オーケストラ
結局のところ、銀ギーさんの動きがアリスにしか見えていないならアリスが対応するしかないわけで、正直な話……非常にキツイ状況です。
「あはははははは」
「なんで素のステータスなのにこんなに強いですか!?」
「んー? レベルカンストしてるからー?」
「いつの間にレベル100になったですか!? いや、だからってバフを盛ったアリスについていける動きとかどういうことです!?」
「ぶるああああ!!」
「「……うるさい!!」」
宙を蹴り、銀ギーさんと空中戦をしていましたがそこに割って入るのは武神サンタクロース。いや、よく考えたらコイツに攻撃しなくちゃいけないんですよね……ビームを避けて銀ギーさんと共に攻撃を仕掛ける。そもそもアリスたちは暴走する銀ギーさんをそれとなく抑えてサンタにダメージを与えたいだけでした。
今の攻撃でターゲットが銀ギーさんに移ったのか、今度は彼女を狙うようになりますが、急いで連撃を仕掛けてターゲットを取り返します。
「およー?」
「危ない危ない」
銀ギーさんがタゲを持ったままだと、なにか突拍子もない行動をとることで下の皆さんが攻撃を喰らう可能性が高まりますからね、アリスが攻撃を引き付けることで皆さんの生存率を上げると同時に、バフが途切れないようにしなくてはいけません。
「とはいえ、MPが心もとない――あれ?」
アリスのMPゲージを見てみると、いつの間にやら回復していたです。少し下に視線を向けるとどうやら誰かが回復してくれたようですが……援軍に来てくれた誰かでしょうか。視界の端のパーティー表示を見てみると連結パーティーが増えていたのがわかりました。
「なるほど、バフも増えているですね」
上昇量が少なかったので、ちょっとした違和感程度でしたが更にステータスが上がっているらしいです。状態異常耐性とかも増えているみたいですし……【踊り子】さんでも増えましたかね?
とりあえず銀ギーさん、ごめんなさいです。
「ちょっとおとなしくしていてくださいです!」
「んあー!?」
さらに上空へ銀ギーさんを蹴り上げて、この場から遠ざける。少しの時間しか稼げませんし、落ちたところで何かしらの方法で着地するんでしょうけど……少しでも時間を稼がなくてはいけませんから。
続いて攻撃を仕掛けてくるサンタへカウンターを仕掛けます。
「ぶるあああ!!」
「それしか言えないですか……いえ、多くは言いませんよ。っていうか前情報だともうちょっと喋るって聞いていたですけどなんで頑なに叫び声だけなのですかね」
バグった……ようには見えないです。たぶん、アリスの行動から決められた行動をしているだけで、たまたま喋るような状況にならないだけなんでしょう。
向かってくるサンタの拳を足でいなして後頭部に回り込みます。
「いくですよ『セカンドインパクト』!」
一度の攻撃で二発分の威力をたたき出すスキル。初級スキルですのでスクロールで簡単に習得できるうえに低燃費で結構効率のいいスキルですから非常に便利です。
あと、硬直の少ないスキルじゃないとサンタの反撃を喰らう可能性が高いですから。
他にも連撃系のスキル、効果がある炎属性の魔法、イフリートも召喚して追撃を行います。
「ぶるあああ!! ここに白き聖夜の力を!」
「あ、喋ったです……って、そうじゃなくて今までとは違うスキルが来るですね」
体勢を整えるために地面に降り立って攻撃を予測するですが……サンタの右手に巨大な雪の塊が出現しました。どうやら、氷系の魔法スキルっぽいですけど――なにやら目の前に箒にまたがってアリスの盾になったプレイヤーが現れました。
「って、何をしているですか!?」
「特に痛みとかないけど、君がここでやられたらマズイからね! あと、空を見るんだ」
「空?」
名も知らぬプレイヤーさんが消え、それと同時に空から風を纏いながら一人のプレイヤーが舞い降りました……そうでしたね、銀ギーさんがそろそろ降ってくる頃合いだったの忘れていたです。
「アリスちゃん、まだいける?」
「お兄ちゃん……大丈夫ですよ。銀ギーさんはここで止めるですし、ダメージ数トップに躍り出てやるですから」
「頼もしいことだけど……銀ギーさんがくるよ!」
砲弾のように銀ギーさんがこちらにつっこんでくるです。それに、武神サンタクロースもこちらへととびかかってきましたが……銀ギーさんにはお相撲さんの格好をしたプレイヤーが、サンタのほうには同じ顔をした4人のプレイヤーがガードに入りました。
「いつかの力士に暗黒四天王!?」
「おぬしら、死ぬつもりか!?」
「へへへ、やってやれないことはないってね! 今年最後の見せ場、任せてもらおうか!」
「我ら暗黒四天王、銀ギーさんに迷惑をかけたこともあったからな!」
「ここでその罪滅ぼしよ! あと、正直戦闘の次元が違いすぎてこういうことでしか役に立てそうにないから!」
「リスポーンしたらまた来るからねー!」
……そっか、アリスがここでサンタを食い止められれば街から走って来て再度戦いに参加することもできるんですよね。いや、結局ゾンビ戦法じゃないですか。
それと暗黒四天王さん……その言い方だとアリスが化け物みたいに聞こえるんですけど?
