妖精剣士と妖精忍者、それと元妖精
お盆、忙しくて更新できない日が続きましたが、8章も折り返しを過ぎたので頑張ります。
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「最近、よぐそと殿との絡みが少ない気がするんでござるよ」
「気のせいじゃないですかねー」
「いや、絶対にそうでござる……いつの間にやら男子連中だけで楽しくクエストに行っているようでござるし」
「確かにそうみたいですけど、別にいいじゃないですか。好きにゲームで遊べば」
「なんでござるかその余裕は!? アリス殿はもっと恋愛に貪欲で、搦め手とか外堀をガンガン埋めていって逃げられなくするようなお人だと思っていたのに、がっかりでござるよ!」
「アリスそう思われていたですか!?」
桃子さんのその失礼な言動はいったい何なんですか?
お兄ちゃんたちが何やら男の子たちだけで旅立って少しして、アリスと桃子さんは帝国領内で開かれるオークションにやってきていました。
BFOではたまにこういったオークションイベントが開催されていて、お目当てのアイテムを手に入れるためにプレイヤーたちが集まっているのです。今日は欲しい装備が出品されるということで桃子さんと一緒に参加しているのですけど……目的のものが出てくるまで暇なのでこうしておしゃべりしていました。ただ、ここ最近はよくあることですが、すぐに愚痴になるのです。
「いいでござるよ、アリス殿は。なんだかんだで村長殿もアリス殿の気持ち自体は知ってくれているでござるから。進展していないように見えて、アリス殿がちゃんと考えられる時間を作っているのでござろう?」
「それは、そうですけど……」
「アリス殿だってそれをわかっているからすぐにどうこうしようとしているわけではないのでござるし……いや、たまに目が危ない時はあるでござるが」
「うぐっ」
こ、心が痛いです。気を付けようとは思っているですが、内なる欲望がアリスの身を焦がす時があるのです。クリスマスが近いからですかね? 気持ちが浮ついているです。
「乙女のような顔をしおって……」
「いや、アリスの歳で乙女じゃなかったらなんなんですか……桃子さんだって十分乙女だとおもうですけど」
「だったらなぜ、拙者の気持ちは伝わらないのでござるか!」
「アハハ……」
「笑っている場合ではないのでござる!」
さすがにもう笑うしかないです。あと、乙女かどうかと気持ちが伝わるかどうかはまた別問題じゃないですかね。
「そもそもの話ですけど、よぐそとさんってゲームでの恋愛に興味ない気がするですよ」
「そうなんでござるよねぇ……そこが問題なんでござるよ」
「素直に告白したほうがいいと思うです」
「…………それが出来たら苦労はしないでござるよ。いざ告白して、二人で一緒に遊んでいる今の関係が壊れたら嫌でござるから」
「気持ちはわからないでもないですけどね」
というか、桃子さんもアリスに相談している時点でいろいろとどうかと思うですが。10近く歳違うと思うんですけど、そのあたりどうなんですかね?
「このままではダメでござる……悲しみをアルコールで洗い流す日々ともおさらばしないと」
「桃子さん、成人していたですか……前に大学生とか言っていませんでしたか?」
「むしろ一番悪飲みする年ごろでござるよ」
「偏見だと思うですよ。いや、アリスの周りでそこまで飲む人はいないですから、よくわからないですけど……」
「アリス殿も大人になればわかるでござるよ」
「そういうわかり方はしたくないですね」
「これは手厳しい……おや?」
桃子さんの視線の先。何やら大きなため息をついているプレイヤーが一人見えたです。どこかで見覚えが……って、銀ギーさんですね。彼女もオークションに参加していたようですが……目的のアイテムが手に入らなかったご様子です。
「銀ギーさん、こんにちわでござる」
「どうもです」
「うん? ああ、お二人ともお久しぶり」
「そこまで久しぶりってほどでもないでござるよ」
「アリスもこの前会ったばかりじゃないですか」
「? …………ああ、そうだったね」
「銀ギーさん? なにかお疲れですか?」
「拙者たちで良ければ相談に乗るでござるが――ハッ!? アリス殿、目的のウェディングドレスが出てきたでござるよ!」
「買いたたくです! 持ちうるゴールドであの最終兵器を買いたたくですよ!」
「オオオオオオ……グハッ!?」
「そ、そんな――競り負けた……だ、誰ですか!? アレを手に入れたのは誰ですか!?」
オークション会場のどこからか『これでご主人様のハートもラブゲッチュですわー』という聞き覚えのある声が聞こえてきたです……あのドMか!?
