流星の一撃
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最初はただのお節介だった。どうにもギスギスした空気が嫌で、ついつい場の空気を取り持とうなんて柄にもないことを考えたのです。
私は、そんなキャラじゃないのになぁなんて考えながらも、この世界で素の私を知っている人がいるわけでもなく、いつのまにか『みんなのまとめ役』『困ったことがあれば相談に乗ってくれる』『揉め事を仲裁する人』なんてイメージがついていて、それが『銀ギー』というキャラクターのイメージをいつの間にやら決定づけてしまいました。
「ありがとうな、銀ギーさん。掲示板で募集かけたときは大丈夫だったんだけどさ、やっぱり実際に話すと上手くいかないことってあるよな」
そのことに気が付いたのはとある日。よくあることで、掲示板を使って野良パーティー募集していたプレイヤーたちが揉め事を起こしている現場に遭遇してその仲裁をしていたのですが……揉め事を起こしていたうちの一人、彼の発言が耳に残ったのです。
「実際に話すと? ここはゲームの中ですけど……」
「確かにそうなんだけどさ、キーボードを打つチャットでもないし、単なる音声チャットでもなくて実際に身振り手振りしながら会話するわけで、VRMMOの人付き合いって現実とあんまり変わらねぇよなぁってこと。結局中身が人間なんだしさ、こうやって現実とあまり変わんない感覚で人と会話できちまうとどうしてもゲームって意識ぬけてくんだよ」
ゲームである。そう、ゲームではあるが……VRMMOではその人間関係はとてもリアルに近い。いや、ことその部分に関してはゲームだからという話で片づけていい問題ではないのかもしれない。
今、多くのゲーム会社でフルダイブ型機器によるVRゲームを開発しているが……実のところオンラインゲームの類は結構少ない。
サーバーの維持費もあるし、昔に比べて大分作りやすくなっているとはいえ開発費用もそれなりにかかる。それでも発売されているタイトルは海外産が多いし、国内産も買い切り型や利用料金がかかるタイトルばかりだ。しかも結構高い。むしろBFOはよくもまぁ基本無料で運営できているものだと感心した覚えがある。いや、実際問題結構ギリギリという噂もあるが……これもまたアングラな噂ではあるのだけど、複数の資産家や財閥なんかがバックにいるなんて話も聞く。さすがに眉唾ものだけどね。
「ここはゲーム……ゲームだけど、動いているプレイヤーたちは中身があって、リアルな人たちなんだ…………それじゃあ、私は?」
自分を偽っている――いや、成り行きでこういうキャラに定まっただけ。それでも、現実の自分と解離したキャラクターである『銀ギー』に違和感を感じ、私はこの時の記憶に蓋をした。
再び思い出したのは、いろいろとため込んで疲れてしまった冬のとある日。20歳という節目も近づいて精神的に不安定だったのも関係していたのだろう。このところ私は弱音を吐くようになった。それでも『銀ギー』の仮面はかぶり続けて……そこで、彼女たちに出会った。
『ゲームなんでござるから好き勝手やればいいんでござる。結局は銀ギー殿の自由なんでござるから』
『しばらくログインしないとか?』
『酒を飲んで忘れるのもおすすめでござる! 嫌なことがあったらこれが一番でござるよ! 翌日の二日酔いで嫌なことは嫌でも忘れるでござるよ!』
目からウロコではあった。
思えば、リアルな人間関係に疲れていたのも事実であったが……やっぱり私もオンラインゲームを遊ぶような人だったってこと。結局はゲームなんだから、ある程度は好き勝手やってもいいんだ。
まだ考えはまとまらなかったけど……それでも、あの2人の言葉が頭の中に残って…………ちょっとログイン時間を減らしたり、いつもと違う行動をとってみたりと少し行動は起こした。
それでも気は晴れなかったから、いっそのこと思い切った行動をしてみようと決心したのです……どこか夢を見ているような気持で、こうして過去を思い出しているが……うん、この頭の片隅で理性的な部分が罪悪感を覚える。
アリスちゃん……たぶん、この思考も明日には思い出すことが出来なくなるだろうから、この頭の片隅で悪いけど言わせてもらうね。
……ほんとゴメン。私、今度からお酒は飲まないようにする。
