攻略会議(少しだけ流れる不協和音)
みょーんさんの相談にのり……のり? まあ、相談があった数日後。たまたまヒルズ村に全村民が集結した。このところは新規プレイヤーも多く見かけ、炭鉱から脱出するのも以前よりだいぶ楽になっているらしい。そのため遠巻きに他のプレイヤーも散見される今日この頃、僕たちは村の広場で会議をしていた。
僕らのことを知っている人も中にはいるらしく、遠目に微妙な顔をされているのだけは納得していない。新規プレイヤーにまでは被害出していないぞ。初期組についてはクラーケンの時、本当にすまなかったと思っている。
「さて、そんなわけでこうして全員集まったから本題に入りたいと思う」
「いきなり唐突じゃな。で、この前言っていた魔王城攻略と動画撮影についてか?」
「うん。まあ、その話だね。今まで裏技というか、ニッチな攻略方法が多かったしたまには真面目に攻略しようかなって思うんだけど」
「そもそも動画撮影する時点で真面目に攻略って言っていいのか微妙な件について」
「攻略自体は真面目にするよ!」
(たぶん、途中からおかしな方向に逸れるやつじゃな)
(信用できニャいニャ)
一部疑わしい視線を向けてくる人たちもいるが、今回は真面目だからね。いや、普段も不真面目ってわけではないのだが……大真面目に妙なことをしているってだけだから。自覚もってはいけない気もするけど。
いや、だからこそ今回は基本に立ち返って遊ぶのだ。あと、近々魔王城もアップデートが入るらしくて、今より難易度上がるんじゃないかって噂がある。魔王軍襲来第二弾を開催予定だとか。で、その前にやれるときにやっておきたいのだ。
「というわけで、今回は裏技なしの縛りプレイを行いたいと思います」
「――なん、じゃと」
「そこー、何をそんなに驚くのかー。っていうか、さっきから真面目に攻略って言っているでしょうが」
「だって村長含めてワシらの代名詞じゃろうが。アホなやり方で攻略するの。あと、どうしても真面目に攻略のイメージが湧かない」
「僕が見ようとしていなかった真実を告げてくれてありがとう。そのイメージを払しょくするためにも真面目に攻略もできるんだぞということをアピールしようと思うんだ」
「どこにアピールするって言うのよ」
「そりゃ、動画サイトで生配信だよ」
「ああ、それで動画配信とか言っていたんじゃな……で、結局ついにそこに手を出すって話なのかの?」
「前にそのあたり強化されたでしょ。ほら、外部アカウントと連動させて使えるやつ。とりあえず準備はしたから、『ヒルズ村の真面目に攻略動画』ってタイトルで配信する予定」
「結局そこに行きつくんですね」
「っていうか、そういうことしている時点ですでに真面目じゃないでしょ」
「そのツッコミはすでにしているニャ」
「まあいつものことだしー」
みんな僕の発言にツッコミを入れているが、魔王城攻略については異論はない様子。
ちなみに今回のルールは簡単。今まで使っていた裏技的な技法を使わずに、正攻法のみで攻略すること。
「とは言うもののー、どこまでがアリなのかがわからないんだけどー」
「公式でテクニックとして紹介されているのはアリで。それ以外は基本的にダメ。壁にたたきつけるとかの落下ダメージ系はふっとばしテクニックで前に紹介されていたからオーケーだけど、ジェット移動とか泡移動とかは無しで」
「お兄ちゃん!? アリスはそれ封じられると今までの戦法使えないですよ!?」
「僕も泡を封じるとキツイ。そして、いい加減ワンパターン化してきた現状を何とかしないといけないのは僕とアリスちゃんだからね。さすがにこのままだと通用しない相手も出てきそうだから新しい風を呼び込みたいんだ」
同じような戦法ばかり続けていると、いざ想定外の敵が出てきたときに対処できないかもしれないし。いや、ゲームなんだから死に覚えもアリではあるのだができる限り経験値は減らしたくはない。だったら、高難易度ゆえに経験値減少の無い魔王城で新たな戦法を模索するのもいいかなって。
「他には禁止事項あるかの?」
「あとは魔法同士をぶつけたときの衝撃ダメージとか、武器が壊れたときの衝撃ダメージとか、早着替えによる緊急回避とか?」
仕様の裏を突いた技法……というか、早着替え緊急回避なんてほぼほぼバグ技に近い。タイミングがシビアすぎる上に着替えた直後は隙がでかすぎて実用性ないけど。まあ、ゲームバランスが狂うほどではないので運営からも見逃されているような仕様だ。
とりあえず、動画にはとるのでグレーなのはやめておこうということで。
「そんな殺生なー」
「えー、早着替え使えないと効率下がるのにー」
「村長、ちょっと大目に見てくれんかのう? 衝撃ダメージはバカに出来ん数値なんじゃぞ」
「……僕が言うのもアレだけど、たまには普通に攻略しようよ。っていうかディントンさんは早着替え使ってるの? アレ効率悪いはずなのに」
「みんなの前で着替えるとー、妙な気持ちになってねー……いつの間にかすごいスピードで出来るようになったのー」
「わかるニャ」
「誰かこの人たち何とかしてー」
