迷宮の試練
BFOのダンジョンはいくつかの系統に分けられる。オーソドックスな少し入り組んでいてモンスターの湧きポイントがいくつもあるタイプ、モンスターは少ないがギミックが多いタイプ、ほとんど一本道だったり大部屋ばかりだがモンスターの多いモンスターハウス的なタイプ。
そして、今回僕たちが挑んでいる『忘れられた迷宮』だが……
「まさか全部盛りとはなぁ……精神的にキツイんだけど」
「序盤は苦も無く進めたのに、中盤で迷いに迷った上にトラップだらけで死ぬかと思ったぞ」
「っていうか絶賛トラップの対処中ですけどね」
「ごーざーるー!?」
「ああ!? よぐそとさんが転がってくる石に潰された!」
「ベタじゃのう……トラップが発動して、巨大な石が転がってくるやつ」
「BGMもトゥートゥットゥーって聞こえますね」
「ベタじゃのう……」
だいたいマミーが出てくる地点を越えたあたりから、冒険感の強いBGMが聞こえだした。そして、トラップ地帯へ。壁から矢が飛んでくるし、特定のブロックを踏むと上から鉄球が降ってきたりなかなか大変な内容であった。なお、大抵よぐそとさんが被害を受けている。
ちなみに僕たちは走りながら壁のくぼみに滑り込み、事なきを得た。よぐそとさんはぺしゃんこになって即死したけど……
「っていうか即死系の罠がたくさんとか鬼畜過ぎない?」
「敵は弱いんじゃがのう……しかし、突破時の報酬は期待できるぞ」
「難易度が高いダンジョンほど報酬は良くなりますからね。とりあえず、よぐそとさんを蘇生させますね」
めっちゃ色々さんがよぐそとさんを蘇生させるが……よぐそとさんはブスっとした顔をしていた。
「なんでいつも某ばかりがこういうアレな死に方をするんでござるか!?」
「最近、よぐそとさんとは一緒にクエスト行っていなかったから詳しくしらないんだけど、そんなに変な死に方するの?」
「しているんじゃよなぁ……たまに発生するモンスターの大量発生の出現ポイントがたまたま近くで発生しての、そこからポップしたモンスターがバッファロー系で轢かれたり」
「ボスモンスターに止めを刺したと思ったら、放出された魔法が跳弾して消し飛んだこともありましたね」
「某、何か悪いことしたでござるかな……」
……桃子さんの情念とか?
いや、さすがにそれはないか……いや、でも…………
「村長、何か考え込んでいるようじゃがたぶん素っ頓狂なこと考えておるじゃろ」
「それはともかく、マップを見た限りでは未踏破エリアも残り少ないようですしさっさとクリアしてしまいましょう」
「それで、次のトラップ部屋は何でござるかな?」
「いえ、道中手に入れたダンジョンマップから推察するにモンスターハウスですよ」
「全部盛りだからね。中盤で一回モンスターハウスあったけど、そっちは楽勝だったし今度もそこまできつくはないでしょ」
「村長、それフラグじゃぞ」
ライオン丸さんの言葉通り、モンスターハウスに入ると予想外の敵が出てくるのであった。変な事口走らないほうがいいのかなぁ……
出現した敵は相も変わらずマミー系。だが……その数が尋常じゃなかった。赤黒い包帯を巻いたそこそこ強い個体がえっと……
「何体ぐらいいるの、これ?」
「天井に包帯をくっつけてぶら下がっているのもいますね。おおよそ……300体ぐらいでしょうか?」
「ハハハ。多すぎ――経験値の入れ食い?」
「いえ、こういうタイプの部屋に出てくる敵は一体当たりの経験値は低めだと思いますよ」
「ちなみに、入ってきた扉は完全に閉まった件についてじゃが」
「なるほど。倒すか死ぬかの二択か」
「ヘルプミーでござる!」
「私はアイテムで離脱できるんですけどね」
「え、ズルいんだけど」
