推奨レベルに届いていないとカスダメしか出ない
次話が途中だった件について、報告してくださった方ありがとうございます。
我が名はロポンギー。特に深く考えずにつけた名前だ。
お年玉をもらったら倉庫拡張に少しだけ課金することを決め、それまでパンクしないようにアイテムを少しずつ整理をしている毎日……ちょっと違うことをしたくなった今日この頃。
「というわけで、魔王城に挑もうと思います」
「いきなりどうしたですか……」
「村長、さすがにそれは無茶じゃと思う」
「そうだニャ。っていうか、村長は【忍者】のレベル上げするって言っていニャかったかニャ?」
あるたんさんの言う通り、この前ヤシノ島で転職したので【忍者】のレベル上げをしようと思っていたのだが……あと、シーズン2になったことでスキル周りの調整が入ったのも関係している。一定レベルまで上げた職業のスキルをスクロールとして手に入れられるクエストがあるのだ。それで、他の職業で身のこなしを強化するスキルを使いたいので【忍者】のレベルを上げようって話をしていたのだけど……
「…………レベル上げ、飽きた」
「オイコラ」
「お兄ちゃん……それを言っちゃおしまいです」
「村長ってその場のノリで生きているニャよね」
「だってぇ、ひたすらレベルアップクエスト回しながらモンスター殲滅してアイテム集めて納品するだけの簡単なお仕事なんだもん」
「だもんって……じゃが、スキルを集めないことには魔王城は攻略厳しいと思うぞ」
そもそもかなりやりこんだ人向けのコンテンツなのは聞いている。それこそレベルカンストさせたうえで装備とスキルが充実していないと攻略できないレベルだとも。
でも仕方がないんや。急にやりたくなったものは仕方がないんや。心が命じたことは誰にも止められないんや。
「そうだ、魔王城行こう」
「ダメじゃ。悪い方向で暴走しておる」
「むしろ暴走している時に良い方向ってなんですかね?」
「アレじゃニャいかニャ。ほら、誰かが悩んでいたり困っている時に助けるアレ」
「結局被害が甚大になるやつですね。結局ダメじゃないですか」
「さあ、パーティー申請は送ったぞ。行くぞみんな!」
「え、アリスたちも連れていかれるですか!?」
「……えぇ、経験値失いたくニャいんだけど」
「大丈夫! 高難易度だから死んでも経験値は減らない仕様だから」
またの名を、死に覚え必須とも言う。ただし、アイテムを使った場合は無くなる。なので、回復アイテムや爆発物などの個数には気を付けた方がいい。あと、装備の耐久値も。
「っていうかアタイたちも行く流れだけどニャ、拒否権は?」
「あるけど、フル装備でそれを言うのかな?」
「……正直、アタイも気にはニャっていたからニャ」
「ワシも行ってみるだけ行ってみたいなとは」
「アリスもです。まあ、攻略は無理にしてもどんな感じか見てみるだけでもいいかなって」
現在我々四人の基礎レベルは75ぐらい。職業レベルのほうはまちまちなのでよくわからないが、僕が【海賊】で69だ。常に【鍛冶師】のライオン丸さんがこの中で最も高いだろうが……それでも基礎レベルと職業レベルの差が小さいほど職業経験値の効率が悪くなるし、たしか職業レベルって基礎レベルの数値を追い越さないんだったかな……
「…………ライオン丸さん、職業を変えたことあったっけ?」
「ワシは基本的に変えてはおらんが……【農家】や【釣り人】は使ったことがあるぞ」
「村の作業をするときに使った職業か。やっぱりそれぐらいなのか」
「まあ、他にも一通り転職はしておいてある。単純に使っていないだけじゃな」
僕もほとんどの職業はそうだけどね。なお、あるたんさんも基本的に【踊り子】しか使っていない。ただ、彼女もスキルを手に入れるためにアレコレ手は出しているみたいだけど。
「スキル入手クエストで手にいれられるスクロールは固有アイテムだからニャ。その分、ドロップやダンジョンニャどで手に入れられニャかったスクロールも手に入るから、みんニャしていろいろニャ職業を試しているんニャよ」
「だからこうして【忍者】のレベル上げをしているんだよ……いやホント、面倒になってきたけど」
「言っちゃ駄目だニャ。基本的にオンラインゲームにおいて、キャラクターのステータスを上げるということは地味な作業なんだニャ」
「オンラインゲームに限らず、RPGは基本そうじゃろうが…………前にこんな話したような気もするんじゃが、どうじゃろうか?」
「したと思うです。ほら、お兄ちゃんって面白いことが枯渇するとこういう発作を起こすですから」
「なるほど、すでに何度か同じようなことがあったか」
