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掲示板の皆さま助けてください  作者: いそがばまわる
8.〇〇の、魔法剣士
122/191

地獄の一丁目

一昨日は予約投稿ミスで二話更新しています。

 武神サンタクロース。BFOにおける現時点での最強モンスターの一体である。1パーティーで挑むことが前提の魔王城のボスである魔王様(正式名称知らない)も強いことには強いが、HP量は比較するのもバカらしくなるぐらいの差がある。

 そもそもの話、レイドボス型フィールドボスなので大人数で戦うことが前提ではあるのだが。いや、それにしたってアホみたいな高機動力と超火力、しかも射程の凄まじい遠距離攻撃を備えている時点でみんな何考えているんだ運営、って叫んでいたけど。


「というわけで、対策を考えたいんだけど、みんなは何かいい案ある?」

「ちまちまダメージを与えましょう」

「ワシ的には、適当なところで離脱して報酬もらえればそれでいいかなって思うんじゃが」


 現在の時刻は現実世界で18時30分。あらかじめ決めておいたヒルズ村出撃時間の19時までに集合すればいいよーという感じで残りのメンバーを待っているのだが……集まったのは僕、ライオン丸さん、みょーんさんのみ。


「なぜ消極的な意見の人が真っ先に集合しているのか」

「特に何も考えていないからよ」

「そこまで積極的に参加する必要もないじゃろ、このイベント。適当にダメージ与えて、今回のダメージ数はこれぐらいでしたー、また来年頑張りましょーって感じで〆るのがオチじゃろうて」

「そんな分かり切った答えを求めているんじゃない。いや、正直時間内に倒せるのか怪しいレベルの強さだからそういう感じで用意されたモンスターだろうなとは思っていたけど」

「まあ、あそこまで強いならそう考えるわよね。でも、HPは減っているのよね?」

「ようやく20分の1減ったところじゃけどな」

「手探りとはいえ、数時間多くのプレイヤーたちが入れ替わりながらダメージを与え続けているのにようやくそれだけ……もっと大ダメージを稼ぐ方法がないときついわね」

「古代兵器が効かないのが痛いんじゃよな」

「まあ効果があったら防御力低下させてノックバックやら行動阻害なんかを与え続ければいいだけだし」


 やりようによってはレイドボス相手でもハメ殺しが可能だったりする。僕は参加していなかったが、どこかのグループがレイドボスのハメ殺しを試したらしく、その影響でAI強化されて古代兵器による連続攻撃などハメ殺しフォーメーションは回避するようになったらしいが。

 なお、武神サンタクロースはそもそも古代兵器の特殊効果を受け付けないので避けようともしない。むしろ真正面から受け止めるそうだ。

 と、そこでキラキラした粒子と共にアリスちゃんがログインする。続いて、めっちゃ色々さん、あるたんさん、和風コンビがログインした。


「遅れてごめんなさいです!」

「失礼、ちょっと情報を整理していたら遅れてしまいました」

「年末は忙しいからニャ」

「それではいざ出陣でござる……おや? ディントン殿とらったん殿は?」

「ああ、あの二人は現地集合よ」


 どちらも自分のフレンドと参加しているのだが、同じ地点での作戦に参加することになっている。

 19時ごろに武神サンタクロースが出現する予定となっているのは火山近くの荒れ地だ。クリスマス仕様で雪は降っているが、火山が近いからか積もってはいない。


「銀ギーさん率いる部隊も援軍に駆け付ける予定ですので、今回は波状攻撃を試してみるそうです」

「そこまで統率のとれた動きはできないでしょうけどね。まあ、やれるだけやってみましょう」

「銀ギーさんか……最近、様子がおかしいらしいけど大丈夫なの?」

「たしかに、ちょっと心配です……」

「アリス殿は心配性でござるなぁ、大丈夫でござるよ。あの銀ギー殿でござるよ」

「あのって言われても、性格を知っているほどの関わりがあるわけでもないのです」


 正直なところ、僕もそこまで深くかかわっているわけではないが……なぜか嫌な予感がしているんだ。ドキドキとか、そんなちゃちなものじゃなくて…………もっと腹の奥底が冷えるような、深淵を覗き込むような、そんな感じ。


