ニューイヤーイベント
前話で常に水着マフラーの男について感想で言われたけど、本人含めていつも通りの光景だったので特に言及はない。むしろ言及がないぐらい当たり前と認識されています。
クリスマスの死闘も終わり、本日は12月31日。年越しを迎えるためヤシノ島の神社に全員で集まっている次第であります。なお、同じような考えを持った人が大勢いて人の海にのまれているが。
「なぜみんなゲーム内で年越しを迎えようとしているのか」
「アリスたちが言えたことじゃないですよ、お兄ちゃん」
「っていうか、なぜにワシら4人だけしかログインしておらんのか」
「まあいいじゃないのー。たまにはー……あとー、そろそろ助けてー」
「ディントンさんが沈んでいくです!?」
「引き上げろ! いくらがちがち過ぎるからハラスメント判定すこし緩くなったって言っても、全身凶器のあの人が人ごみにのまれ続けたら警告で他の人に迷惑が」
「大丈夫ー、最近はー、自分で設定解除してるー」
「そういう問題でもないじゃろうが。まったく。さっさと引っ張るぞ」
というわけでディントンさんを救助して一度人ごみから外れる。
そもそも年越しをゲーム内で過ごそうとする人がこれだけいようとは。
「みんな暇ですね」
「その裏でサーバー維持やらイベント準備している人は忙しいんじゃろうけどな」
「言わないであげてくださいです。死んだ目をしていたですから」
どうやらアリスちゃんの叔父さんは忙しいほうだったようで。いや、視線を上に向ければわかるんだけどね。ヤシノ島は和風エリアなので、神社がある。なのでこうして雰囲気だけでもと多くのプレイヤーが集った次第だ。
そして年越しと新年のイベントのために上空にホログラムモニターが出現しており、そこでは新年イベントで開発陣トークの映像が流れている。ちなみに生放送。現在の出演者はチェシャーとMCマキシマーだった。ちょうどPVPイベント第二弾についてのトークをしている。
『しっかし急でビックリされた方も多いだろうけど、そこのところどうなのよ?』
『どうなのよって言われてもねぇ……まあ、元々企画はしていたけど、スケジュールの変更やらいろいろとあったわけだねー。って君も知っているでしょうが』
『音楽担当牧島は知っているけど、MCマキシマーは知らない設定だからさ』
『それ、わけてんだ……』
『そもそも前もって作っているBGMを使うって話だし、今回のイベントにはあまりかかわっていないわけよ』
『あー、そういえばそうか。まあ、今のところ明かせる情報はそこまで大きなイベントではないって感じだね。賞品こそ豪華だけど、新年祭と思ってもらえればいいよ。開催期間は1月25日から2月3日までで、期間中の勝ち星に応じた景品を用意させてもらう形になってます。そして、運営側から声をかけたプレイヤーに挑む特別ルールもご用意しました。そちらはこちらからお願いしている形なので、ちょっと特殊なルールや装備を使っていただいていますね』
『勝利すれば、更にいいものが貰える感じ?』
『ええ。とは言っても、お願いしているプレイヤーさんも一般の方なので、都合の付く時間帯のみ戦う感じですけど。ですので、挑戦者は事前登録での抽選という形になってしまいますが』
『ちなみに、どんなプレイヤーさんが協力してくれるんで?』
『すでに返事をもらっている範囲で明かせるのは前回PVPイベントソロ部門上位3名のイチゴ大福さん、ニー子さん、ポポさん。それに加えて銀ギーさん、桃色アリスさん。前回PVPイベントには参加していませんが、ロポンギーさんなどが運営側……ガーディアンで参加予定となっています』
ちなみに、ガーディアンとは運営側プレイヤーの名称である。今後もたぶん似たようなイベントをやる時に使うつもりなんだろうな。
「うん? 村長、いつの間に話が来ていたんじゃ?」
「26日」
「クリスマス翌日か。はやいの」
「ちなみにアリスとのコンビでタッグマッチになっているです」
「さては倒されるつもりないな、お前ら」
「あははー、酷い蹂躙劇を見る気がするー」
「まあ、今回は緩い感じで遊ぶんだけどね。あと、イベント用のアバターに切り替わるから、ちょっと楽しみにしておいて欲しい」
今回協力するガーディアンは新機能や新武器のテストプレイも兼ねており、それぞれ一つは新要素を使うことになっている。僕とアリスちゃんはとある消費アイテムのテストなんだが、そこまで大仰なものでもない。
問題は残りの人たち……何をするつもりなのか、不気味な笑いをしていたのを覚えている。
「ところで、おぬしらは普通にPVPイベントの参加者にはならないという事かの?」
「いや? 特別ルール戦の勝利数は合計白星にカウントされないだけで、普通に参加できるよ」
「今回はゆるーく出る予定ですけどね」
「結局暴れ回るつもりなのねー」
「何をするつもりなのか……じゃが、普通に銀ギーさんが参加しているあたり、どうやら後に引かなかったようじゃの」
「結局あの日のことは覚えていないみたいでしたから」
「全力でごまかしたしね。それに、その後の爆弾合戦のほうが印象に残り過ぎて、あの時間帯に銀ギーさんと遭遇したプレイヤー以外は知らないかもしれないってレベルだから」
「まあ、大事にならずにすんでよかったじゃろ」
(PVPイベントの早期開催にはつながっているんですけどね。今更言ったところで意味はないですし、アリスの胸に閉まっておくですが)
「終わった話はいいからー、そろそろカウントダウン始まるよー」
「お、もうそんな時間か」
「そもそもそのために来たんだし」
モニターではトークが終わり、カウントダウンが始まっていた。ちょうど残り5カウント。
直前だったので慌てて僕らもカウントに加わり、いよいよ日付が変わる。