「ハッハッハ! 課金プレイヤーの特権ですよ――あ、ここ使用禁止エリアでした」
「ざまぁ」
いつもの通りグダグダなまま戦闘開始。マミーたちが一斉に僕たちにとびかかってくるが、まず僕とめっちゃ色々さんが爆弾でマミーたちを吹き飛ばす。
続いてライオン丸さんがハンマーをグルグルと振り回して自分を中心に竜巻を発生させた。
「この『トルネードスイング』じゃが準備に時間がかかる! 成功すれば強力な吹き飛ばし効果を使えるからもうちょっと粘ってくれ!」
「某も範囲攻撃の準備をするでござる――ひとまず、時間稼ぎで『召喚』でござる!」
ライオン丸さんは引き続きスキルの発動準備。よぐそとさんはヤタガラスを召喚して敵を近づけないようにサポートをしつつ自分も大技の準備に入った。
となると、僕とめっちゃ色々さんは二人が攻撃を受けないように守りつつ支援するべきか。
「私がアイテム使用して支援しますね。【錬金術師】のスキルで支援スピードはこの中で一番早いですし」
「となると、僕が防御か――考えている余裕もなさそうだし、もったいないけど古代兵器を使っておくよ」
ガントレットを巨大化させ、マミーたちを薙ぎ払う。制限時間いっぱいまで強制ノックバック効果でこちらへ近づかないように蹴散らす。そして、大技を準備していた二人もようやく前へと飛び出した。
「スキル発動じゃ!」
「これぞ、奥義スキル『ムラクモ』でござる」
まず、ライオン丸さんの発生させた竜巻がマミーの動きを止める。竜巻の発生中はスリップダメージが発生するらしく、マミーたちにダメージエフェクトが出ている。
そしてよぐそとさんの使ったスキルは納刀状態でチャージをすることで次の攻撃の威力を高めるスキルだ。ただ、どうやら属性付与系のスキルと組み合わせたようで、炎の斬撃が周囲を薙ぎ払っていた。
「おまけで、攻撃範囲が拡大するでござるよ」
「マミー系は炎属性もそこそこ効きますから、悪くない選択ですね」
「それで範囲攻撃って言っていたのか」
【サムライ】は結構扱いづらい部分があるらしいが、レベルが上がるほど強力になるなぁ……そもそも上位職がないからレベルが上がるにつれて強力なスキルを覚えるんだっけか。
奥義スキルの『ムラクモ』もレベル70で取得とかそのあたりだったはず。
「おかわり来るぞ!」
「ああもう、敵多すぎッ!」
「幸いレベル差で通常攻撃でも3発ぐらいで倒せますけどね」
「それでも厳しいじゃろう――ああ、この後の装備耐久値が不安じゃ」
あ、それは確かに減っていそう。とりあえず僕は二人が作ってくれた隙を使って装備をガントレットからデッキブラシに変更しておいた。
「うん? 村長、スコップとデッキブラシの二刀流か?」
「初めて見ますね、そのスタイル……一体どんな動きをするのか」
スコップはドリルに変形させ、デッキブラシはマーメイドの召喚と制御のために装備した。あと、新技の水流ジェット移動のために使う。
「結局ジェット移動なんですね……」
「慣れれば便利じゃからのう。MP消費えっぐいが」
「某も似たような技は使っているでござるからな」
よぐそとさんも刀から何かを放出して高速移動し、マミーたちを切り伏せていく。僕はドリルで叩く。いや、正確には当てるだけだが。
順調に敵を倒してはいるが、実のところ攻撃は受け続けている。単純にHP量と防御力ですぐに死なないだけだ。あと、僕が召喚したマーメイドが回復役をしているのでそこまで気にする必要もない。
「マーメイド消えましたけど」
「はい再召喚再召喚。ある程度敵より自分のほうが強いと流れ作業になってくるんだよなぁ」
「仕方がないじゃろう。基本的にレベル制のゲームってそういうものじゃ。それに、流れ作業にならない内容となると高難易度になるぞ」
