスがジャンプして後ろに下がり、チャージしていたほうが雄たけびと共に斧を振り回す。これは……回転斬り?
「ブモオオオ!!」
「ちょっと、コレヤバいんじゃないの!?」
「回避回避! 壁際まで逃げろ!」
「ヤバいニャ! っていうか回転のスピードで動きが速いニャ!?」
「村長、事前情報ではどうなっていたのよ!」
「あまりネタバレし過ぎていると面白くないかなと思って、なんのモンスターが出てくるか程度のことしか知らない!」
「気持ちはわかるけど高難易度舐めないで!」
全員、急いで部屋の角まで行く。魔王城の各フロアは長方体の形をしている。そして、ミノタウロスの回転斬りは円形の動きだ。すなわち、部屋の角ならダメージ判定が発生しない。
「見えている範囲より判定が大きいっていう場合もあるニャ」
「その時は諦めるしかない」
「ひいい!? 刃が迫ってくるです!?」
「嬢ちゃんのほうにいったぞ――あ、壁に当たって止まったの」
どうやら読み通り攻撃範囲に限界があったようだ。いや、あまりのことにびっくりしたが本来ならどうにかしてチャージを止めるとかなのだろう。ミノタウロスは目を回していてふらふらと……
「違う! これ、攻撃のチャンスや!」
「殴れ、全員でタコ殴りにするんじゃ!」
「もう一方のミノタウロスがカバーに来たけど!?」
「みょーんさん、魔法使えば足止めできるっぽいしお願い!」
「まあ、ワタシはこの階層ダメージあまり与えられないし、そうするしかないわね」
「筋力ブーストかけるニャー」
「全力で蹴り抜くです! 思ったより怖かったですからね!」
ひたすら攻撃を加えていくがさすがにすぐには倒れそうにない。正気に戻ったミノタウロスがこちらに斧を横薙ぎに振るうが、なんとか躱す。
「あぶねっ」
「ニャー!?」
「あるたんさんがやられたけどー?」
「なんで前に出てきていた!?」
「た、たまには攻撃に参加したかったニャ……」
「意外とぴんぴんしているわね。思ったより火力低い?」
「ふ、ふっふっふ……バフ役がすぐに死ぬのはマズいから、実はアタイの防具は防御力マシマシにニャっているんだニャ」
「どんだけよ」
「ケットシーって防御力低い種族のハズなんですけど……」
「もしかしてその装備、俊敏値犠牲にしていない?」
「その通りだニャ」
「オイ」
アレだ。俊敏値が下がる代わりに防御力が上がるとか、そういう装備何だなアレ。見た目はいつものベリーダンス風衣装に見えるが……あの薄着で硬いとかどういうことだ――って人のこと言えないんだった。
「とりあえず、パターン的に次は防御していたほうがチャージ開始するんだろうし、また角に逃げてふらついたところを攻撃。で、その繰り返しで倒せるでしょ」
「そうね……ところで村長」
「なに?」
「角に逃げて攻撃範囲を利用するのって、裏技じゃないの?」
「…………い、いや。こういうのって常套手段だから」
「物は言い様じゃな」
(ああ、徐々にハードルが下がっているー。まあー、こっちはそのほうが確実に攻略できそうでいいけどねー)
その後、同じパターンを繰り返してミノタウロスを撃破した。2ウェーブなのでもう一組出現するにはしたのだが、パワーとスピードが上がっただけで攻撃パターンは同じだったため少々てこずりはしたものの無事に倒すことに成功した。