「ゆ、ゆろん殿だと!?」
「いったいどれだけの資金をつぎ込んだというですか!?」
「今、恐ろしい額のゴールドが動いていたんだが……え、たかだかウェディングドレスのためだけにそこまでするの?」
「銀ギー殿、乙女の最終決戦兵器でござるよ!? 近々実装予定とのウワサの結婚システムをスムーズにおこなうためにも必要なアイテムでござったのにッ」
「厳重警戒態勢です。お兄ちゃんのそばには近づけさせないです! アリスが、ブロックするです!」
「とりあえず、2人とも外に出よう。騒ぎ過ぎだから」
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オークション会場を後にし、アリスたちは喫茶店の中に入ったです。座って何かを飲むというアクションをするだけでも、気分が落ち着いてさっきの行動を反省しました。
「ごめんなさい。取り乱したです。まさかあれだけの金額をつぎ込んだのにその上をいかれるとは思っていなかったですから」
「拙者たちも今までのイベントで散々ゴールドをため込んでいたでござるからなぁ……これを機に放出しようと思った矢先に掘り出し物を見つけて参加したでござるけど、結果は惨敗でござった」
「そもそもネトゲの通貨をため込んだところでそこまで意味はないのでは? インフレし続けるんだし」
「ゴールドは基本ドロップしないでござるから、BFOは通貨のインフレはそこまで大きくなっていないでござるよ」
「何かと消費もするですからね。装備強化とか」
アリスもそこまで詳しくはないですけど、現実のお金と違ってネトゲのお金はクエストの報酬やアイテムを売る、BFOではごく一部のモンスターだけですけどドロップで手に入るなど、無から生み出されます。なので、1ゴールド分の価値は常に減り続けているのです。ゴールドの価値も減り続けるのでアイテムの物価が相対的に上がっていくとのことですが……
「いっそファストトラベルもゴールド使用しておけば回収率もいいのにでござるなぁ」
「あまり使わせてばかりですと、プレイヤー側から不満が出るからじゃないですかね?」
「あ、それもそうでござるな」
「っていうか2人とも結構踏み込んだ話題で会話するんだね」
「普段からヒルズ村の雑談風景はこんな感じでござるよ」
「たまに、めっちゃ色々さんが講義をはじめたりするから、妙に詳しくなっていくですよね。興味ない時は聞き逃しちゃっているですけど」
「今度抜き打ちテストしてきたらどうするでござるか?」
「ええぇ……嫌ですよそんなの」
「楽しそうでいいね……ハァ」
「銀ギーさん?」
「さきほどは途中になってしまったでござるが、銀ギー殿も何やら悩みがある様子で……どうかしたでござるか?」
「大した話じゃないよ……ただ、ちょっとパーティーメンバーから告白されてね。どうしたものかと悩んでいるんだって――桃子さん? なんでそんな虫唾が走るような顔を?」
「これが走らずにいられようか!?」
あちゃぁ……よりにもよってその手の話題でしたか。アリスの場合は前々から知られていた話ですし、そもそも数年は大きな進展はしないという前提なので桃子さんもそこまで粘着質な反応はしないです。
だけど、それ以外の恋愛話は別なのでした。
「こっちはよぐそと殿との仲が友達から先へ進まないというのに、告白されて悩んでいるでござるか!? こっちは、こっちは先へ進めないのがもどかしいというのに!」
「……もしかして地雷踏んだ?」
「ええ、走り抜けましたね」
「ああ……でも、ゲームでの話だよ? 現実での見た目じゃない。キャラだって作っているのに、こんな世界で人を好きになって意味なんてない――」
その言葉には、アリスも反応してしまいました。
「「意味ならあるに決まっている!!」」
「――!?」
アリスたちの剣幕に、銀ギーさんは少し身を縮ませました。それに気がついていたですが、アリスたちは止まらなかったです。
