挑戦(観光気分の皆さん)
みょーんさんの動画撮影準備も終わり、僕らも装備が整った。レベルは上がってはいないが、それでも十分な強さには達している。あとは、ウェーブを乗り切るノウハウがないのだけがネックである。
というか、他のウェーブ制ダンジョンだとほぼほぼワンパンで倒せてしまうから参考にならない。
「わざと弱い装備使うとか、レベルの低い職業使うとかあったでしょうが」
「……忘れていた」
「お兄ちゃん、たまにうっかりするですよね」
「たまにというか、しょっちゅうしておらんか?」
「なぜだッ!?」
「あれだニャ。村長って結構一人でいろいろできるけど、そのせいでどうにかニャるって考えが根っこにあるんだニャ」
「……それだ!」
「それだじゃないでしょうが。確認ぐらい取りなさいよ」
「まあー。それも村長らしいといえば村長らしいけどー」
ごもっともで。
ちなみにすでに魔王城の中、いわゆるロビー部分で装備の最終確認をしている。今回参加するメンバーは僕、アリスちゃん、みょーんさん、ライオン丸さん、ディントンさん、あるたんさんの6人だ。ちょうど1パーティーの限界人数。魔王城はパーティー連結で入ることもできるけど、難易度が上がってしまうから逆に良かったかもしれない。
「ちょうど6人パーティーじゃし、運が良かったとみるべきか……他の連中に悪い気もするのう」
「まあ、めっちゃ色々とかはすでに攻略済みだし、結局は力試しのコンテンツみたいなところあるしね。あまり気にしても仕方がないわよ」
「ですね」
他のみんなが攻略する日に手伝えばそれでいいだろうし、動画撮影も第二弾、第三弾をやってもいい。あと、みょーんさんの発案でいきなり生放送だと事故りそうだからやめようということになった。
たしかに、唐突なトラブルとか起こっても困るからなぁ……みょーんさんは別の意味で言ったっぽいが。っていうか僕がトラブル起こすと思っているんだろうな、うん。
と、そこで疑問を感じたのかアリスちゃんがみょーんさんに質問する。
「ちょっと気になったですけど、3人パーティーを2連結だとどうなるです?」
「難易度が上がるわ」
「よし、そのまま行くですか」
「そもそも連結する意味ないじゃろ」
っていうかそれできるんだ……いや、パーティー数で湧きの数に影響があるって話だからそれか。テクニック的には討伐数を稼ぎたい時に使えるか? でも、少人数で連結パーティー用のモンスター数とか……無理だな。やるのはマズいか……
「でも、撮れ高……」
「村長ォ! 真面目に攻略するんでしょうが!!」
「あ、つい面白そうな話に食いついてしまった……」
「お兄ちゃん、やっぱり真面目には無理だと思うです」
「アリスちゃん……僕だって傷つくことはあるんだ」
「っていうか嬢ちゃんは村長のこと好きなんじゃよな? 辛辣じゃと思うが」
「良い所も、悪い所も含めて大好きですよ? それはそれとして、悪い所があったらツッコミはいれるです。そのまま放置していたらクラーケンの時みたいに負けるですから」
「ぐほっ」
「……これ、将来尻に敷かれるわね」
「愛はありそうじゃからいいんじゃないかの?」
「頑張るニャ、村長」
ちょっと、ダメージがでかかったんだけど……と、そこで目の前にディントンさんが歩み寄り、彼女の影が僕にかかる。なんで近づいたんだと、彼女の顔を見ると……ニヤァって笑っていた。
「あのーディントンさん?」
「……アリスちゃんにリードで引っ張られる犬みたいー」
「ぐはっ!?」
「ディントンさん!? なんでトドメ刺したです!?」
「はい、自分の趣味に走らないようにね」
「だってー、いじれるチャンス少ないしー」
「村長、生きておるか?」
「……僕が死んだら、遺灰は海にまいてくれ、海賊として…………海に生き、海に死ぬんだ」
「結構余裕あるようじゃぞ。冗談言えるぐらいじゃ」
「じゃあさっさと出発しましょうか」
「ほら、村長さっさと立つニャ」
「もうちょっと心配してくれてもいいと思う」
「あ、あはは……」
アリスちゃんに苦笑いされ、理由について聞きたいところだが時間も長くなりそうだから一先ずわきに置いておこう。
いよいよ魔王城の攻略だが、改めてここで魔王城の仕様について説明しよう。
階数ごとにモンスターが一定数湧くので、それを討伐するウェーブ制のダンジョンで、だいたい平均して一階層ごとに3ウェーブあるらしい。中には中ボスが出てきてそいつを倒すだけの階層や、ザコばかりだがウェーブ数が多い階層などもあるそうだ。
僕は前に試しに挑んだぐらいなので詳しいことは知らないが……
「とにかく大変そうだなぁ」
「めっちゃ色々に訊いた話だけど、初回は7階層までだって」
「ということは1階はロビーじゃったから6階層クリアすればいいんかの?」
「いや、あそこは0階扱いだから普通に7階層あるわよ」
「うへぇ……マジかぁ」
「耐久値は減るから気にしておいたほうがいいよね。あと、替えの装備も」
「階層ごとクリアすれば次の階層に進むまで、インターバルが出来るからそこで修復なり交換なりできるわよ」
「なるほど。じゃあ、一階層ごとに5分休憩する感じでいいか」
「そうね」
「アリスは準備大丈夫です!」
「アタイもだニャー。で、今回はどういう作戦で攻略するんだニャ?」
「まず、撮影のほうの確認をしておこう……みょーんさん、どういう感じで撮ってます?」
「とりあえず撮影は開始しているわ。あとは、使えそうなところを編集して動画にまとめる感じよ。いくつかカメラがワタシの周囲をランダムで飛んでいるから、その映像が保存される感じかなぁ。連動しているからカメラ切り替えもできるわよ」
「そちらは詳しい人に任せるべきじゃろう」
「少なくとも私たちよりかは詳しいだろうしー」
とりあえず、問題がなさそうならそれでいいか。
付け加えるならランダムとは言うが、プレイヤーの腰から下にはいかないようになっているそうだ。そもそもきわどいスカートの場合暗黒フィルターがかかるってディントンさんが言っていたけど……試したのだろうか?
