惨敗
前話でアルコールパッチテストについての質問がありましたが、理由はハッキリと決めているわけではないですが銀ギーさんはそのあたり調べたことはないです。
あと、作者も学校でやった憶えない。
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村を出発し、ドワーフの工業都市から目的のポイントまで移動する道中にめっちゃ色々さんとこんな会話をしていた。
たとえば、アリスちゃんやイチゴ大福さんなんかは元々凄まじい反応速度の持ち主だけど、他のプレイヤーがそのレベル、あるいはそれ以上の反応速度を手に入れるにはどうしたらいいか、という話題だ。
以前にもその話をしたが、可能な方法があれば知りたいと思う。
「やはり、リアルの肉体のほうでどうにかするしかないですね。電気信号だけでもリミッターを外すとか」
「それ、体壊しそう……っていうか出来るの?」
「普通は無理ですね。何かしらの要因でリミッターが外れればあるいは。たとえば、命の危機とか、限界までフルダイブし続けるとか……あとは、体に作用する物質を摂取するとか――いや、そう簡単に出来たら苦労はしないですね」
「むしろそれはそれで違法なものあるだろうし」
「ですね。前にも話したと思いますが、強制ログアウトされるでしょう。違法ではないのは、それこそアルコールぐらいですが……よほどお酒に弱い人でもない限り、相当な量を飲む必要があるかと。前回、同じような話をしたときに思いついたことでしたが……ちょっと無理があるかなと」
「うーん……フルダイブ関連の法律で、アルコールの摂取って規定ないんだっけか」
「罰せられるようなものはないですよ。もっとも過剰に摂取した場合は意識が混濁して気絶しますから強制ログアウト起こりますし」
「まあ、それもそうか。よほどアルコールと相性の悪い人でもない限りは大丈夫ってことか」
「それに、いくらお酒に弱いからって未知なる力を分泌するレベルの人でもない限りはそうそう変なことにはなりませんよ」
「まあ、そりゃそうだ。はっはっはっはっは」
「ハハハ」
「…………ねえ、フラグっぽいんだけど」
「言わないでください、なにか嫌な予感がしたんですが」
そして、目的のポイントに到達したときに目にした光景は……地獄だった。
「あれー? 村長たちなのらー? あははははは! こっちであっそびましょー!」
「すでに逃げたいんだけど!」
「村長、立てたフラグの責任ぐらい自分でとりなさい!」
「コレ僕の責任なの!?」
「桃子しゃんもいるー……あははは! お酒ってたのしーねー!」
「そういえば、お酒を飲んだら嫌なこと忘れられるよって勧めたの桃子さんです!」
そこでアリスちゃんが桃子さんを告発した。ぎょっとした顔をした桃子さんであったが、僕らの視線は冷ややかなものであった……いや、なに勧めてんだアンタ。
「ご、誤解でござる! 拙者はただ、なにやら悩みがある銀ギー殿が少しでもストレスを解消できればと思って、提案しただけでござるよ! 第一、銀ギー殿は未成年でござるからお酒を飲んでいること自体おかしいことで――」
「今日はー。私のー、誕生日ぱーちー会場へようこそー!」
「――おかしいこと、だったらよかったでござるのになぁ……」
「初めてのお酒で飲み過ぎたんですね、きっと。それなら仕方がないです」
「んふふー、大丈夫大丈夫。私も飲み過ぎは良くないってわかってるからぁー、だから缶チューハイ一本だけにしておいたよー」
「とんだ下戸じゃないですか!?」
さすがにお酒は飲んだことないけど、缶チューハイ一本でああなるってやっぱりおかしいんだろうな……本当に未知なる力を抽出していやがる。
ちなみに、今こうしている間にも銀ギーさんは武神サンタクロースに攻撃されているが……その全てをひらりひらりとかわしている。っていうか、背後からの攻撃にまで対応しているんだけどどういうこと!?