「そこー、無駄話していないでさっさと挑戦するぞ」
「……なんか釈然としないのう」
「ですね。ただ、お兄ちゃんが元気そうで何よりです。ほら、白目剥いていたですし」
「むしろあのダメージが後を引いているんじゃないかと、ワシは考えておる」
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魔王城、そもそもこのゲームにおいて悪魔とか魔族とかそういった類の存在自体今までハッキリと遭遇したことはなかった。いるにはいたらしいが、ごく少数で限られた場所にしか出現しなかったそうである。
悪魔系のモンスターの弱点は聖属性の魔法で、【僧侶】などのヒーラータイプの職業がその手のスキルを習得する。僕ら4人の中だとアリスちゃんが【演奏家】のスキルで使えるそうだが……
「アリスの使えるスキルですと、時間がかかるですよ。効果範囲が広いのが利点ですけどね」
「アタイももう少しレベルが上がれば『浄化のダンス』を覚えられたんだけどニャ。まあ、今回はバフに徹するニャ」
「ワシは今回はアタッカーじゃな。火力強化スキルも充実してきたし、パッシブで防御力強化も付与されておるぞ」
「僕は臨機応変に、アタッカーとサポートを切り替えていく感じで……となると、ライオン丸さんがメインの陣形で挑むことになるか」
「そうじゃな」
普段はその場のノリというか、ガンガンいこうぜ! のノリで挑んでいるが、さすがに高難易度でそれをやるとすぐに死ぬので今回はしっかりと作戦を決めて挑む。
村のギルドでクエストを受注し、教会からワープをした。とくに前説も出なかったが、ワープした瞬間に体の自由が利かなくなりなにやら轟音が響いてくる。
「なんだこれ!?」
「アレだニャ。ムービー系イベント」
「ここで説明が入る感じですか……アリスたちがいるのは、魔王城の大きな扉の前ですか」
「お、勝手に扉が開いてワシらも中へ入るようじゃぞ」
そして、頭の中に直接声が響いてくる……女性の声で何やら仰々しい喋り方だ。
『冒険者たちは時空の歪みを感知した。その身に宿した太古の戦士の魂が歪みの原因の下へと導いたのだ』
「太古の戦士の魂ってなんでしたっけ?」
「たしか……プレイヤーが死んで復活できることや、種族変更できることに対する理由付けみたいなものだっけか……時空の歪みが発生しているから、それを解決するために我々は太古の戦士の魂を受け継いだーとか、そんな感じの」
「そうじゃぞ。で、復活の代償に経験値を消費するって設定じゃ」
「ああ、なるほど」
『悪しき魂を感じ取った戦士の魂が、あなたたちの内に眠る力を引き出します。気を付けて、今までの歪みから発生したモンスターとは比較にならない、邪悪な魂がこの城と共にこの地に降り立ったのです』
「ところでこの声って誰なんですかね?」
「さぁ……二人は何か知っている?」
「ワシも知らん。あとでめっちゃ色々さんかみょーんさんに聞けばいいじゃろ」
「困ったことが合ったらあの二人に聞くのが一番だニャ」
さすがに便利屋扱いもどうかと思うが……いや、めっちゃ色々さんのほうは嬉々として語るし、みょーんさんは後で何か要求されるか。とりあえず話は長いけどめっちゃ色々さんに聞いていみよう。そろそろみょーんさんがとんでもない頼み事をしそうで怖い。
ついでに、脳内に直接聞こえる感じで響いてくる理由も教えてもらおうと思う。
『行きなさい冒険者たちよ。悪しきものを、滅するために』
「ストーリーは随分とあっさりした感じだけど、要はヤバい奴が現れたから倒してくれってことだよね」
「ですね。今は語られませんでしたけど、このクエストの名前は魔王城襲来……つまり、上にいるのは魔王ってことです」
「あと一つ気になっていたんじゃが、このゲーム国内産じゃよな?」
「うん。むしろこの規模のVRMMOで国内産なのコレぐらいだけどそれがどうした?」
「……なんで海外産みたいなストーリー導入なんじゃろうな?」
「さぁ? 本筋に関わらないコンテンツでそこまでがっつりストーリー語られるよりかはいいと思うけど」
「…………これ、本筋とは関係ないのかニャ?」
「どうですかね。そもそもアリスとお兄ちゃんは本筋あまりやっていないですよ」
「まあ、それはそうだけど」
「村長、本筋のストーリーを説明できるか?」
「…………えっと、世界に歪みが発生したから何とかしてください? 的な?」
「大筋はそうじゃが、細かいところ覚えておらんじゃろ」
「ごめん……基本的にストーリースキップしている」