「……また魔王城行ってみる?」
「しばらくはごめんじゃぞ」
「某もあの死にゲーは勘弁でござる」
「もう疲れました。もうちょっと装備が整ってからにします」
うん、だろうと思った。
やがて、マミーたちの数が数えられる程度に少なくなってきたところで動きのパターンが変わっていく。その場でピョンピョンと飛び跳ね、リズミカルに距離を詰めてくる。腕もまっすぐ伸ばして――って、オイ。
「それキョンシーじゃねぇか!」
「おお、確かにそれっぽい動きでござる」
「なんで腕を伸ばしてピョンピョン動くのがキョンシーの動きなんじゃろうな?」
「さぁ……映画か何かの影響じゃないですか? おそらくは結構古いイメージが脈々と受け継がれているんだと思いますよ」
「まあ、そんなところじゃろうな」
「とりあえず面倒だから爆破してふっ飛ばしておくか」
「結局そういう手段をとるからヒャッハーズ名誉会長などと呼ばれるんじゃろうが」
「――――ハッ」
「今更気が付いたところで遅いじゃろう。もう魂に染みついていそうじゃぞ、その爆破癖」
いや、だってこれで締めないと僕じゃないって言うか、どんな職業の時でも変わらず威力を発揮するから僕のトレードマークっていうか……自分でトレードマークとか言い出しているあたりもう末期かな。
「村長の目が死んだんですが」
「意外と気にしておったんじゃな――あと、お前のトレードマークはその裸マフラーのほうじゃと思う」
「これもすっかりなじんだからなぁ……なんであの時安価なんかしたよ、僕」
「知らんがな」
「わざわざ顔をショボン顔にして言いますか」
ライオン丸さん、いつの間にデフォルメパックを装備したんだ……とりあえず、モンスターハウスも難なく突破していよいよ次はボス部屋なんだが……装備がヤバいな。
「装備の耐久値は無事か確認してみよう。なんかヤバいことになっているんだけど」
「ここ、広い上にモンスターは大量に出てきましたからね。装備の耐久値が……うわぁ」
「これ……ボス戦前に全部装備を変えないとダメじゃのう」
「何か持ってきていますか? 私はアイテム戦法メインなので防具だけ変えればいいのですが……この前アイテム整理したばかりで手元には今回のドロップ品ばかりなんです」
「僕は一応持っているよ……オーバーオールとヘルメットの懐かしのベヒーモス戦一式。性能は力不足が否めないけど。あ、武器は耐久値高いから平気」
「ワシはふらっと強化したりするからの、そこそこ持ち歩いて居るが……今日は性能不足なものばかりじゃな。ダンジョン内じゃと修復できんし…………今度、修復できるようにしてくれと要望送ろうかの」
「某は別の奥義スキル用に武器は予備を持ってきているから問題ないのでござるが……防具が心もとない」
「……引き返すのもなぁ」
「性能不足ですけど行きます?」
「行くしかないじゃろう。ここまで来たら倒してスッキリした気持ちで終りたいぞ」
「全員でカバーすればなんとかなるでござろう」
「うん、その一言で不安になった」
「なぜでござるか!?」
だって、ここに来るまで散々トラップに引っかかったよぐそとさんだし。
いや、ここの団体様相手には活躍はしていたけどさ。
とりあえず装備を変えてボス部屋へと入る。さて、どんな敵が出てくることやら……いや、出てきた敵のほとんどがマミー系だからその系統だろうけど。他には砂で構成された魔物だったが――
「ボス部屋の中央、巨大な棺があるの……こう、エジプトの王族的な」
「ならマミー系のボスで決まりですね」
「分かりやすいなぁ」
――まあ、ベタなものはそれはそれでいいのか。対策も立てやすいし。
というわけで、ちょっと締まらない感じでボス戦の開幕である。