「確かにこの世界は作りものでござるし、単純にゲームとして楽しんでいる人のほうが数多いでござる。拙者だって、ロールプレイ勢の一人でござるし、リアルとは別人のように見えるでござろう」
「それでもアリスたちは今こうして、自分の言葉でしゃべって、一緒に遊んでいるんです。確かにリアルの見た目とは違うですし、リアルとは違う性格を演じている人も数多いはずです。それでも、心は同じなんです」
「心と心が通じ合えば、それでいいんでござるよ。見た目なんて関係ない。一緒にいて楽しいから、その人を好きになったんでござる。そこにゲームだリアルだなんてことはそもそも関係のない話なんでござる」
「……それでも、やっぱりここはゲームだよ。私はそんな気持ちにはなれない」
「確かにそれも一つの考えでござる。でも、逆にゲームだからって線引きして自分の選択肢を狭めるのは……つまらなくは無いでござるか?」
「そんなこと――ッ」
桃子さんの言葉に何か思うところがあったのか、銀ギーさんは言葉を詰まらせました。
そういえばこの前も何か悩んでいた様子でしたし……もしかしたら、告白されたこと以外にも悩みはあるのかもしれないです。
「銀ギー殿、思えばゲーム開始から結構助けられてきたでござるな……そのお礼、というわけでもないでござるが……拙者で良かったら、相談に乗るでござるよ」
「アリスもこの前助けてもらいましたし、何か困ったことがあるなら力になるです」
「……『みんなに頼られる女騎士』、私が周りからはそういうイメージを持たれていることは知っている?」
「ええ、たまに聞くですけど……」
「……銀ギー殿?」
「…………なんだかね、ちょっとそのイメージに沿うように頑張ろうって意識が先行しちゃってね、ゲームを遊んでいるのにしがらみが増えて……なんだか疲れちゃったんだ」
「銀ギーさん……」
その顔が泣きだしそうで、それでも涙の流し方を忘れてしまったかのように、乾いた笑いだけが彼女の口から洩れていたです。
とても痛ましくて、どうしたらいいかわからなかったですが……桃子さんはあっさりと答えて見せました。
「だったらログインしなければいいでござるよ」
「で、でもそれで周りが混乱したら……」
「その程度で混乱するような連中ならどうせそのうち痛い目をみるんでござるよ。ゲームなんでござるから好き勝手やればいいんでござる。結局は銀ギー殿の自由なんでござるから。そもそも種族変更したのだって、そのイメージ変えたかったのも理由なんでござろう?」
「……まあね」
「いっそのことサブキャラを作ってもいいんでござる。ゲームなんでござるから、新たな人生でスタートとか。いや、アイテムが惜しいでござるから……キャラ作り直ししたほうがいいでござるかもな。倉庫は引き継げるようになったでござるし」
「……いや、いいよ。なんだかんだで妖精剣士って呼び名は気に入っているんだ。だから今の『銀ギー』は残しておきたい」
「ならしばらくログインしないとか?」
「……ちょっと距離を置くのもいいかもしれないね」
「拙者としては、酒を飲んで忘れるのもおすすめでござる! 嫌なことがあったらこれが一番でござるよ! 翌日の二日酔いで嫌なことは嫌でも忘れるでござるよ!」
「それ、気持ち悪くてどうでもよくなっているだけじゃないですかね」
「あ、あはは……それに私未成年だよ」
「あー……マジでござったか」
「でも、そうだね。成人したら試してみてもいいかもしれないね……2人とも、話に付き合ってもらってありがとう」
「「いいえ、こちらこそ」」
こうして、お悩み相談のような何かは一度幕を閉じたのですが……後にして思えば、引き金を引いてしまったのは桃子さんの一言だったのでしょう。
後々、思うのです。桃子さんが余計なことを言っていなければ……あんなことにはならなかったんじゃないかなって…………