「村長? どうかしたのか? なにやら悩んでおるようじゃが」

「いや、何でもない……ちょっと嫌な予感がするだけ」

「その一言は聞きたくなかったんじゃが……え、なに? 全員即死とかそんな感じのやつか?」

「うーん、そういう感じじゃないんだけど、何だろう? 妙に体が震えるというか……ぶっちぎりのヤバいヤツが待ち構えている気がするというか……」

「? よくわからないけど、別に気にする必要ないんじゃない? 所詮はゲームだし、気楽にいきましょうよ」

「そうだニャ。案ずるより産むがやすしとも言うニャ」

「キヨシー!」

「いきなりどうしたですか、色々さん」

「いえ、言ってみたかっただけです」


 めっちゃ色々さんの謎の発言で空気が冷え、嫌な予感も明後日の方向にふっとんだ。まあ、みょーんさんの言う通りそこまで気にする必要もないか。

 そうして、僕たちは目的地に一番近いドワーフの工業都市へとファストトラベルし、そこから荒れ地を目指すのであった……不幸にも、ファストトラベルのタイミングとメッセージ受信のタイミングが重なったことで、その警告に気が付くことができなったが……もし、あと一秒でも出発タイミングがズレていれば気が付けたかもしれない。


『村長ー、みんなー、気を付けてー……こっちはー、怪獣同士の対決になってるー……十分にー気を付けてー助けてほしいー』


 その、ディントンさんからの警告と救援要請に。


 @@@


「か、買ってしまった……」


 銀ギー……いや、工藤光江は自室で目の前に置かれた一つの飲み物を前にどうしたものかと悩んでいた。

 先日貰ったアドバイスをふと思い出し、物は試しとお酒を買ってきたのだ。まずは飲みやすそうなものがいいかなと缶チューハイを購入したが……


「そもそも私って、お酒の入ったチョコレートも食べたことないし、アルコールにどの程度強いかも想像できないんだけど」


 失敗だったかなぁ……いや、さすがに缶チューハイ一本でそこまでヒドイ酔い方もしないでしょうと、自分を納得させる。ちょうど今日は誕生日、現在の時刻は18時。

 最近、ストレスのたまることばかり、これで嫌なこと忘れてスッキリできるのならそれもアリだが……


「そもそもログインするって時にお酒を飲まないほうがいいよね。よし、これはログアウトしてから飲もう。みんな、向こうで待っているんだし……私がまとめ役として、武神サンタクロース戦に臨まないと」


 VR機器を手に取り、装着しようとしたところで光江は動きを止めた。

 思えば、最初に暴走するプレイヤーたちを取りまとめてからあれよあれよという間にみんなのまとめ役みたいなポジションになってしまった。本当は自分だってもっとハジケたいのだ。もっとバカ騒ぎしたいのだ。

 自分が村長の……ロポンギーの立てたスレッドに心惹かれたのはなぜだ? 自分だって、あんな風に大騒ぎしたかったからだろう。その、心の奥底にしまい込んできた欲望が、ひょっこりと頭を出した。


「……ちょ、ちょっとぐらいいいよね。桃子さんもおすすめだって言っていたし」


 他人からの勧め、自分では決断し辛いことであってもその事実があるだけで人は背中を押してもらった気分になり、ブレーキが緩まる。むしろアクセルを踏んで急発進してしまう人もいるだろう。光江はまさにそのタイプだった。普段は真面目なつもり……いや、実際に真面目に生きているが、その根は破天荒な面を持つ女性である! リアルではネガティブな部分があるため鳴りを潜めていたが、違う自分を演出できるMMORPGという環境と、たったいまお酒というブレーキが利かなくなる要因を摂取したことにより、内に眠っていた本性がむき出しになってしまった。

 そもそもの話、彼女のストレスとはもっと自由に遊びたいというものだ。本人は流されている現状こそに不満があると感じていたが……それもあってはいるのだろう。だが、自分自身でも気が付いていないことというのはあるものだ。

 今回の場合、光江は自分自身の本性を理解していたとは言い難い。周りに見せていた自分もロールプレイのようなものなら、これまでの自分もある意味ロールプレイであった。

 そして、素の自分が今ここに現れる。


「…………ふふ、ふふふふふふふふ」


 気分が良くなり、そのままログインする光江。そして絶望的なことに光江は体質的にアルコールを摂取すると非常に酔いやすいのであった……いや、それだけならまだよかった。

 彼女はアルコールを摂取すると、VR機器との電気信号の送受信が非常に高効率になる体質でもあったのだ。そのため、一時的にではあるがとんでもない反応速度とリミッターの外れた動きが可能になる。その結果が……


 @@@


「うはははは! 楽しいわ楽しいわ楽しいわ!」

「ぶるあああああ!!」


 銀ギーがとんでもない脚力で動き回り、それに合わせて武神サンタクロースが暴れ回る。この場において一番のダメージをたたき出しているため、武神サンタクロースは銀ギーのみを狙うのだが……彼女が本当に人間が操作しているのか? といった反応速度をたたき出しているので余裕で躱している。結果、背後にいたプレイヤーたちに流れ弾が当たる。