「ハピーニューイヤーです!」
「はい、あけましておめでとう」
「おめっとさんじゃ」
「おめでとー」
「軽いです!?」
「いや、こんなもんだって。ところで、聞きそびれていたんだけどログインしていない人、どうしたのか知っている?」
「リアルで年越し、もしくは見たい番組がある人じゃろうな」
「めっちゃ色々さんとみょーんさんはー、リアルで年越しするって聞いたー」
「あるたんさんとらったんさんは、リア友と年越しするって言っていたです」
「あとは和風コンビだけど……あの2人は普通にログインしているんだけど、どうしたんだろう? フレンドリストにはログインしていますって出ているのに姿が見えない」
「たしかにのう。どうしたのじゃろうか?」
「普通にどこかにいるけど、見つからないだけじゃないですか?」
「……あー」
「ディントンさん、何か知っているですか?」
「こっちに来る前に、ちょっとクエストやるって言っていたんだけどー、そのー……投獄されてー、脱獄クエストの真っ最中だってー」
「ちょ、なんだそれ」
お腹を抱えて蹲ってしまう。獄中で年越しとかどういうことだよ。駄目だ、笑ってはいけないと思うのに笑ってしまう。
「ディントンさん、その情報は反則じゃぞ」
「なんでディントンさんにだけメッセージ送っているですかね」
「ほら、脱獄仲間だから」
「あー」
「懐かしいの。もうずいぶんと昔に感じるが」
「6月ごろだったから半年? あれ、5月だっけ?」
「どちらにしろ半年程度であまり変わらんじゃろ」
「アリスがまだフェアリーだったころですね」
「種族変更かー、私もやろうかなー」
「もう少し待ってみたほうがいいと思うけど」
「村長ー? どうかしたのー?」
「いや、そのうち新要素が追加されて種族変更の敷居が下がるだろうからそれまで待ってみてもいいと思うよって話」
これ以上は言えないんだけどね。
ディントンさんも何かを察したのか、この話題はここで終わることに。
「さてと、新年を迎えたことだし――早速プレゼントボックスをチェックするか」
「ログインしっぱなしでも日付が変わるとログインボーナス更新されるのありがたいですよね」
「そうじゃの。さて、新年のログインボーナスは何じゃったかな」
「お年玉でゴールドがたくさんー。あとー、ガチャチケとー、武器強化保護チケットとー……え、チケット?」
武器強化保護アイテムにはいくつか種類があり、チケットの場合は30分間強化失敗しても壊れない。もちろん課金アイテムでそこそこお高い。
「運営、奮発したなぁ。これ配ること今までなかっただろうに」
「マジか。マジかぁ、マジか……」
「ライオン丸さんが茫然としているですよ」
「そりゃ、今まで数多の武器を溶かしてきたんだからそういう顔にもなるよ」
「でももったいなくて使えないー」
「あー、わかる。こういうのって結局もっと強い武器が手に入ってから使おうって思うから、先延ばしにし続けちゃうんだよね」
「まあ、有効期限もないですから倉庫に入れておいても大丈夫なんじゃないですかね?」
たしかに。こういうのって有効期限がある場合が多いけど、今回は無期限版だ。倉庫に入れっぱなしでもいつか使う日がくるだろう……自分が忘れなければだが。
それと、倉庫で思い出したがリアルでお年玉貰ったら倉庫拡張をしなければ……そろそろアイテムがパンク寸前である。ちょこちょこと整理はしていたものの、さすがにもう誤魔化しきれないところまで来ている。いよいよ課金するわけなんだけども……一定額のポイントを購入するシステム上、倉庫分に使っても未使用ポイントがでるわけで…………
「インベントリも拡張するか。あと、ペットの装備も買うべきだろうか? いや、そこに手を出すと餌も買い続けたくなるから……でも自動MPポーション使用は便利だしなぁ…………ソロ攻略以外でも使うことになりそうだし」
「お兄ちゃんがブツブツ言いだしたです」
「少ないおこづかいをやりくりする、そんな時がワシにもあったの」
「今はー?」
「…………決して多くないおこづかいをやりくりしておる」
「結局同じじゃないのー」
「ワシの学校バイト禁止なんじゃよ。許可をとればできるじゃろうが、真っ当な理由もないから無理じゃろうし。それにログイン時間が減るの嫌じゃ」
「そこが一番の理由よねー」
「ディントンさんは自分のお金で課金しているですか?」
「もちろんー。それにー、アイテム製作系でしかお世話にならないしー、あまり課金はしていないかなー」
「なるほどです」
とりあえず、当面の課金はインベントリや倉庫など、機能面だけにとどめようということで自分の中で結論を出し、みんなに向き直る。
「なにはともあれ、今年もよろしく!」
「はい、よろしくです!」
「いろいろとあったが、楽しい1年じゃったぞ。今年もまた、退屈せん年になりそうじゃ」
「更に新衣装に磨きをかけていくわねー。目指せユーザーイベントファッションショー!」
「それ、まだあきらめていなかったのか……」
そんなこんなで、新しい年が始まる。
いつもと変わりなく、みんなで遊ぶ毎日が。
さてと、新年を迎えたことだし……とりあえずお社にお参りしておくか。ちょっと時間はかかったが、お社にたどり着いて気分だけもとお祈りをしておく。
「今年も楽しく遊べますように…………あと、無理だとは思うけどもう少し平穏な日常を――」
「お兄ちゃん、神様にも出来ることとできないことがあるですよ」
「……知ってた」
「っていうか、一番平穏を遠ざけている人が何言っているんじゃ」
「村長から一番縁遠い言葉でしょー」
「事実だけに、言い返せない」
これにて8章は終幕。
9章はプロットも練り直したいので、ちょっと投稿が遅れます。
予定では1週間後ぐらい。