「まあ、結構長いからの。要約すると、古代文明の頃に起きた戦争で世界が分断されたんじゃが、その分断された世界同士が元に戻ろうとする影響で世界各地に歪みが発生して、そこからモンスターが現れているんじゃ。で、プレイヤーの目的の一つがそのモンスター退治じゃよ」
「どこかで聞いたような……いや、実際ストーリークエストは進めたんだし、聞いたこと自体はあるのか。でも世界が元に戻ろうと――新大陸実装フラグですねわかります」
「それ、どうなるかいまいちよく分かっていないんじゃよなぁ」
「さすがに同じ規模の大陸を一つ増やすとしてもサーバーの維持費とかヤバそうだからニャ。プレイヤー側としてもあまり広すぎると遊びきれニャいし」
「それもそうか――さてと、そのあたりの話はまた今度にして、いよいよ魔王城突入だね」
「突入自体はしておるんじゃけどな。さて、広間の先には階段があるわけじゃが、あそこを登ったらいよいよスタートじゃな」
と、階段の目の前にきたらウィンドウが表示された。どうやら魔王城の概要、というかルール説明らしい。モンスター討伐系のクエストで、各階層のモンスターを全滅させることで次の階層へ進めるようになるダンジョンなのか。攻略回数が増えるごとに難易度を上げて挑めるようになる。なおかつ、報酬もいいものになっていくと……
「初回クリア報酬も相当豪華なんだけど」
「移動用アイテム【古代のバイク・ゼロ型】に加えて、最大HPを上げる基礎能力強化アイテム、称号【魔王を討ちし者】か……全能力値強化とか破格じゃな」
「……でもこれ、報酬が良いってことはそうとう難しいってことですよね?」
「…………よし、行くぞぉ!」
「心の準備は!?」
「絶対最初の階層で死ぬだろうから、いっそ突撃したほうが心のダメージは少ない! あと、回復アイテムなどは極力使わないように。もったいないから!」
「了解じゃ!」
「結局ガンガンいこうぜだニャ」
「いつものことです」
階段を駆け上がり、2階の広間へと進む。マーメイドの召喚でバフをかけ、あるたんさんが踊りで支援を行う。アリスちゃんはリコーダーで長めの演奏に入り、ライオン丸さんが前にでる。僕もデッキブラシを構えて敵を待ち構えていると、部屋の中央、その上のほうに『BATTLE01』と表示された。
「くるか!」
「よーし、何が来ても驚かない――うん?」
現れたのはスケルトンたち。それはいい。だが、表示された名前がカースドスケルトンってところもまだ大丈夫。だが、なぜ名前が真っ赤に表示されているのでしょうか?
あと、武器の殺意が高いんだけど……すべてのスケルトンが紫色の禍々しいフランベルジェを装備していやがる。
「アレじゃな。ほら、レベル差というか自分よりも大幅に強い相手は名前が赤く表示されるんじゃよ」
「え、ヤバくね?」
「ヤバいな」
しかも数は30体ぐらいいるんだけど。
「…………お兄ちゃん、後ろの扉が閉まりましたです。あと、正直ビジュアル的にアリスが苦手な相手なんですが」
「残念だけど、退路はニャい!」
「とりあえず、ワシがハンマーでぶっ叩く!」
ライオン丸さんが突っ込んでハンマーを振り下ろした。バフも乗っており、結構強化された一撃だったのだが……参考までにダメージ表示もオンにしておいたのだが、その表示されたダメージなんと8。なお、スケルトンたちのHPは1000だ。
「……今の攻撃をあと130回くらい?」
「しかもそれだけやっても一体だけが限度だニャ――あ、ライオン丸がやられたニャ」
「無茶しやがって」
「次はアリスの番です! 演奏完了、『光のレクイエム』発動です!」
アリスちゃんがスキルを発動させ、周囲のスケルトンにダメージを与えるが……それでも各スケルトン、それぞれ与えられたダメージは90ぐらい。10回以上やれば倒せるが、それをやるだけの隙は無いだろう。今のは戦闘開始前から準備したからこそ、相手の攻撃を喰らわずに放てた大技だ。
「とりあえずガントレットで殴る――ダメだ、数が多いから全部に当てられないし、横からフランベルジェの波打った刀身が僕の眼前にッ!?」
「実況とは余裕だニャ。しかも首が嫌ニャ方向に曲がって避けているし……アタイニャんてもう首が吹っ飛んでデュラハンみたいになって――」
「あるたんさん!? 最後になんて不気味な光景を見せてくれるのですか――あ」
あるたんさんの首だけが吹っ飛び、ツッコミを入れたせいで無防備になったアリスちゃんもやられてきらきらとした粒子になって消えてしまい、僕もなだれ込んできたスケルトンたちに押しつぶされて消えた。
……わかってはいたけど、惨敗である。まあ、少なくともレベル90越えるまではやらないかもなぁ……今やるようなコンテンツじゃないわコレ。