あ、でも体が勝手に、ああ、だめ、止まって私の体! あ、でもおいし――――
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「パワーアップなのらー!」
「そろそろ寝てもいい頃合いですよね!? っていうかいっそのこと銀ギーさんを投げ飛ばした方が早いです!」
グルグルと銀ギーさんの腕を掴んで振り回します、そして、サンタへ向けて投げ飛ばす……最初に銀ギーさんがやっていた、他プレイヤーをぶつけてダメージを与えていたやり方をまねてみましたが、銀ギーさんは空中で体をひねってサンタを蹴り体勢を立て直します。サンタにダメージはあったのでよしとしますか。
「私だって、私だって、クリスマスぐらい彼氏と一緒にキャッキャウフフしたかったのらー!」
「それには乙女的に同意しますけど、クリスマスイブにログインするようなゲーマーの時点で真面目に彼氏作る気あるんですかね!?」
「……ゲーム時間減るのいやだー」
「結局それが本音ですよね……」
謎の問答をしながらも、アリスと銀ギーさんは互いに空中で組み手を行いながらサンタへも攻撃を加えていきます。ここまでで分かったサンタのAI行動ですが……どうやら長く同じプレイヤーを相手にしていると攻撃のパターンが最適化されていき、よりやり辛くなるようです。
つまり、プレイヤーと戦うことでAIが学習している……なんてものを作ってくれたんですか開発は!?
正直、詳しい理屈とかデータの組み方、みたいなことはアリスにはわかりませんけどたぶんトンデモ技術を使っていることだけは分かります。
「ふんがー!」
「声のパターンが増えましたね……それに、コイツも肉弾戦主体ですからやり辛いです!」
正直、集中力の限界です。
想定よりもサンタのHPは減らせましたが、それでも大分残っていますね……これ、本当に倒せるんですか? いや、そもそも明日いっぱいは時間があるですからそこで倒せればいいんですけど。
「アリスちゃーん! さすがに限界だったら最後の一撃に入ってもいいぞー!」
「もう目標ダメージは越えましたから、次のメンバーへバトンタッチしてもいい頃合いですー! というか、そろそろサンタがこの場にとどまる限界時間近いですから!」
お兄ちゃんと色々さんが声を上げますが……もうそんな時間ですか? 視界のスミの時計表示を見るとこのエリアで戦い始めてからもう30分以上経っているのがわかったです。
え、そんなに時間が経っていたです!? 思った以上戦い続けられるものですね……正直疲れたですので、そろそろ終わりにしてもいいですか。
「それでは銀ギーさん、今日はこれで幕引きですよ」
「ふあー? そらはどうしてこんなに真っ白なのー?」
「ゲーム内でも日は落ちているですよ……真っ暗ですのに、まったく。明日の銀ギーさんが今日のことを覚えているかはわかりませんが、スッキリした気持ちで明日を迎えてほしいものです」
「どったのー?」
「……あんなにたくさんのプレイヤー、みんなが銀ギーさんを心配して集まってくれたんですよ」
アリスに力を貸してくれた【演奏家】のプレイヤーたちだけじゃなく、みんなのMPを回復してくれているプレイヤーたち、ザコ敵もわいていますからバフが切れないように護衛してくれているプレイヤーたち。他にも、多くのサポート役やサンタへの状態異常攻撃を引き受けてくれている人など、本当に多くのプレイヤーがいる。
アリスたちが空中で戦い始めてからもまだまだ参加者が集まっているようです。
「たくさん悩んでいたみたいですし、ゲームとリアルとじゃキャラも違うのかもしれません……でも、どっちも貴女だと、アリスは思うですよ」
「――――」
「アリスはこの前助けてもらった一件だけですので、みんなの代表をするのは役に対して不足かなって思うですが……こうして、お茶目なことをしてもみんなが助けに来てくれるぐらい、貴女は多くの人を助けていたですよ。それは、とっても凄いことだと思うです」
「…………みんなが、私のために?」
「それに、なんだかんだみんなお祭り好きですからね。無事にサンタを倒せれば、これも笑い話になるですよ。だから、今日はもう寝るお時間です! 乙女的にも夜更かしは美容の敵ですから!」
