黄金の仮面
円形の見慣れた形の部屋。中央の棺から出現したのは全身を包帯に身を包んだ巨漢で、やはりというかマミー系のボスであった。特徴は顔に付けた黄金の仮面だろう。というかモンスター名も『黄金の仮面』でそのまんまである。
「気を引き締めていきますよ。ボスはこちらのレベルと人数で強さが変動しますから」
「よく考えたらめっちゃ色々さんがいるから僕の適正レベルより強いよねコイツ」
「ワシと村長がレベル的にはどっこいじゃし、めっちゃ色々さんとよぐそとさんのレベルから察するに……だいたい80レベルぐらいの強さじゃろうか?」
「そこに人数補正があるでござるから……まぁ、油断しなければ何となる程度でござるな」
「よし、よぐそとさん以外は大丈夫だろうな」
「なぜ某だけ!?」
いや、その場合油断してやられるのってよぐそとさんのポジションかなって。
とりあえず僕らは散開してボスを取り囲んだ。まず、初見のボスの鉄則として固まらないことというものがある。いきなり範囲攻撃をする奴もいるにはいるのだが、多くのボスはまずプレイヤー1人をターゲットにした攻撃をするのでそうやって様子を見るのだ。
黄金の仮面はまず、めっちゃ色々さんに身にまとった包帯を伸ばして攻撃した。まるで、いくつもの槍が彼を襲っているかのようである。
「うおっ!? 避けるの難しいですよ!?」
「刺さってる刺さってる」
「装備を変えたせいで防御力が……結構喰らいました」
その割には余裕そうにポーションを使っているけどね。とりあえず爆弾を投げつけてダメージを与えておくが、あまり効いた様子がない?
「爆破耐性持ち?」
「かもしれませんね……いや、もしや…………」
めっちゃ色々さんが何やら紫色の液体が入った瓶を投げつける。たぶん、毒攻撃とかそのあたりだろうが……黄金の仮面は平然としていた。というか攻撃を喰らってもなんのリアクションもしないし普通に攻撃モーションに入っている。狙ったのはよぐそとさんだが、彼はカウンタースキルで逆に攻撃し返して――あ、そのまま殴り飛ばされた。
「なぜでござるか!?」
「あー、よぐそとさんのおかげではっきりしました。こいつスーパーアーマー持ちですよ。しかもあの毒瓶、一時的に敵の動きを止めるだけでなく強力な猛毒なのに一切効いた様子がないですし……状態異常も効かないかもですね」
「持っていて良かった古代兵器」
「インベントリは専用のスロットじゃろうが。常に持ち歩いているじゃろうが」
「いや、このセリフ言いたかっただけだし」
というわけで【古代のアックス】で切り付けておく。防御力低下させておけば何かと楽だし。耐性持ちのモンスターでも効くから便利だよね。
ガンガンいこうぜとばかりにライオン丸さん、めっちゃ色々さんも攻撃を加える。そういえば結局アイテム戦法であまり使われていないめっちゃ色々さんの新武器だが、タクトから光で出来た刃や塊? が飛び出して攻撃を加えているようだ。剣スキルとかハンマースキルとか、その光で攻撃できるってことね。
回復を済ませたよぐそとさんも攻撃に加わるけど、黄金の仮面はこちらの攻撃をまったく意にも介さず天井に包帯を伸ばしてワイヤーアクションのように僕たちから距離をとった。
「なんじゃあの動き!? どこぞの蜘蛛男か!?」
「あーそれっぽい」
「参考にはしているんじゃないですか?」
「呑気に話している場合ではないでござるよ! 次の攻撃が来るでござる!」
パンッ、という大きな音が響いた。黄金の仮面が両手を合わせた音のようだが……ゆっくりと合わせた手を放していく様子が見える。そして、手のひらの間に小さな黒い塊が出現していた。なんというか、禍々しい感じのオーラも見えるし……
「あれ、呪い属性の魔法ですね。喰らうと厄介ですよ」
「改めて聞くが、神聖属性使える人はいるかの?」
「無理でござるよ」
「ヤタガラスって神聖属性じゃなかったっけ?」
「あー、それっぽいスキルがあったかもしれないでござるな。ダメもとで召喚してみるでござるか」
