日常(ルーチンワークと化している)
魔王城攻略と話題には出したものの、まずレベル上げ、装備の更新、クエストの消化やら他にもやることはいっぱいあるわけで……オンラインゲームって長期間遊んでいるとだんだん作業ゲームになるんだよね。
今のところはちょくちょくイベントが開催されているので楽しみがそれなりにあるが、それ以外だと地味な作業が多いわけで……というわけで、地味な作業中の僕である。
「えっと、あと必要な素材は……ゴーレムの高温核が20個と、海賊団の旗印が15個か。装備強化のためとはいえひたすらアイテム集めするのは疲れる」
メモを開いて必要アイテムを確認するが……要求素材が多いなぁ。
装備の派生強化……モンスター素材を用いて、より上位の装備へと改造するシステムだが、こうして素材を集めるのが面倒だ。上位の装備になればなるほど要求素材の入手難度と数が増えるし。
通常の装備強化、強化用アイテムを用いて+を増やす場合の強化の場合と違って強化失敗がないのはいいが、別アイテムへ派生するので+は引き継がれないので改めて強化する必要もあるうえに、派生先の中には+数が多くないと作れないものもある。
「でもブーメランの強化はしたいからなぁ。手を抜くわけにもいかないか」
今回、他のメンバーは同行していない。
それぞれ欲しい素材がバラバラで同じ場所で狩るというわけにもいかなかったのだ。全員で一緒に回るのもアリと言えばアリだが、高レベルになるとドロップ率が下がるし……時間がかかりそうだから今回はみんな一人で集めることになった。
いや、みょーんさんだけは何かリアルの知り合いと話があるとかで今日はログインしていないけど。なにやら昔のゲームの知り合いと面白いことをするかもとか話していたが……今はまだ詳細は語れないって言っていたな。まあ、そのうち改めて話があるだろう。
「そんなことより、今は素材素材」
この場で集められる素材で欲しいものはないので、今まで素材集めのために籠っていたダンジョンを突破し入口へと戻る。すぐに街へと引き返してファストトラベルで次の街へ……まあ、そうそう上手くいくなんて保証はないわけで、今度はゴーレムの高熱核を入手するために火山地下の古代遺跡をひたすら周回……しかもレアドロだから非常に時間がかかる。
「うおおおお!! 根性ォ!!」
声を張り上げて敵を倒していく。今回の職業は【海賊】にしてある……というか、いい加減奥義スキルを覚えたい。他の職業では結構な数奥義スキルを覚えたというのに今のメイン職業である【海賊】ではまだ覚える気配がない。
「やっぱり海賊関連のクエストを進めるべきかねぇ……アリスちゃんたちが前にやったっていう海賊団系のクエストが一番それっぽいし、そのあたりから攻めてみるか?」
素材集めの毎日と、年末年始のキャンペーンのおかげでレベルも大分上がっており、今の僕のレベルは基礎レベルと職業レベル共に90を突破した。なお、みょーんさんやめっちゃ色々さんなどはとっくに100レベルに到達している。ああ、初期のころのレベルで勝っていた僕が懐かしい……いや、炭鉱が難易度高いから最初の内はレベルが上がりやすいってだけだったわけだが。
そのおかげで古代遺跡も普通に周回できているわけだけども……さすがに難易度はそのままで遊んでいる。ハードモードとか死にそうだし。
「ああ……なかなかでないなぁ」
「うわぁ、村長さんの目が死んでいるぜ」
「素材、出なかったんやなぁ」
何度も周回しているからダンジョン入り口のロビーのような部分で多くのプレイヤーの目に留まっているわけで、だんだん顔が死んでいく僕に周りが戦慄していた。
「あの人、有名人なんですか?」
「そっか……サービス開始から1年近く経っているし、有名どころ知らない人も増えるよな」
「簡単に言うと頭のおかしい人だ」
「そこ聞こえているぞ! っていうか誰の頭がおかしいって!?」
「いや、常に裸マフラーの人が何を言っているんだって話だから」
「…………」
自分でもこの恰好が自然になっていて、すっかり頭から抜け落ちていた。そうだよ、真冬になんで僕は裸マフラーなのだろうか?