ディントンさん、Sに目覚めたと思ったらいつの間にそっちにも目覚めたんですか? あるたんさんも頷かないでいただきたい。
そしてその変態性だけで実用レベルに達したのか、この人は……
「修正されない範囲の技法なら使っても大丈夫よ!」
「タイミングがシビアで要練習なのが多いからでしょうけどね……」
「そもそもそういう技法を使うのって、ソロ攻略メインだから複数人で行くときに使うと混乱しそう」
「あー、それはあるかー」
「じゃあ結局は普通にやるしかニャいんだニャ」
というわけで、いつ攻略に行くかという話になったわけだが……そこでみょーんさんがちょっと待ってほしいと声をかけてきた。
「ちょっと相談があるんだけど、いいかしら?」
「それは構わないけど……昨日の話?」
「いえ、違うわ。ワタシ、動画サイトのアカウントあるからそっちで配信したいなぁって思ったのよ。村長には悪いけど」
「いや、別にかまわないけど……僕も言い出したはいいけど詳しいやり方は知らないし、むしろ慣れている人がやったほうがいいと思うけど。でもみょーんさんその手のものは手を出さないかなって思っていたよ」
「それはそうなんだけど、この前DWOの先輩方とちょっとした同窓会をして、今の仲間たちとどんなことをしているのか見せてほしいって言われてね。だったら前に作ったアカウントも残っていたし、動画で上げようかなって思ってね。今、ワタシはこういうことをしていますって」
「あー……なるほどです」
「ワシらは構わんが、皆はどうじゃ?」
「特に問題はないよ」
「私も構いません」
「アタイも問題ニャいニャ……らったんは補習地獄でログインできそうにニャいけどニャ」
「いろいろとマズイじゃろそれ……ああ、だからさっきから無言で離れたところに座っておるんじゃな」
なにやら神妙な顔をして一歩離れた場所にいると思ったら……っていうかログアウトして勉強したほうがいいんじゃないだろうか――あ、めっちゃ色々さんに捕まって講義が始まった。
「まったく、少しは頭に詰め込まないと卒業できませんよ」
「……でもあーしの友達は卒業するんだよ!? これじゃあ勉強なんて手につかない!」
「? 確か、お友達も含めてまだ3年生じゃないですよね?」
「アイツら彼ぴっぴできたからログインしてないのー! 先に卒業されちゃう!」
「…………はい、勉強しましょうねー」
「スルーすんなだし!!」
……ただの嫉妬じゃねーか。っていうか、理由付けて勉強したくないだけでは?
「あれはログインしても勉強コースじゃな」
「ギャルトリオ解散の危機か」
「ギャルトリオで遊んでいるころから成績ヤバいって話だったから、他メンバーに彼氏ができても関係ないわよね」
「どのみち勉強漬けじゃな」
「心なしかめっちゃ色々さんがイキイキしていませんか?」
「青空教室の時とかノリノリだったからなぁ……ああいう、教師役好きなのかもしれない」
「まあ、そっちは彼に任せていいでしょー。で、参加については私も問題なしー……和風コンビは、この前からちょっとぎくしゃくしているから不参加だと思うけどねー」
ディントンさんの視線の先には、更に離れた場所でよそよそしい態度をとっている和風コンビがいた。っていうか君らもか。会話に参加していないなぁとは思っていたけど……
「あの二人、年末年始の時に脱獄クエストやっていたじゃろ? その時にラキスケイベント発生したんじゃ」
「イベントがあったからこそ、進展しそうととらえるべきかなー?」
「どうだかニャ。後退したんじゃニャいかニャ」
「ヒドイ言い様です…まあ、今も会話に参加せず、微妙な距離感を保っているですけどね」
「あれはあれで甘酸っぱい空気じゃがな」
「となると進展なのかしら?」
「さぁ? バレンタインに結婚システム導入するって発表があったし、その時にまた進展があるでしょ」
ギクシャクしていても、桃子さんならその時に何かしらのアクションを起こすと思うし。さすがにそこでヘタレていたら話にならないだろう。
「村長も人ごとじゃないと思うんじゃが」
「すでに受け入れた身ですが、何か?」
「なん、じゃと……」
「アリスちゃんみたいな地雷女受け入れて大丈夫ー?」
「ディントンさん!? さすがにその発言はアリスもショックなんですけど!?」
いや、ゲーム内結婚だけでそこまで大きなリアクションをとられても困るんだけど。
最近のアリスちゃんならゲーム内結婚だけで大騒ぎするとも思えないし、現にこうして落ち着いてみんなにツッコミを入れている。
あと、たぶん結婚しておかないと余計に面倒なことになりそうな予感がする。ドMとか、他にも何か火種がある気がしてならない。
「じゃあ、動画はワタシが担当するから適当に決めるわね……とりあえず、日時だけ決めておいて後はその日に集まった人で攻略するってことでいいでしょ。どうせ全員集まれないっぽいし」
「ですね」
らったんさん、よぐそとさん、桃子さんは不参加になりそうだし、他の面子も絶対に参加できるとは限らない。
そういうわけで、動画撮影環境のチェックと機能が問題なく使えるかを確認したら改めて日時を連絡するということで話が決まった。