「私の顔に何かついているー?」
「いや、なんでもないっす」
「それで、結局攻略方法はどうするんだニャ?」
「今回はみんなメイン職業だからなぁ……得意戦法でいけば何とかなるかな? 2人ほど生産職がいるけど」
「まったく誰じゃ。エンドコンテンツに生産職で挑むバカは」
「そうよねー。もうちょっとまともな職業使ってほしいわー」
「アンタらだアンタら」
「あ、あはは……アリスも人のことは言えないですけど」
「BFOの【演奏家】はバッファーだからいいのよ」
ちなみにバッファーとはバフをかけるスキルがメインの職業や、役割のことを言う。なお、バフという言葉自体が緩衝材という意味のバッファーから来ているのだから因果なものである。一周回って元の言葉にたどり着いているぞ……意味は全然違う言葉になったが。
「そもそも【鍛冶師】と【仕立て屋】の攻撃スキルって何があったっけか……【仕立て屋】は奥義があるからある程度戦えるのは知っているけど。ライオン丸さん【鍛冶師】のスキルについて説明プリーズ」
「村長、職業のほうの【村長】でスキル使っておったじゃろ」
「しばらくメインで使っていないから忘れたよ」
「あー、そういえば最近は【海賊】か【サモナー】ばかりじゃったな」
そもそもどちらも上位職並みに強いのだ。【海賊】はステータスが、【サモナー】はスキルがとても強力で、使い勝手が良い。あとは【海賊】でスキル面が充実してくれればメインをそちらに完全に移行できるのだが、なかなか奥義を覚えられない。
なので、今回は攻略メインということで僕も【サモナー】にしている。
「で、どういうスキルで戦うわけなのか」
「そうじゃのう……奥義が火炎、爆破の完全耐性なのは知っているじゃろ? 通常スキルも防御力強化スキルなどマジで防御系が豊富じゃぞ」
「攻撃系は?」
「ハンマーなどじゃな。正直、戦闘なら盾役メインになるの」
「じゃあそっち方面の立ち回りをしてもらえばいいか……他に防御系いないし、あるたんさんのガード役に回って貰えればバランス良さそうか?」
「じゃな」
「アタイもそれが良いと思うニャ。踊りが途切れなければバフも多くかけられるニャよ」
「ところで私のスキルは聞かなくていいのー?」
「そもそも奥義に身を任せて近接戦闘するよなーって思ったからいいや。そのデカいハサミ使うんだろうし」
「そうよね。っていうかディントンぐらいでしょ、そのデカいハサミ使うの」
「その通りだから言い返せないー。いや、さすがに他にもハサミユーザーはいるからねー」
いたとしてもメインウェポンで使う奇特な人は貴女だけだと思います。このシザーウーマン……っていうかヒャッハー達とは別ベクトルで弾けた戦闘方法していやがる。いや、僕のスコップやデッキブラシも大概ではあるんだけど。
「で、みょーんさんは……いつも通り魔法攻撃か」
「なんで残念そうな顔をしているのよ」
「いや、だって普通だし」
「そもそも趣旨が普通に攻略でしょうが!」
「――――ハッ!? いつの間に普通が寂しくなっていたんだ」
「……ダメだこりゃ」
「お兄ちゃん、自重。自重の心です」
「そうだよな……よし、じゃあ僕も普段とは別の真面目な装備を使おう」
(裸マフラーを変えていない時点で真面目もあったもんじゃないんじゃけどな)
というわけで、インベントリを………………あー、うん。
「やっぱり僕がまともな装備使うってのも変な話だよね。よし、今日はスコップでいこうかな」
(もしかしてインベントリにまともな装備はいっていなかった?)
(あー、そういえばここ最近強化していた装備ってネタ装備ばかりでしたね)
「データとして存在する以上、合法の存在なんだ。だから趣旨の裏技には抵触しない!」
(そりゃそうだけども)
「村長ー、理論武装おわったー?」
「うん。ゴメン、しょっぱなから躓いて」
「私的には攻略できればそれでいいかなってー。せっかく作ったライダースーツのためにもー」
「そういえば初回クリア報酬はバイクじゃったな」
「別にバイクって他にも入手手段なかった?」
「たしか、今のところ課金だけです」
「未実装じゃったか」
「で、結局村長の役割は何だニャ?」
「召喚獣による広範囲攻撃。あと、回復もできるよ」
「あー、ニャるほど」
アリスちゃんとあるたんさんもヒーラーはこなせるスキルを持ってはいるが、たぶん追い付かないだろう。アリスちゃんはバフを盛りつつ前に出て戦うし、あるたんさんも後方でバフを盛り続ける都合上みんなのHP管理まではできない。
召喚獣の場合はある程度自動で回復スキルを使ってくれるのでそこまで気にする必要もないし、僕が兼任するのが一番面倒がないだろう。
「まあ、各々フォローはし合うことになるだろうけどね」
「じゃな」
「それじゃあ、準備も済んだところでいきましょうか」
というわけで、いよいよ魔王城の再戦へ。
階段を上がれば、まず最初に出てくるのはスケルトンか……気を引き締めなければ。