「…………実際、化け物みたいなスペックじゃろうが」
「ライオン丸さーん、後でお話するですよー」
「ヒエッ」
「雉も鳴かずば撃たれまいのに」
「余計なこと言うから……」
「ところで村長殿、ディントン殿たちが到着したようでござるが?」
「お、ようやくか」
その間にもスキル的に貢献度が低いと自己判断したプレイヤーたちが自ら銀ギーさんとサンタを食い止めるために突っ込んでいっているです。いや、痛くないのはそうですけど……よくその自爆特攻染みた戦法をとり続けられますね?
「それだけ銀ギーさんが慕われているってことでもあるかもねー。サンタを倒せないと銀ギーさんー、自分を責めちゃいそうだしー、倒せるように頑張らないとー」
「そうですね……ところでディントンさん、そこそこ時間がかかっていたみたいですけどいったい何をしていたですか?」
「んふふふー、ちょっとしたコネとー、秘策をねー。ほらー、『歓喜の歌』って重ね掛けするほど効果が上がるじゃないのー」
「ええ、そういう仕様ですけど……」
「で、更に人数を増やしたらどうなるかなーって思ってー」
「確かにパーティー連結して発動人数増やせばかなりの効果になりそうですが――え、まさかとは思うですけど、集めたですか?」
「モチコースよー! 【演奏家】で『歓喜の歌』を使える連中を集めてみましたー! 総勢100人ぐらいー!」
「いや、バカじゃないんですかね!?」
「でも確かにすさまじい倍率の強さになりそうだけどね」
「問題はコントロールできるかどうか、というところじゃろうな」
「普通のプレイヤーニャら間違いニャくコントロールできニャくて自爆するニャ」
「……アリスちゃん、頑張って!」
「結局アリスに丸投げですか!?」
「他にそれだけの超強化をしても動けるような人って、イチゴ大福さんかポポさん、ニー子さんぐらいしかいないから……」
「3人ともそれぞれログインしておらんの」
イチゴ大福さんは何かの用事らしいですが、あとの2人はログイン制限で今日はもうログインできないそうですから……銀ギーさん対策にいてほしかったですけど、無いものねだりはできないのです。
というかイチゴ大福さんはリアルで連絡をとれる人もいるそうですけど、なぜか繋がらないそうで……チャットルーム作っているのに、ポポさんとも連絡が取れないと自称太公望も言っていたですし、戦力になる人たちが沈黙しているのはどういうわけなのか? 沈黙しているといえば、クリスマスなのにゆろんさんも見かけませんし……何かアクションを起こしてきそうと警戒していたのに。いえ、今気にしても仕方がないですね。
と、そこでバフを盛りまくることについて疑問を抱いた桃子さんが質問をぶつけてきた。
「でもそれ、拙者たちもステータス上がりまくるから下手に動いたら死ぬのではないかでござる?」
「加速し過ぎて転んで地面に激突して落下ダメージで死ぬな。いくら防御力も上がっていてもあまり意味はないだろうし」
「加速しすぎて上がるであろう防御力をはるかに上回りそうですね」
「幸いなのは、武神サンタクロースの攻撃も一発程度は耐えられそうってことよね」
「むしろそこまで超強化しても一発しか耐えられないの?」
「ログに残っているダメージ数がエグイのよ」
ああ、それは確かに……アリスは二発ぐらいは耐えられそうですが、それも職業レベルあってこそですから。他の皆さんは低レベルのままつかっているですし。
結局のところバフを盛りまくっても戦えるのはアリスだけみたいなので引き続きアリスがメインアタッカーで攻撃を仕掛けるわけですけど……
「それじゃあ、配置をし直すぞ。全員で巨大な円を作る感じで並ぶんだ。自分たちがリングのふちであるとイメージして、決して動かないように。あと、一人でも演奏が途切れればバフが途切れるから気を抜かないようにねー」
「はいはいー、村長の反対側はワタシが指揮をするから、しっかりついて来てね」
「じゃあワシは右のほうを担当するかの」