「いや、でもこの装備が一番強いし」
「どんだけ強化してんだよ……」
「ひたすらレア素材やら+10からの派生強化やらしていったら、なんかイベント限定のレア報酬クラスの装備になっていて……」
「それって相当強いんじゃ」
めっちゃ色々さんやみょーんさんの準廃人クラスどころかポポさんなどガチな人たちも慄いていたレベルだからね。まだまだ派生先が知られていない装備も多く、特に見た目がアレな装備の上位版はあまり情報がない。
そのため時折彼らに情報を渡しているのだが……うん、レア素材を惜しみもなくネタ装備にブチこんでいるって引かれたよ。
「そもそも+10からの派生ってのがいくらつぎ込む必要があるんだ……」
「あれ? 村長さんって前に課金しないとか言っていなかった?」
「基本的にしていない。最近は倉庫拡張とか遊びやすくするのに課金したけど。強化はイベント報酬とかで集めた強化保護アイテムとかで何とかやりくりしているんだよ」
あとはひたすら運の世界。防具は何とかなっているが、武器はいくつかダメにしたんだよなぁ……いや、防具も最初の頃は壊したことがあるか。さすがに最近は慎重に強化しているけど。なにせ同じものを用意するのに時間がかかる。
「というわけで、ゴーレムの高温核集めに戻ります」
「? 高温核? 高熱核じゃなくてですか?」
「…………あれ?」
どっちだっけ? メモとスクショフォルダを開いてみると、必要なのはゴーレムの高温核。ここで入手できるのは高熱核。
「………………名前紛らわしいんだよ!!」
「あ、村長さん走り抜けていった」
「オタッシャデー」
@@@
「とまあ、そんな感じでアイテム集めに奔走していたわけだ」
「そりゃ災難じゃったな……ちゃんと確認すればいい話じゃが」
「名前似ているアイテムを間違えるなんてよくあることよくあること」
「そうじゃけども。で、高温核のほうはどこで入手じゃったんじゃ?」
「工業都市近くの別ダンジョン。そんなに難しくはなかったけど、モンスターハウス付き」
「時間かかりそうじゃの」
素材集めも終わり、ヒルズ村にてライオン丸さんと共に装備強化の真っ最中。
集めた素材を投入してウィンドウをタッチするだけのお仕事だけど、こうして雑談しながら作業すれば苦にならない――いや、上の空でタップして強化失敗とか目も当てられないから気を付けてはいるが。
「それで、奥義のほうはどうじゃったんじゃ?」
「そっちもダメだった。ついでに海賊退治のクエストも受けたけどどうにも対象外だったらしい」
「となると、他に海賊らしい行動をとるべきではないのかの」
「海賊らしい……略奪?」
「発想がバイオレンスじゃな。お宝を手に入れる程度でいいんじゃないかの」
「お宝か……海底に沈んでいるお宝を引き上げるとか、そんな感じか」
「もしくはどこかのダンジョンを突破してお宝を手に入れるか……何か特殊条件を満たす必要があるのかもしれんの」
「特殊条件か。NPCに話聞いて、ヒントを集めるタイプのアレ?」
「それじゃ」
「面倒なんだよなぁ、アレ」
クエストに近いが、自分でメモを取っていかなければいけないタイプだ。攻略情報があればストレートにゴールまで行ってもいいのだけれども……そもそも【海賊】をメインにしているプレイヤーが少ない。情報もあまりないのだ。
「結局自分で探すしかないわけね」
「じゃな」
「はぁ……とりあえず武器強化終わり!」
「お疲れさまじゃな。この後はどうするんじゃ?」
「ログアウトして、昼飯食べてちょっと休憩したらまた素材集め――いや、放置していたストーリークエスト進めるよ。もうすぐ新章配信開始らしいし、少しずつ進めておかないと新フィールドに行けないとかもありそうだし」
「さすがにストーリー進めない勢もいるじゃろうし、救済はあると思うがの」
「それでもストーリー進めるのが一番簡単だろうから、進めるだけ進めておくよ」