「ぎゃあああ!?」

「まっつんー!? 消し飛んだー!?」

「銀ギーさんがご乱心なんだけど!? え、何アレ? っていうかどうしてあんなアホみたいな動きが出来るんだよ!?」

「しかも時々超加速しているし……アレって探偵さんと同じ懐中時計だよな?」

「ああ……超スピードで動けるってやつ。なんで使いこなしているんだよ…………銀ギーさんが持っているのは知っていたけど、前は速すぎて使いこなせないって言っていたじゃないか」

「また流れ弾、っていうかパンチをかわしたせいでこっちに拳が――」

「ちょ、誰か助けてくれぇ!」


 阿鼻叫喚。

 武神サンタクロースを倒そうと集ったプレイヤーたちは一人のプレイヤーが暴れ回ることで混沌とした戦場に適応できず、一人、また一人と脱落していく。

 時折銀ギーの剣と武神サンタクロースの拳がぶつかり合い、衝撃波がまき散らされる。それに吹き飛ばされ落下ダメージで消えるもの、こんなところにいられるかと逃げ出したらサンタの口から発射されたビームに消し飛ばされたもの、銀ギーに掴まれて投げ飛ばされ、武神サンタクロースにキャッチされて消し飛んだもの。様々だ。


「やめてくれ、銀ギーさん俺は武器じゃないんだ!」

「世界がまわっているのらー」

「もしかしてこの人酔っぱらってんの!?」

「だれか、救援を呼ぶんだー!」

「もう呼んだけどー、返事がないー……あ、オワタ」

「ロリ巨乳さんがやられた!?」

「チームギャルっ子なんて真っ先に消し飛んだんだぞ! 他にも、自称太公望や和服美人さん、力士も消し飛んだんだ。どんな高レベルプレイヤーが消し飛んだって不思議じゃない!」

「探偵さんやニー子なら何とかなるはずだ。誰か呼んできてくれ!」

「1時間ぐらい前にログイン制限に引っかかって落ちたばかりだ! 明日までログインしてこれない!」

「肝心な時にいないのかよ!?」

「んー? 君たちもあそびたいのらね。じゃあー、一緒にあそびましょー!」

「あ、あはは……なんで俺たちの頭を掴んでいるんですかね、銀ギーさん」

「銀ギーさん、正気に、正気に戻ってくれぇええ!?」


 二人の男性プレイヤーの頭を掴み、ぐるぐると振り回す銀ギー。どうやらアルコールから未知なるパワーを抽出しているようで、本来は無意識に動きが阻害されるはずの挙動を可能にしている。具体的に言うと、マンガみたいなグルグルパンチを実際に行っていた。


「腕の可動域がおかしい!」

「キャラデータバグない? 大丈夫?」

「ぐるぐる振り回されているのに、余裕だな」

「そっちこそ、喋っている余裕が……いや、よそう。俺たちの運命を悟ったからだな」

「ああ……来世では、もうちょっとうまくやろうぜ」

「……銀ギーさん、疲れていたのかなぁ…………けんかの仲裁とかでお世話になり過ぎていた自覚あるし」

「お前もか。俺も、ちょっとトラブったときに解決を手伝ってもらった記憶が…………っていうか、そういうプレイヤーってかなりの数いるだろ?」

「ああ……ちゃんとお礼言っておこうか」

「だな」

「あと、弱いならアルコールは控えてくださいって言っておかないとマズいよな。あ、指が離れそうだ」

「俺もだ……じゃあ、また来世で」

「来世で」


 そう言い残し、二人のプレイヤーは武神サンタクロースへと発射された。今度は顔面に命中したが、大したダメージは与えられずに返り討ちに遭ったが。


「むぅ……おもちゃがいなくなったのらぁ…………ん? んふふ、新しいおもちゃがやってきたのらー!」


 足音を聞きとり、その方向へ銀ギーは振り向いた。

 最後のほうしか見えてはいなかったが、あまりの惨状に顔をひきつらせたロポンギー率いるヒルズ村の面々がそこに立っていたのである。

 まだ、地獄は始まったばかりだ。

伏字は酒乱でした。なお、まだ第一形態。

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― 新着の感想 ―
[一言] これ記憶は残っても残らなくても面白いやつだw
[一言] やすきよさん! 安野希世乃さんのことではないですねw
[一言] 第1形態ということは第2以降もあると。 リアルでリバース形態と二日酔い形態ありそう。
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