「人間の限界を超えているです」
「リミッター、外れているニャ」
「正直帰っていい? っていうか先にきていたはずのディントンやらったんはどうしたのよ」
…………あ、メッセージが届いていたの気が付かなかった。どうやら、銀ギーさんが暴走したことで集ったプレイヤーたちは壊滅したらしい。もちろん、先にきていたディントンさんたちもだ。
「村長、何で気が付かなかったのよ!?」
「システムメッセージが入るはずなのに、全然気が付かなかったんだよ……あ、この時間って村を出発した時間だ」
「そういえばファストトラベルのタイミングに重なると通知が流されてしまい気が付かないことがあるって話ですよ。よほどタイミングが悪くなければ発生しませんが」
「なぜその悪いタイミングをここで引いたんだ僕」
「なになにー? ないしょのはなしー? 私もまぜるのらー!」
「……銀ギーさん、いつの間に横にって…………全員緊急退避!」
僕の呼びかけに、みんなが散らばる。慣れたもので、なんとか全員が銀ギーさんを狙って振り下ろされた武神サンタクロースの拳をかわすことに成功したが……地面を殴った衝撃で発生したつぶてでスリップダメージが入るんだけど!?
「ポーションポーション! 銀ギーさんもだけど、武神サンタクロースもヤバいって! っていうか他のプレイヤーがいない状況でこの2体を相手にしなくちゃいけないのか!?」
「お兄ちゃん、銀ギーさんはモンスターじゃないですよ……」
「むしろ今まで戦ったどのモンスターよりも恐ろしいんだけどなぁ」
一瞬、体がぶれたと思ったらつぶてを全てかわしたらしく、全然ダメージエフェクト出ていなかったんだぞこの人……もはや人間ではない。
とにかく、消し飛ばされた人も再チャレンジのためにこちらへ向かっているはずだ……僕たちに出来るのは、なるべく戦線を維持すること。
「銀ギーさんがこの場にいるのがある意味幸いした。武神サンタクロースは周囲にプレイヤーがいなくなると次のポイントへ移動するから、なんとか生き残るんだ!」
「制限時間もあるみたいだけどね! 場所によりけりだからはっきりとは言えないけど、開けた場所ならそれなりに長いわよ!」
僕たちは少し遅れて到着したので戦闘開始からどれぐらい経ったかわからないが、とにかく頑張るしかない……銀ギーさんも巻き込むのは心苦しいが、とにかく範囲攻撃でダメージを与えるしかない。
「魔法を使える人は広範囲攻撃で確実にダメージを与えるんだ! 銀ギーさんのことはこの際気にしない方向で! どうにもならない!」
「らじゃーじゃ!」
「やってやるニャ!」
「そこの二人、物理攻撃主体でしょうが!」
「最近は普通に魔法も使えるニャよ!」
「ワシはほとんど使えん!」
「んふふー、じゃあ私がレクチャーしてあげるー」
「ん?」
ひょいと、ライオン丸さんは銀ギーさんに持ち上げられた……え?
「それじゃあ、レッスン開始ー! まずは体感して覚えよう、エンチャントフレイムは炎属性の付与ー!」
「ちょ、降ろしてほしいんじゃがぁあああ!?」
銀ギーさんが背中に背負った巨大な剣に炎が灯り、ライオン丸さんを持ち上げたまま武神サンタクロースに特攻を仕掛けるが……それよりも、プレイヤーを持ち上げるってどういうこと?
「できなくはないですね。ただ、あまり無茶な挙動は脳が無意識に拒否をするのでできないハズなんですよ」
「それが今の銀ギーさんには無いと?」
「だって、ライオン丸君の頭を掴んで武器のように振り回しているじゃないですか」
たしかに、今もエンチャントって叫びながら武神サンタクロースにライオン丸さんを叩きつけていた。動きだけじゃなくて人道的にもあんな動き真似しようと思ってもできないよ。
「おぬしら呑気なこと言ってないで助け――」
「あ、ライオン丸さんが死んだ」
「武神サンタクロースの能力で蘇生不可ですから、そのまま街に戻されることでしょう」
「呑気なこと言っていないで戦闘に参加してほしいでござるが!?」
「桃子さんが引き金ひいちゃったみたいだし、なんとかすればいいと思うなー」
「村長、投げやり過ぎないかでござる!?」
でもそのままにもしておけないし、正直どうすればいいのかもわからないんだけど。
あと、出来ることなら近寄りたくはない。こうしてちまちま遠くからダメージを与え続けて無難に報酬を手に入れる方向でもいいかなって思う。
「散々高ダメージを与える戦法を考えてきたのにでござるか!? それに、そういう消極的なイベント参加は村長殿の主義に反しているでござろう!」
「それは半日前までの僕だ! 今の僕は、ただただ厄介な人と関わりたくはない、一人のエゴイストな人間さ!」
「でも、こうして混沌としているなら他の人も勇み足になって、ダメージランキング上位に入れそうですね。上手く切り抜ければ銀ギーさんがターゲットをとり続けるですから、攻撃のチャンスは多そうですよ」
「よし、全員突撃! 今のうちにダメージを稼ぐのだ!」
「清々しいまでの変わり身の早さね」
「村長って結構外道なところありますよね」
「ところでさっきから一言もよぐそとさんが喋っていニャいことにはみんニャ、気が付いていたかニャ?」
……あれ? そういえばよぐそとさんは?