銀ギーさんの腕を掴んでサンタへ投げ飛ばす。アリスの話を聞いたからか、今度は無抵抗にぶつかったですが、落下距離が少なかったからか、消えてはいなかったです。ただ、銀ギーさんを投げ飛ばした反作用でアリスの体はより高い場所へと飛び上がります。
サンタも銀ギーさんがぶつかったことで演算のラグが発生したのか、一瞬動きが止まり――アリスにはその一瞬で十分でした。
「いくですよ、今必殺のスキルコンボ――『メテオインパクト』!」
キーワードを叫び、スキルの連続発動をします。
アリスの背後にイフリートが召喚され、アリスの体を殴り飛ばします。目標は、真下のサンタ。あと銀ギーさん。殴り飛ばされた直後にエンチャント・フレイムが発動し、足に炎属性の力が宿り、続いて出ているスピードを次のダメージへ加算するスキル『スピードコネクト』、落下距離に応じてダメージを稼ぐ『跳び蹴り』系のスキルが発動し――サンタへ直撃しました。
「ぶるあああああああ!?」
「そのまま、ぶち抜くですよ!」
最後に発動したのは『スタンプ』のスキル。いわゆる踏みつけで、現在の重量分のダメージを与えます。2つ面白い特徴があって、1つ目は高い所から落下してコンマ数秒以内に発動すれば落下分の数値もダメージに加算するのです。
そして、もう1つ。空中でヒットするとそのまま地面に強制的にたたきつけることが可能だということ。
「はああああ!!」
盛りに盛られたバフと、凄まじい落下距離で放たれた一撃は周囲に衝撃波を伴ってサンタへのダメージを与えました。同時に、ステータスがグンッと下がるのも確認して……まあ、どうせこの場での戦闘は終了でしたからいいですよね。あと、システムログでアリスに呪いのバッドステータスがかかるのがわかりました。
「……あちゃー、PK扱いになっちゃったですか。経験値ももったいないですけど…………ダメージ数は確実にトップですから、儲けものですかね」
「ぶるああああ!!」
銀ギーさんもいなく、お兄ちゃんたちも視界のスミで倒れているのが見えました。アリスがやられたあと、順にやられることでしょう。バフがかかって動きがよくなりすぎて制御がきかなくなってしまわないようにパーティー連結していなかった人たちも消えていましたから……この場での戦闘続行は無理ですね。
とは言っても、銀ギーさんを抑えつつサンタにダメージを与えるという目的は達成出来たですし、あとは次の出番の人たちに任せるです。直後に、アリスはビームで撃ち抜かれてハラパ王国の教会へリスポーンすることとなりました。ほどなくして、お兄ちゃんたちも戻ってきましたが……みんな、顔は晴れやかでした。
「どうなることかと思ったけど、目標以上のダメージは達成できたし大金星では?」
「なんだかんだ銀ギーさんもタゲをとっていたのがこちらへの攻撃の手を少なくする要因でしたからね。銀ギーさん自体がこちらに突っ込んでこないなら戦いやすかったですよ」
「その銀ギーちゃんがタゲをとったまま他のプレイヤーに突っ込むからこんな手を取ったわけだけど」
「それは言いっこなしで……問題は、明日銀ギーさんがどうするかなんだけど…………どうなることやら」
「たぶん、大丈夫じゃないですかね」
「アリスちゃん?」
「なんとなくですけど……こっちの話を聞いていなかったわけじゃないんですよ。それに、あれだけ大暴れしたらスッキリできたと思います――あ、それと一言だけ」
この場に集ったプレイヤーたちの目がアリスに向きます。
「……さすがに疲れたので、寝落ちしますね」
集中力が切れて、前のめりに倒れます。お兄ちゃんが支えてくれましたが、意識が遠くなっていきます。たぶん、このまま眠って強制ログアウトするですね……
「アリスちゃん、お疲れ様」
「えへへ、やったですよー」
「今日はもう遅いし、頑張ったお礼は明日かな」
「や、約束ですからね」
アリスが覚えているのはそこまで。
次に目を覚ましたときにはすでに翌日の朝9時でした。
感想で複数言及がありましたので。
アリスがログインできていない人に対する言及でクリスマスだからってのを理由に挙げていないのは、クリスマスならクリスマスイベントをするためにゲームをする人たちなのにと思っているから。
ゆろんはロポンギーに会いに来そうなものではあるが、ある理由でログインしていなかった。
そのあたりは次回でやる予定です。