僕もヤタガラスを召喚し、黄金の仮面にけしかける。爆破よりはダメージが出ているようだが……動きが全く止まらないんだけど。
「これ、スーパーじゃなくてハイパーなほうのアーマーなんじゃ……」
「今更言っても遅そうじゃぞ」
「あ」
魔法が完成し、僕たちへ着弾した。吹き飛ばされ、呪いのバッドステータスまで貰う始末である。
「ステータスが大幅ダウン――ヤバいでござる、ただでさえ装備が適正より低いからダメージ多く喰らっているのにこれじゃあ死んでしまうでござる!」
「聖水、聖水を使う。あと、頭に包帯突き刺さっているよ」
「いつのまに!?」
よぐそとさん、必死にポーションを使って回復するの巻。もちろん呪い解除のために聖水を使うことも忘れない。
というかよく刺さったままでも動けるな。
「ほら、痛みとか感じないシステムじゃないですか。だから痛みによる反射とかないんですよ。だからこそ、慣れてくればビビって硬直とかしなくなるんですけどね」
「現実世界でも悪影響ありそうだなぁ……」
「そのあたりどうじゃっけ? 特にニュースとかは聞いたこと無いが……」
「VR機器側で対策してあったとは思います。そのあたり少ししか知りませんけど」
とりあえず、大丈夫ではあるのか。
間接的な信号のやり取りをする関係で脳のほうはアバターを完全には現実の体と認識していないらしい。今までとくにフィードバックとかもなかったし、それもそうか。
スーパーアーマーというほどでもないが、プレイヤー側もその気になれば攻撃を喰らったまま動けるってことだよなぁ……まあ、少しは動きが止まるんだけどね。今のよぐそとさんのようにテンパったり……あ、忘れてた。
「そんなのんきな話をしていないで某をたすけてくだされぇえええ!?」
「あ、よぐそとさんが包帯に巻き取られた!」
「ごーざーるー!?」
そのままぐるぐると振り回され、背後の扉にシュート!
「ちょーエキサイティングじゃな」
「言っとる場合か!」
「いや、村長も口走っていましたからね――っていうかなんでそのネタ知っているんですか」
「ネットにはゴロゴロ転がっているでしょ」
と、そんな無駄話をしているとシステムメッセージでよぐそとさんからメッセージが届きましたって……あ、魂の状態になっている。声が出せないからメッセージ機能で助けを求めてきたのか。
「蘇生させてきますねー」
「それじゃあ、僕は適当に攻撃してダメージ与えておくか」
「ワシもやっておくかの。どうせハイパーアーマーで動きを止められないならひたすらダメージを与えるしかないじゃろうし」
「……【海賊】で来ればよかったなぁ。泡でスリップダメージ入れ放題だっただろうし」
「別に魔法自体は【村長】でも使えるんじゃろ?」
「うん。ただ威力は低いから……普通に攻撃したほうがMP的にも効率が良いから」
【海賊】は水属性が強化されるからね。デッキブラシのおかげで少しは強化されているけど――せめて、水属性強化のシールが欲しかった。
「そういえば、そんな新要素もあったのう……使っておるのか?」
「いいものは手に入っていないから、適当にクリティカル率強化をつけている。デッキブラシには水属性強化のシールが手に入ったらつけようと思っていたんだけどなぁ」
「そううまくいかないものですね」
「だから、呑気な話をしていないで攻撃に参加してほしいでござる! なんで某は復活してもらったと思ったら1人だけ狙われているでござるか!?」
「…………あ、よぐそと君。君の頭装備ですけど……それ、ヘイト率上昇・極の効果がついているやつですよ」
「あ……本当でござる。間違えて回避タンク用の装備をつけてしまったでござ――――」
再び頭を貫かれてしまうよぐそとさん。蘇生したばかりだからHP残っていたよね……って、クリティカルがでて即死したのか。
っていうかさっきからよぐそとさんばっかり死んでいるなぁ……いや、いくらなんでもそこまで死にやすいものだろうか? ステータス面で一番低いのは僕だし、他のみんなも【村長】の職業効果でステータスにバフがかかっているハズなのだが?