「桃子さんを助けようとしてとっくに消し飛ばされたニャよ。あと、桃子さんも今、後を追ったニャ」
「あと、銀ギーさんが溜めの動作に入ったわ……あれ、確か自爆スキルよね」
あー、アレか。僕も習得自体はしているが基本使わない自滅と同時に大ダメージを周囲のモンスター、プレイヤー問わず与えるという……オイオイ。
「誰かあの人止めろおおお!」
「何やっているですか銀ギーさん!?」
「あはははは、世界がグルグルまわってるよぉ」
アリスちゃんが銀ギーさんを羽交い絞めにし、必死に動きを阻害するが……銀ギーさんの体はピカピカ点滅したままで、すでにスキルの発動体勢に入っている。
あ、ダメだ。あと少しで爆発するぞ。
「ええい、こうなったら……」
「あ、アリスちゃん!? なんで足からジェット噴射して空へと飛び立っているんだ!?」
「きゃーたかいたかーい」
銀ギーさんを羽交い絞めにしたままアリスちゃんはロケットのように空へと飛び立っていく。
「こうするしか、ないんです――アリスが、皆さんを守るです!」
「あ、アリスちゃん! やめるんだ! そんなことをしたら、アリスちゃんが――」
「後のことは、任せたです」
「アリスちゃーん!?」
直後に、爆発が起こる。アリスちゃんが引き受けてくれたことで幸いにも僕たちはスキルの効果範囲からは外れたのでダメージは喰らわなかったが……システムログでアリスちゃんがやられたことが流れた。なお、プレイヤーの攻撃ではあるのだがこの攻撃だけはPK扱いにならない。
武神サンタクロースも銀ギーさんを狙っていた都合上、爆発の真下にいたためギリギリ効果範囲に入っていたのか、ダメージが入っていた。そして、銀ギーさんがいなくなったことで奴の視線がこちらに……あ。
「やっべ、サンタのこと忘れていた」
「っていうかさっきまでの茶番は何だったんだニャ」
「さぁ? で、私たち4人でどこまでダメージ稼げますかね?」
「……ワタシが【祈祷師】で後衛、めっちゃ色々も【錬金術師】だからサポートよね。あるたんも【踊り子】だからサポート主体だし……村長が【海賊】でメインアタッカー」
「あれ? いつの間にか僕がメイン火力になってるの!?」
「そもそも村長以外のアタッカーってよぐそとさんと桃子さんが担当する予定だったじゃないですか」
「……忘れてた(笑)」
「笑い事じゃないですよ。何ですか、そのイイ笑顔は」
なお、この無駄話の間に武神サンタクロースは僕たちの背後に接近しているわけである。あとは、ご想像の通り。
「……改めて準備してから来るかー」
「ハラパ王国の南にある草原ですね」
「せめてダメージを少しでも与えてから退場しようニャ」
「そうね。報酬を考えるなら自爆特攻でもいいからダメージを与えてから戻りましょうか」
僕たちは全力で抗った。全力で抗ったんだが……さすがに4人じゃどうしようもなく、微々たるダメージを与えるだけに終わり、武神サンタクロースに殴り飛ばされて敗北するのであった。