「まあ、それがいいじゃろうな。それじゃあ、ワシはまだまだ強化するアイテムがあるからまたあとでの」
「うん。それじゃあ一度落ちるね」
「おつじゃ」
「はいはい。おつおつ」
@@@
ログアウトし、自室からリビングへ向かうと……何やら母さんが通話中だった。しかも会話が盛り上がっている。父さんもいて、時折通話を代わって盛り上がっているところを見ると共通の知り合いらしい。
会話の端々にDWOの単語が聞こえるし、あの頃はとか言っているあたり昔一緒にゲームで遊んでいた知り合いか。
DWO、すなわちドラマチックワールドオンライン。まだフルダイブ系ゲームが開発される前に一世を風靡したオンラインゲームだ。みょーんさんなど当時遊んでいたプレイヤーもBFOで見かけるので名前こそ知っているが、10年も前にサービス終了したゲームなので僕は遊んだことはない。
なお、このゲームこそうちの両親が出会ったゲームであり、みょーんさんも旦那さんと出会ったゲームである。いや、身内と知り合いになぜこのゲームで出会った人が2組もいるのか。
「あらゆっくん? ゲーム中じゃなかったの?」
「いや、時間。お昼食べに来た」
「ほんとね……でもゆっくん、休日だからいいけど生活リズム大丈夫なの?」
「ゲーマー夫婦に言われたくはないんだけど」
「確かにゆっくんの言う通りだ。我々が言えたことじゃない――今もこうして昔のゲーム仲間と会話が盛り上がる程度には遊んだ過去を持っている」
今もコンシューマーゲームはいろいろと遊んでいるだろうが。同僚と狩りゲーしているの知っているんだからな。
「それにしても昔のゲーム仲間ね……いろいろな人がいるようで」
「ええ。思い出の後輩とひょんなことで連絡してね。ちょっと話が盛り上がったのよ。で、昔の仲間たちと集まってちょっとした同窓会をすることになったの」
「その時は留守番を頼むぞ、ゆっくん」
「それは別に構わないけど」
どうやらDWO時代の仲間たちと再び集まることになったらしい。
少し話を聞いてみると、当時面倒を見ていた妹みたいな子が、最近とあるオンラインゲームで面白いことをしていると聞きつけたようでどんな感じのゲームか気になったそうな。今も動画サイトに彼女のアカウントが残っていて、ちょっとしたテスト動画で今もとあるゲームをプレイしているのを知ったとか。
で、連絡を取り合ってみたってわけか。
「まあ、それを口実に思い出話に花を咲かせるってだけよ。今も連絡を取り合っている人はいっぱいいるし」
「機会があればそのゲームにログインするかもしれないが」
「ふーん。まあ、僕には関係ないかな」
「でも、この後輩の子昔は近所に住んでいてね、ゆっくんのおしめを変えたこともあるのよ」
「よーし、それ以上聞くと羞恥心でどうにかなりそうだから深く聞かないことにしておくよ」
下手に突っ込むと火傷しそうだ。
というわけでさっさとキッチンに行って食物を探すことに。
だから、これ以降の両親の会話は僕の耳には届かなかった。
「あら? そのゲームってBFOなんだけど、いいのかしらね?」
「いや、言わなくていいだろう……そのほうが面白そうだ」
「……そうね!」
『先輩たち、相変わらずヒドイですね』
「なに。面白いほうがいいに決まっているさ」
「ええ、その通り」
『うわぁ……』
「それじゃあミクちゃん。日時決まったら教えてね」
『わかりました。それにしても先輩たちもお元気そうで何よりでした』
「ええ。じゃあまた今度ね」
「しかし懐かしいな……DWOもサービス終了間際、残っていたプレイヤーたちで盛大に君たちを祝ったことが懐かしいよ」
『ええ、嬉しかったですけど……それ以上に恥ずかしかったですよ』
「そういえば、今のキャラ名は?」
『ああ。まだ言っていませんでしたね。今は「みょーん」って名乗っています』
前々から張っていた伏線がついにロポンギーに牙をむく!