「また蘇生させてきますねー。まったく、蘇生薬もタダじゃないんですよ」
「……ストック数は?」
「倉庫含めて500個ぐらいですかね」
「タダじゃないにしてもサービス終了まで使い切らないと思う。今後も増えていくだろうし」
「失敬な。スキルを手に入れるために製作マラソンしていたら溜まっただけですよ! 今後もスキルは増えていくでしょうし、【錬金術師】のスキルは取得条件がアイテム製作の場合も多いでしょうから増えてはいきますよ」
「いや、増えるんじゃないか」
「製作プレイヤーは倉庫がパンパンになるんじゃよなぁ……ほら、中にいっぱい入っているって感じで」「言い方」
「蘇生してもらったのはありがたいでござるが、結局無駄話する余裕はどこから出て来るでござるか。喋り散らしながらも攻撃の手は緩めていないでござるし」
「事故って呪いは食らいそうだけどね――ほら、言っているそばから」
喋りながら攻撃していたので、呪い魔法を喰らってしまった。とりあえず聖水を使って解呪しておく。
HPもポーションで回復しておいて、適当に距離をとって大技だけ喰らわないように気を付ければ案外何とかなるのだが……やはり、さきほどからよぐそとさんだけダメージ量多くない?
「よぐそとさん、他の装備もチェックしてみたら? 僕より被ダメが多いってやっぱりおかしいと思うんだ」
「まさか、バグでござるか――すまんでござる、攻撃力強化する代わりに被ダメが上がる装備をつけていたでござる。失敗失敗」
「結局自分の注意不足じゃないですか」
「まったく……で、大技がよぐそとさんのほうにいったんじゃが?」
「え――でござる!?」
包帯がよぐそとさんのほうへ伸びる。ただし、彼を巻き取るためのものではなくその背後の壁へとくっ付いた。そして、スリングショットの要領で砲弾のように発射されるボスさん。よぐそとさんに着弾し、壁へと吹き飛ばされた。
「ござっ!?」
「よぐそとさん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫に見えるで、ござるか?」
「死んでなければ安いものですよ」
「今度は即死せずにすんで良かったの」
「さてと、ドリルで突っ込むから援護よろしくー」
「魔法連発の準備しておきますねー」
「ワシも大技の準備するかの」
「そ、某も参加するでござる……」
黄金の仮面は大技を撃った直後なので動きが遅くなっている。この隙に久しぶりのドリル&斧スキルによる叩き割り。水魔法によるジェット噴射で加速しておいて振り下ろしたので、威力は多少上がっているが……やっぱり倒しきれないか。
直後にめっちゃ色々さんの魔法が着弾する。その中でも黄金の仮面は動き出しており、黒いオーラが噴き出していたが、ライオン丸さんがハンマーを振りかぶってたたきつけた。
「どっせい!」
「残り少しです!」
「決めるでござるよ――『ハバキリ』に加えて、連撃スキル発動でござる!」
「あ、もう一つの奥義か――飛ぶ斬撃、だと」
刀を振ることでよぐそとさんは斬撃を発射しているが……奥義の効果はそのまま斬撃が飛ぶようになるってところだろう。
「ちなみに効果時間は10秒間でござる!」
「あ、ボスが崩れていきますね」
「何とかなったのう……結構疲れた」
「そうだね――お、ドロップ品にシールがある」
「こっちは素材がほとんどじゃのう」
「……似合うでござるか?」
「うぉ!? 怪奇ミイラ男!?」
「顔を包帯グルグル巻きのサムライって……どこかで見たことあるのう」
「それ、分類はなんですか?」
「アクセでござる。散々な目に遭ったでござるが、ドロップは良かったからまあいいとするでござるよ」
「ならいいけど……(でも、最後のヘイト率上昇と被ダメ増加は自業自得では?)」
その後、村に戻って装備を修復して今日の冒険は幕を下ろした。今後は、予備の装備もちゃんと用意したほうがいいかもしれないなぁ。よぐそとさんみたいにデメリット上昇系じゃなくて、特徴は無くてもいいからまともに使えるやつ。