「私は左のほうですかね」
「適当に間に入っておくニャ」
「で、ござるな。あ、アリス殿。さすがにサポートするにしても距離が離れるでござるからあまり状態異常には期待できなくなるでござるよ」
「別動隊(演奏できない組)が円の中でサポートをするでござるけど……彼らを気にせず戦ってほしいでござる。おそらく、吹き飛んでいくでござろうが」
「いや、結構するすると話が進むですね……っていうか皆さん一度練習でもしたですか!? なんでそんなにスムーズに団体行動ができるのか気になるですけど」
「あれじゃろ、前にあったマスコットの乱みたいにBFOのトップに近い連中はノリがいいからいざとなると結構団結するんじゃよ」
「……そういえばあのマスコットどもはどこに行ったですかね?」
「ヒエッ」
「アリスちゃんにその話題は禁句だからあえて誰も言わなかったのに……銀ギーさんとワープした後すぐに消えたってさ」
「そうですか……巻き込むチャンスだと思ったですけどね」
「うあー、笑顔が怖いー」
「結局あのあとアリスちゃん、可愛い系のキャラクター全般に対してこうなったんだぞ……おかげでアリスちゃんと一緒の時は僕、ミナトを出せないんだけど」
「村長のペットじゃな……いや、ワシらと一緒に遊んでいた時も出しておらんかったじゃろ」
「正直餌がもったいないから」
「……現実のペットには言えんセリフじゃの」
「だって現実じゃないし」
「そりゃそうじゃ」
「って、話が脱線しているわよ! ほら、こうしている間にも犠牲者が増え続けているんだからさっさと配置につきなさい!」
「あ、そうだった!」
「そうじゃな。皆のもの、合図に合わせて『歓喜の歌』を開始するんじゃ!」
「合図って……?」
「せっかくだからアリスちゃんが号令を上げてくれ。まあ、適当に空に魔法でも打ち上げればそれでいいから」
「わかったです!」
皆さんが配置につくのを待って、アリスも前に出ます。そして、炎の魔法を打ち上げたのです。
「いざ、出陣です!」
アリスも含めて一斉に『歓喜の歌』を発動し、すさまじい勢いでステータスが上昇していきます。少しずれたかなとも思ったですが、どうやらある程度は補正が入るようで難なく発動してくれました。
どんどん上がっていくステータス、ちょっと踏み出すだけで10メートル以上は前に進んでしまい、アリスでも制御が難しいです。
「これ、結構厳しいですよ――でも、やってやるですからね!」
最下級のスキルでも恐ろしい威力になりそうですので、出来るだけ反動の少ないスキルをジェット移動の代わりに使用するですが――普段よりも加速速度がえげつないです!?
「下手に地面に着地すると落下ダメージで死ぬですよコレ!? とにかく、空中戦で挑むしかないです!」
「ぶるああああ!」
「って、初手ビームですか!? でも、もうその動きは覚えたです!」
ビームをかわし、サンタの顔面を蹴りつける。普通に蹴ると落下ダメージが入る恐れもあるのでスキルを発動させるのは忘れませんが。
そして、銀ギーさんもこちらに気が付いて跳びあがってきますが……やっぱり、同時に相手しないとダメですよね。でも、今のアリスなら負ける気はしないです!
「問題は、自分の動きにも集中しないと地面とディープキスしかねないことですけどね! アリスは初めてが地面とか嫌です!」
なお、この超強化可能な仕様が残り続けている理由は、
プレイヤーがメインで冒険するダンジョンは人数制限があるからここまでのことはできない。
オープンフィールドでうまみがあるのはフィールドボスぐらいだろうが、大人数で挑むとザコ敵が出てくる場合もあるのでバッファーがやられかねない。
そもそも普通のプレイヤーで制御できる限界は1パーティー分ぐらい(自身を除く5人分のバフ)
他にうまみがあるのはレイドボスぐらいかな。
魔王城などザコが多く出現する場所で使うとどうなるかは次章ぐらいでやるかも。
運営の動き? 正直オチで使いたいから描写は避けている。




